ポケットモンスター待雪草   作:プシュケ

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p7 カフェ「猿の腰掛け」

*リーフィアside

 

依頼とはいってもチーゴの実のタルトを持ち歩いたまま調査する訳にはいかないので、まずは街のポケモン達への挨拶兼聞き込みだ。

 

"猿の腰掛け"

 

味のある木彫りの看板が掛けられたドアを開くとカランコロンと軽快な音が出迎える。

 

「りーしゃんりーしゃん」

 

のはずだったが可愛らしい鳴き声もついてきた。どうやらただの鈴ではなくリーシャンだったようだ。

 

「ますたー、お客さんです!」

 

ますたーと呼ばれる紫色の猿のようなポケモンが作業中の手元から顔を上げる。

 

「やあ、いらっしゃい。そっちはボーイフレンドかな?」

 

「もう、会うポケモン皆そんなこと言ってからかうんだから」

 

「いつもこんな風にからかわれてるのか?」

 

「そんなことはないよ、それだけお似合いってことさ」

 

「またからかって」

 

グレイシアはムスっとしてそっぽを向く。

 

「さて、自己紹介が遅れたね。僕はカフェ「猿の腰掛け」のマスター、エテボースだよ。と言ってもカフェはほとんどピンプクとリーシャンに任せているけどね」

 

「料理担当のピンプクです!」

 

「ウエイトレスのリーシャンです!」

 

「仕事をしないオーナーか…」

 

「おっと、勘違いしないでおくれよ。猿の腰掛けはカフェであると同時に道具屋でもあるんだ。僕はそっち担当さ」

 

「特性"ものひろい"に"テクニシャン"、まさに天職って訳だ」

 

「ご明察。今日はどんな用でこの店に?」

 

「まずは自己紹介のお返しを、私は1ヶ月前に記憶を失ったリーフィア 。今はそこにいるグレイシアとチーム"スノードロップ"を結成して例の怪現象を調査しているよ。今日は聞き込みがてら挨拶に」

 

「ほぉ、それはまた面白いね」

 

「ますたー、記憶を失われてるのに面白いなんて失礼です」

 

「いや、記憶を失ってるからといって別に不便はないからいいよ」

 

「リーフィアさんすごく図太いですね…」

 

「それで、面白いとは?」

 

「だって街の皆は気にしてないけど、1ヶ月経ってなお未解決だろう?それに本当に真犯人がいたとして目的は何だ?怪現象を起こしたはいいが、その後があまりにも音沙汰が無さすぎる。まぁそれは追々調査すれば分かるとして、それほど多くの記憶を一斉に消せるほどのポケモンだ。調査することは(かえ)って危険のように思えるが」

 

「私はグレイシアに助けられてグレイシアは大切なポケモンの記憶を失った。理由はこれで充分か?」

 

「なるほど、グレイシアはいいパートナーを持ったね。コーヒーを淹れてあげるからいつまでも拗ねてないで午後のティータイムとしよう」

 

「拗ーねーてーまーせーんー!」

 

 

*エテボースside

 

4匹をカウンター席に座らせてコーヒーサイフォンとフラスコを用意する。

 

「それで今日のお菓子はなんだい?」

 

さっきの名誉挽回という訳ではないがグレイシアが持ってきてくれるお菓子はピンプクの料理に負けず劣らず美味しいので、いつもオーナーの僕自らそのお菓子に合うコーヒーを淹れている。

 

「今日はチーゴの実のタルトよ」

 

バスケットから出されて皿に乗せられたそれはしっとり焼き上がったタルト生地に生クリームとチーゴの実がこれでもかとばかりに敷き詰められている。ピンプクとリーシャンも目を輝かせているのを見るにグレイシアが来る日を心待ちにしていたようだ。

 

「今からカフェラテを淹れるから待っててね」

 

「わぁ…コーヒー豆のいい香り…」

 

コーヒーの香りにはリラックス効果があり、さっきまでムスっとしていたグレイシアの頰も緩んでいる。抽出されたコーヒーに温めた牛乳を注いで皆の似顔絵を描いていく。

 

「はい、お待ちどうさま」

 

「相変わらず上手ね」

 

「君のタルトには負けるさ。さぁカフェラテが冷めないうちに食べようか。それじゃあ」

 

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

「美味しい〜!今度作り方教えてくださいよ!」

 

「いいわよ、いつが空いてるかしら?」

 

グレイシアはここ1ヶ月元気が無かったが、随分と元気になったもんだ。元気が無かったのはやはり大切なポケモンの記憶を失ったのが原因だろう。

 

ふと僕が加工したペンダントへ視線を移す。グレイシアからお守りを加工するように依頼された時に話を聞いたはずだが、例によって僕もお守りの彼を思い出せないようだ。

 

全員食べ終わってウエイトレスのリーシャンがお皿を運んでくれる。しかし、まだ小さいリーシャンにとっては5匹分の食器とコップを一斉に念力で制御するのは難しかったようで食器はカタカタ揺れている。

 

「無理しなくても2回に分ければいいんだよ?」

 

「これ…くらい…大丈夫、です……あっ」

 

予想通りというべきか、積み上がっていたお皿が崩れ落ちる。尻尾を上手く使…その必要は無さそうかな。

 

"草結び"

 

リーフィアが草のクッションを作って衝撃を吸収してくれる。

 

「も、申し訳ございませんリーフィアさん!」

 

「怪我は無い?」

 

「ありがとう、助かったよ。リーシャンも無理はしなくてもいいから安全なもので少しずつ練習していこう」

 

「はい!」

 

あたふたしてるリーシャンにリーフィアは優しく微笑みかける。この優しい感じ、さっきの草結び、間違いない。あのお守りから感じる力と一致している。記憶を失ってもなお、不思議な縁に引き合わせられて調査隊を結成している…お互いを想う気持ちがそうさせたのか、はたまた神の悪戯(いたずら)か、ここまで運命的な巡り合わせを目の当たりにできるとは。

 

しかし、それを口に出すようなことはしない。仮にグレイシアの大切なポケモンがリーフィアだと分かったとしてすぐに受け入れられるだろうか。2匹の思い出は真っさらになってしまったのだ。あのお守りに込められた想いは2匹で過ごした日々の上に成り立った信頼の結晶だ、決して他人に真実(答え)を教えてもらってできるものじゃない。前のように戻りたいなら君達自身で真実を掴み取れ。

 

大丈夫、君達ならできるさ。

 

ーーだって元気の無かったグレイシアがリーフィアに出会ってからこんなにも楽しそうなのだから。

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