やはり俺のクロスオーバーはまちがっている。 作:餃子の教え子
私が敵を殲滅している間、そのラフコフ達に気を取られている隙に、赤目のザザを比企谷さんの元へと近づけさせてしまったのでしょう。
私がふと比企谷さんの方を見た時には、奴──赤目のザザは比企谷さんの隣にいました。
そうして、奴は彼に何かを囁いている。
──奴は彼に何を吹き込んでいるのですかっ!?
「彼から手を離しなさいっ!」
咄嗟に私は彼──比企谷さんの肩に手をかける赤目のザザに向かって《風魔法》の見えない風の刃を放ちました。
尤も奴はまたもや、それを見えているかの如く躱します。
──くっ、流石に、この追加の敵の中では相性が悪い。
まだ、敵のラフコフメンバー達はいる。
その為、彼らを無視する訳にはいかず、防御にも《風魔法》を回さなければいけない分、攻撃の《風魔法》に力が籠らない。本来ならもっと殺傷力もコントロールも手数も増やし強くできたでしょう。
けれど、それが出来ない。
それ程までに奴との戦闘は不利です。
それとつい先程から、何だか寒気がします。
そうしてふと視線の端にいる比企谷さんに目がいってしまいます。
……なにか、嫌な予感が、します。
「おれは、ひとごろし、だ」
するとその予感が的中したのか、比企谷さんが、自信を人殺しだと呟いたのが、私にも聞こえました。
そして、その次の瞬間、
「あぁ、あああっ! うわぁああぁああああッ!!!!」
比企谷さんを中心に黒く濁った闇の渦が生み出されたのです。それは徐々に勢いをつけながら周りに広がっていきます。既に比企谷さんの近くにいた何人かの敵達はそれに飲み込まれて………
消えていきました。
「ひひひっ! これは良いッ! 見事なまでに暴走しやがったぜッ! あぁ〜これは勿体ない。これをアイツらは見れねぇ〜のか。あぁ〜これを
そう言いながらザザは何時の間にか、既に避難のためか木の上に移動しており、暴走する比企谷さんの様子を面白可笑しそうに見ていました。
──気に食わない。
……私は場違いに騒ぐ赤目のザザに向かって、先程とは違い、防御を無視した攻撃重視の《風魔法》の風の刃を放ちました。
周りに絶えず動き回り私に攻撃を仕掛ける敵なんて、無視します。
それにアスナなんて、既に敵を無視してザザに向かって走っていっています。
そんな敵より、比企谷さん。
そうアスナから、そんな言葉が漏れそうになるほど、私には感じました。
けど、それは私も同じこと。
防御よりも、奴を殺す事の方が重要なのだから。
当然、数回の敵の攻撃が私の身体に刺さります。剣にだって何度か斬られました。私は何とか致命傷だけは避けて、奴に向かって攻撃し続ける。
……痛い。けど、けれど! 奴を生かして逃がすわけにはいかないっ!
けれど、それらは殆ど奴に当たることは無く、尽く躱されていきます。
しかし、少なからずは当たるわけで、何発かはザザの体に当たっていたので、ザザの体力を削れたことでしょう。
けれど、この後の赤目のザザの行動は私にとって予想外でした。
「さっきから、ちょろちょろとうぜぇんだよ! ほんと消えろ目障りだ。はぁ……脇役の雑魚はすっ込んでろ!《
そう言って、私に対して銃口を向けました。
まさか、ここで《能力》が私に使われる事になるとは……
そう自覚したその瞬間、全身を死の恐怖が駆け巡る。
──し、死ぬ。
直感でそう感じられました。これでも私は勘が鋭い方なので良く当たります。それが、最大限の命の危機を知らせてきます。
時が数時間、いや永遠に感じられます。
私は思わず、目を瞑ってしまいました。
そうして、
「……ちっ。このタイミングで此処まで広がってきやがったか」
奴は私に向けていた銃口を比企谷さんに向けました。私はその行動に思わず言葉を漏らしてしまいます。それは、アスナも同じだったと思います。
「「や、やめ……」」
そんな私達の嘆きも悲しく、バンッという激しい銃声が鳴り響きます。
その銃弾は目にも留まらぬ物凄いスピードで、赤い線を描きながら、比企谷さんに向かっていき、闇に包まれる比企谷さんに当たった瞬間、
……え? 消滅?
「……はぁ? 今のが効かねぇのか。こりゃ、だいぶヤバいな」
私も、あの比企谷さんの闇が相当に危険なものだと理解させられました。
──早くどうにかしないと……。
「……ちっ。くそっ! ここにいたら俺が危険か。早く逃げねぇと……こいつらは、まあいいか」
「え? あ、ま、待ちなさい! 赤目のザザッ!」
アスナが逃げようとするザザに叫んでいます。
──くっ、逃がすまいと思っていたのに逃がしてしまった。
既に赤目のザザは森の奥へと消えてしまっている。逃げ足の速いことだ。
私は追いかけたい衝動に駆られたが、何とか踏みとどまり、比企谷さんの方を見た。
その間にも比企谷さんの周りの闇は広がり、私のいる所もいつまでも安全だとは限らなさそうだ。
そうして、ふと思ったことがあった。
「……エイナさんは?」
「リューさん! た、助けてくださいぃぃぃ」
そこには比企谷さんの闇から必死に逃げるエイナさんがいました。先程、彼女は視線の端で木に叩き付けられていましたが、何とか走れる程度には大丈夫なようで安心です。
全く何をやっているのやら。
けれど、無事で良かった。
私はエイナさんの後ろに迫り来る闇に向かって《風魔法》を放ちました。
けれど、結果は消滅。
──やはり、私の《風魔法》でも駄目でしたか。
それに、【ルミノス・ウインド】でもあの闇を消し去ることが出来るかは怪しい。それ程までにアレは異常だ。
「エイナさん。私に捕まってください」
「は、はいっ!」
闇はどうする事も出来ない。
そう判断した私はエイナさんの元へと近づき、そう言うとエイナさんは私に思いっきり飛びついてしがみついてきました。
そんなエイナさんに遠慮がないなと思ってしまったのですが、この場合かえって其方の方が助かります。
私は《風魔法》を使い、空を飛びました。
「お、おぉ〜私、空を飛んでます」
エイナさんからは、そう感慨深い言葉を貰います。
けれど、そんな余裕も内心は無いだろうと思います。自分を騙しているんだと思います。
私はその勢いで、アスナにも近付き、彼女を抱きかかえました。これで、あの闇の影響は受けないでしょう。
既に下は闇に覆われ始め、それに沢山のラフコフメンバーが飲まれていっています。
「う、うぅうあうぅぇうあぇぅええあうううあぁぁぁぁううあッ!!!!」
そうして、比企谷さんの言葉にならない悲痛の叫びが下から此処にまで聞こえてくるのです。
比企谷さん……。
何故彼がこうなってしまったかは、凡そですが想像はつきます。一見捻くれているように見えて、真に心優しい方なのでしょう。
私と違って。
──助けてあげたい。
そう思っても私は彼に対して、もっといえば彼の闇に対して無力。
というより、彼にあんな強力で危険な力があったこと自体、驚きました。あれ程の力、私よりも何倍も強いでしょう。
そんな彼を、当然私は止めることが出来ない。
自然と私の拳が固く握られ、皮膚に爪がくい込んでいたのか血が少し垂れている。
「比企谷くん……」
「ヒキガヤくん……」
アスナとエイナさんがそう呟いたのを私は聴き逃しませんでした。きっと彼女らも比企谷さんの事を助けたいと思い、自分の無力さを嘆いているのでしょう。
そうして…………………
──っ!? こ、これは、危ないっ!!
比企谷さんの叫びがより一層高まったのが分かります。このままだと……その時、私は直感的に再び危機を感じました。
まさか、この空中にまで及ぶというのですか!?
驚きを隠せない。それでいて、ここから早く離れなければと思いました。
「リュー……これは、ここにも闇が来るよ!?」
「……そのようです。エイナさん! 逃げますから、しっかりと捕まっていてください! 一刻の猶予もありません……っ!?」
「え? は、はいぃ! って……え?」
あ、あぁ、間に合いそうにありませんね。
先程の銃弾と同じくらいの速さで闇は私達──正確には全方向に爆発的に拡散されました。その広がりは森をも飲み込んでいく。
そんな強大な力を前に私が出来たことは、ずっと愛用している《風魔法》の力を全力で、防御に注ぎ込み、私達三人をを高圧の空気で包み込み、一種のシェルター化するくらいでした。
けれど、それだけでも間に合って良かった。
そうでなければ、私達は今頃、消滅していたでしょう。
そうして全てが終わった時、『彷徨いの森』は消えていました。それも、魔物一つ残らず、木や草も全て消えていたのです。
私はそのあまりの光景に唖然としてしまいました。
唯一残る事が出来たのは、満身創痍の私達と、生死の判別すらつかず、地に伏している比企谷さん。
そして、意識不明で倒れる
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁはぁはぁ……」
とある暗く薄汚れた部屋で壁に手をつけながら息を荒くする男がいた。
「ひひっ。おいおい、ジョニー。随分と息が荒いじゃないか」
すると、その男──ジョニーの肩にもたれかかるように赤目のザザが話しかける。
ジョニーは服からボロボロだというのに、それと対照にザザは傷一つない。
「……ザザか。生きていやがったか……はぁはぁ、お前は闇の爆発ってわかるか? 凄かったんだぞ……お陰様でこの有様だ」
「おいおい、闇の爆発? 知らないわけがない。それなら、ちゃんと見てたぜ? だって直前まで、その爆発の元凶のすぐ側にいたんだからよ」
そう自慢げにザザは言うと、ジョニーの目が驚いたように見開かれる。
「はぁ? なら、あれを俺よりも近くで防ぎ切ったってか? それならお前も、俺と同じかそれ以上に瀕死じゃないと可笑しいだろ……」
「んん? あぁ……あの闇の爆発が起きる前には、撤退してたからな。既に森の外から見てたよ」
「まじかよ……逃げる前に俺にも教えてくれよぉ〜」
そう言ってジョニーは項垂れる。対してザザは笑顔だ。
「ひひっ。そうは言っても、ジョニーは
「……そう言われると反論できねぇ……けど、あの少しで殺せそうだったんだぜ? そんなんヤル気のボルテージが上がりまくるに決まってんしょ!!」
ジョニーは興奮気味になり、そう語った。ジョニーにとって少年は憎しみの対象。
あと少しで殺せそうだったのに、引くことなんて許せなかったんだろう。
「はぁ……そのおかげでジョニーが連れていった俺以外のラフコフメンバーは全員死んだ。それもあの爆発で。少しは労わっとけ」
「へぇ〜あいつら死んだんか。ま、いいだろ。所詮はそれくらいのカスだっただけだし」
そのジョニーの返答に、予想していたかのようなザザは「ひひっ」と毎度のように愉しそうな笑みを零す。
そんなザザにジョニーは、
「くくっ、逆にあいつらが死ぬ時、どんな顔をしていたか見てみたいまであるぜ!」
と言って胸を張った。
そうして、壁に手を付けながら、ゆっくりと歩き出す。そんなジョニーについて行く形でザザは後ろを歩く。
まだ、異常者同士の会話は終わらない。
「ひひっ、やっぱりジョニーは狂ってんなァ〜」
「当たり前だ。てか、それはお前もだろ、ザザ」
ザザはそんなジョニーに「まあな」と短く答える。ザザにとって、狂っているという事は褒め言葉のようなものだ。
狂ってなんぼの世界。狂しか集まらない組織。
いや、狂しか存在することのできない環境ともいえる。
そう、それが、上位冒険者ギルドである
『ラフィンコフィン』。
殺人ギルドだ。
二人は真っ暗な部屋を出る。開けた扉はギシギシという音を廊下に響かせる。二人は薄暗い廊下を奥へと向かって歩いていく。
「全くこれから、
ジョニーはそう嬉しそうに呟く。それに同感なのか、ザザもまたそれに同意する。心做しか赤い両眼がいつもよりも増して明るくギラめいている気もする。
なぜなら、
二人は今日、久しぶりに自分達を超えるかもしれない強者──狂人に出会ったのだから。
……あの闇の爆発。
あれは危険だ。触れたものを消滅させるほどの高エネルギー魔力。凄まじいなどの言葉では決して、その魔力量の偉大さを表し伝え切ることは出来ない。
それこそ、森ひとつを消すことの出来る存在。
恐ろしく期待のある人材だ。
「ひひっ、きっと
そういった才能ある人材を、ラフコフは求めている。それはPoHも同じこと。
──それに、個人的な予想だが、我れがギルドのギルドマスターは、彼を気に入るだろう。あそこまで歪な奴を俺は見た事がないし。
あんなにも強いのに、あそこまで脆いとは。
彼は本当に面白い。
ザザとジョニーは共にそう思った。
ならば、早めにこちら側に取り込んでおくべきだろう。我がギルドの為にも。世界の為にも。
「次に会う時が楽しみだなぁ……腐り目くん♪」
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