*タマンタside
「その美味そうなお菓子を寄越せぇぇええ」
見た目は丸っこくて愛くるしいのに物騒な言動と背ビレを引っ提げて追いかけてくるはフカマルの群れ。
「なぁ、少しくらい分けてあげてもいいんじゃないか?」
前回も同じことがあったからか冷静にグレイシアさんを宥めるリーフィアさん。私もそう思います。
「はぁ、はぁ…嫌よ!パチリスは可愛かったけどあいつらにはあげたら最後、全部食べられちゃう未来しか見えないわ」
冬とはいえリーフィアさんの"日本晴れ"で熱された砂漠の大地、暑さに弱いグレイシアさんは少しバテ気味です。私の"アクアリング"の気化熱で多少はマシになってるとは思いますが…裏を返せば気化した分の"アクアリング"を補い続ける私にも厳しい環境と言えます。
しかし、環境がどんなに逆風だろうと諦めないグレイシアさん。フカマル達と同じくらいお菓子への執念がすごいです。
「まぁ確かに少しどころでは済まなさそうですね…」
と、いつまでも続くかのように思えた過酷な追いかけっこに終わりが訪れる。
「ごちゃごちゃ言ってないでそのお菓子を賭けてポケモンバトルだ!」
"穴を掘る"
突然目の前の地面からガバイトが現れる。てっきりフカマルだけだと思っていましたが、あの大きな背ビレはガバイトだったんですね…っていつの間に回り込まれていたのでしょう。前も後ろも退路無し。ひょっとしてかなりピンチ…?
「これから依頼で強い奴と戦う予定があるんだ。少し分けるから戦わないという選択肢は…?」
「「無い(わよ)!!!!」」
リーフィアさんの提案も虚しく、グレイシアさんとガバイトが食い気味に否定する。敵同士なのに息ぴったりすぎます…こうしてみると意外とグレイシアさんの方が好戦的なのかもしれませんね。
「良い話だと思ったんだけどなぁ」
「あぁ、確かに捨てがたい。そのお菓子は確実に美味いからな!食わなくても匂いで分かる。だが、熱いバトルをした後の飯はもっと美味い!!」
「敗北の味でも味わってなさい!」
"氷の礫"
先制したのはグレイシアさん。さっきまで暑さで項垂れていたのはどこへやら、キレのある氷の礫を連続で放ちます。
「美味そうな氷だな!」
"ドラゴンクロー"
対するガバイトは弱点って何だっけと言わんばかりに氷の礫を砕きながら突っ込んできます。全ての礫を砕ききるとガバイトは全エネルギーを一点に集中させて大きく振りかぶる。
「めちゃくちゃすぎる…」
"リフレクター"
グレイシアさんもまさか最短ルートで突っ込んでくるとは思ってなかったらしく、リーフィアさんが感嘆を漏らしつつもカバーに入ります。大技ドラゴンクローが命中しますがリフレクターは壊れません。しかしリーフィアさん曰くリフレクターも万能という訳ではなく、技に込められたエネルギーの何割かはダメージとして届くらしいです。それでも充分すぎる防御技だと思います。
「悪いけど、慣れない環境で戦うグレイシアのためにも早く決着を着けさせてもらうよ」
"ソーラーブレード"
「やべぇ、避けきれねぇ」
日本晴れも相まって即座に太陽のエネルギーを込めた草剣を出現させます。ガバイトはドラゴンクローの後隙で避けられるはずもなくダウン。赤子の手をひねるかのようなあまりにも早い決着。私もフカマル達もポカンと口を開けることしか出来ません。
「手出ししなくても私だけで全滅させられたのに」
「さすがに弱点は可愛そうだろう」
「自分で倒しておいてよく言うわね。どう?これでもまだお菓子欲しいかしら?」
当然フカマル達は高速で首を横に振る。このお二方、正直言って
○
*マニューラside
「ほお…あれがチーム『スノードロップ』の実力ですか」
敬語で感心するのは俺の相棒ーードンカラスだ。春染事件ではチェリムとの激戦の果てに気絶していたため、チーム「スノードロップ」が実際にバトルしているのを見るのは今回が実質初めてと言っても過言ではない。
「あのレントラーを倒し、チェリムと互角に渡り合ったチームだからな。これくらいやってもらわないと困る」
「あんな平和ボケしたチームが?ご冗談を」
それが普通の感想だろう。俺もリーフィアとチェリムのバトルを見るまではそう思っていた。それが中々どうして、神様を守るほどの守護者と同格とは一体誰が予想できようか。
「信じるも信じないも勝手にするといい。少なくとも下で圧勝してるのは変えようもない事実だ」
「ええ、俄かに信じ難いですがバトルの腕だけは確かのようですね。ですが、
「………ああ、そうだな。怪現象の謎を先に解き明かすのは俺たちだ」
○
*タマンタside
「さて、無事にお菓子も守れたところで依頼主を探さないとね」
「とは言ってもこんな広大な砂漠のどこにいるのよ。見渡す限り砂、砂、砂…お菓子を狙われて追いかけられたり、過酷な悪天候だったりデジャブしか感じないわね」
「この調子で依頼主が守護者でエムリット様みたいな神様と一緒にいたりして…ってそんな上手い話がある訳ないですよね〜」
冗談のつもりでした。これから始まる目処が立たない捜索の気を紛らわすための。返ってきたのは守護者や神様といったワードから最も無縁そうなフカマル達からの鮮烈な情報。
「何で神様のことを知ってるでやんすか…?」
「もしかしてお前らが大将の言ってたズルい奴でやんすか…?」
「ちょっと待て。『ズルい』は語弊だ」
「そこですかリーフィアさん!?今確かに神様がいるって認めましたよ!!」
「そうよ。大将って何?もっと詳しく聞かせて?」
リーフィアさんのズレた訂正はさておいて思わぬ収穫です。大将…きっとチェリムさんやレントラーさんを知ってる依頼主さんに違いありません。
「あっでもこれって喋っていいやつだったでやんすか…?」
「そういえば神様と守護者様から黙っているように言われてたでやんす…」
マズいです。フカマル達が自分たちの失態に気付いてしまいました。そこまで喋ってしまったらもう手遅れのような気がしますが…何はともあれ、この機会を逃したら次はいつ手に入るか分からない貴重な情報、仮にも情報屋の弟子である私が逃す訳にはいきません!
「教えてくれたらヒメリパイを1つずつ分けてあげるんですけどね〜黙ってるように言われたなら仕方ないですね〜この極上のヒメリパイを味あわせてあげられないなんて本っ当に残念で仕方ないです」
「「「「じゅる……」」」」
「タマンタちゃん!?」
「まぁまぁ。これで依頼達成や怪現象の謎解明に近付けるなら安いもんじゃないですか。これほどコストパフォーマンスの良い交渉、他にありませんよ?」
「本当にくれるんだな?本当に、本当にくれるんだな?」
これはあと一押しすれば落ちそうですね。交渉術の肝はいかに逃した際の魚を大きく見せるか。
「ええ、本当ですよ?ですが、この機会を逃したら一生食べられないかもしれません。さぁ、どうしますか?」
「「「「その話、乗ったでやんす!!」」」」
「全く、恐ろしい交渉術だこと」
「これくらい、私にとってはお手の物です!」