*ムクバードside
私は今にも降り出しそうな
ーー強くなりたい。
私はこの平穏な日々の中で舞い上がっていたのかもしれない。もちろん修行は頑張ったし、その甲斐もあって副隊長として認めてもらえた。だが副隊長という地位を得たことで満足して現状に甘えていたのではないか。
それは編入試験の時に痛感させられる結果となった。結果的には黒鷹隊の勝利に終わったからいいかもしれないが、あれは完全に私の負けだった。グレイシアさん1匹にほぼ半壊させられている時点でリーダー失格だし、仮にあの敵討ちが当たっていたとしても、もう1匹を倒す余力は残っていない。よって隊長が横槍を入れていなければムクの縄張りと復活草の防衛には失敗していたことになる。何より今までで一番の「敵討ち」がいとも容易く吹っ飛ばされて、隊長との力の差は思っていたよりもずっと大きいものだったのだと実感させられた。
そして今回のミカルゲ事件が起きた。結果は言うまでもなく惨敗。
「ムークちゃん。ねえ、ムクちゃんってば」
沈みかけていた気持ちにタマンタの柔らかい声が響く。いつのまにか隣にタマンタがいたらしい。
「そう呼ぶなって何度言えば……で、何のようだ?」
「新聞が刷り上がったので届けにきました」
「新聞なら私たちが配るからわざわざ寒い中届けに来なくてもよかったのに」
「今回の新聞は自信作だそうですからね。ところで何悩んでたんですか?」
「お前にはお見通し、か」
「友達ですからね」
○
*ムクバードside
タマンタは適度に相槌を打ちながら私の話を聴いてくれた。普段は爆弾少女なのに、こういう時だけは不思議と悩みを吐き出してしまうほどには聞き上手なのだ。
「なーんだ、そんなことでしたか」
前言撤回。
「何だとは何だ。これでも私は本気で悩んでるんだぞ」
「それならいい相談役を知ってるのでその方ならちょちょいのちょいですよ」
「本当か?」
「ええ」
ーー少女移動中ーー
「着きました」
「冗談なら帰るぞ」
いい相談役がいると言うから着いてきたというのに目の前にあるのは病室。病人が私の悩みを解決してくれるとは思えない。
「まぁまぁ、相談してみてからでも遅くないですよ」
コンコンと乾いたノックの音が2回。
「今お時間大丈夫ですかー?」
「大丈夫だよ。ちょうど暇していたところだ」
「失礼します」
ドアが開かれるとそこにいたのはリーフィアさんだった。
「こんにちは。実は用があるのは私じゃなくてムクちゃんでして」
「ギルドまで来て珍しいね」
「そ、そんな大した用じゃ…」
「相談したいことがあるんですよねー。じゃあ私は仕事があるので後は2人でごゆっくり」
「お前後ではっ倒す」
○
*リーフィアside
「本当に大したことないんですけど大丈夫でしょうか」
「見ての通り病室は何もないからね。寧ろありがたいくらいだよ」
「それなら…ってお体大丈夫ですか?」
「ああ、家が分からないから泊めてもらってるだけで全く問題ないよ。ほらほら、他人の心配ばっかしてないで話した話した」
「じゃあ。どうしたらリーフィアさんのように強くなれますか?」
「ん…?今でも充分強いような気はするけど」
「今のままじゃダメなんです。5vs2でチーム『スノードロップ』にも負けていますし、ミカルゲ事件の時も役に立てなかった…ウォンシ地方の平和を守る黒鷹隊の副隊長がこれじゃダメなんです」
「なるほど、そんなに気負う必要はないんじゃないかな。それに買い被りすぎだよ。私だって編入試験で勝ってはいないし、ミカルゲにも1度は負けた。誰だって負けることくらいあるさ」
「でも最終的にはミカルゲに勝った」
「お守りの思いが力を貸してくれたおかげでね。そう、ムクちゃんには素敵な仲間がいる。困った時は仲間に力を貸してもらえばいいし、ムクちゃんは仲間のために戦うことも知ってる。仲間のために強くなりたいって思うその気持ちがあれば大丈夫だよ。あっ、でも無茶しすぎると仲間に心配かけて怒られるから程々にね」
「ふふっ、ふふふふっ。リーフィアさんが言うと説得力が違いますね」
「耳が痛いよ…」
「ありがとうございました。リーフィアさんのおかげで少し気が楽になりました」
「まぁ、なんだ。修行手伝ってほしい時はいつでも呼んでくれ。付き合うから」
「つっ、付き合う……失礼します!」
ムクちゃんが急に赤くなって凄い勢いで去っていった。私何か悪いこと言ったかな?
○
*タマンタside
これは中々面白いものが見れましたねぇ。グレイシアさんといいムクちゃんといい、恋愛に耐性が無さすぎます。そこが初々しくて可愛いんですけどね。いいこと思いつきました。今日は2月14日、後は分かりますね?
ーー少女ムクちゃん追いかけ中ーー
「はぁ、はぁ、やっと追いついた。病室の廊下を走らないでくださいよぉ」
「だって…だって」
「だって、何ですか。もしかして付き合うとか言われちゃって照れてるんですか〜?」
「おまっ、今度こそ地獄に行きたいようだな?」
「まぁまぁ落ち着いてください。心配しなくても修行に協力してくれるだけだと思いますよ」
「なっ……!ま、まぁ私は最初から分かっていたけどな!」
「はいはい。ところで今日は2月14日、何の日か知っていますか?」
「んー…何か特別な日だったっけか?お正月は過ぎたし雛祭りはまだ先…」
「あーもうムクちゃんは疎いですね。今日は女の子がチョコを作る日ですよ。たまにはムクちゃんも肩肘張らずに料理で気分転換しましょう。今なら特別に無料でタマンタちゃんのお料理教室が受けられます!」
「別に私は料理が上手くなりたい訳じゃ…」
「料理が上手い女の子はモテますよ。それに、お世話になったリーフィアさんへのお礼にもちょうどいいです」
「くっ、痛いところを…」
ーー少女料理教室中ーー
「お菓子作りって意外と難しいんだな…」
どうやったら簡単なチョコ作りでこんな不恰好にできるのでしょう。ある意味才能だと思います。当分宴会での戦力にはなりそうにないですが、ここはタマンタちゃん、リーフィアさんも言っていたように料理も焦らず。
「最初は誰でもそんなもんですよ、焦らず練習していきましょう。形はともかく味はタマンタちゃんが監修してますし、気持ちのこもったチョコが美味しくないはずがありません。早速渡しに行きましょう!」
ーー少女移動中ーー
「あっ、あの。今日は相談に乗ってくれてありがとうございました。これ、形は悪くて申し訳ないですがお礼のチョコです」
「お礼なんていいのに。料理苦手なのにここまでしてくれるとは…ありがとう、美味しいよ」
「よ、喜んでくれて嬉しいです」
普段は堂々としているムクちゃんも異性に褒められるのがこんなに弱いとは。これだから悪巧みはやめられませんねぇ。
「ところで私なんかにチョコ渡してよかったのか?」
「タマンタから今日は女の子がチョコを作る日だと。料理のレッスンをしてくれたのでそのついでと言ってはなんですが」
「なるほどね、タマンタらしい。間違ってはいないけど…」
「けど?」
リーフィアさんそれ以上言っちゃダメです私の命が危ない。
「今日はバレンタインデーと言ってね、意中の相手にチョコを渡す日なんだ」
「……あのマンタ…………」
ムクちゃんが幽鬼になってこっちに来る。盗み聞きして楽しんでるのがバレた?バレンタインデーだけに。って冗談を言ってる場合じゃないです。逃げましょう。
ドアが開かれる。
「今日という今日は許さんぞ!絶対捕まえて刺身にしてやる。待てーー!!」
今日もウォンシ地方は賑やかだった。
今回もしーくさん(https://mobile.twitter.com/takumasiku ←twitterアカウント)から挿絵をいただきました!ありがとうございます!
【挿絵表示】
グレイシアverのバレンタインデー小噺も書こうと思いましたが、この挿絵に全て詰まっているので今回はここで筆を置きます。
ではまた第3章で!