湊 友希那は悩んでいた。
「人が足りない。」
と言うものの、去年は軽く50を超えていた吹奏楽部の部員が、1桁になってしまったのだ。
部長としてあるまじき問題だ。
去年の3年が30人を上回っていたのもあるのだが、
今年の3年はやる気のない部員ばかりで、全員受験の為に退部してしまったのだ。
それと同時に、3年と仲の良かったやる気のない2年も退部してしまったので、
今の吹奏楽部の部員数は実質8人だ。
しかも、2年だけ。
コンクールに出場できる最高人数は55人。
「7倍…。」
友希那は途方に暮れていた。
楽器経験がある2年を誘おうか?
でも、楽器経験があるのに吹奏楽部に入っていない人間がいるのか。
1年の部員勧誘を盛大にしようか?
しかし、こんな弱小部に入ってくれるのか。
悩み歩いてたどり着いたのは部室となる音楽室だった。
取り敢えず、部員に相談してみよう。
部室の扉を開けると、既に友希那以外の2年部員は揃っていた。
氷川 紗夜。
アルトサックスを担当している。
アルトサックスはメロディーやソロが多く、技術の優れた彼女にぴったりの楽器だろう。
ただ、音に感情がこもっていないのが彼女の欠点だと友希那は思っている。
氷川 日菜。
紗夜の双子の妹で、ピッコロ担当。
彼女は天才だ。
ピッコロもソロが多い。特に課題曲のマーチでは、ほぼ毎年ソロがある。
これも適しているのだろう。
ただ、彼女の音は、どんな曲でも楽しそうなのだ。
白金 燐子。
友希那と同じ、フルート担当だ。
高校から始めたそうなのだが、要領が良く、直ぐに上手くなった。
松原 花音。
バスクラリネット担当。
普段は大人しく、常にビクビクしているのだが、
楽器を演奏する時は性格が変わる。
バスクラの事を話し出すと止まらない、ちょっと変わった子だ。
瀬田 薫。
バリトンサックス担当で、中学からの経験者。
経験者という事もあってか、楽器の腕前は眼を見張る程だ。
俗に言う、『女子校の王子様』で、バレンタインの時期には良く困っているのを見かける。
丸山 彩。
ホルン担当だ。
やる気がなく全く練習をしない先輩や同学年の中でも一生懸命に練習していた。
そのおかげか、初心者だった彼女も音が安定するようになった。
SNSが好きな、今時の女子高生と言った感じだ。
大和 麻弥。
パーカッションでドラムを担当している。
スタジオミュージシャンで、その腕前はプロ級だ。
普段は眼鏡をかけているのだが、それを取ると彼女の美貌が明らかとなる。
偏りすぎだ。と友希那は思う。
というのも、今の部には金管楽器が彩しかいないのだ。
これは新入部員を確保するしかない。と友希那は意気込んだ。
「じゃあ、部内ミーティングを始めます。」
「はい!」
「新学期なので、まずはパートリーダーを…」
そこで友希那はいい止まった。
ほぼ全員がパートリーダーではないのか。
部長である友希那はパートリーダーにはなれない。
よって、フルートのパートリーダーは燐子か日菜になる。
他のパートは全て1人ずつなので、決めなければいけないのはフルートパートだけだ。
改めて人数の少なさを実感する。
「人数、少なくなっちゃったね。」
花音が口を開く。
友希那は溜息をついた。
「はいっ!」
「どうしたの、日菜。」
「知り合い誘えばいいんじゃない?」
…!
その手があったか。
「そうだね。私は千聖を誘ってみようか。きっと千聖も入ってくれるだろう。あぁ! なんて儚いんだ!」
千聖…。
「彼女は何か楽器ができるの?」
「確か、バイオリンを習っていた筈だが…。」
バイオリン。
オーケストラ編成では重要な楽器だが、吹奏楽には無縁の楽器だ。
「こ、コントラバスはどうでしょう?
同じ弦楽器ですし、基本は一緒だと…。」
燐子が自分から話すなんて珍しい。
「でも、入部してくれるかわかんないよ。
千聖ちゃん、なんかいつも忙しそうだし…。」
彩はいつも後ろ向きだ。
治してほしい、と、友希那は思う。
「ねぇねぇねぇ! リサちーも誘おうよっ!」
リサ。友希那の幼馴染で、家が隣のご近所さんだ。
彼女ならこの部に入ってくれるだろう。
友希那には謎の確信があった。
「じゃあ、薫と花音は千聖を誘っておいて。」
「ふぇぇ! なんで私も?」
「花音の頼みなら、千聖、なんだって聞くでしょう?」
千聖は花音に甘いのだ。
そして、薫に厳しい。
それを見ているのは凄く面白い。
「じゃあ、湊さんは今井さんを誘っておいて下さいね。」
紗夜は日菜以外の全員に敬語で接する。
距離が遠いのだ。
もう少し近づけばいいのに。
「勿論、わかっているわ。」
これで10人。
無論、2人が断る可能性などこれっぽっちも考えていない。
無理矢理にでも引っ張ってくればいいのだ。
A部門で出場できないとしても、小編成で関東に行ってやる。
湊 友希那は意気込んだ。