p.16 希望の光
*エテボースside
ふぁさふぁさふぁさ
決して大きくはないが誰かが降り立つ音が微かに聞こえる。しかしそれは客ではない。そもそも僕の店はまだ開いていないし、ピンプクもリーシャンもまだ寝ている。
では何か。
なんて悩む必要もなくそれはムクバードが新聞を届けにきてくれた合図なのであった。毎朝こんなに早く届けに来なくてもいいのにと思いつつ、時計の針を見ると今日は更に早いことに気付く。さてはあの2匹が何かやらかしたなと期待を馳せて取りに行く。
カランコロン
ドアを開けるとムクバードが驚いた様子でこちらを見る。
「……起こしてしまいましたか?」
「いつもお疲れ様」
「ありが……いつも!?……すみません」
「いんや、年寄りの朝は早いからね。心地いい目覚ましになってるよ」
「年寄りって充分若いじゃないですか」
「気持ちは期待の新人を見守る老人さ」
「うわぁ…一見イケメンそうなのに残念な言葉第1位を記録更新しました。それで今日はどうして直接受け取りに?」
「今日の記事は面白いことが分かっているからね」
「読んでないのに…?」
疑問符を量産するムクバードが印象的だった。
○
*エテボースside
ムクバードが去っていき、されど開店には時間がある静寂の時間。自分用にモーニングコーヒーを淹れ、新聞に目を通す。
"チーム「スノードロップ」ミカルゲ事件を解決"
思った通り、チーム"スノードロップ"の記事が一面に大きく書かれていた。思わず笑みがこぼれてくる。あぁ、あいつら本当にやりやがったな、と。
ミカルゲといえば500年から封印され続けているウォンシ地方屈指の危険ポケモン。それをぽっと出の調査隊が封印し直したとなればインパクトは充分。名声はすぐさま風のようにウォンシ地方を巡るだろう。
「さて、次は何をやらかしてくれるかな」
そう呟いて作りかけの道具を手に取った。
○
エテボースside
道具を作っていたらいつのまにか朝日は昇り、ピンプク達も起きて開店の準備をしていた。僕がいなくても十二分に仕事をしてくれるのだから今ではすっかり頼もしいものだ。そんな思いに耽りつつぼんやりと眺めていたらピンプク達がこちらに気づいた。
「終わりましたか?今日はやけに気合い入ってましたね」
「ましたねー」
「そうかい?いつも魂込めて作ってるんだけどね」
「それはそうなんですけど、作ってる最中ずっとにやけてたというか」
「にやにやです」
「これはポーカーフェイス鍛えないとね」
「にやにやオーラが抑えられてないから無駄だと思いますよ?」
「分かりやすいです〜」
ピンプクとリーシャンが新聞を見ながらいじめてくる。おかしい、誰だこんないじわるな育て方をしたのは。
○
*エテボースside
そしてついに開店時間。
だからといって特別忙しいという訳でもなく、ここにはリラックスしたいポケモンが集まる。たまにはコーヒーでも飲みながらゆったりと流れる時間の中で世間話をする、当たり前かもしれないけど大事なことだ。
当のマスターがカフェそっちのけで道具作りに夢中という噂は知らない。
「りーしゃんりーしゃん!」
そんな自虐をしていたらリーシャンの鳴き声が響き渡る。その可愛い鳴き声は閑静な雰囲気には似合ってないが結果的にはどちらも和むので誤差のようなものだろう。
「スノードロップのお二方、お待ちしていました!ささ、どうぞどうぞ!」
「入るわね。マスター、用って何かしら?」
ムクバードに伝言しておいたが、早速来てくれたらしい。
「まぁまぁ座って座って、コーヒーでもご馳走するよ」
「何か食べたいものはありますかー?」
「んー、私はオムライスで」
「私も同じものを頼むよ」
「了解です!」
「………何か視線を感じます。お腹に入ってるのは卵じゃないですからね?」
「よく分かったね」
「さすがにガン見されれば分かりますよ。ポケモンスクールで読んだ本によると私の進化ポケモンの卵は回復効果を持っているそうで、進化できる日を夢見てその卵に似た"まんまるいし"を入れてるんです」
「へぇ…それにしても綺麗な石だね」
「大変だったよ。しっかりしてるように見えて意外と意地っ張りで作ってって聞かなくてね」
「あーーー!今それ言わなくてもいいじゃないですかぁ…」
「さっきの仕返しだよ」
ピンプクがぷくーと頰を膨らませるが僕をいじるのが悪い。
○
*リーフィアside
「はい、お待たせしました」
何か微笑ましい光景をご馳走されて食べる前からお腹いっぱいな気がするが、されど楽しい世間話と共に箸は進む。
「それで話は戻るけど今日はどんな用で?」
今の今まで忘れていたが、私たちは招待されてここに来たのである。
「あぁそうそう、まさか本当にミカルゲを封印してしまうとはね」
エテボースが新聞片手に呟く。
「御宅の道具のおかげさまでね」
「使いこなすのも実力の内さ。特に封印術の類はね。普通のポケモンがそうそう簡単にできるもんじゃない」
「そうそう、何で伝説のポケモンでもないのに封印術や神聖な力を使いこなせたのよ」
「うーん…何でって言われてもね。使えたから使ったとしか」
「リーフィアってすぐ無茶しようとするし、記憶と一緒にリミッターのネジでも抜け落ちたんじゃないかしら」
「それなら記憶と一緒にネジも探しにいかないとね」
「私が氷で固定してあげるわよ。その憎たらしい頭も冷やせて一石二鳥ね」
「溶けちゃうから却下で」
「ほんっと憎たらしい」
「「ふふっ、あはははっ」」
○
*エテボースside
軽口を言い合う2匹を見てたら一層年寄りな気分になってきた、この気分をどうしてくれよう。僕は大人だからこの際それは置いといて今日の本題、
「今日はそんな有名チーム「スノードロップ」に見合う調査隊バッジをあげるために呼んだのさ」
そう、今朝早くから作っていたのはチーム「スノードロップ」の調査隊バッジだったという訳だ。本当はもっとのんびりまったり優雅に作る予定だったが、新聞で2匹の活躍を見てついつい
「わぁ…すごい。ありがとう、マスター!スノードロップを模してるなんて分かってるじゃない」
グレイシアは傍目から見ても分かるくらい喜んでいる様子だった。新聞によると
「そうだろう?通信機能も付いててネオンギルドからの情報や依頼も見れるから存分に使ってくれ」
「あくまで調査隊だから有名になっても困るんだけどなぁ…」
「手遅れだから諦めな」
リーフィアの葉っぱはより一層垂れ下がっていた。
○
*エテボースside
「で、本命の調査は進んだかい?」
「いや、全く。ミカルゲを封印した神様のことを聞きたかったんだけどね。これだけ影響力が大きいと神が起こした可能性もあると思うんだ」
「そのことなんだけどお守りに込められた神聖な力は、そのミカルゲを封印したという神様と同一の力なんじゃないかな?」
「というと?」
「お守り作りに神様が関与した可能性がある」
「まさか、私のパートナーが神さまな訳」
「お守りには3つの力が込められていた。君のパートナーの力、スノードロップ自体の力。そして神聖な力。調べてみる価値はあるんじゃないかな?」
「でも、どこから調べれば…?」
「あるだろう?1つだけヒントが」
「「あっ」」
2つのバッジが希望の光を放っていた。