気付くと私が乗っていたタイムマシンは静止していた。
「・・・・うぅ。何なんですか一体。」
窓の外には、木々や青い空が見える。
私は、シートベルトをなんとか外してタイムマシンの外に出た。
そこは、小高い岡のようなところだった。周りにひと目は無い。
そして、眼下には、石造りの高い建物が地平線の奥まで続いていた。
今までに見たことのない作りの街だった。
「ここは一体・・・」
いや、タイムマシンが機動したということは過去に移動したのだろう。
しかも、あの手記の通りならばここは・・・・
「・・・ここが、カズマが過ごした国・・・」
私は、湧き上がる興味に抗えず、タイムマシンをその場に残し、街の方に向けて歩き出した。
■■■
建物の立ち並ぶところまでやってきた。
建物は高く、とても頑丈そうな作りだ。所々、文字のようなもので何か書かれている。が、なんと書いているかさっぱりわからない。
道行く人は誰しも見たことのない小綺麗な服を着ている。
私のような魔法使いのローブを羽織り、三角帽子を被って杖をもつ人はいない。
杖どころか剣や槍、弓を持つ人も一人もいない。
冒険者っぽい人がいないのだ。
これで魔物の襲来にどう対処するのだろうか。
みんな防御力の低そうな服を来て、手には杖や剣でなく、冒険者カードくらいの大きさの謎の板をもって指でシュッシュとやっている。
この世界の冒険者カードだろうか。なんかカッコいい。
周りの人は私に妙な視線を向けてくる。どうやら私の格好が珍しいようだ。
何だか私だけ浮いているような気分だ。
ズレているような気分だ。
ゆんゆんな気分だ。
それでも私は、物珍しい光景に目を奪われ、キョロキョロと周りを見ながら道をゆく。
タイムマシンと同じ形をした道を走る無数の自動車、
目の前に立つと自動で左右に開く透明なドア、
一定の感覚で緑と赤とそれぞれ点灯する不思議な箱、
なんてカッコいいもので溢れかえっているのだろうか。
■■■
「・・・これは何でしょうか。」
目の前には、屋敷のテーブル程の大きさの黒い板。
ちょうど、テーブルの面を横長に立てた感じだ。
「中に人がいるのですが・・・」
板の中で人が動いているのが見える。
「文字も浮かび上がっているのですが・・・」
その板には時に文字が自動で浮かび上がっては消える。
「いや、なんかピーンときそうですよ・・・紅魔族随一の天才的に・・・この魔道具は・・・」
テレポート装置・・・・!!!
そう、行きたい場所が表示された瞬間に板に入れば、その場所にテレポートできるというものだ!
「なるほどなるほど、ちょっと試してみますか・・・」
私は、恐る恐る、板に向けて手を伸ばして・・・
コン☆
「・・・・・・」
コン☆
コン☆
コン☆
「・・・・・・」
何なんですか、全然テレポートできないじゃないですか。
私は板に向かって両手を伸ばして魔力を込めてみる。
「はぁぁぁぁぁ・・・・!!」
たっぷり10分くらい魔力を込めてみた。
こっちを見ながらヒソヒソする人が多かった気がする。
たまにカシャッとか聞こえてきたのは何だろう。
まぁ、いいか。
「さて・・・それでは・・・・」
コン☆
「・・・・・・」
コン☆
コン☆
コン☆
コン☆
「・・・・・・」
■■■
そろそろ歩き疲れて、帰ろうかな、と考えていた時だった。
・・・目に入った。
外まで聞こえる物凄い音の響く賑やかでやたらキラキラした建物の中から、姿を現したその男性が。
カズマだ。
私がカズマを見間違う訳が無い。
少し顔は幼いが、確かに彼はカズマだ。
カズマは私のいる方とは反対側に向かって歩いていく。
「カズマ・・・・カズ・・・・」
と、あとを追いかけようとする私の足が止まる。
黒いロングのストレートの髪をした胸のそこそこ大きめで、大人な雰囲気の美女が彼を追いかけ、そして彼の隣を歩く。
「・・・・・・」
とても仲良さそうに歩く彼らの姿を見て、私は言葉を失う。
そう言えば、カズマに好みの女の子のことを聞いたことがあった。
確か、髪がロングでストレート、胸が大きくてカズマを甘やかしてくれる子・・・。
・・・・・・
・・・いや、ここにいるカズマは過去のカズマ。
今のカズマとは何の関係も無い。
そう言い聞かせ、胸の締め付けられる感覚を、握りこぶしを作って胸をドンドン叩くことで紛らわす。
私は、その場で深呼吸すると、彼らの後を追った。
■■■
彼らは服屋に入っていった。私も後を追うように服屋に入る。今まで見たこともない綺麗な服屋だった。
「カズマの国の服屋はとても清潔なのですね・・・」
普段、服装などほとんど気にならない私だが、着古された自分のローブ姿を見下ろし、何だか惨めな気がしてくる。帰ったら少しおしゃれな服でも買おう。
カズマと例の美女は、服が沢山積んである棚を見て、イチャイチャと何か話している。
私は棚の影に隠れながらそれを眺める。
店員らしき人物に、何やってんだこいつ?みたいな目を向けられる。
なんだかだんだんイライラしてきた。
と、そこでカズマが手にとった服を見て私は、つい「あ・・・」と声を漏らしてしまった。
あれはカズマがいつも屋敷で着ているジャージだ。
「あの子が選んであげたものだったのですね・・・」
何だかさっきからショックなことが続く。カズマがよく言うメシマズ状態だ。
カズマはジャージを持ってカウンターに向かう。
カズマにちょろちょろついてまわっていた美女は、女性服らしきものが並ぶエリアに歩いていく。
・・・・カズマに話しかけるなら今だ。
私は意を決してカズマに近づく。
■■■
「カ、カズマ・・・」
会計が終わったタイミングを狙い、声をかけた。
が、ろくに話すことも考えておらず続く言葉を失う。
カズマは驚いたような顔をして私の方を見る。
カズマだ。
・・・やっぱり少し幼い。
今のカズマは、強敵と戦って、いくらか顔が凛々しくなったのかもしれない。
私は目の前のカズマの顔を見て、ろくに続ける言葉もなく惚ける。
するとカズマが口を開いた。
「××××××××××」
「え?」
聞いたことの無い言語だった。何を言っているかさっぱりわからない。
「カズマ、私の言うことがわかります?」
と聞くと、カズマは顔をしかめる。どうやら通じていないようだ。
「そ・・・そうですか。」
無性にカズマが遠い存在に感じて悲しい気持ちになる。
「・・・すみません。人違いでした・・・」
言葉が通じていないにもかかわらず、私は言い訳をしつつ、走ってその場から逃げ出した。