やはり俺のクロスオーバーはまちがっている。 作:餃子の教え子
「君、本当にチートだよね?」
早速テトから、俺はそう言われたが、全くもってその通りだと思う。この世界の強さの基準を知らない今の俺では想像も出来ないが、反応を見るにそこそこは通用するのだろうか。
けど、《スキル》も《能力》も……名前からしてね。俺のメンタルはボロボロなわけですよ。
「それに、その格好! かっこよすぎでしょ!?」
「いや〜テトさん。少しキャラ崩壊始まってますよ?」
そう、俺は今も目を輝かせ続けるテトを見て、感じざるおえない。そんなに、この俺の《能力》である《闇の炎に抱かれて消えろ》の黒ローブがカッコよく見えるのか。
俺からしたら、恥ずかしくて我が家の中に隠れていたい気分なのだが……。よし、早くこの《能力》を解除しよう。
「あ、あぁ。なんで解除しちゃうのさ……」
「俺の中の黒歴史を思い出して、恥ずかしいんだよ。それより、やっぱり……強いのか? これも?」
「はぁ。思いっきりチートだよね。闇属性を使えるようになっているのは、強いかな!この世界だと、使い手は多くはないし希少価値があるからね。それに、ダークフレイムマスター? っていうのは、よく分からないけど、多分弱くはならないでしょ。それこそ、覚醒するかも?」
そう言って、テトはいい笑みを浮かべた。
なんか、ため息がしたくなってきたな。小町には日頃から「ため息すると幸せが逃げちゃうんだよ。お兄ちゃん」って言われているけど、したくもなる。
これから俺は、旅に出て、魔王軍?退治なのだから。いや、異世界に憧れがなかったわけではないが、めんどくさい。非常に面倒臭い。
そんな役目放り出して、誰かに養ってもらうのもアリなのかもしれないな。
それが俺に出来たら楽しないんだが。
「んで、これから俺は、どうすればいいんだ?」
「それは勿論! 残りのというか……先に異世界入りしている他の勇者達に会ってもらうよ」
……え?他の勇者だと?
「言ってなかったけ? 比企谷八幡君を含めた十二人の勇者! 僕は色んな世界から、集めてきたのさ!」
あっ。けどプラスに考えれば、俺が戦わずとも他の十一人が協力し合って、魔王を倒してくれれば、いいんじゃないか。俺は働かなくても済む。世界も助かる。win-winじゃないか。
「そこで! 君にはこれから、その十一人の勇者を探して集めてもらう! 君が主導となってね!」
……どうやら、人生はそんなに甘くないな。
「いや、ちょっといいか。何故、俺が主導になる?」
「え? そんなの君が強くて、僕が一番気に入った人間だからに決まってるでしょ?」
おう……神様の勝手でしたか。けど、誰がそんな面倒臭いことをするか。断ってみよう。俺は無理やり此処に連れてこられたんだ。我儘言ってもいいだろう。
「……だが、ことわ」
「ん? 何だって? 君に拒否権なんて無いからね。まず、魔王を倒さない限り、君も他の勇者達も元の世界に返す気はないよ。それに、この世界を救おうとしないなら、他の者に変えるまで。用済みとして……あとはどうなるか。賢明な君ならわかるよね?」
……どうしよう。テトさん、めっちゃ怖いんだけど。
この最後の疑問系の笑みといい、原作のテトってこんなに威圧感放つような獰猛なキャラクターだったけ。
や、やばい。冷や汗が止まらない。殺気に当てられただけでビビっているような戦闘経験皆無のエリートボッチ高校生の俺が、異世界で、しかも、知らない人達十一人も集めれるのか……
というか、集めるってことはコミュニケーション取るって事じゃないか。なんて、ボッチには、レベルの高い試練を与えるんだ、この神様は。
けど、魔王を倒しさえすれば、元の世界に帰れる。
それを聞いて、俺は心のどこかで安心した。それは、今まで必死に考えないようにしていたから。
「てっきり、もう元の世界へは戻れないかと思ってた」
「それでも良いならいいけどね。君の場合、望んで此処に来た訳ではない。魔王を倒してくれれば、元の世界へ帰ることを許すよ」
「そうか。なら、先に言っておく。俺は元の世界へ帰らせてもらう」
迷うまでもない。
俺の中の本心は帰りたいんだと思う。
それは、元の世界……地球で、日本で、千葉で、総武高校で、奉仕部でやり残した事が、あるから。
このまま俺が求めているものを見つけられず、この心の奥に眠るモヤモヤを解消させないなんて、俺には出来ない。
とてつもない程に、俺は、見つけたくて、知っていたいのだから。
「へぇ〜。即答か。ちょっと意外だね」
そう言われると、現実逃避した野郎みたいで嫌になるんですけど。
「まあ、約束するよ。神の名においてね」
なら、信用できるかもしれないな。
「時間経過とかも、安心してくれていいよ。君がここに転移したあの日の翌朝に、戻れるようにしておくよ」
……テトが神様に見える。いや、本当に神様なんだけどね。
太っ腹すぎるでしょ。それが本当なら、安心して異世界にいられる。
「それはそうと、どんな……方々なんだ? その他の勇者達って」
これは聞かずにはいられない。俺と同じ境遇の人達なんだ。これから、嫌でも共に接していかなければならないなら、知っておかないといけない。
そんな俺の思考の間、テトは口元に人差し指を当て、何やら考えていた。なんか、嫌な予感がする。
「う〜ん。ひ・み・つ♪」
そう言って、俺の反応を楽しむかのようなテト。
正直に言うと、殴りたくなった。けど、決して表情には出さない。我慢。我慢。
しかし、教えてくれないなんて……
「世界のピンチなんだろ? 情報の開示くらいあってもいいと思うんだが」
「あぁ〜一理あるよね。けど、面白くないじゃん?」
……今日ほど、神様とは理不尽で自分勝手な者だと、思い知った日はなかった。
けど、まじかよ。このままだと、何も情報もなしに、俺は探す事になるのか。
そうなると、街なんかで勇者探し。期待しても、ボッチである俺には、聞きこみ調査なんてもの無理だぞ。そこんとこ、把握しているのか。この唯一神は。
「まあ、僕の認める君なら、大丈夫でしょ」
……ダメだコイツ、早く何とかしないと。
「……テト。流石に厳しい。俺は赤の他人と話すのでさえ、得意ではない。まして、世界規模での人探しなんて、不可能に近いぞ?」
「……はぁ。なら、ちょっと待って」
そう言って、テトはテト自身の画面を操作し始める。タイピングの手慣れている感を見ていると、長年使って来たことが伺える。俺には、あそこまでの速さ出来ないな。
そうしているうちに、俺の前には一枚の紙が印刷されているかのように、具現化されていっていた。
この紙に意味が無いとは思えない。推測だが、重要なアイテムだろう。
そうして完成したのは、一枚の大きな地図。
持ち運ぶには、何回か折らずには不便になりそうな大きさだ。
そして、その地図には大きな赤丸が十二個。
これが、指し示す事柄は……
「……ここに勇者がいるわけか」
「えぇえ!? また一発で当てたのかい!?」
あっ。無意識に口走ってしまっていたようだ。
このままでは、テトの評価をまた上げかねん。というか、この世界でのテトって、少しお馬鹿なのだろうか。原作は『』とやり合う程の頭脳だっただろうに。
まあ、その辺は深くは考えないでおくか。サブ垢だしな。
「その通りだね。半径五キロの赤丸で、大まかだけど、勇者の位置を知れるようにしてあるよ。それに、定期的に更新されるように作ってある。見やすいように、全部開いて宙に浮く機能もある。普通の地図としても使えるから、とても有能だと僕でも思うよ! これ!」
そう胸を張っているテトに、素直に感謝しておこう。
テトの言う通りなら、かなり役に立つんじゃないだろうか、これ。
ある程度の勇者の位置が分かっているなら、探しやすい。
けど、これを見て、俺はまた一つ疑問が増えてしまった。
「テト。この赤丸に模様が描かれているだろ? こっちはライオン。あれは二人の人? これは羊だし……」
「いい所に気が付いたね。それは、勇者の証。君たちが属する『十二宮勇者』を示しているのさ」
……十二宮勇者。だから、ライオンや羊があるのか。そして、二人の人は、双子座か。
納得したが、属するってどういうことだ。テトがあまり説明してくれないおかげで、謎が未だに多い。
こんな状況で俺はこの異世界で、やっていけるのか。高校生活でさえも、難しいのに。
そんな自分の世界に入り込んで、考えていた俺だが、テトにデコピンをされて意識が戻る。
「考え込むのもいいけど。目の前の現実を受け入れようか。君、逃げてばかりじゃダメだね」
ははは、痛い所を突いてくる神様だ。
「話戻すけど、右手の甲を見てみて」
そう言われるがままに、俺は自身の右手の甲を見た。すると、タトゥーが俺の右手の甲に刻まれていた。
いや、間違ってもグレたからタトゥーを入れたなんて過去は俺にはない。けど、刻まれている。
模様は……魚。魚が俺の右手の甲に刻まれていた。
「君は、
と言われても、俺は魚座生まれでもないのだが。何が基準なのだろうか。
それに、呼び名はパイシーズって。ちょっと……
「だから、君がいる所は、この地図でいうとここだね!」
そう言って地図のとある赤丸を指差すテトに、俺も気になって見てみた。見てみると、東でいいのか分からないが、右端の真ん中にいる事がわかる。
それで、思ったんだが……
「この世界って丸いのか?」
「丸くないよ。この世界は、平面。盤上の世界。君がいる東の地図外は、亜空間。入ったら……死ぬよ?」
……聞いておいて正解だったな。
というか、この地図、案外広い。地図外へ、行くことはないだろうが、それでもデカすぎる気がする。
「それでも……ゾディアックって案外広いんだな」
「ん? あぁそうだね。地球と同じくらいはあると思うよ」
まじかよ。俺はこれから、地球規模で旅をするのか。けど、目的の勇者の位置は分かっている。なら、簡単だろう。
まさか、何処にでもいるボッチ高校生に、こんな日が来ようとはな。
小町。お兄ちゃん、地球に帰る為に頑張るからな。
「んじゃあ! 比企谷八幡君! この世界について! そして、君の使命について理解してくれたかい?」
「あぁ。不本意ながら……」
「なら、いっか! 他の勇者達、みんな癖が強くて僕も苦労したんだから、まあ頑張ってね」
……おい。癖が強いって、俺なんかにやっていけるのか。
「あっ。もう一度言っておくけど、比企谷八幡君が、この勇者という使命を投げ出すようなら、用済みとして……ね?」
可愛く「ね?」って言われても、怖いだけなんだからね。テトさんや。
俺は、また身震いしてしまった。
「なら、早速行っていこう! 僕はこれ以上世界に干渉するわけには、いかないからね。次に会う時は……しばらく後かな」
「……そうか」
こう言っては、悪いかもしれないが全然寂しくもないな。けど、知っている奴がいてくれた方が、心強かったかもしれない。
これから会う勇者たちは、全くの他人。そう思うと、不安に駆られる。
「じゃあ! 良い冒険を! 比企谷八幡君! そして、みんな仲良くだよ?」
そう言って最後、テトは消えていった。って言うと、死んだみたいだけど、普通に姿を消していなくなっただけ。
そして、この大地に俺一人。
持ち物は、地図だけ。地図だけ?
「え? 地図だけ?」
思えば、服装も……
「寝巻きのまま……武器もない。お金も、というか、この世界の通貨なんだよ。この世界での一般常識ですら……俺にはない。」
あっ。これ、やばい状況ではないだろうか。
とりあえず、俺は地図を開く。俺がいるのは、先程も言った通り東の果ての真ん中。
近くに、街はあった。いや、もしや国規模かもしれない。けど、この地図…地球規模なんだよな。なら、国だろう。
そして、これって案外、遠いのかもしれない。いや、間違いなく遠いだろう。
けど、行かなければならない。だって、ここに牡羊座がいるんだから……。
一番俺に近い勇者。牡羊座の勇者。
俺は、当面、この勇者を見つけに旅をする事になるだろう。
そうして、俺の異世界勇者物語は、スタートしたのだった。
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