さて、薬剤師国家試験が終わる2022/2/20までと社会人なりたての時は少し不定期になるとは思いますが(一応アルセウスレジェンズが発売されるタイミングあたりでもう1話更新する予定です)、これからもよろしくお願い致します。
*ムクバードside
その日は突然春に染まった。決して大袈裟に言っている訳ではなく、スイッチを切り替えるかのように一瞬で。凍えるような寒さは悪い夢だったと言わんばかりにぽかぽか陽気が照りつけている。いっそ悪い夢だったと言われた方が信じられるくらいだ。なぜなら鳥ポケモンの私が見渡しても発生源が見当たらないーー即ちそれだけ広範囲の気候を変動させているポケモンがいるのだから。
エテボースさんが作ってくれた黒鷹隊バッジですぐにネオンギルドとの連絡をとった。
「もしもし、こちら黒鷹隊」
こんな小さいバッジ1つあればわざわざ長い距離を移動せずとも、まるで近くにいるかのように手軽に会話できるのだからエテボースさんの器用さには本当に舌を巻く。
「もしもし〜もしかしてそっちも春になってたりするのかしら」
ぽかぽか陽気のようにまったりとした様子でバッジに応えたのはネオンギルドのギルド長、ネオラントさんだった。正直掴みどころのないお方だが、流石はギルド長と言うべきか話が早い。
「ええ、そうなのですがムクの縄張り周辺にそれらしき者は見当たらず、かなり広範囲に影響が及んでいると予想されます」
「誰が一体何の目的で……どちらにせよ放っておいたら危険ね」
「しかしこれだけ大規模だとどこが発生源なのか検討もつかないですね…」
「またチーム"スノードロップ"の2匹が渦中にいたりしてね?」
「そんなまさか〜」
リーフィアさんとグレイシアさんがチーム"スノードロップ"を結成してからというもの、編入試験にミカルゲ事件と平和なウォンシ地方にしては大きめなトラブルに立て続け巻き込まれている。さすがにこの短い間で3回目は…
「ちなみにそのお二人は今どこにいるんですか?」
「確かエレキ平原だったかしら」
前言撤回、2度あることは3度ある。エレキ平原と言えばーー「電子機器も方位磁石も頼りにならない立派な未開の地。一度その霧の中に入ると無事には帰ってこれないとか」ーーそう聞いたことがある。私なら霧を払えるし何とかなるだろう。
「様子見に行ってきます」
「応急処置くらいならできるし、うちのタマンタちゃん連れてくといいわよ。何かあったら深追いはしないでムクホークか私に伝えてちょうだい」
「了解しました」
私は前回のミカルゲ事件で痛い目を見た。今回もミカルゲクラスのポケモンが関わっている可能性が高い。今回はどんなに危機的状況だからといって焦って自分1匹で対処しようとするのではなく、冷静に、時には皆を頼ってウォンシ地方にとって最善の選択を取れたらと思う。
胸元のバッジからは「え゛え゛ぇぇええ!?!?何しれっと決めちゃってくれてるんですか??よりによって水・飛行タイプの私を電気タイプがうじゃうじゃいるエレキ平原に送り出すなんて師匠の鬼!鬼畜!ドS!」と情けない
「念のため儂も行こう」
「隊長はその事務仕事早く終わらせてくださいね」
○
*タマンタside
ムクちゃんと合流し、エレキ平原へ向かう。
「何で私がエレキ平原なんて行かないといけないんでしょうか…どーせ理由なんて面白そうだからですよ絶対!!」
編入試験の時といい、師匠は気まぐれで無茶振りをして楽しんでる節がある。いくら平和なウォンシ地方だからといって師匠の気まぐれでガチバトルさせられたら命がいくつあっても足りないですよ。今起きてる気候変動だって師匠が一枚噛んでると言われても全然不思議ではない。
「それだけ信頼されてるってことなんじゃないか?」
「そ、そうですかね……私は騙されないですよ!!」
そんな会話をしつつエレキ平原の入り口。『ここから先エレキ平原。奥深くまで入った者は二度と出ることの叶わない特殊な磁場と霧の迷宮。』という看板が建てられている。ところで不自然な点が1点。
霧がかかっていない。
「あれ…ムクちゃん"霧払い"しました?」
「いや、私は何もしてない。おそらくウォンシ地方を春に染めている犯人はここにいるとみて間違いないだろう」
言われてみればネオンギルドの辺りよりも春の陽気が強い気がする。
「どうしますか?ムクちゃん」
「とりあえずバッジで報告だけしておいて様子を見に行こう。霧が晴れた今なら迷う心配はない」
「分かりました。くれぐれも慎重に行きましょう…!」
○
*ムクバードside
バッジで報告をしてからエレキ平原を飛び進めること十数分。
「しかし何も無いですね〜」
「まぁ平原というくらいだしな」
エレキ平原は霧が無ければ多少肌を刺すようなビリビリ感漂うただのだだっ広い平原という感じだった。しかし、どこまでも続くかのように思われた地平線にポツンと点が現れる。
その正体は傷だらけのドンカラスを抱えたこれまた傷だらけのマニューラだった。ドンカラスの方は気絶している。どちらもエレキ平原に生息しているポケモンとは考えづらく、私たちと同じく気候変動の謎を探りに来たポケモンなのだろう。
「どうしたんですかその傷!放っておいたら開いちゃいますよ!待っててくださいねすぐに応急処置しますから」
"アクアリング"
「頼んでもないのに見ず知らずのポケモンを治療するなんてこの地方のポケモンは揃いに揃って馬鹿なのか?」
マニューラから発せられた言葉はとても治療してもらっている者の言葉とは思えなかった。
「タマンタがわざわざ治療してくれているというのに何だその態度は」
「そう、
「馬鹿なのはあなたの方ですよ!助けられるポケモンを見捨てて誰が気持ちよく明日を迎えられるというのですか!!」
普段はおちゃらけている
「俺たちがこの
この
そんな葛藤が心を渦巻いてる中、
「……私に真偽は分かりませんが、悪いことをしたのは本当なのかもしれません。でも、少なくとも今のあなたから敵意は感じられません。私にはあなたは悩み、葛藤しているように見えます。例え悪いことをしてしまったのだとしても、それが本当に正しかったのか悩み、葛藤することはいいことだと思います。そういう風に悩んだり、葛藤することって他人を思いやることができるからこそできると思うんですよね。だから、私はあなた達を治療したいと思ったんです」
マニューラが驚きの表情と共にハッと顔を上げる。私から見れば
「…ははっ、本当にお前
「また馬鹿って…!」
「まぁまぁ。悪い馬鹿じゃなさそうですし、いいじゃないですか」
どうしてこんなに上から目線なんだ。っていうか悪い馬鹿じゃなさそうって何だ。
「治療してくれた礼に1つ教えてやろう。俺たちが歩いてきた方に馬鹿な調査隊と気候変動を引き起こした張本人がいる」
「調査隊…絶対リーフィアさんとグレイシアさんですよ!どうせまた無茶してそうですし、早く治療してあげないと…!」
「お二人は無事なんだろうな?」
「さぁな、そこまで教えてやる義理は無い。世話になった」
そう言うとマニューラ達は去っていった。心なしか出会った時よりも晴れやかな表情をしていた気がした。
「乗せてってやるから急ごう…すりすりするのはやめろ」
「またと無いすりすりチャンスを逃す訳…」
「落としてくぞ」
「ごごごごめんなさいこのスピードで落とされたらタマンタちゃん魅惑のしっとりお肌が大変なことに」
落としていい気がしてきた。
○
*タマンタside
結論から言うと一連の騒動は収まっていた。壮絶なバトルがあったであろう現場にはチームスノードロップのお二人、レントラーとルクシオ、それと気が弱そうな印象を受ける日傘をさしたネガフォルムのチェリム、ふよふよ浮いている見知らぬポケモンの計6匹がいた。グレイシアさんとレントラーは気を失ってはいるが、一応応急処置はされていて大丈夫そうだ。リーフィアさんとルクシオは
「大丈夫ですかそれ、リーフィアさん!?」
「うん、エムリットが回復してくれたらしくて平気だよ」
あのふよふよ浮いているポケモンはエムリットというらしい。相当なダメージだったはずなのにそれを回復の一言で済ませてしまうなんて一体何者なんでしょう…?
「私?私は感情を司る神様だよ?回復は蓄えた
心を読まれた…?
「あぁ、感情を司る神様だから何となく心を読み取ることができるんだよ。完全には分からなくても会話の流れや不思議そうに見つめられれば言いたいことくらい分かるよ」
「へぇ…やっぱり神様だけあってすごいポケモンなんですね」
「ねぇ聞いた?失礼なリーフィア君とは大違い!普通神様は尊敬されるべき偉大な存在なんだよ?」
「神様として尊敬はしてるよ」
「嘘ばっかり!感情の神様に嘘をつくなんて随分と挑戦的だね」
「なぁタマンタ、今のエムリットを尊敬できるか?」
「リーフィア君の印象操作に騙されないで!」
「え、えっと…親しみやすい神様でいいと思いますよ?」
「えーん。ルクシオ〜、どこがいけないのかなぁ?」
「その立ち振る舞いだと思いますよ。喋らなければ尊敬されると思いま」
「ルクシオ君、言動には気を付けた方がいいと思うよ?」
春の陽気が照りつける中、ルクシオは凍えていた。分かりますよ、私も師匠をからかった際にゾクっとしたことありますから。
○
*ムクバードside
「ところで気候変動を引き起こしたポケモンは?もしかして神様が?」
「引き起こせなくはないけど違うよ」
「じゃあ草タイプのリーフィアさん?」
「私も引き起こせなくはないけど違うよ。当然草タイプだから"日本晴れ"の恩恵は受けるけどね」
「どっちも気候変動させる力はあるのか…」
リーフィアさんさらっと言ってるけど、気候を変動させるということは自然の摂理に逆らうということ。並大抵のポケモンにできることではない。
と言ってもグレイシアさんだって"霰"を使えるし、スノードロップのお二人に常識を当てはめるだけ無駄か。
「えっじゃあ誰が」
周りを見回してみるが、氷タイプのグレイシアさん、電気タイプのレントラー、ルクシオ、見るからに気弱そうなチェリム…この規格外な"日本晴れ"とは無縁そうなポケモンばかりだ。
「まさか逃げられて今もこのエレキ平原を彷徨ってるとか?」
「それだったらこんなにまったりしてないよ〜こんなにすごい"日本晴れ"をしたのはうちの守護者、チェリムちゃんだよ」
「「……………え?冗談ですよね?」」
タマンタも私と同じ反応をとる。何度でも言うが目の前のチェリムは見るからに気弱そうでバトルすら無縁といった感じだ。とてもじゃないが、ポケモン100匹集めてチェリムがこの広範囲に渡る"日本晴れ"をしたと言って信じる者は1匹もいないだろう。しかも神様の守護者…?見るからに強そうなレントラーが守護者って言うなら分かるが…あれ、守護者って何だっけ。
しかしリーフィアさん、ルクシオが驚いてないということが、それが冗談ではないことを雄弁に物語っているという訳で。
「…何でそういう時だけ正直に言っちゃうんですか神様のばかー!いつもみたいに『私がやったんだよ〜すごいでしょ?』って誤魔化してくれてもいいのに。うぅ、恥ずかしい…」
涙が幻視できそうな弱々しいチェリムが可愛らしいおててで
「え、隠す必要ないじゃん?エレキ平原がピンチな時に襲撃者から守ってくれたんだから。しかも圧勝!すごく強いんだよ!」
「その…暴走してお仲間さん達にも迷惑かけちゃいましたし…とにかく!私の中では一刻も早く忘れ去りたい黒歴史なんです!」
「「あ〜、だからリーフィアさん達血塗れだったんですね…」」
「チェリムだけから受けた傷じゃないけど、今回一番恐ろしかったのはチェリムかもね」
「リーフィアさんまで!」
ポケモンの恐ろしさは見た目によらない、覚えておこう。
「それじゃあ事件は解決したってことでいいんですかね?」
「リーフィア君と私のおかげでね!」
「ほっ…」
タマンタがほっと胸を撫で下ろしている。それもそうだ、電気タイプの巣窟であるエレキ平原にバトル覚悟で来ていたのだから。
「神様、嘘はよくないよ。私はグレイシアにもエムリットにも助けられっぱなしの情けない男なんだから」
「暴走したチェリムちゃんと互角に渡り合えるだけでも充分ヤバいと思うよ?」
「その話は掘り返さないでください!!」
「まぁまぁ、その辺にしといてあげてくださいよ」
チェリムはあまりの恥ずかしさからかぜぇぜぇと肩で息をしている。このままルクシオが止めていなかったらその内日傘を投げ出して本当に暴走していたかもしれない。ナイスルクシオ、エレキ平原の平和は保たれた。よく見たら荘厳な桜と神聖な雰囲気を醸し出す湖以外何もない平原に壮絶なバトルの痕が残っている。まるで1つの街が壊滅した後のような光景だ。ここが元々何もない平原でよかった。
「とりあえずは一安心って感じですね。他にも聞きたいことは山ほどありますが、私たちは
「そのことなんだけど、ラントちゃんとムッ君には報告してもいいからウォンシ地方の皆には広めないでおいてくれると助かるな。仮にも私たちはウォンシ地方の秩序を保つ側のポケモンだしさ」
「もちろんその辺は配慮させていただきます」
「ありがとう。今は暴走した
ところでラントちゃんとムッ君って誰だ…もしかしてネオラントさんと隊長のことだったりする……?
ないない、あのお二方にちゃん付けと君付けなんて。似合わないにも程がある。
「あー、ラントちゃんとムッ君ってのはネオラントとムクホークのことね!」
「「「え…」」」
非常に微妙な空気になった。
○
*ルクシオside
リーフィアさん達が帰り、お兄様も目が覚めた頃。
「すごいバトルだったみたいだね、ルクシオから聞いたよ〜」
「それはもう最高だった、花蝶風月と呼ばれたあの4匹を思い出すほどには」
「花蝶風月…?」
「ルクシオさんはまだ生まれてない時のことですから簡単に説明しますと、昔ウォンシ地方に名を轟かせたそれぞれ2匹のポケモンから成る2つの探検隊があったんです。皆さんとても強くて私たち守護者に匹敵するほどの実力を持っており、ちょうど1ヶ月前に起きたようなウォンシ地方の危機を救われました。今のウォンシ地方があるのはその4匹のおかげと言っても過言ではないですね。それ以降その4匹のポケモンのことをそれぞれの特徴に見立てて花蝶風月と呼んでいます」
「へぇ…僕が生まれる前にそんなことが…」
「本当懐かしいなぁ…!ラントちゃんとムッ君も今やネオンギルドのギルド長と黒鷹隊の隊長かぁ」
「喧嘩ばかりしていた小娘と小童が…立派になったもんだ」
「いつも桜の木陰に隠れてた私に日傘を作ってくれたエテボースさんと、桜のことをすごく褒めてくださったロズレイドさん、元気かなぁ」
「エテ君とローズちゃんもよく喧嘩してたよね〜」
「喧嘩するほど仲がいいってやつだな」
「ふふふ…また落ち着いたら一緒にお花見するのが楽しみですね…!」
花蝶風月の4匹は知らないけど、きっと僕にとってのチーム"スノードロップ"みたいな存在なんだろうなと思う。お二人に襲撃者だと疑いをかけてしまったり、チェリム様が暴走してしまったり色々あったけど、今回の事件は1ヶ月前の大事件と違って悪いことばかりじゃないと確かにそう感じることができた。
○
*ムクバードside
エレキ平原からネオンギルドへ戻り今回の事件ーー名付けて春染事件とでも呼ぼうかーーの報告をする。とは言っても私よりも詳しい
報告も済んだところで気になっていたことを聞く。
「そういえばネオラントさんって神様と知り合いなんですか?」
「そうそう、今回の事件だって知ってて送り出したんじゃないですか?」
「何のことかしら?」
「
「本当に知らないけど…?私をラントちゃんって呼ぶポケモンなんていないわよ。随分フランクな神様なのね」
「「「え…?」」」
いつものように惚ける様子は無く、本当に知らないようだった。