この素晴らしい天界に祝福を!   作:勾玉

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第6話 彼の物語に始まりの鐘の音を!

【カズマ視点】

 

 

「っつ・・・」

 

目を覚ますと、ひとりの女性が俺の顔を覗き込んでいた。

傷一つない綺麗な白い肌、黒髪のロングのストレート、形が良く大きめの胸。

そしてこの世のものとは思えない程の美貌・・・

 

そう、例えるならば、それは女神のような美しさ。

 

後頭部に暖かな弾力を感じる。

ふむ、どうやら俺はこの美女に膝枕をされているらしい。

 

俺は美女の膝の柔らかさを堪能しつつ、ぼーっと彼女の顔を見る。

 

と、彼女が俺の視線に気づいた。

 

「あ、気がついた?具合はどう?」

 

・・・とりあえず、具合の悪いふりをしてこの時間を延長する作戦でいこう。

 

「ちょっと頭が痛いです。」

「あらそう?回復したつもりだったんだけれど・・・。でも、ごめんね。私、そろそろ帰らなきゃならないの。ちょっと上の人から連絡があって。ジャージを枕がわりに置いておくから我慢してね。」

「・・・・・・。」

もっと早く目を覚まさなかった俺の馬鹿!

 

「あなたのゲーム、ここに置いておくわね。しっかり守りなさいよ。」

彼女が微笑みながら手に持った袋を脇に置いた。

 

・・・ゲーム?あぁ、今日買ったゲームのことだろう。

 

周りを見渡すと、今いる場所は公園のようだった。

どことなく見覚えのある公園だ。

 

俺はベンチに横たわっている。

 

 

 

・・・えーと、今日何があったんだっけ。

 

すごく密度の濃い一日だった気がするが・・・

 

俺は今日の出来事を思い出そうとする・・・

 

 

 

そういえば、あの不良達はどうしたのだろう。

 

 

・・・不良?

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

俺は、ガバっと置き上がる。

「あ、あ、あの不良達は!?ってか、大丈夫!?俺、あの時、突き飛ばされて・・・・、ってか、え?もしかして事後!?」

「ハァ?何言っているの。あんなやつら、もう追っ払ったわよ。ていうか、頭は大丈夫なの?」

「え?何もされてない?」

「当たり前でしょ。ていうか、頭は大丈夫なの?」

「はぁぁぁぁ、良かったぁぁぁぁぁ・・・」

「ねぇ、頭は大丈夫なの?」

しきりに頭が大丈夫か聞いてくる失礼な女の子だが、せっかく仲良くなった女の子が、速攻で不良に捕らわれて、まいっちんぐなことをされるなんて、多感な高校生の俺には、一生もののトラウマになるだろう。

 

「まぁ、それだけ元気なら大丈夫でしょ。それじゃ、今日は楽しかったわ。いろいろありがとうね!」

「え?帰るの?」

「そうよ。さっき、上の人から呼ばれたって言ったじゃない。じゃあね。」

上の人って上司だろうか。この子、社会人だったのか。

 

彼女は立ち上がり、俺のもとを離れていく。

 

 

俺は、それを眺め・・・

 

「あのっ!!!」

・・・気がつくと声張り上げていた。

 

彼女はビクッとして、こちらを振り返る。

そんな彼女の反応がとても愛おしく感じた。

 

「あの!できれば・・・・また・・・・会いたい・・・なぁ、なんて・・・・」

 

彼女は、ぽかーん、としたほうけ顔で俺を数秒眺めて、その後、少し困ったような顔をして返事を返してきた。

 

「次に会うのは、できればもっとずっと先だといいわね。」

 

・・・速攻で振られた。

まぁ、当然だわな・・・あんな美人が、出会って数時間の引きこもりのオタク少年の相手をしてくれる訳が無いわな・・・

 

「じゃあね。」

 

彼女は手をひらひらさせながらその場を去っていく。

 

 

 

・・・と、途中で、彼女が、はたと何かに気づき、振り返ってこちらに手をかざす。

そして、何かをぶつぶつと囁いた。

 

ふっと、彼女の手のひらが淡く光ったような気がした。

 

そして、彼女は満足気な表情をした後、再度歩き出した。

 

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

 

彼女の姿が見えなくなった。

 

なんだか、異世界で大冒険でもしたような一日だったな。

 

ジャージに残った淡い彼女の香りが、一人であることを実感させる。

 

残された俺が何気なく、足元に目をやると、そこには四葉のクローバーが生えていた。

仲良く並んだ四つの葉っぱ。

 

 

そして俺は、

 

「・・・送っていくって、言えば良かったな。」

とか独り言をつぶやくのだった。

 

 

 

【アクア視点】

 

私が帰ろうとすると、彼が声をかけてくれた。

 

「あの!できれば・・・・また・・・・会いたい・・・なぁ、なんて・・・・」

 

どうやら彼はまた私と遊びたいようだ。私としてもまた下界に遊びに降りるのはやぶさかでない。だが、彼が気絶している間、創造主様から、エリスに仕事を丸投げしたことについて、いい加減にしろ、とお怒りの言葉をいただいてしまった。しばらくは謹慎だ。彼と次に会うのはきっと彼が死んだ時になるだろう。

 

「次に会うのは、できればもっとずっと先だといいわね。」

 

何年先になるかわからないけれど、もし、天界で彼を案内することになったら、誠意をもって対応しよう。

 

「じゃあね。」

 

 

それにしても、今日は一日楽しかったな。

 

いつか、またこんなワクワクするような日が来るといいな。

 

そうだ、最後に私から彼に感謝の気持ちを贈ろう。

 

 

私は振り返り、彼に向かって手をかざして静かに唱える。

 

「『ブレッシング』」

 

 

・・・彼の行く先に、あのゲームの仲間達のような素敵な人達との出会いが訪れますように!

 

 

 

■■■

 

「ただまー」

私は天界に戻ってきた。

 

 

「せんぱーい!ひどいですよー!私の担当世界がてんやわんやだって、天使から報告があって大変だったんですから!」

エリスがプリプリ怒って私を待っていた。

「エリス、死者の案内、ありがとうね。何か変わったことはなかったかしら。」

「えぇ。何人か私の世界に転生させておきましたから!もう!あとはご自分でお願いしますね。次の死者はこの御剣さんという方です。」

そういって私に死者の情報が記載された書類を渡してよこした。

 

 

「ごめんごめん、おかげで下界でちょっと面白い男の子と出会ったの。」

「面白い子?」

「えぇ。これがとんでもない引きこもりのゲームオタクなのだけれど、なんだかんだで色々と助けられたわ。なんだか一緒にいて随分居心地のいい子だったわね。」

「へぇ、なんてお名前なんですか?」

「・・・名前?」

「・・・・・・」

そういえば、脳内で彼のことをずっとヒキニート呼ばわりしていたせいですっかり忘れてしまった。

 

「・・・・じゃあ、容姿はどんな方でした?」

「エリス、男性の話をするときに、いきなり容姿に食いついてはダメよ。とんだ面食いだと思われてしまうわ。男はね、顔じゃないの。中身なの。あなたがとんでもないダメンズに引っかかる姿を私は見たくないの。」

「・・・・・・」

容姿もこれといった特徴がない。ちょっと冴えない感じでどこにでもいそうな子だった。故に記憶にとどめておくのが困難だ。実際、女神様である私の記憶力をもってしても、すでに彼の顔にもやがかかっている。

 

 

「全く・・・、それで先輩は目的のものを手に入れられたんですか?」

エリスはそう言うと、少し顔を赤らめ、上目遣いでチラチラとこちらを見てくる。

 

「目的のもの?」

はて、なんのことだろう。

そんなに赤い顔でチラチラ見られても私にそっちの気は無いのだけれども。

 

「・・・・もういいです。」

エリスはガクッと肩を落として言った。

 

 

「では、私は担当世界に戻るので、次の死者の方、お願いしますね。」

「わかったわよ。マツリギさんから案内すればいいのね。」

「カツラギさんです!・・・あれ?」

 

エリスは、カツルギ?ミツラギ?などと首をひねりながらその場をあとにした。

 

 

■■■

 

 

 

数ヵ月後・・・

 

 

私は天界で代わり映え無い日々を送っていた。

 

その日も、これから案内する死者の情報が載る書類に目を通していた。

 

「死者の名前が・・・佐藤和真・・・?どこかで聞いたような名前ね。あれぇー?この写真の顔とジャージどこかで・・・・まぁ、それもそうか。どこにでもいるような名前に顔だしね。ジャージの人も結構来るしね。」

ちらりと死因の欄に目をやる。

「何この珍しい死に方!?女の子を突き飛ばし、トラックに轢かれたと勘違いしてトラクターの前でショック死!?ヤバい、超ウケるんですけど!プークスクス!」

 

私は佐藤和真の経歴に簡単に目を通す。

 

まぁ、どれだけ面白い死に方をした人だとしても、案内の間だけの関係だ。

そう思うと、この仕事のなんて淡白で寂しいものか。

 

そんなことを考えながら、私は佐藤和真の待つ部屋へと足を踏み入れた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

■■■

 

 

今回も、いつも通りにやるだけだ。

 

・・・と、その時はそう思っていた。

 

 

しかし・・・

 

 

 

「佐藤和真さん」

 

 

 

この出会いが、

 

 

 

「ようこそ死後の世界へ」

 

 

 

ある世界を大きく変えるきっかけとなり、

 

 

 

「あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました」

 

 

 

ポンコツで愛おしい仲間達との、

 

 

 

「短い人生でしたが」

 

 

 

素晴らしい物語の始まりだったと気付くのは、

 

 

 

 

「あなたは死んだのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少しあとになるのだった。

 

 




これでアクア編終了です。

次からめぐみん編です。
めぐみん編は、原作の書籍版9巻までとスピンオフを読んでいる方を読者として想定しています。

なお、アクア編とめぐみん編は短編集的な構成でなく、アクア編がめぐみん編の重要な伏線となります。
めぐみん編だけ見ても??な部分が出てくるのでご注意を。
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