*リーフィアside
「くーるくる、くーるくる。方位磁石がくーるくる」
ついにグレイシアも壊れ始めた。パチリスに追いかけられてお菓子を食べられた挙句、調査隊バッジも方位磁石も使えない特殊な磁場と霧の迷宮がトドメを刺したか。
「せめて何か目印になるものがあればいいんだけどね」
「……それよ!」
虚ろな目で方位磁石を見つめていたグレイシアがガバっと頭を上げた。何か妙案を思いついたらしい。
「方位磁石が使えないなら太陽を見ればいいじゃない!」
「霧がかかってるのにどうやって見るんだ?」
「そこは……ほら、リーフィアは草タイプなんだし太陽の位置くらい分からないの?」
「分かってたらとっくに言ってるよ」
「そうよね…」
そう、私たちは文字通り五里霧中なのであった。歩いてればいつか出れる、と一体何時間もの間無策で歩いたのであろうか。霧を抜ける算段もまた霧の中である。こんな時にムクちゃんがいてくれたらなぁと思う。今まさにグレイシアの吹雪を振り払ったあの霧払いが欲しい。
そんな無い物ねだりをしながら歩いていたら薄っすらとポケモンらしき影が見えてきた。
「…あそこにいるの、ポケモンじゃないか?」
「ルクシオ…かしらね?ちょうどよかった。道案内してもらいましょ!」
グレイシアの声に元気が戻る。エレキ平原に住んでいる電気タイプのポケモンであればエレキ平原を出るまでの道案内は元より、奥地にあるとされる幻の花についても何か知っているかもしれない。海の如く地平線と霧だけが広がるエレキ平原で漂流する私たちにとってはまさに渡りに船であった。
「すいませーん!」
「…………ぅぐ……」
グレイシアが声をかけるが何やら様子がおかしい。こちらに答える余裕は無さそうだ。駆け寄ってみる。
「……ひどい傷だ」
ルクシオは身体中に傷を負って倒れていた。ところどころ氷の礫が刺さっていて酷く痛々しい。
氷の礫………?エレキ平原で………?
「グレイシア、いくらパチリス達にポフィンを食べられたからって…」
「私じゃないわよ!?ていうかずっと一緒にいたでしょう?」
「冗談は置いといて誰にやられたか覚えてるか?」
「……速…すぎて…分か…ケホッ」
「分かったから無理して喋らなくていいよ。痛いだろうが、まずは刺さってる氷の礫を抜いて応急処置だ」
氷の礫を抜く時に痛そうに呻き声をあげるが、ルクシオは静かに応急処置を受けていく。ムクちゃんのように強く育てられたからか、はたまた抵抗する力が残っていないだけなのか。薬草と一緒に包帯を巻き終えるとグレイシアがルクシオに自分のセーターを掛け、優しく声をかける。
「オレンの実のポフィン、食べる?少しは体力回復すると思う」
氷で冷えた体を気遣うだけでなく、唯一の楽しみとまで言い張った最後のポフィンを渡す。パチリスに食べられた時も最終的には心から笑って許していたし、思いやる心の暖かさを垣間見た気がした。
ポフィンを食べたルクシオは喋られるほどに回復した。
「先程は助けてくださってありがとうございました。僕にできることがあれば、ぜひお礼をさせてください」
「それなら東の出口までの道案内を頼みたい。見ての通り濃い霧で迷っちゃってね」
「お安い御用です。ところでお2人はどうしてこんなところに?」
「依頼で幻の花を探しに来たのよ。でもこれだけ霧が深いと探すのは難しそうね。ルクシオは何か知ってることない?」
「…………」
「ルクシオ…?」
「すみません、少し考え事をしていました。申し訳ないですが幻の花のことは知らないです。では出口まで案内しますね」
そうしてルクシオ率いる3匹は霧の中に消えていった。