やはり俺のクロスオーバーはまちがっている。   作:餃子の教え子

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それでは!『人生は苦いから』をどうぞぉ!!!


第9話:人生は苦いから

「うんうん、どうやら解決したようだね。彼女の顔が晴れやかになったよ」

 

 そうして、俺は続けて牡羊座の勇者の話を進めようとしたが、先程料理を持ってきてくれたおばさんが、再び現れた。

 そうして、料理を指差し、

 

「やっぱり泣いている時に食う飯より、笑っている時に食う飯の方が、美味しいってものよ!」

「ミ、ミアさん……ありがとうございました!」

 

 エイナさんは感謝を述べ、ミアさんという名のおばさんは、そう言い残して満足したのか厨房へと帰っていった。

 

 そして今、俺の目の前、正確にはエイナさんの目の前なのだが、美味しそうな匂いを放つドリアが置かれている。

 

 ……正直や、やばい。腹が空いてくる。食べたい。食べたい。

 

 そんな俺の心中での葛藤を知らず、エイナさんは「いただきます」と言い、食べ始めていた。

 

 そんな様子をぼんやりと見ながら、俺は考えていた。

 

 それは、俺の現状についてだ。

 

 俺の現状は、現実逃避したい程酷い。金がないんだ。これ以上、野性的な生活を続けるわけにはいかない。

 

 だから、何としても早くお金を手に入れないといけない。

 

 そうしないと、食べ物さえも十分に得られない。それに服だって川で魔物の血を流したりしていたが、もう限界が近いだろう。

 ちゃんとした装備を整えないと、攻撃が掠っただけでも大惨事になりかねん。だから、装備も必要。

 

 それに回復薬とかのアイテムも揃えておきたいところだ。特に先程のエイナさんの話を聞き、この世界では状態異常系の攻撃は危険のような気がするので、状態異常の回復薬も欲しい。

 

 けど、俺はチートスキルの一つ。

 《死んだ魚のような眼(アンノウン・アイ)》によって、状態異常には、ならない。

 しかし、牡羊座の勇者には効いたように、持っておくに越したことはないな。

 

 あとは、宿か。今夜は寝るつもりがないが、これからはそうは行かないだろう。どこかしらの宿に泊まる必要がある。

 

 だからこそ、金が必要。

 

 牡羊座の勇者の事もだが、まだまだ俺は、この街ではやるべき事が多そうだな、と自覚していた。

 

「……ヒキガヤ君?」

 

 すると、思考に耽っていた俺の目の前から突然、エイナさんの声が聞こえた。その顔は、少し心配そう。

 というか、申し訳なさそうな感じも感じる。

 

「もしかして、食べてみたい? どう? 一口食べてみる?」

 

 ……悪魔の囁きが聞こえた。

 

「ふふっ、今ので分かっちゃった。食べたいって顔に出てたよ」

 

 ……バレちゃってらぁ。

 

 俺は、ずっと食からは、話を逸らして意識をしないようにポーカーフェイスを意識していた。なのに、気を抜いた隙に、気付かれてしまったとはエイナさんの観察眼も中々のものだ。

 

 けど、流石に俺も人の食べ物を貰う訳にはいかない。信用以前の問題だ。エイナさんも本心は、嫌だろう。そうに決まっている。

 

「私は全然気にしないし、いいんだよ? ヒキガヤ君」

 

 ……エ、エスパーなのか?

 

「はい! ヒキガヤ君! あ〜ん!」

 

 そう言ってエイナさんは、俺に逃げる隙を与えずに、スプーンで掬ったドリアを俺の口元に運んでくる。気にしなくてもいいと言われても、俺が気にするんだ。

 

 それに、本心ではそう思っているはずがないだろう。きっと、仕方なくに決まっている。

 

 ……そして、どうする八幡。この状況をどうするんだ。決まってんだろ。俺は昔、雪ノ下さんに『理性の化け物』とまで呼ばれた男だ。スキルにだって《理性の化け物(モンスターオブセンス)》として、発現している。そんな俺が理性に負けていいのか。だめだろ。我慢するんだ八幡。そう決めたじゃないか八幡。

 食べるな。食べるな。食べるな。食べるな。食べるな。食べるな。食べるな。食べるな。食べるな。食べるな。食べる、な。たべる……食べるな?……

 

「ふふっ。美味しそうな顔しちゃってかわいい。ね? 美味しいでしょ? このお店の腕前なら、私が保証しちゃうよ!」

 

 結論。食べちゃいました。美味しかったです。

 ご馳走様でした。

 久々の料理に涙が出そうになった事は、秘密だ。

 

 そして、今の俺の顔は、多分赤くなっているだろう。何となくわかる。顔が熱い。

 けど、エイナさんは気にしている様子はない。

 

 もしかして、スプーンごしに間接キスをしていたのを、気付いていないんだろうか。

 

 エイナさんは少し天然なのかもしれない、と俺は知った。

 少し落ち着きを取り戻した方がいいな。

 

 そう思い、冷静になるため、俺は、

 

「さて、食後の一杯とでもいくか。《極甘珈琲創造(マッカンクリエイト)》」

 

 そうスキル名を言い念じた。すると右手にスッとマッ缶が現れる。しかも温かい。

 

「え? え? ヒ、ヒキガヤ君、どういうこと?」

 

 エイナさんはその現象に驚いているようだ。

 少し顔がニヤけそうになる。

 

「これは、俺のスキルだ」

「こ、こんなスキルが、あるんだ……」

 

 《極甘珈琲創造(マッカンクリエイト)》は、俺の五個あるスキルの一つ。

 効果はマッ缶を創造することのみ。だが、俺は異世界という未知の世界に来て以来、闇魔法の次くらいに愛用していた。

 それに、このマッ缶。正式名称はMAXコーヒーと言うのだが、決して万人受けするようなものでもなく、極甘。

 小町とかに飲ませてみても「うげぇ、甘いよ。甘すぎるよお兄ちゃん」と言い、飲みきるのを断念。地球でも、そう多くの同志を見つける事が出来なかった。

 

「ちなみに闇魔法も使えるぞ」

 

 そう言って俺は左手の掌の上に闇魔法を使った黒い炎を実体化させる。

 

「闇魔法使いなんて、珍しいスキルね」

 

 そうして、エイナさんの驚きと興味を得たところでの俺は闇魔法を解除する。

 当然、黒い炎は何も無かったかのように消える。

 

 俺には何ら影響はないが、この炎は他の生物に対しては悪影響を及ぼすからな。気を付けないといけない。

 

 そうして、俺は缶に口をつけコーヒーを飲む。

 

 やはりマッ缶は甘くて美味しい。

 

 言ってなかったが、スキルがあるから、と言って無限にマッ缶を生み出せる事が出来るわけじゃない。

 前まてをはら一日ずっと飲めると思っていたが、異世界に着いた時に検証して見た結果、まだレベルの低い状態では、一日三缶が限界であった。

 

 だからこそ、大切に飲まねばならない。無限に生み出せるのではなく、有限だからこそ味わわなければならない。

 

「ねぇヒキガヤ君。私にも飲ませてくれない?」

 

 ……至福の時を味わっていた俺に、悪魔の囁きが聞こえてきた。

 

 また、間接キスか。と思ったが、まだ一日のストックは二つある。

 

 俺は、食べ物を恵んでくれたエイナさんに、当然断る事も出来ず、借りを返すつもりで《極甘珈琲創造(マッカンクリエイト)》と再び念じ、マッ缶を創り出す。

 

 尤もな貸し借りなんて、思っているのは俺だけなのかもしれないが。

 

 エイナさんは、俺が創り出したマッ缶を受け取って、口に付ける。そうして、慎重に一口飲んでみた。

 

「美味しいだろ?」

 

 俺は新たな同志を見つけられると思うと待ちきれずにエイナさんに感想を聞いてみた。

 エイナさんは、俺と同じでマッ缶がいける口なのか。それとも、いけないのか。それが楽しみだった。

 

「え、ええっとね。ヒキガヤ君……甘すぎるよ、これ」

 

 エイナさんは、申し訳ないような顔で、そう言った。

 

 ……くっ。ダメだったみたいだ。エイナさんは同志じゃない。けど、これだけは言っておこう。

 

「……人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていい。そういうことだ」

 

 決め台詞のように俺はそう言い残し、自分のマッ缶を最後まで飲みきる。口の中に甘さが広がり、それは喉を伝わり胃まで温かくしてくれる。

 

 一言で言って、マッ缶最高。

 

「す、凄いね。ヒキガヤ君。その、飲みっぷりといい、言葉といい……私も!」

 

 そうして、エイナさんは、何か覚悟を決めたような表情で、マッ缶を飲みほした。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ご、ごめんね。追加の注文がしたいなんて言っちゃって……」

 

 そう言いながら、追加の注文で頼んだ料理を頬張るエイナさん。といってもデザートのようなものだ。

 考えたくはないが、もしや、お口直しなのだろうか。

 

 ……マッ缶の。

 

 ……解せぬ。

 

 それで、俺は牡羊座の勇者の話を再び聞いてみる。

 

「そ、その、急がなくてもいいのか?」

 

 この言葉が、何故でたかは分からないが、俺は早く牡羊座の勇者に、会わないといけないと直感的に感じていた。

 なので、エイナさんに聞いてみた。何か嫌な予感がしたんだ。

 

「多分。というか『彷徨いの森』は難易度が、そこそこ高い所なのよ。私達が行っても、魔物の餌になりかねない。だから、彼を待つわ」

「俺達が行っても、死んでしまうかもしれない。けど、彼なら大丈夫と。随分と信じているのか。彼の強さを」

「うん。ヒキガヤ君にも見せたかったよ。本当に強いんだからね。決闘で闘った相手のラフコフのメンバーは、そのギルドの幹部的な地位に着いているくらいの実力者なのよ。それと同等かそれ以上なんて、凄すぎるの。けど……人一倍危ない子なの……」

 

 そう言ってエイナさんは、また暗い顔をする。それ程までに彼のことが心配なんだろう。

 

 そうして、エイナさんは、水を一気に飲みほす。

 

 そして、水をお代わりする為に、店員を呼んだ。

 

 俺は見落としていたというか、自覚をした。

 エイナさんにとって、俺の実力は未だに未知数。それに冒険者登録を今日したばかりの、冒険者としてはヒヨッコのヒヨっ子。

 そんな俺を危険な『彷徨いの森』へ行かせるわけには行かないと。だから、街で待つんだ、と。

 エイナさんは、そう思っているのではないだろうか。

 

 けど、そんな必要はないな。

 

 ……エイナさんは、一つ大きな間違いをしているだけなのだから。

 

「はい。お客様、何でしょうか?」

「あっ、お水のお「エイナさん!」……え?」

 

 俺は、らしくもなく大きな声でエイナさんを呼ぶ。客観的に見ると、この時の俺は周りが見えてなかったらしい。

 

「俺の実力を、見誤ってませんか?」

 

 ……今思うと、この台詞は黒歴史確定だな。

 

「俺は、その『彷徨いの森』を単独で抜けて、このコヒキーア王国に入国してきました。なので、魔物にやられることはないでしょう。それに、敵がラフコフであろうと、俺なら倒して、彼を救うことが出来る。それも今すぐにでも!」

 

 そう自信満々に言い放った。

 

「え? 『彷徨いの森』を、単独、で? ヒ、ヒキガヤ君、それは、どういう……」

 

 思った通り、突然のことで、エイナさんは混乱しているようだった。

 

 けど、俺の予想を大きく上回る形で、エイナさん以外に反応を示した人がいた。

 

「敵がラフコフ、ですか」

 

 それは、エイナさんが呼び寄せた店員さんだった。

 彼女は、耳からしてエルフだと思う。薄緑色の髪の毛で、一見、とてもクールな印象を受けた

 

 しかし、目はそんか印象とは違い、何か燃えるような激情を抱いているような目だった。控えめに言って、怖い。

 

 それに、よく見てみると何か見覚えがある気がした。

 

 ……こう、テトと出会った時のように。




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