今は放課後の自主練習…の筈なのだが、全員が残っていた。
「じゃあ、自由曲を決めます。」
杉原の提案により、今日自由曲を決めることになった。
無論、去年から候補があるわけでもないので、初めから決める。
今年の部員は25人。必然的に小編成での出場となる。
小編成部門では、自由曲のみ、7分間以内での演奏。
全国大会には行けないが、支部大会までは行ける。
友希那達が目指すのは、支部大会での金賞だ。
吹奏楽コンクールでは、全組織が金・銀・銅に分けられる。
銅賞だからと言って3位と言うわけではないのだ。
金賞の中でも上位の組織は代表として上の大会に進めるが、ダメ金と呼ばれるものは、代表にはなれない。
友希那的にはこれが1番嫌だ。
せっかく金を取ったと思ったらその大会止まりだなんて、あんまりだ。
「一応候補は決めてきてあるので、貴女達に聞いてもらって投票で最終決定します。」
投票制か。
こんな事初めてだ。
「3曲あるけど、まずは1曲目。『青い水平線』」
イングリッシュホルンと金管楽器のファンファーレ、弱奏が特徴的な曲だ。
イングリッシュホルンとは、アルトオーボエとも呼ばれる楽器で、オーボエよりも低い音が出る。
オーボエかアルトサックスが持ち替えればいけるだろう。
「2曲目、『マードックからの最後の手紙』」
有名な曲だ。
フルート、クラリネット、オーボエ、アルトサックス、ピアノとソロが多い。
これも持ち替えればいけるだろう。
「3曲目、『ケルト民謡による組曲』」
第2楽章の長めのピッコロソロが印象的なソロだ。
第1楽章、第2楽章、第3楽章と、楽章による変化が激しい。
うちには日菜がいるので、これが1番良いかもしれない。
「では、投票を始める。全員伏せろ。」
3曲目にしよう。と思い、机に伏せる。
…というか、この人急に乱暴な口調になった。
化けの皮が剥がれたのか。
「相談は禁止だ。1曲目がいい人。
…2曲目。
…3曲目。」
手をあげる。
伏せながら手をあげるというのはなかなかに難しい。
「顔を上げろ。
…では今年の自由曲は満場一致で『ケルト民謡による組曲』に決まりました。」
全員3曲目に手をあげたのか。
以心伝心。
友希那の頭の中に今日習った四字熟語が思い浮かんだ。
「楽譜は明日配る…配ります。
今日は基礎練をしといて下さい。以上、解散。それぞれに散れ。」
と言い残し、杉原は去って行った。
嵐のような人だ。
友希那は舞台に立つ。
「では今日はパート練です。
1年生が多いので、全員ここで練習して下さい。
金管は2年生が少ないので、木管の2年も指導に回るように。」
「はい!」
「1年生は準備室に楽器を選びに行って下さい。
あと、自分の楽器持ってる人いますか。」
学校の楽器はそこまでいいものでもないので、自分の楽器を持って居るのに越したことはない。
「はい! あたし持ってるわ!」
弦巻さんだ。
「貴女は経験者なの?」
「いいえ。お父様が趣味で楽器を集めてるのよ。」
彼女はお嬢様なのだろうか。
それにしても…。
「敬語。」
「あら、ごめんなさい。難しいわね、敬語って。」
はぁ。
全土多難だな。
「他には?」
いないようだ。
「じゃあ、弦巻さんは明日自分の楽器を学校に持ってきて下さい。」
「わかったわ…かりました!」
「1年生と1年生がいるパートの2年生は準備室に移動。
パーカッションとその他の人はここで練習しといて下さい。」
「はい!」
オーボエと大半の金管楽器は2年生がいないので、部長である友希那が付いて行く。
楽器選びは1年生に任せるので、友希那が口出ししなくてもいいだろう。
「あの、友希那先輩。」
「どうしたの? 蘭。」
「楽器、買った方がいいですか?」
この子は楽器を買うつもりなのか。
「オーボエは高いわよ。中古でも50万は安い方だわ。」
「多分大丈夫です。」
「リードでもお金を使うわよ。」
「あたし、オーボエ結構本気なんで。」
人の家庭事情に足を踏み入れるほど、友希那も非常識ではない。
もしかしたら、この子もお嬢様なのか…。
「どうしたんですか?」
「いいえ、とりあえず準備室に行きましょうか。」
他の1年生はもう行ってしまったようだ。
早く行かなければ。
「私、これにする〜!」
「あたしはこれにするわ!」
「じゃあはぐみはこれ!」
「あの、私、銀色のがよくて、銀色のユーフォ吹いてる人がすっごいカッコよかったんです! 銀色のありますか?」
「うーん、アタシはわかんないな。部長に聞いてみよっか。」
…みんな元気そうでよかった。
「ゆっきな〜!」
「何かしら。」
リサはクラリネット担当だが、ユーフォニアムの1年生の指導も担当してもらっている。
ユーフォニアムは1人だけなので、リサなら多分大丈夫だろう。
「ひまりが銀色のユーフォがいいって言ってるんだけど、銀色のやつってどれ?」
早速名前呼び。
リサはコミュニケーション能力が高いのだ。
「左から4番目のよ。黒いケースの…。」
「ありがと! ひまり! 黒いやつだって!」
「部長! ありがとうございます!」
テンションの高い人たちだ。
いかにも女子高生と言った感じの。
「蘭、オーボエはこっちよ。」
戸惑っていた様子の蘭の手を引き木管楽器が揃っている場所に連れて行く。
「あ、ありがとうございます。」
リサとは逆に、この子はコミュニケーション能力が低いのだろうか。
…高くはなさそうだが。
「思ってたより綺麗なんですね。学校の備品って言うから、もっと汚…綺麗じゃないと思ってました。」
「元々は強豪だったから手入れも行き届いていたんじゃないかしら。
去年はろくに練習してなかったし。」
「へぇ…。」
ポツリと零し、蘭は1台の楽器を手に取った。
「とりあえず、これにします。」
どうせ楽器を買うなら今は必死に選ぶ必要もないだろう。
買うメーカーや機種を決めているのなら別だが。
「リードは…これね。」
オーボエ本体の隣の四角い箱の中に、リードが入っていた。
かなりの数だ。5本はあるだろう。
1本3000円として、15000円。
…リード楽器じゃなくてよかった。
フルートは木管楽器だが、エアリードなのでリードは必要ない。
リコーダーと同じようなものだ。
リコーダーよりは音を出すのは難しいが。
「じゃあ、全員音楽室に戻るわよ。」
「はい!」