ポケットモンスター待雪草   作:プシュケ

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p.27 邂逅

*リーフィアside

 

"氷の礫"

 

マニューラは慎重で、尚且つ狡猾なポケモンだ。チェリムと戦っている最中は裏切らないだろうと思っていた。裏切るメリットが何一つ無いからだ。仮に私への裏切りが成功したとしても弱りきっている自分に矛先が向くだけ。暴走したチェリムを止める算段も(すべ)もあるとは思えない。

 

しかし、元はと言えば私たちがエレキ平原にいるのはマニューラ達の罠によるもの。まさか、最初から道連れ覚悟で…?

 

いずれにせよ、チェリムと戦いながら氷の礫を避ける余裕なんてのは残っていない。

 

グレイシアの顔が浮かぶ。

 

これが走馬灯ってやつかな。

 

ーーまたグレイシアとの約束破っちゃうな。

 

起きたら何て言われるだろうか。

 

そもそも聞けないかもしれないな。

 

でも、グレイシアは私がいなくてもきっと大丈夫。

 

強くなったから。

 

パートナー、見つけられるといいな。

 

たくさん心配されて私は幸せ者だったよ。

 

さよなら、ありがとう。

 

 

 

 

*リーフィアside

 

「ねぇ…き…」

 

何か声が聞こえる。うっすら目を開けると今回はいつものタマンタではなく、ピンクと薄い青のポケモンが浮いている。知らないポケモンだ。

 

「ねぇ起きなさいってば!」

 

「天国…?」

 

「何寝ぼけたこと言ってるの?全く、無茶するところは昔から全然変わってないんだから。もう少し周りが心配してることを自覚した方がいいよ」

 

「昔から……?」

 

「ああいや何にもないの。初めまして。私はエムリット、よろしくね」

 

「…そうだ!マニューラの氷の礫は?チェリムの暴走はどうなった?」

 

何気なく会話をしていたが非常事態だったんだ。もしここが天国ではなく現実だとするならば早くチェリムを止めないと…

 

「全部エムリット様が収めてくれましたよ」

 

「ルクシオ…!……ということはこのポケモンが神様…!?」

 

「いかにも、私が神様だよ」

 

ふふんという感じで胸を張る。何か子供っぽいというかグレイシアみたいな神様だな。

 

「今失礼なこと考えてたでしょ。これでも感情を司るすごい神様なんだからね。失礼なことを考えていたら何となく分かります」

 

…いや、神様なのに何となくなのか。まぁマニューラとチェリムを収めるくらいだからすごいのは分かるけど。

 

「それにしてもうちの守護者を止めてくれてありがとね」

 

エムリットがにぱっと笑う。何だか見てるとこっちも元気になってしまうような底抜けに明るい笑顔だった。

 

「いや、結局はエムリットに頼ることになったし」

 

「頼らせてもらったのはこっちだよ。この神木()にはね、私の感情を司る力が宿っていて、過剰な負の感情を吸収することでウォンシ地方の平穏を保つ役割があるの。今回は怪現象で私も弱ってて神木()のコントロールが揺らいでた。チェリムも普段なら上手く使いこなすんだけど、襲撃者が思ったよりも強くて神木()の力に呑み込まれちゃったみたいなの。だからお礼を言うのはこっち」

 

「そ、その…今回は暴走した私を止めてくれてありがとう…ございました」

 

桜の後ろから日傘を持ったネガフォルムのチェリムがちょこんと顔を出しながら、意識して聞かないと、ともすれば聞き逃してしまいそうなくらい小さい声でお礼を言う。さっきまで狂気に染まっていたチェリムとは思えないくらいに恥ずかしがりやさんな印象を受けた。

 

「なんてことはないよ。でも、今後あんなのと戦うのは勘弁してほしいな。命がいくつあっても足りやしない」

 

「ど、どうかあれは忘れてください」

 

「あれは忘れろって言う方が無理だよ、あはは」

 

「きゅ〜」

 

私には元々小さいチェリムが更に縮んでいってるように見えた。

 

「まぁまぁ、チェリムもやりたくてやった訳じゃないからそんなにいじめないであげてよ」

 

「別にいじめてるつもりはないんだけどな。案外可愛いところもあるんだね」

 

「か、可愛いなんてそんな…きゅ〜」

 

「またそうやってすぐに女の子を誑しちゃうのよくないと思うな〜」

 

そうやって印象操作するのもよくないと思う。

 

「というか初めて会うのにエムリットは私のことをよく知ってるんだね?」

 

「か、神様だからね。それくらいお見通しだよ」

 

「……そういうことにしておこうか」

 

この神様隠し事下手だなぁ。

 

「えーん。ルクシオ〜、リーフィアがいじめてくるよ〜」

 

「はいはい。分かりましたから嘘泣きはやめましょうね」

 

ルクシオも神様の扱いを心得ていらっしゃる。

 

 

 

 

リーフィアside

 

重要な話をしたいからルクシオとチェリムには席を外してもらってエムリットと2匹。ルクシオとチェリムにはグレイシアとレントラーの看病に向かってもらっている。

 

「んで、神様。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「何でも聞いてくれていいよ。何ていったって私は神様だからね」

 

一々自己主張の激しい神様である。

 

「単刀直入に聞くけど、怪現象で何があったんだ?」

 

「やっぱり気になるよね。……ごめんね、それは私の口からは言えないんだ。でも怪現象は解決したし、怪現象が原因でこれから何かが起きる訳じゃないからそこは安心していいよ」

 

さっきまでの明るいエムリットとは一転、気まずそうに言い淀んでる感じだった。こんなちゃらんぽらんな神様でも気を遣えるんだなげふんげふん。

 

本当に何となく感情が分かるのかジトっとした視線を感じるが、気のせいだろう。

 

「どうしても知りたかったら私の他にもう1匹神様がいるから探してみるといいよ。私に言えるのはこれくらい」

 

エムリットの様子から察するに怪現象の真相には触れない方がいいのだろう。だからウォンシ地方のポケモンからは怪現象の()()が失われ、それを疑問に思う()()が失われている訳か。

 

「となるともう1匹の神様は記憶を司る神様なのかな?」

 

「いや、意志を司る神様だよ。私のように未開の地で2匹の守護者といるから会うのは大変だろうけどね」

 

「真相を知りたければ今回みたいに守護者の試練を超えてみせろってか」

 

「まぁ今回は試練どころじゃなかったけどね。これで聞きたかったことは満足かな、マニューラさん?」

 

「…いつから気付いていた」

 

桜の後ろに隠れていたマニューラが出てくる。気配が消されていて全く気付かなかった。

 

「罪の無いリーフィアとグレイシア、そしてルクシオを消そうとしたポケモンを、ましてや怪現象の日に事件を起こしたあのトレーナーのポケモンをみすみす見逃す訳ないでしょう?」

 

エムリットから肌を刺すような殺気が放たれ、一気に緊張感が漂う。

 

「トレーナー?」

 

「せっかくだから少しだけ教えてあげる。ウォンシ地方の裏側には人間とポケモンが共存するシンオウ地方ってのがあってね、その2つの地方は決して交わることはなかった。だけど、ある日シンオウ地方から1人の人間が何らかの手段でウォンシ地方に来て感情の無い世界を作ろうとした」

 

「どうして?」

 

「感情があるから人は冷静さを失い醜い争いをする。感情があるから何かを失った時に悲しみに暮れる。それならいっそ感情なんて無い方が世界は綺麗だと思わないか?」

 

今まで多くを語らなかったマニューラが初めて本音を口にする。しかし、それはポケモンとポケモンとの繋がりを全て否定しかねない滅茶苦茶なものだった。

 

「思わないね。それは現実から目を背けてるだけだ。確かに、誰しも出来ることなら悲しい体験をしたくない。でも感情が無かったら皆で騒いで楽しい時を過ごしたり、些細なことで喧嘩したり、相手の思いやりに感謝することもできない。そこには機械みたいな繰り返しの日常があるだけだ。感情があるからポケモンはポケモンらしく生きていけるんだ」

 

「黙れ。記憶を全て失って何のしがらみもないお前に何が分かる。俺は何が起こったかも分からないままトレーナーを失ったんだぞ!何度も何度も思い出そうとした。…だけど、その日の記憶だけどうしても思い出せないんだ。温もりを…感じられないんだ」

 

「……だからって周りを巻き込んで感情を消していい理由にはならないよ。君たちは取り返しのつかないことをした。主犯はトレーナーだし、ポケモンに罪は無いと思って見逃してあげたのに。私は元から反対だったんだけどね。今回の件ではっきりしたよ、救いようのないポケモンだってね」

 

「俺はお前たちに負けた。アカギ様のいない世界に意味なんて無い。一思いに殺してくれ」

 

「そのつもりだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   だからリーフィア、そこをどいてくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どくつもりはないよ」

 

「どうして?そいつのトレーナーのせいでウォンシ地方は大変なことになったし、リーフィアやグレイシア、ルクシオだってそいつに殺されるとこだったんだよ?」

 

「確かにそうかもしれない。…けど、それはトレーナーを想う気持ちからであって自分の意思はどうだ?トレーナーを想うあまり盲信的になっていないか?本当にそのトレーナーを思っているならその時、過ちを犯す前に止めることもできたはずだ。それが本当の信頼関係ってやつじゃないのか?…それでもそれだけトレーナーを想えるのは本物の絆なんだと思う。だからこそ考え直してほしい。この思いやりが溢れるウォンシ地方で感情があってよかったって感じてほしい」

 

「……一つだけ聞かせてほしい。なぜお前は例えどんなに絶望的な状況だとしても頑張れるんだ。グレイシアのパートナーだって1ヶ月も経って行方が分からないんだ。死んだに決まってる。なのにどうして命を賭けてまで真相を追い求める?」

 

「グレイシアに救われたからだよ。グレイシアからは数えきれないくらいの宝物を貰った。それにどうして死んだことを確認してないのに死んだと決めつける?可能性が少しでもあるなら私は諦めないよ」

 

「……とんだお人好しだな。いつか痛い目に合うぞ」

 

「よく言われるよ」

 

「言っておくけど、私は許してないからね。今度少しでも害があると判断したら問答無用で裁きを下すから」

 

「…手遅れにならないといいな」

 

そう言うとマニューラはドンカラスを抱えて去っていった。

 

「何なの助けてもらっておいてあの態度、今すぐ裁きを下してやろうかしら」

 

「まぁまぁ落ち着いて。裁きを下すか判断するのはチャンスを与えてからでも遅くないよ」

 

「もう、本当に甘いんだから…もし本当に手遅れになっても私知らないからね!」

 

「そんなこと言いつつも心配してくれるエムリットは優しいね」

 

「あなたが危なっかしすぎるのよ!」




[重要なお知らせ]
薬剤師国家試験まであと2年を切り、今まで以上に勉強や卒業論文に力を入れないといけない状況のため、小説の更新を一旦休止させていただきます。薬剤師国家試験に合格したら更新を再開させるので連載を終了する訳ではありません。今まで応援してくれた方々、ありがとうございました。また更新を再開した時に読んでもらえると幸いです。
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