ポケットモンスター待雪草   作:プシュケ

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p.9 Silver bullet【挿絵】

*ロズレイドside

 

時刻は午後4時。冬の空は早くも夕暮れに染まり始めていた。澄んだ青から静寂の闇へと変わるその一時(ひととき)はいつもであれば幻想的なのだが、この場面においては焦燥を駆り立てるタイムリミットでしかなかった。

 

急がなければならない理由は2つ。

 

怪現象以後、御霊の塔は封印が弱まっている状態にある。とは言っても私はミカルゲが怪現象の黒幕だとは思っていない。何故なら、弱いながらもまだ封印され続けているからだ。あくまで怪現象の余波で封印が弱まってしまっただけなのだろう。故に誰かが故意に封印を解かない限り害はない。

 

しかしこの事実はつまり、裏を返せば御霊の塔に要石をはめ込めば子供でも簡単に復活させられるということだ。では何故そんな危険な代物を封印し直さなかったのか。

 

否、封印し直せなかったのである。

 

恐らくミカルゲは500年前に伝説のポケモンによって封印されたのであろう。その複雑な術式は500年続いたのも納得できると同時に、私たちの力と技術ではあまりにも不釣り合いで上書きすればバランスが保てなくなってしまうほどに繊細だった。

 

そんな危険な御霊の塔から早急に子供達を連れ戻さなければならない、まずこれが1つ目の理由。

 

2つ目は先生のスピードから鑑みて既に手遅れである可能性が高いこと。時間が経てば経つほどに子供達が無事である保証も、ミカルゲが御霊の塔に留まっている保証も無くなっていく。そうなれば捜索は困難になると共に被害は拡大する一方である。

 

しかし不幸中の幸いとでも言おうか。先生によると、もし仮にミカルゲの封印が解けたとしてもすぐには本来の力が戻らないという。封印の要は文字通り要石にあって二重に封印が掛けられているからだ。

 

体が戻ったミカルゲはすぐにその封印を解こうとするだろう。だから本来の力を取り戻される前に叩く。伝説のポケモンに封印されるほどのポケモンであろうと、力の半分以上が封じられているのであればこちらにも充分勝機はある。

 

だから、今は何よりも速く風を切れ。

 

 

*スボミーside

 

やっぱりこんなところ来ちゃいけなかったんだ。

 

御霊の塔に着いたら急にゴンベ君が何かに引き寄せられるかのようにゆっくりと歩き出した。何度呼んでも反応しないし噂は本当だったんだって確信した。ねぇ、帰ろうよって何度言ってもその声が届くことはなかった。

 

すぐに大人に伝えなきゃって思った。だけど出来なかった。操られてるのはゴンベ君だけだけど、辺りには肌をピリピリと刺すような気配が漂っていて足が地面に縫い付けられたようだった。

 

結局私とマネネちゃんは何も出来ないまま、ゴンベ君は小さな塔に不思議な模様が描かれた石をはめ込んだ。すると気配はそれまでの比じゃないほどに増幅して心臓を鷲掴みにされるような恐怖が心に刻まれた。

 

震えは止まらず冬だというのに冷や汗が止まらない。体からは熱が奪われ力も入らない。ゴンベ君とマネネちゃんは倒れ、次は私だというのに泣き叫ぶことしか出来ない。

 

「封印が弱まって操りやすい子供が近付いた。ああ、我は何て幸運なんだろうな。500年振りの景色は実に素晴らしい。だが、まだ足りぬ。お前で3つ目だ、我が礎となれ」

 

「い、いやぁ…来ないで!」

 

もう、ダメかもしれない。

 

 

「……そこのポケモン、止まれ」

 

 

ミカルゲの声に顔を上げるとそこには(ロズレイド)の姿があった。助けに来てくれたんだ…!

 

「お前…よくも子供達を…!スボミーに手を出したら分かってるだろうな」

 

「言ったはずだ、少しでも動いてみろ。この者の命は無いと思え」

 

でも、ごめんね。お母さんは私の喉元に鋭利な影を突き立てるミカルゲをポケモン1匹殺せそうな視線で睨みつける。それが私が人質に取られ、一触即発のこの状況において精一杯の牽制だった。

 

この状況を打開する起死回生の一手は無いか、好機は無いか、ロズレイドの脳はかつてないほどに目まぐるしく稼働していた。

 

故に気付かない。夕暮れで元々長い影が更に伸びて迫ることに。私もこんな状況では伝えることは愚か、音を発することすら叶わない。ごめんね、私がちゃんと止めてれば、私が人質にさえ取られていなければ、お母さんまで危険に晒すことはなかったのに。

 

 

リーフィアside

 

嫌がるグレイシアの手を引いて走ること十数分。さすがに単独で走るロズレイドさんからは徐々に遅れてるが、スボミーのことが心配で仕方ないだろうからペースを合わせてほしいなどとは言わない。しかし、1匹でミカルゲを相手にするのが危険なのも事実。病み上がりとは言え1日経ってだいぶ感覚を取り戻した体にムチを打って全速力でロズレイドを追いかける。

 

やがてロズレイドが足を止めた。まだ少し遠いけどあれが御霊の塔か。スボミーに黒い物体が突き立てられているのを見るに人質を取られていて動きが取れないらしい。

 

あれでは近付いたらミカルゲの警戒心を更に煽ってしまうだけだろう。幸い今、ミカルゲの注意はロズレイドに向いている。遠距離からミカルゲだけを一点集中で吹っ飛ばせる速い攻撃を出せればいいのだが……草や氷では不可能か。

 

「グレイシア、悪い。これしかないんだ。覚悟を決めてくれ」

 

"電光石火"

 

「えっ何の?いぃぃやぁぁああ」

 

私は一気に加速してグレイシアをミカルゲ目掛けてぶん投げた。

 

 

グレイシアside

 

「いぃぃやぁぁああ」

 

リーフィア何てことをするの絶対に許さない、絶対に許さないんだから!私を殺す気ですか?とりあえずこのままぶつかったら私もシャレにならないわね。

 

"オーロラベール"

 

リーフィアも許せないけどミカルゲ、貴方も許せないわ。子供を人質に取るなんて最低よ。そんなあなたには今ならリーフィアへの恨み増し増しで高速弾丸タックルをお見舞いしてあげるわ。

 

電光石火の慣性そのままに投げられた力によって加速する。聞こえるのは風切り音のみ。

 

「スボミーちゃんから!」

 

"Silver bullet"

 

「離れなさい!!」

 

「グオっ!?」

 

オーロラを纏った銀の弾丸がミカルゲに直撃し、ミカルゲは川に投げられた小石のように地面を跳ねていく。やがて岩に打ち付けられることでミカルゲはようやく止まった。

 

「お母さぁん、怖かったよぉ」

 

緊張の糸が切れたのかスボミーちゃんは涙を流しながらロズレイドの胸に飛び込む。ロズレイドはそれを優しく受け止め頭を撫でながら

 

「本当に無事でよかった…!これからはこんな危険なことするんじゃないぞ」

 

「うん…うん…!でもゴンベ君とマネネちゃんが…」

 

「後は母さんに任せてくれ。グレイシア、ありがとう。もう一つ頼み事をして申し訳ないが、スボミーをポケモンセンターまで連れて行ってくれないか?さっきのタックルで君も決して少なくないダメージを負っただろう。ミカルゲは私とリーフィアで何とかしよう」

 

「分かったわ。それでリーフィア、私であんなことをしたんだからあなたも覚悟は出来てるわよね」

 

にこっ

 

「い、いやぁ見事なタックルだった。まるでムクバード副隊長の敵討ちを見ているようだったよ」

 

リーフィアは冷や汗を垂らしながら目線と話を逸らす。普段なら制裁を下しているところだけど、今はミカルゲと戦ってもらわないと困る。

 

「はぁ、次はリーフィアが頑張る番よ。無事に帰ってこなかったら絶対許さないんだから!無事に帰ってきても絶対に許さないけど!」

 

「そいつはミカルゲよりもよっぽど恐ろしいな」

 

そう言ってリーフィアは不敵に笑っていた。たぶん私も同じように笑っていたのだと思う。




しーくさん(Twitter→https://mobile.twitter.com/takumasiku )からリーフィア君の挿絵に引き続いて3話グレイシアの挿絵もいただきました。

【挿絵表示】

はぁ…表情、仕草、セリフ、どれを取っても尊いです。私筆者はリーリエがシロンを捕まえた時くらい感動しております。本当にありがとうございました!
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