ポケットモンスター待雪草   作:プシュケ

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p.2 Snowdrop

*タマンタside

 

それにしてもリーフィアさんとグレイシアさんはどんな関係なのでしょう。肝心のリーフィアさんは記憶喪失だし、グレイシアさんもグレイシアさんで赤の他人のためにあんなに必死に頼めるとも思えない。あれは絶対に何かあります。2匹とも忘れちゃってるだけで実際本当の恋人同士だったりして…!記憶の溝に引き裂かれたカップルは運命の赤い糸までもが切れてしまったのでしょうか…愛し合う2匹はどうなっちゃうのー!

 

「お、おーいタマンター?あー…これは当分戻ってきそうにないな……何か対処法はあるのか?」

 

トリップ少女は目の前で手を左右に動かしながら呼びかけるリーフィアに全く気付く様子を見せない。文字通り自分だけの世界に(トリップ)してしまっているようだった。

 

「ほっとけばその内戻ってくるわ。それより退院するにあたって何か聞いておきたいことはあるかしら?」

 

「なら1つ目、治療費はどれくらいかな?」

 

「治療費と入院日数から…ざっと10万ポケG(ゴールド)くらいかしらね」

 

ーーリーフィアの額から冷や汗が流れる。

 

「ふふふ、冷静なあなたの焦った顔が見れたから満足よ。そもそも記憶喪失の無一文さんから治療費なんてとったりしないわ」

 

「……ありがとう、その寛大な配慮、感謝するよ。だけどさらっとタチの悪い冗談を言うのは心臓に悪いからやめてくれ。春から冬に逆戻りした心地がした」

 

「あらまぁ、そこまで言ってもらえるなんて。冗談を言った甲斐があるわね」

 

「勘弁してくれ。全く、優しいのか小悪魔なのか分かりゃしない」

 

「そうねぇ…差し詰め優しい小悪魔といったところかしら」

 

ネオラントはヒレを口元に当てながらまさしく小悪魔的に妖しく微笑んだ。

 

「ははっ、違いない」

 

 

*リーフィアside

 

約1名夢の世界に旅立っているのはさておいてネオラントとの会話は楽しかった。ーー尤も、真に受けるとすぐにペースを持っていかれるが。そういう意味では軽口程度に嗜むくらいがちょうどいいかもしれない。表情一つ変えずにごくごく自然に冗談を混ぜるのだから本当にタチが悪い。あれは間違いなく長年培ってきた熟練の技だ。研鑽の相手は変に生真面目そうなタマンタだろうか?哀れタマンタこれからも苦労するだろうが、めげずに頑張ってくれ。しかし、私を治療してくれたり、病状に配慮して治療費を免除してくれたり、根は常識的で優しかったりする。

 

「じゃあ2つ目の質問をしよう。質問というよりお願いだけど、お礼をしたいからグレイシアの家を教えてくれないか?」

 

「あら、その必要はないわよ。ケイコウオに知らせてもらってすぐそこまで来ているようだから」

 

水タイプ同士のシンパシーか、あるいは超音波か何かで連絡をとれるのだろうか。病室のドアが開く。

 

目に映るは透き通るようなスカイブルー

ーータマンタやネオラントのそれとはまた違った、時を忘れて見続けてしまうくらいに透明度が高く美しいーーそんなスカイブルーだった。猫のようにしなやかな手足に、所作1つ1つも垢抜けていることも相まってクールビューティーという言葉がよく似合う。

 

「お久し振りです、ネオラントさん、タマンタちゃ…は今トリップしてるわね。そして初めまして、リーフィアさん」

 

「久し振りね、いらっしゃい」

 

「……ん、ああ初めまして。綺麗だからつい見とれてしまっていたよ。その節は助けてくれてありがとう」

 

「どういたしまして。口説いても何も出ないわよ」

 

「いやいや、本心だよ」

 

「そういう言葉は恋人ができた時にとっておきなさい」

 

「……むむっ、いつのまにかグレイシアさんが増えてました!リーフィアさんのことは知らないと言ってましたが、あの泣き様、あの必死さ、実は恋人同士だったりしないんですか?」

 

「えっ別にそんなんじゃ…って何急に爆弾発言してくれてるのよ!」

 

「あっちょっグレイシアさんやめっ」

 

ピキピキっ

 

哀れタマンタ今のはお前が悪い。少し寂しかった病室のインテリアにタマンタの氷像が1つ増えた。

 

「はぁ、はぁ…全く、失礼しちゃうわ。デリカシーというものを知らないのかしら」

 

「あらあら。そのことなのだけれど、リーフィア君、重度の記憶喪失みたいなの。何でもいいわ。少しでもリーフィア君について分かること、この1ヶ月で思い出したことはないかしら?」

 

ネオラントは微笑ましい光景を見るような表情でタマンタの足りない言葉を補う。寧ろ余計な言葉ばかりだった気がするのはきっと気のせいだ。

 

「前にも言った通り初対面だから知らないわ。そう、重度の記憶喪失……実は私も大切なポケモンのことを思い出せないんです。このスノードロップのお守りをくれたポケモンのことなんですけど…」

 

グレイシアはそう言って胸元のペンダントを指し示す。不思議な力を感じるーー何だかグレイシアを守るような…

 

「へぇ…いいお守りだね。君がどれだけ大切に想われていたかがひしひしと伝わってくるよ」

 

「ええ、本当に。でも不自然だと思いませんか?」

 

「確かに、1ヶ月前の怪現象で失われた記憶は何を忘れたのかさえも分からないもの。対して君が失った記憶は明確だ。もしかしたらそのお守りの力が君を守ってくれたのかもしれないね」

 

「そこで相談なのだけど今回の怪現象、何か裏がある気がするの。失われた記憶と併せて調査してみませんか?」

 

「ああ、その話引き受けよう。私も違和感を感じていたし、特殊な例である私たちが解明の鍵になりそうだしね」

 

「やった!じゃあまずチーム名を決めましょう!……そうね、グレリーズとかどうかしら?」

 

「……もうちょっとマシなのはないのか。調査隊としての依頼が半分…いや、9割減りそうだ」

 

どうやら完全無欠のクールビューティーにも欠点はあるらしく、ネーミングセンスは壊滅的らしい。

 

「そこまで言わなくてもいいじゃない!そんなあなたはちゃんと考えてるの?これで変なチーム名だったら鼻で笑ってやるんだから!」

 

…まずい。グレイシアさんがお怒りのようです。草タイプの私が凍らされたらシャレにならないので、いいチーム名を考えなければ……その時ふとグレイシアのお守りが目に入る。

 

「そうだな、そのお守りに因んでチーム"スノードロップ"はどうだ?」

 

「……悔しいけど思いつかなかったわ、それにしましょう。素敵なチーム名なのに何だかフクザツ…」

 

「まぁまぁ、よかったじゃない。それじゃあチーム"スノードロップ"に初めての依頼をしようかしら。テンガン山にリーフィア君の治療に使った復活草をとってきてほしいの。リーフィア君が倒れていたのもテンガン山の麓だし、何か分かるかもしれないわ。引き受けてくれるかしら?」

 

「私は助けてくれた恩もあるし、もちろんいいよ。グレイシアは?」

 

「断る理由が無いわ。じゃあ早速行きましょうか」

 

気のせいだろうか、ネオラントの雰囲気に少し違和感を感じる。しかし、相変わらず思わせぶりな態度は雲を掴むようだ。いつものように冗談の類であればいいのだけれど…リーフィアは心に一抹の不安を覚えながら病室を後にした。

 

「師匠、何であんな依頼を?あそこにはーー」

 

「ええ、いいのよ。楽しくなりそうね」

 

氷が溶けたタマンタが問えば、ネオラントの口元は一層蠱惑的に線が結ばれた。

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