*リーフィアside
何だかいい香りがする。食欲をそそるとても美味しそうな香りだ。覚醒しきっていない意識を刺激するのは嗅覚だけではない。グレイシアとタマンタの会話も聞こえる。どうやら2匹仲良く料理をしているようだ。
「おはよう。相変わらず良い腕してるね」
「ふふ…ふふふふ…まだ寝足りないみたいね?それとも料理されたいのかしら?」
グレイシアの声は引き攣っている。料理をしているので顔は見えないが、きっと素敵な笑顔が貼り付けられていることだろう。あれ、私何かマズいこと言ったっけ…?
「グレイシアさん待ってください!これ以上はリーフィアさんの命が危ないです!!」
タマンタが暴走寸前のグレイシアを羽交い締めで抑えてくれる。考えろ…考えろ…これから
とはいえ私は相変わらず料理が上手だねって褒めただけだし…あまりにストレートすぎる褒め言葉が照れ臭かったのだろうか?
答えはグレイシアの口から知らされる。
「離してタマンタちゃん!今リーフィアは私の右ストレートに対して『良い腕してるね』って皮肉を言ったのよ!!」
「確かに可憐な乙女に失礼すぎる発言ですが…リーフィアさんも早く謝ってください!」
そういうことか…グレイシアが可憐な乙女かはさておき、初めから解釈のすれ違いを起こしていた訳だ。
「ごめん、グレイシア。そういう意味じゃなくて、あまりにもいい香りだったから相変わらず
「え……………?えへ…えへへ…それならそうと早く言いなさいよ!まぁ?私が料理上手なんてマスターが仕事をしないくらい当たり前のことだけど??」
こんな時まで揶揄される
「もう本当気を付けてくださいよ〜ダンジョンに行ったのにチームメイトに殴られてネオンギルド送りなんて笑えないですからね?」
おい、右ストレートを撃たれた原因の1回は
○
*リーフィアside
ふぅ…危うく2発目を貰うところだった。ちゃんと真意を正しく伝えるのは大事である。命の危機は去ったところで
「料理をしながらでいいから調査の打ち合わせをしようか」
「誰と戦うかも分からないのに打ち合わせしようがあるの?」
「バトルの方は優秀な医者の卵もいるし、そんなに心配してないよ」
「褒めても無茶していい理由にはなりませんからね?」
「自分から無茶しようと思ったことは無いよ?」
「「嘘ばっかり」」
そこ、ハモるんじゃない。
「心配する身にもなってくださいよ〜」
「全くよね。全然約束を守ってくれないんだもの」
「でも信じてくれてるだろ?グレイシアとの約束を守るためなら多少の無茶だって頑張れるさ」
「ズルい言葉ね。いつか取り返しがつかなくなるわよ?」
「その時は皆に助けてもらうから大丈夫。特にレントラー相手に無茶をした
「…ズルい言葉ね」
「くー、甘いですね!グレイシアさんの作るスイーツくらい甘い!たぶんムクちゃんに食べさせたら甘すぎて吐きますよ」
「ムクちゃんは甘いもの嫌いなのね。覚えておくわ」
グレイシアが天然で助かった。
○
*リーフィアside
「そういえばバトルの打ち合わせじゃないってなると何の打ち合わせなの?」
「分からないなりにダンジョンの対策をね」
「エレキ平原では霧で迷ったり方位磁石すら使えなくて散々な目に遭ったわね…」
グレイシアのテンションが分かりやすく落ちている。何ならタマンタも「私も今からそんなところ行くんでした…」と渋い顔をしている。
「ネオラントによると『バクバク砂漠は砂嵐が吹き荒れ凶暴な鮫が跋扈する危険地た…未開の地』。少なくとも砂嵐と凶暴な鮫の対策は必要だね」
「「凶暴な鮫の対処は任せ
「早速無茶させようとしてない?」
「気のせいです」
「気のせいね」
さっきまでは心配していたと言うのに圧倒的なまでの超高速手のひら返し、理不尽。
「砂嵐の方はどうします?」
「霧払いが使えれば1番楽なんだけどね」
「残念ながら霧払いレベルとなるとムクちゃんや隊長、師匠くらいしか出来ないですね…」
飛行タイプの面々にさらっと入ってるネオラントって一体…
「そういえばスノードロップのお二人って天候変えられましたよね?」
「さすがにバトル以外での継続した天候上書きは消耗が激しいからやりたくないな…」
「右に同じね。特に今回はバトルが主目的な訳だし」
「ですよねー…」
「チェリムを連れて行くしかないか…何なら春染事件の時のように依頼主を圧倒して満足を通り越して諦めさせてくれるかもしれない」
「あんなに可愛い娘の禁忌を掘り返すなんてリーフィアさん鬼ですね」
「戦ってみれば分かるよ。どっちが鬼か」
「リーフィアさんの軽口コレクションが1つ増えました。チクられたくなければ守ってくださいね」
「ますますネオラントに似てきたな」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
○
*リーフィアside
軽口を言い合ってはいるが、結局のところ
「とはいえチェリムは
「さっきと言ってたことが違うじゃない」
「そうですよ。バトル前に消耗したら私たちを凶暴な鮫から守れないじゃないですか」
おい。
「確証は無いけどエレキ平原と同じなら土地自体に神聖な力が宿っているだろうから、それと"光合成"を使えば消耗は最小限に抑えられると思うよ」
「「土地の力を使う?」」
「そうそう、大地からすーって吸い上げる感じで。今までほとんど溜め無しでソーラーブレード撃てていたのもそのおかげだよ」
「んー…とりあえずリーフィアのバトルスタイルに常識が通用しないことは分かったわ。でもそれなら何でエレキ平原でしなかったの?」
「あー、それは寒かったのと霧で太陽が隠されていたからね。タイミングと相性の問題かな。砂漠なら何とかなるだろう」
「それなら私も"アクアリング"でサポートしますね。凶暴な鮫と戦う体力をたくさん残しておいてもらわないと困りますから」
「動機は不服だけど頼んだよ」
「こちらこそ頼りにしてます」
「私にも出来ることないかな?」
「凶暴な鮫と戦うのを手伝…」
「発言を取り消すわ。適材適所が一番よね」
おい。
○
*タマンタside
やっぱりお二人とのやりとりは楽しいですね。自然と笑みが溢れてしまいます。
あっ、師匠との会話が楽しくないって言ってる訳ではないですよ。ただ、少しスリルがありすぎると言いますか…
と、話しているうちにお菓子が焼き上がるみたいですね!
「完成〜!」
グレイシアさんの弾けるような笑顔が眩しいです。焼き上がったお菓子も負けじと照り輝いています。期待に胸が膨らむリーフィアさんからの質問。
「今回のお菓子は何なんだ?」
「ヒメリパイです」
私は和食メインですが、グレイシアさんに教えてもらいつつ一緒に作りました。新しいことに挑戦できるってワクワクしますよね!
「……?今回は体力を回復できるオレンの実を使ったお菓子じゃないんだね」
「よくぞ言ってくれました。というのも今回に限っては回復役の私がいますから、技を使うためのエネルギーを回復するヒメリの実にしてみた感じです」
ヒメリは林檎の一種ですが、その中でも特別栄養価の高い林檎なんですよね。長時間の探索にはもってこいの木の実です。
「なるほど。料理をダンジョン探索に役立てられるのは本当面白いね」
「でしょう?それじゃあ恒例の試食タイムいきましょ!」
グレイシアさんは目を輝かせて待ちきれない様子。無理もないです、こんなに美味しそうなヒメリパイが目の前にあるのですから。
「「「いただきまーす!」」」
……………………
「「「うまーーい!!」」」
「交差するオシャレなサクサクパイ生地に」
「甘くてジューシーなヒメリの実」
「それらが最高のハーモニーを奏でて天国へと導いてくれますね!」
「天国はシャレにならないかもなぁ」
リーフィアさんが遠い目をしている。
「もちろん私が行かせませんから安心してください?」
リーフィアさんが遠い目をしている。あれ、決まったと思ったのにおかしいですね…
「とりあえず、前回はほとんどパチリスに盗られちゃったから今回は何としても死守しないとね!」
私の知らないところでそんな悲劇が…
でも盗られたポケモンがパチリスならその可愛さで何でも許せそうですね!
○
*リーフィアside
お菓子の準備も出来て、いざバクバク砂漠へ。エレキ平原がテンガン山を超えてネオンシティの西にあるのに対し、バクバク砂漠はネオンシティの東に位置する。テンガン山を超えなくていい分、こちらの方が辿り着くのは容易だ。
ただし、容易なのは辿り着くまでである。目の前に広がるは砂嵐が吹き荒れロクに目を開けることの出来ない地獄。加えて霧よりもタチが悪いのは砂嵐に紛れて飛び交う砂利。じわりじわりと体力が削れていく。これは思ったよりも厳しいな…まるで冒険者を阻む自然の要塞というべきか。
「待っててね、今"日本晴れ"するから」
思った通りこの土地には神様の力と似た神聖な力が宿っている。目を閉じ、耳を澄ませ、感覚を研ぎ澄ます。体に神聖な力が巡っていくのを感じる。
"日本晴れ・光合成"
技を発動すると周りの砂嵐は止み、強い日差しが顔を出す。やはり、無理やり天候を上書きしてるだけあってエネルギーの消費は激しい。
「タマンタ、"アクアリング"頼むよ」
「本当に天候を変えちゃうんですもんね…実際に見てみるとそのすごさが分かります」
"アクアリング"
消費したエネルギーが回復していく。光合成でも消費エネルギーを抑えられるが、その回復効果は光合成のみの比ではない。こういう時に回復役がいてくれると本当助かるな。ネオラントはここまで見越してタマンタを連れさせてくれたのだろうか。
「タマンタちゃん、私にも"アクアリング"を。暑くて溶けちゃいそう…」
チームスノードロップ、天候の相性がお互いに頗る悪いけどこの先大丈夫だろうか。
「あれ…あの青いヒレこっちに向かってきてないか…?」
○
*タマンタside
ザザザザザ
「「いぃぃやぁぁああ」」
拝啓
私たちは今フカマルの群れに追いかけられています。どうやら狙いはヒメリパイのようです。前回はリーフィアさんが潔く諦めてオレンの実のポフィンを手放したことで解決したようですが、それもあって今回はグレイシアさんが何としてでもヒメリパイを手放そうとしません。私たちはいつまで逃げればいいのでしょうか?確かにフカマルは可愛いのですが、大量の鮫の背ビレに追いかけられるのは恐怖体験以外の何物でもありません。
ん…中に1つ大きな背ビレが混じっているような…?