やはり俺のクロスオーバーはまちがっている。   作:餃子の教え子

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第5話:神様からの依頼

「君、本当にチートだよね?」

 

 早速テトから、俺はそう言われたが、全くもってその通りだと思う。この世界の強さの基準を知らない今の俺では想像も出来ないが、反応を見るにそこそこは通用するのだろうか。

 けど、《スキル》も《能力》も……名前からしてね。俺のメンタルはボロボロなわけですよ。

 

「それに、その格好! かっこよすぎでしょ!?」

 

「いや〜テトさん。少しキャラ崩壊始まってますよ?」

 

 そう、俺は今も目を輝かせ続けるテトを見て、感じざるおえない。そんなに、この俺の《能力》である《闇の炎に抱かれて消えろ》の黒ローブがカッコよく見えるのか。

 

 俺からしたら、恥ずかしくて我が家の中に隠れていたい気分なのだが……。よし、早くこの《能力》を解除しよう。

 

「あ、あぁ。なんで解除しちゃうのさ……」

 

「俺の中の黒歴史を思い出して、恥ずかしいんだよ。それより、やっぱり……強いのか? これも?」

 

「はぁ。思いっきりチートだよね。闇属性を使えるようになっているのは、強いかな!この世界だと、使い手は多くはないし希少価値があるからね。それに、ダークフレイムマスター? っていうのは、よく分からないけど、多分弱くはならないでしょ。それこそ、覚醒するかも?」

 

 そう言って、テトはいい笑みを浮かべた。

 なんか、ため息がしたくなってきたな。小町には日頃から「ため息すると幸せが逃げちゃうんだよ。お兄ちゃん」って言われているけど、したくもなる。

 

 これから俺は、旅に出て、魔王軍?退治なのだから。いや、異世界に憧れがなかったわけではないが、めんどくさい。非常に面倒臭い。

 そんな役目放り出して、誰かに養ってもらうのもアリなのかもしれないな。

 

 それが俺に出来たら楽しないんだが。

 

「んで、これから俺は、どうすればいいんだ?」

「それは勿論! 残りのというか……先に異世界入りしている他の勇者達に会ってもらうよ」

 

 ……え?他の勇者だと?

 

「言ってなかったけ? 比企谷八幡君を含めた十二人の勇者! 僕は色んな世界から、集めてきたのさ!」

 

 あっ。けどプラスに考えれば、俺が戦わずとも他の十一人が協力し合って、魔王を倒してくれれば、いいんじゃないか。俺は働かなくても済む。世界も助かる。win-winじゃないか。

 

「そこで! 君にはこれから、その十一人の勇者を探して集めてもらう! 君が主導となってね!」

 

 ……どうやら、人生はそんなに甘くないな。

 

「いや、ちょっといいか。何故、俺が主導になる?」

 

「え? そんなの君が強くて、僕が一番気に入った人間だからに決まってるでしょ?」

 

 おう……神様の勝手でしたか。けど、誰がそんな面倒臭いことをするか。断ってみよう。俺は無理やり此処に連れてこられたんだ。我儘言ってもいいだろう。

 

「……だが、ことわ」

「ん? 何だって? 君に拒否権なんて無いからね。まず、魔王を倒さない限り、君も他の勇者達も元の世界に返す気はないよ。それに、この世界を救おうとしないなら、他の者に変えるまで。用済みとして……あとはどうなるか。賢明な君ならわかるよね?」

 

 ……どうしよう。テトさん、めっちゃ怖いんだけど。

 この最後の疑問系の笑みといい、原作のテトってこんなに威圧感放つような獰猛なキャラクターだったけ。

 

 や、やばい。冷や汗が止まらない。殺気に当てられただけでビビっているような戦闘経験皆無のエリートボッチ高校生の俺が、異世界で、しかも、知らない人達十一人も集めれるのか……

 

 というか、集めるってことはコミュニケーション取るって事じゃないか。なんて、ボッチには、レベルの高い試練を与えるんだ、この神様は。

 

 けど、魔王を倒しさえすれば、元の世界に帰れる。

 

 それを聞いて、俺は心のどこかで安心した。それは、今まで必死に考えないようにしていたから。

 

「てっきり、もう元の世界へは戻れないかと思ってた」

 

「それでも良いならいいけどね。君の場合、望んで此処に来た訳ではない。魔王を倒してくれれば、元の世界へ帰ることを許すよ」

 

「そうか。なら、先に言っておく。俺は元の世界へ帰らせてもらう」

 

 迷うまでもない。

 

 俺の中の本心は帰りたいんだと思う。

 

 それは、元の世界……地球で、日本で、千葉で、総武高校で、奉仕部でやり残した事が、あるから。

 

 このまま俺が求めているものを見つけられず、この心の奥に眠るモヤモヤを解消させないなんて、俺には出来ない。

 とてつもない程に、俺は、見つけたくて、知っていたいのだから。

 

「へぇ〜。即答か。ちょっと意外だね」

 

 そう言われると、現実逃避した野郎みたいで嫌になるんですけど。

 

「まあ、約束するよ。神の名においてね」

 

 なら、信用できるかもしれないな。

 

「時間経過とかも、安心してくれていいよ。君がここに転移したあの日の翌朝に、戻れるようにしておくよ」

 

 ……テトが神様に見える。いや、本当に神様なんだけどね。

 太っ腹すぎるでしょ。それが本当なら、安心して異世界にいられる。

 

「それはそうと、どんな……方々なんだ? その他の勇者達って」

 

 これは聞かずにはいられない。俺と同じ境遇の人達なんだ。これから、嫌でも共に接していかなければならないなら、知っておかないといけない。

 そんな俺の思考の間、テトは口元に人差し指を当て、何やら考えていた。なんか、嫌な予感がする。

 

「う〜ん。ひ・み・つ♪」

 

 そう言って、俺の反応を楽しむかのようなテト。

 正直に言うと、殴りたくなった。けど、決して表情には出さない。我慢。我慢。

 

 しかし、教えてくれないなんて……

 

「世界のピンチなんだろ? 情報の開示くらいあってもいいと思うんだが」

 

「あぁ〜一理あるよね。けど、面白くないじゃん?」

 

 ……今日ほど、神様とは理不尽で自分勝手な者だと、思い知った日はなかった。

 けど、まじかよ。このままだと、何も情報もなしに、俺は探す事になるのか。

 そうなると、街なんかで勇者探し。期待しても、ボッチである俺には、聞きこみ調査なんてもの無理だぞ。そこんとこ、把握しているのか。この唯一神は。

 

「まあ、僕の認める君なら、大丈夫でしょ」

 

 ……ダメだコイツ、早く何とかしないと。

 

「……テト。流石に厳しい。俺は赤の他人と話すのでさえ、得意ではない。まして、世界規模での人探しなんて、不可能に近いぞ?」

 

「……はぁ。なら、ちょっと待って」

 

 そう言って、テトはテト自身の画面を操作し始める。タイピングの手慣れている感を見ていると、長年使って来たことが伺える。俺には、あそこまでの速さ出来ないな。

 

 そうしているうちに、俺の前には一枚の紙が印刷されているかのように、具現化されていっていた。

 この紙に意味が無いとは思えない。推測だが、重要なアイテムだろう。

 

 そうして完成したのは、一枚の大きな地図。

 持ち運ぶには、何回か折らずには不便になりそうな大きさだ。

 そして、その地図には大きな赤丸が十二個。

 

 これが、指し示す事柄は……

 

「……ここに勇者がいるわけか」

 

「えぇえ!? また一発で当てたのかい!?」

 

 あっ。無意識に口走ってしまっていたようだ。

 このままでは、テトの評価をまた上げかねん。というか、この世界でのテトって、少しお馬鹿なのだろうか。原作は『』とやり合う程の頭脳だっただろうに。

 まあ、その辺は深くは考えないでおくか。サブ垢だしな。

 

「その通りだね。半径五キロの赤丸で、大まかだけど、勇者の位置を知れるようにしてあるよ。それに、定期的に更新されるように作ってある。見やすいように、全部開いて宙に浮く機能もある。普通の地図としても使えるから、とても有能だと僕でも思うよ! これ!」

 

 そう胸を張っているテトに、素直に感謝しておこう。

 テトの言う通りなら、かなり役に立つんじゃないだろうか、これ。

 ある程度の勇者の位置が分かっているなら、探しやすい。

 けど、これを見て、俺はまた一つ疑問が増えてしまった。

 

「テト。この赤丸に模様が描かれているだろ? こっちはライオン。あれは二人の人? これは羊だし……」

 

「いい所に気が付いたね。それは、勇者の証。君たちが属する『十二宮勇者』を示しているのさ」

 

 ……十二宮勇者。だから、ライオンや羊があるのか。そして、二人の人は、双子座か。

 納得したが、属するってどういうことだ。テトがあまり説明してくれないおかげで、謎が未だに多い。

 こんな状況で俺はこの異世界で、やっていけるのか。高校生活でさえも、難しいのに。

 

 そんな自分の世界に入り込んで、考えていた俺だが、テトにデコピンをされて意識が戻る。

 

「考え込むのもいいけど。目の前の現実を受け入れようか。君、逃げてばかりじゃダメだね」

 

 ははは、痛い所を突いてくる神様だ。

 

「話戻すけど、右手の甲を見てみて」

 

 そう言われるがままに、俺は自身の右手の甲を見た。すると、タトゥーが俺の右手の甲に刻まれていた。

 いや、間違ってもグレたからタトゥーを入れたなんて過去は俺にはない。けど、刻まれている。

 

 模様は……魚。魚が俺の右手の甲に刻まれていた。

 

「君は、魚座(パイシーズ)の勇者。魚座の加護を持つ事が、運命付けられている」

 

 と言われても、俺は魚座生まれでもないのだが。何が基準なのだろうか。

 それに、呼び名はパイシーズって。ちょっと……

 

「だから、君がいる所は、この地図でいうとここだね!」

 

 そう言って地図のとある赤丸を指差すテトに、俺も気になって見てみた。見てみると、東でいいのか分からないが、右端の真ん中にいる事がわかる。

 それで、思ったんだが……

 

「この世界って丸いのか?」

 

「丸くないよ。この世界は、平面。盤上の世界。君がいる東の地図外は、亜空間。入ったら……死ぬよ?」

 

 ……聞いておいて正解だったな。

 というか、この地図、案外広い。地図外へ、行くことはないだろうが、それでもデカすぎる気がする。

 

「それでも……ゾディアックって案外広いんだな」

 

「ん? あぁそうだね。地球と同じくらいはあると思うよ」

 

 まじかよ。俺はこれから、地球規模で旅をするのか。けど、目的の勇者の位置は分かっている。なら、簡単だろう。

 まさか、何処にでもいるボッチ高校生に、こんな日が来ようとはな。

 小町。お兄ちゃん、地球に帰る為に頑張るからな。

 

「んじゃあ! 比企谷八幡君! この世界について! そして、君の使命について理解してくれたかい?」

 

「あぁ。不本意ながら……」

 

「なら、いっか! 他の勇者達、みんな癖が強くて僕も苦労したんだから、まあ頑張ってね」

 

 ……おい。癖が強いって、俺なんかにやっていけるのか。

 

「あっ。もう一度言っておくけど、比企谷八幡君が、この勇者という使命を投げ出すようなら、用済みとして……ね?」

 

 可愛く「ね?」って言われても、怖いだけなんだからね。テトさんや。

 俺は、また身震いしてしまった。

 

「なら、早速行っていこう! 僕はこれ以上世界に干渉するわけには、いかないからね。次に会う時は……しばらく後かな」

 

「……そうか」

 

 こう言っては、悪いかもしれないが全然寂しくもないな。けど、知っている奴がいてくれた方が、心強かったかもしれない。

 これから会う勇者たちは、全くの他人。そう思うと、不安に駆られる。

 

「じゃあ! 良い冒険を! 比企谷八幡君! そして、みんな仲良くだよ?」

 

 そう言って最後、テトは消えていった。って言うと、死んだみたいだけど、普通に姿を消していなくなっただけ。

 

 そして、この大地に俺一人。

 持ち物は、地図だけ。地図だけ?

 

「え? 地図だけ?」

 

 思えば、服装も……

 

「寝巻きのまま……武器もない。お金も、というか、この世界の通貨なんだよ。この世界での一般常識ですら……俺にはない。」

 

 あっ。これ、やばい状況ではないだろうか。

 

 とりあえず、俺は地図を開く。俺がいるのは、先程も言った通り東の果ての真ん中。

 

 近くに、街はあった。いや、もしや国規模かもしれない。けど、この地図…地球規模なんだよな。なら、国だろう。

 そして、これって案外、遠いのかもしれない。いや、間違いなく遠いだろう。

 

 けど、行かなければならない。だって、ここに牡羊座がいるんだから……。

 

 一番俺に近い勇者。牡羊座の勇者。

 俺は、当面、この勇者を見つけに旅をする事になるだろう。

 そうして、俺の異世界勇者物語は、スタートしたのだった。




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