*リーフィアside
「……終わったのね」
グレイシアは微かに震えている。
ーー安心からか
ーー暗闇への恐怖からか
ーーお守りを失った悲しみからか
少なくとも寒さからくる震えではない。
恐らくいろんな感情が混ざり合って気持ちの整理がつかないでいるのだろう。
「ごめん。大切なお守りだったのに」
「いいの。約束は守ってくれたから」
ーー「ねぇ、約束して。これからあんな簡単に命を投げ捨てるような真似、絶対しないで。私をまた1人にしないで」
「よかった……本当によかった。救ってくれてありがとう」
私はグレイシアを優しく抱きしめて呟く。
「そんな大層なことじゃないよ」
一瞬ビクッとしたがグレイシアは嫌がる様子もなく身を委ねた。
「
「うんうん。っていつから起きてたんですか!?」
「全く…これはさすがに
「…………!」
震えはいつの間にか違う種類のものに変わっていて
ーーもちろん右ストレートをくらった。ぶん投げられた恨みも込めて。
○
*タマンタside
「おはようございます」
病室にて2日にして3度目の挨拶を交わす。ここまでくるともう慣れたものでわざわざ「こんばんは」に訂正したりはしない。
「おはよう」
「どうして毎度1番の重症がグレイシアさんの右ストレートなんでしょうね」
ムクちゃんもミカルゲも激闘だったと聞く。なのに1番の重症がバトル外で、しかも味方からくらった右ストレートなんてちゃんちゃらおかしい話だ。
「私は悪いことしてないんだけどね。もしかしたら最強のポケモンはグレイシアなのかもしれない」
「ふふっ、リーフィアさんが悪いことだけは分かりました。さぁ宴会の準備は出来てますので行きましょう」
「信用ないなぁ」
「信頼しているからこそ、ですよ」
そう、リーフィアさんならどんなバトルでも「グレイシアの右ストレートの方が強かった」って笑って帰ってきてくれるだろうという信頼の裏返し。
○
*ケイコウオside
今回も例に漏れず宴会を開催しています。
えっ、私ですか?私はネオンギルドの広報担当です。もちろんギルドですからいろんな情報を集めたり発信したりする訳です。ポケモン図鑑を作る夢のついでと言ったらいけません。
今日は編入試験を合格してミカルゲを封印したという今注目の調査隊、チーム"スノードロップ"の全貌を明らかにすべく、宴会に参加させていただきました!今回の参加者はネオンギルド、黒鷹隊、チーム"スノードロップ"、ロズレイドさん、トリトドン先生で、子供達は疲れて寝ています。
おっ、ようやく主役の登場ですね!
タマンタに連れられてお腹に包帯を巻いたリーフィアが客間に入ってくると
「「お疲れ様です!」」
「この度は本当にありがとうございました」
感謝されたり
2日前に目覚めた見知らぬ記憶喪失のポケモンとは思えないほどにウォンシ地方に馴染んでいた。
「それじゃあミカルゲ事件解決を祝して、かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
リーフィアの音頭を皮切りに楽しくて長い夜が始まる。
○
*リーフィアside
宴会料理に手を付けようとしたら変なケイコウオに話しかけられた。変なケイコウオと言うのも失礼ではあるけど…そう、嵐のような少女だった。
「リーフィアさん初めまして!私はネオンギルドの広報担当、ケイコウオと申します。お噂は
「え、あ、うん」
勢いに押されて許可してしまったけど内心めんどくさい。調査のついでに依頼を受けるくらいならいいけど、別に有名になりたい訳じゃない。本来の目的はあくまで怪現象の解決と記憶の奪還。調査や依頼を受ける度に面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。隣のタマンタに目線で助けを求めるが、こうなることが分かっていたとばかりに見事にスルーを決められた。適当にあしらうか…
「さすが物分かりがいいですね!では早速、自己紹介からお願いします!」
「記憶喪失だし特には」
本当のことである。
「そうでした、私としたことが失礼しました。それでは気を取り直して編入試験の時のことをお聞かせください!」
「起きたらほとんど終わってたよ」
本当のことである。
「黒鷹隊の方達がすごいって…」
「ムクホークに負かされたよ」
本当のことである。
「じゃあ、じゃあ!今回はウォンシ地方の危機を救ったそうじゃないですか!」
「グレイシアのお守りのおかげで私の実力じゃないよ」
本当のことである。
「もうっ、そんな意地悪な答え方しなくてもいいじゃないですか!いいですよ、そっちがその気なら他の方に聞いて絶対暴いてみせますから!」
「本当のことしか言ってないんだけどなぁ」
そうして嵐は過ぎ去った。
「大変ですねぇ」
果たしてタマンタが放った言葉は誰に対して言ったものだったのだろうか。
○
*ケイコウオside
あんなもったいぶった言い方じゃ図鑑書けないじゃないですか。師匠といい勝負ですよ!そうだ、このことを新聞に書いてやる。後悔しても知らないんですからね!
機嫌を悪くしてふよふよ浮いているとトリトドン先生がムクちゃんとロズレイドさんにミカルゲの話を聞いていた。すぐに営業スマイルに戻して一緒に聞きに行く。何と言っても今回の事件の目玉であり、ムクちゃんとロズレイドさんは実体験者ですからね!リアルな話を聞けるに違いないこのチャンスをみすみす逃す訳にはいきません!
「すいませーん、私もご一緒させてもらっていいですか?」
「いいですよ」
話し手のムクちゃんから許可が降りる。ここに来たのは正解だったかもしれない。この3匹ならリーフィアさんみたいに意地悪な答え方はしないし、今回は聞く側のトリトドン先生もいつもお世話になっている博識さん、これは為になる話が聞けそうです!
「ありがとうございます。それでそれで、ミカルゲはどんなポケモンだったんですか!」
「ミカルゲは108の魂から成るポケモン。500年前にウォンシ地方征服を目論んで御霊の塔に要石を媒体として封印されたとされています。ただ、1ヶ月前の怪現象でその封印が弱まってしまったようなのです。封印し直そうにも、その術式は私達が補強するには複雑すぎた。ここまではいいですね?」
「はい」
トリトドン先生が分かりやすく前提知識の講義をしてくれる。私は1音も聴き逃すまいとペンを走らせます。
「それで今回の事件は子供達が弱まった封印を解いてしまうところから始まる。被害が拡大しないように
「
「待ってください頭の処理が追いつきません。弱点無し?毒無効?魂を奪われる?ということは今のロズレイドさんとムクちゃんは魂が無い状態…?」
ロズレイドさんとムクちゃんが放った衝撃の言葉に思わずペンが止まってしまいます。
「ハハっ、もしそうだとしたら私達はこうしてここにいないよ」
「ですよね…」
ホッと胸を撫で下ろす。
「でもそんな化物どうやって封印したんですか?」
「封印自体は術式にグレイシアのお守りを組み込んでいたね。
「
「リーフィアさんは意地悪な答え方しかしてくれないので嫌です」
「「「?」」」
3匹とも顔にハテナを貼り付けている。あれ、もしかして私にだけ…?
ええ、分かってますよ。初対面なのにがっつきすぎた私が悪いってこと!でも今すぐ戻るのは負けを認めた気がして癪なのです。
「とっ、とにかく!私はグレイシアさんに取材してきます!」
私は逃げるようにその場から離れた。
「グレイシアは反対方向…」
○
*ケイコウオside
穴があったら入りたいです。私が悪いとはいえリーフィアさんが師匠に負けず劣らずの意地悪なのも事実。どうしてああも共感が得られなかったのでしょう。
突如現れた記憶喪失のポケモンですし、ウォンシ地方の皆にもよく知ってもらうためにもリーフィアさん自身のことも取材する必要がありそうですね!
言っておきますけどあくまで仕事のためですからね!
そうこうしてる内にグレイシアさんの元へ辿り着きました。どうやら
「すいません。今回の件について取材させてもらっていいでしょうか?」
「ええ、いいわよ」
がっつきすぎるのが私の悪い癖。率直な気持ちを引き出すためにもここは単刀直入に
「ありがとうございます!リーフィアさんについてどう思ってますか?」
「けほっこほっ、けほっこほっこほっ」
グレイシアさんがむせてしまいます。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。っていうか今回の件とリーフィアについてどう思ってるかがどう関係あるのよ!?」
「意地悪な答え方をされたので…じゃなくてですね、チーム"スノードロップ"の紹介記事を作るためです」
「なるほど、そういうこと。確かにちょっと意地悪なとこはあるわよね」
「分かります?」
「ええ、だけど優しいところもあって頼もしくてかっこよくて…って何言わせるのよ!今のは忘れてちょうだい。お願いだからペン止めて!?」
先程からも分かるように意外とリーフィアさんは好感を持たれているようですね。不本意ながらメモしておきます。仕事ですから。
「隊長はどう思っていますか?」
「うむ、技を見ただけで強いと分かったよ。今回も期待通りミカルゲを封印してくれた」
「でもリーフィアさん隊長に負かされたって言ってましたよ?」
「あぁ、確かにぶっ飛ばした」
「起きたら終わっていたというのは…?」
「
私は考えるのをやめた。
「師匠はどう思っていますか?」
「んー、そうね。一見冷静そうに見えるけどそれを崩す瞬間が楽しいわ」
「上には上がいた…」
「ケイちゃん、後でこっち来てね」
私の人生終わった…
○
グレイシアside
「そういえばお守りはどうした?」
「リーフィアがミカルゲを封印する時に使いました」
隊長の問いと私の答えにどんよりとしていたケイちゃんがバッと顔を上げる。
「もしグレイシアさんがよければその時の話、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
あまり進んで話したいものではないけれど…これは私自身乗り越えなければいけない話だ。
一呼吸置いて
「さっきムクちゃんがやられてしまうとこまで話してたのだけど、ケイちゃんはそこまで大丈夫?」
「はい、そこまでは私もロズレイドさん達に聞いたので大丈夫です!」
「それでね、私は恐怖で戦意喪失しててそれを庇ったリーフィアも魂を奪われてしまったの。そして残された私は抵抗することなく影に呑み込まれた」
「えっ話が違…」
「でも魂を奪われることは無くてお守りの光が影を侵食していったの。私には光が影に死を与えているように見えた」
「ほう…」
「お守りに影を無効化する力があると分かったミカルゲはすぐにお守りを狙ってきたわ。そこからのことはよく分からないけど、またお守りが光って気付いたらリーフィアがミカルゲを倒していたの。リーフィアは私がピンチになったら発動するように術式が組み込まれていたんだろうって言ってたわ」
「へぇ…そんな不思議なこともあるんですね」
「本当に。自分でも驚いているわ。名前も顔も忘れてしまったけれど大切なポケモンから貰ったお守りがこんなにすごいものだったなんて。どうやら神聖な力がこもっているようでミカルゲも無事封印できたみたい」
ーー「あなたはそれでよかったの?」
ネオラントさんから鋭い問いが飛んでくる。こちらを見据える瞳は真っ直ぐで、まるで心の奥まで見透かされているような心地がした。
悲しくないと言ったら嘘になる。記憶を無くしてしまった今、私と彼を繋ぎ止めるのはお守りただ1つだけだったから。
でも
「私はもう1人じゃないから」
ーーそれに、お守りの中の彼が私を守ってくれた光景は一生忘れられそうにない。
今回もまたしーくさん(Twitter→https://mobile.twitter.com/takumasiku )から挿絵をいただきました、ありがとうございます!
【挿絵表示】
これをテスト期間に見せられた筆者は無事天に昇りました。
次回はケイコウオのポケモン図鑑で登場ポケをおさらいする予定ですが、しーくさんに「イラスト期待しています!」と言われたので呉々も期待はせずにしばしお待ちくださいませ