やはり俺のクロスオーバーはまちがっている。 作:餃子の教え子
第6話:コヒキーア王国
──ハァハァハァ…どういう事だよ……
ある少年は、狭く入り組んだ路地裏を必死になって走る。少年は目が覚めたら、ここにいたのだ。日の日差しは届かない。ただの路地裏。
少年は一通り歩いた後、元いた場所である始まりの場所に戻ってきていた。
少年に与えられたのはそれだけ。何の説明もなし。
唯一頼れるメニュー画面でさえも、知っていたはずのものとは、かけ離れていた。というか、あれは全くの別物だ。
しかも、あるボタンを探しても見つからない。
これは異常だ。こんなバグあっていいはずがない。
それに、この世界はおかしい。以前来た時とはまるで比較にならないほどに、クオリティが高すぎる。
地面を触る感触や吹き付ける風など、前に来た時よりもリアルすぎる。というかリアルかと疑った。
人にしたったそうだ。本物と相違ない程に完成されている。こんなのどこか、おかしい。それに、頭の上にカーソルの乗った人を未だに見つけられていない。
その事実に、少年は焦りを感じていた。
さらに、街だって違う。俺が前に来た時には、こんな街なかった。見たことがないんだ。
──
少年は愚痴ることしか出来ない。それに反応する声もない。寂しさが徐々に込み上げてくる。
──何だってんだよ。この状況は。
少年は座り込む。目に涙を溜めて。
自分がこの世界にリンクし、始まった場所にて。あわよくば、自分が現実に戻れる事を信じて。
けど、そんな奇跡は起こるはずもなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「テトと別れてから、三日くらい経ったか……」
俺はそう一人呟きながら、先程仕留めたレッドボアという猪肉の丸焼きを食べながら、歩いていた。
何故、呑気に飯を食えているのか。そして、焼けるのか。
その理由は、俺のチートにある。
あれから、俺はずっと人がいる街へと歩いていたのが、流石に空腹という人間三大欲求の一つには耐えられなくなっていた。
それに、この世界が危険だと言ったテトの言葉は、この時には痛いほど実感させられていた。
目の前で死闘を繰り広げる巨大な蛇と蟹の戦いを偶然にも草むらから見てしまった時には、次元の違いに腰を抜かしたまである。
それ程までに、この世界は弱肉強食。ノゲノラの世界と全然違うじゃないか。
そうして、そんな凶暴なモンスターから隠れながら移動するのにも、限界があったようで、俺は巨大なクマに出くわしてしまったんだ。
あの時ほど、俺の心臓の音がよく聞こえた時はない。足も恐怖でガクガクと震えてしまっていた。
──グオオオオオオオオオオォ!!!!
今でも覚えている耳鳴りがするほどの爆音。それは、クマの鳴き声であったが、それだけで死んだなと思った。
そうして、一歩ずつ近付いてくるクマ。
それは、弱すぎる獲物を追い込むのを楽しんでいるかのように見えた。
俺はどうする事もできなかった。クマはその間にも腕を大きく振り上げている。
もう俺は奴の射程圏内なんだ。
けど、クマの手が降ろされる寸前、本能的に体が動いてくれたのかもしれない。俺は思いっきり飛び上がった。
なんの意味も無いはずのジャンプ。俺は死の恐怖で目を瞑りながら飛んだ。
そして、次の瞬間、俺の体は真っ二つに分かれ、激痛を味わう。それで死ぬはずだった。
けど、その激痛はいつまで経っても、来なかった。
俺はうっすらと目を開ける。すると、何十メートルも上空に俺はいた。
「え?」と最初は戸惑った。どういう事だろうと。
下を見るとクマはいる。けど、小さく見える。俺が上空にいるからだろう。
そうして、わけも分からないうちに、俺は自由落下を始めた。流石にビルの何十階から飛び降りているような、この時の俺は、ここでも明確な死を感じた。
俺はどうしても生きたかった。生きて皆の元に帰らねばならない。
けど落ちる先はクマの真上。どうしようもない。俺の目には涙が出てくる。俺が助かる可能性を大きくするなら、クマを衝撃を減らす為のクッションにするべきだと思ったんだ。
けど、その後はどうなる。怒り狂ったクマに俺は殺させるだろう。
どちらにしろ、俺はコイツの餌になるんだな。
そんな事を考えながら、俺はクマを力強く踏み潰した。
──ん? 踏み潰した?
クマは俺の落下した衝撃に耐えきれずに、ぺしゃんこ状態。色々グロいが、そんな事よりも俺はクマを倒したらしかった。
その事実に俺は不思議でならなかった。けど、生き残ったということに喜びを感じていた。生きている。生きていると。
そうして生のありがたみを感じていた訳だが、いつの間にか五頭の狼に囲まれていた。
笑えもしなかった。
俺はすぐさま空いた隙から、走って逃げた。足の速いであろう狼相手に意味が無いとは分かっていても、そうするしかなかった。死にたくないんだ。
すると、どうだろう。陸上の世界記録を簡単に塗り替えることが出来そうな程に、俺の足は速くなっていた。後ろを見ると、俺を追う狼達は徐々に距離を離されていく。
そして、気付いた。俺ってチートだったんだと。
単純な身体的スペックだけで、クマや狼を超える。それ以外も超えれるかもしれない。俺は戦えるのだと。
それからの対応は、早かった。俺は手当たり次第、やり合ってみた。そこで、色んな事を試してみた。《スキル》や《能力》の事を深く知って、理解して使えるようにしていった。
そうして、今に至る。
俺は《能力》である《闇の炎に抱かれて消えろ》の闇属性魔法を駆使して、肉すらも焼けるようになったんだ。
なんか炎を闇属性で出せないか、イメージして試したところ、黒い火が手元に出てきたんだ。色は不気味で、あやしいが、俺には何ともない。
俺は徐々にではあるが、そうして街へと距離を縮めて行った。身体的能力が向上していたおかげが、疲労も少なく移動スピードも上がり、一週間はかかると思っていた街も、もう外壁が視認出来るほどまでに近づく事が出来ていた。
「そろそろ、行くか」
昼飯である猪肉も食べ終わり、そう呟いて、俺は外壁の入口。門番が何人も駐在している場所へと向かう。
けど、予想していた通り。アイコンタクトで通れるはずもなく、俺は不審者のように警戒されていた。そして、案の定、止められた。
「おい! 何でゾンビがここにいるんだ!?」
けど、流石に人間として見られていなかったのは予想外だったな。八幡、泣いちゃうよ?
「あの…。俺、ゾンビじゃないんですけど?」
こんなこと言うことになるなんて……。
「門番長。今、このゾンビ喋りませんでしたか?」
「なわけあるか! ゾンビが喋れるはずなかろうッ!」
あっ。やばい。これは戦闘になるのだろうか。
流石に道中に対人戦はしてこなかった。だから、あまりやり合いたくないのだが。
「門番長! 浄化魔法を使える者を連れてきました!」
「でかした! 早くあのゾンビを浄化しろ! お前らは、いつ奴が襲い掛かってきてもいいように、警戒しておけ!」
なんで、こんな事になってるんだろうな。
そうこうしているうちに、その呼び出された男の魔法が発動する。
「セイクリッド・ターンアンデッド!!!」
すると、俺の下にでかい魔法陣が描かれ、次の瞬間、とてつもない光の奔流が俺を襲った。
けど、それは俺にとって気持ちいいだけだった。
「う、嘘だろ……これが効かないなんて……なんて高位なゾンビなんだ!?」
と言われましても、俺は人間なので。しょうがない。もう一度言っておくか。大きな声で。八幡頑張れ。八幡頑張れ。
「だから言ったろ。俺は人間だ!」
「え? ゾンビが喋った!?」
本当に失礼だな。このゾンビみたいな目は生まれつきなんだ。分かってくれ人間だって。本当に涙が出てくるからね。
「おい!こいつよく見たら、ゾンビじゃないぞ!人間種じゃないか?」
「まじかよ。ゾンビにしか見えなかった。特に目とか。あれで俺らと同じ種族なのかよ……」
「っべぇーわ! まじ俺、見抜けなかったんすけど? っべぇー!」
……酷い言われようだ。というか、最後のやつ、どいつだ。なんか、既視感を感じたんだが。まさか……。
「っべぇー俺睨まれてんすけど? 怖すぎっしょ!」
めっちゃ、戸部に顔も似てる奴いたけど、無視しよう。それが賢明だ、八幡。俺は何にも気付かなかった。そうだ、そうしよう。
「そんな事より、何用だ! 貴様! このコヒキーア王国に!」
コヒキーア王国。それが、この国の名前なのか。地図では、街がある事が分かっても、名前までは分からないから助かったな。
「いや、入国したいと思ってまして……」
「全く……それなら、早く身分証を提示しろ」
いや、そうする前に攻撃してきたのはそっちだからね。八幡悪くない。
けど、やはり来たか。身分証提示という異世界お決まりのパターン。
ここが正念場だ。
「あ、あの。すみません。ここまでの森で魔物に襲われて……紛失してしまったようで……。この場合どうすれば良いのでしょうか」
なら、お決まりのパターンで乗り切るのみ。道中で魔物に襲われて、無くしてしまったパターンだ。
門番達は、それを聞いて同情的な目を俺に向けてきた。
「お前、あの森を一人でか……そりゃ紛失もするわな」
「あそこを乗り切ったんだ。さぞ辛かったであろう?」
「運が良かったな。お前」
えぇ……。求めていた反応と違うじゃないか。
というか、そんなにやばい所だったのか、あの地帯。テトに次会ったら文句してやろうか。
「あんな地帯を単独で行く奴なんて……上位ランクギルド……」
「じゃあ、こいつは?」
「もしかしたら……な?」
なんかコソコソと話しているが、もしかして俺の悪口なのか。
「怪しいが、まあ、いいだろう。入国を許可する」
すると、先程から一番偉そうであった男が、俺の入国を許可した。それで、俺は内心で一安心。
結構、簡単な入国審査で良かった。
流石に入れなかったら、勇者を見つける以前の問題だ。なんとかして、この外壁を越えるという荒業に出ないといけなかったからな。
「ええっと……ありがとうございます」
「あぁ。だが、すぐに冒険者組合に行け。そして、再発行してもらえ。お前は冒険者なんだろ?」
……冒険者か。けど、ここは話を合わせておこう。
「あぁ」
「そうか。だが、身体チェックだけはさせてもらう事になる。いいな?」
俺は肯定した。まあ、されて困ることはない。
そうして、俺は軽く門番たちに身体チェックされたのち、入国を果たした。
このコヒキーア王国に。
そして、入国してみて思った事は、やはりファンタジーの世界に俺が来たという実感だろうか。
通りを歩くのは、人間だけじゃない。それこそ獣人を所々に見かける。
見たところ、フィクションで、たまに見る種族差別はなさそうで、安心した。
けど、あるんだろうな。奴隷とか。多分。
そして何より、建物は中世を感じさせる。これ程、俺の厨二心をくすぐるものはない。
少しだけ憧れていたラノベの世界である中世の街並みが、俺の目の前には広がっていた。
少し心が躍るくらい許して欲しい。
「おい兄ちゃん。こんな門の真ん前で立ち止まられちゃあ、困るんだが?」
すると後ろから、先程の門番の一人から忠告が聞こえて、俺は我に返った。少し感動しすぎていたかもしれん。
申し訳なく思い、軽くお辞儀しておいた。
さて、これからどうしよう。宿を探すにしても、俺にはお金がない。はっきり言って無一文だ。
「とりあえず……身分証として冒険者組合だっけか。ベタだが、頼るしかないな」
そこで、ギルドカードみたいなの貰えるんだろう。それで、簡単な討伐依頼を受けて、お金を手に入れよう。
全く専業主夫志望の俺には、働くって大変だ。
学生に戻りたい。けど、生きる為には働かねばならないか。
俺がこんな事を言う日が来ようとはな。
そうして、俺は歩き出す。一歩ずつ前に向かって。
「……あれ? 冒険者組合ってどこだ?」
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