*グレイシアside
ーーあの日も世界は闇に包まれていた。
正直何があったかは覚えてないが、気が付いたら彼の記憶は手元からするりと抜け落ちていた。
忘れる感覚を味わったのは後にも先にもこれが初めてだった。
彼がくれたお守りはすぐ側にあるのに、彼の記憶だけは暗闇の中で距離感さえ掴めない。
私は暗闇に不安を掻き立てられながらも必死に探した。
彼のことだからこうして探していればひょっこり現れて微笑みかけてくれるんじゃないかって。
けれど結局見つけることができたのは血塗れで倒れているリーフィアだけだった。
その瞬間、涙のダムが決壊した。
思い出すことすら叶わない彼をリーフィアに重ねてしまったのだ。
闇が支配するこの世界で彼も同じ目に遭ってるかもしれない。
もしかしたら彼はもうこの世界にはいないのかもしれない。
様々な想像が脳裏を過る。ただただ何かを失うことが怖くて、リーフィアをポケモンセンターに連れて行ったのも実の理由はそれだ。
ポケモンセンターに着く頃には闇は晴れていた。
誰かが解決してくれたんだろう。でも今はそんなことどうでもいい。
私はネオラントさんに彼のことを聞いた。
私でさえ忘れているのだから期待はしていなかった。
ーー私と一緒にいたポケモンのこと、覚えていますか?
帰ってきた答えは想像とは違うものだった。
ーーそんなポケモンいたかしら?そうね、何かを忘れた感覚はあるわ。でもそれが何かは分からない。
その後も聞いて回ってみたけど、例に漏れず彼の存在は世界から忘れ去られていた。どうやら闇に包まれたことも無かったことになっているらしい。
まるで悪夢を見ているようだった。
ーー何で私だけ…こんなことなら一層私も忘れたかった…!
忘れたことを覚えていることがこんなにも残酷だなんて。
私はそれ以来暗闇が怖い。
ーー気付かない内に何か大切なものを失ってしまいそうで。
○
*リーフィアside
「どうだ?仲間の魂を奪われていく感覚は。次は我に手痛い一撃をくれた氷の小娘だ。お前はその後でゆっくり
ムクバードもやられて残るは遂に私とグレイシアだけになった。だがグレイシアの様子がおかしい。魂を奪われた訳では無さそうだが、極度の恐怖で心ここに在らずという感じだ。
「おい、グレイシア!無抵抗でやられるつもりか!目を覚ませ!」
呼びかけてもグレイシアが正気に戻ることはなく、ミカルゲも待ってくれることはない。
"影うち"
「ったく」
"電光石火"
リーフブレードを用意しながらグレイシアの元へ駆ける。
「クク、仲間思いも考えものだな」
"無限暗夜への誘い"
私はグレイシアの元へ辿り着く前に
「どうして戦えそうにない奴から狙うか。罠に決まってるだろう」
○
*グレイシアside
ーーごめん、約束は守れそうにない
「ーーえ?」
恐怖から呼び戻されると目の前でリーフィアが影に呑み込まれていた。
「待って。私を置いて行かないで」
子供達も
ロズレイドさんも
ムクバードちゃんも
そしてリーフィアも
皆魂を奪われてまた私一人ぼっち。
でも今度は皆の後、着いて行けそう。
ーーごめんね。全然思い出せなくて。でもやっと、この怖くて堪らない悪夢から解放されるの
ーー目が覚めたらまた一緒に笑えますように
私は安らかに目を閉じて迫り来る影を受け入れた。