「えっと、知ってると思うけど、新入部員の今井リサです!
よろしくお願いしま〜す☆」
「白鷺 千聖です。よろしくお願いします。」
友希那は胸中でほくそ笑んだ。
大勝利だ。
「それで友希那ちゃん、私達は何の楽器を担当すればいいのかしら。」
それが問題だ。
このメンバーの中で考えると、金管楽器が欲しいところだ。
しかし、楽器には向き不向きがある。
不向きだったら元も子もない。
しかも、今の部には何故かクラリネットがいない。
リサにはクラリネットを担当してもらおうか…。
「千聖はバイオリンをやって居ただろう? コントラバスはどうだろうか。」
「コントラバスって…。」
「バイオリンと同じ、弓で弦を擦って音を出す弦楽器ですね。
大きさはバイオリンの3倍くらいですが、重さは約20倍です。
低音域を担当する楽器で立って演奏する事が多いです。」
「麻弥、良く知っているわね。」
「ふへへ…ありがとうございます。」
この笑い方と眼鏡をやめれば超美少女なのにな。
と、友希那は思う。
「一度見てみたいわね。」
「それもそうね。薫。」
「ああ、分かっているよ。千聖、準備室に行こうか。」
「ええ。」
これで、千聖の楽器はほぼ決定だ。
あとはリサ。
「リサ、木管と金管、どっちがいい?」
「え、ええ?」
まあ、戸惑うだろう。
初心者は金管、木管と言われても、何が何だかさっぱりわからないのだと言う。
「クラリネットとかが木管で、トランペットとかが金管よ。」
「じゃあ、木管で!」
何故だろう。
派手な物好きの彼女の事だから、トランペットとか言うと思ったのだが。
「金管って唇ブルブルするんでしょ? アタシ、アレ出来ないからさ…。」
アレが出来ない人なんているのか。
致命的ではないのか。
「紗夜、クラリネットを1台持ってきてくれないかしら。」
「はい、わかりました。」
この学校は昔強豪だったこともあって、楽器は揃っている。
それだけが唯一の救いだ。
今までそれが手持ち無沙汰になって居たのは、少し悲しい気がする。
演奏してもらえないなんて、楽器が可哀想だ。
取り出した自身のフルートを眺め、ふとそんな事を思った。
友希那の楽器は学校の楽器ではない。
マイ楽器というやつだ。
初めて楽器を買ってもらったのは小学生の頃。
その楽器をずっと使って居たのだが、中学卒業と同時に新しい楽器を買ってもらった。
アベルというアメリカ製のフルートだ。
このメーカーは柔らかく暖かい音色が出るのだが、
友希那が頑張れば艶やかで大人っぽい音色も出せる。
そういう所が気に入っている。
まぁ、値段はあまりにも高いのだが。
そんな事を考えている間に、初心者2人は試して吹き…もとい試し弾きをしているようだ。
リサの担当する(予定)のクラリネットはリード楽器だ。
これは紗夜が担当しているアルトサックスと同じなので、任せておいて構わないだろう。
細かい所を言うと全然違うのだが。
初めてにしては音も出ているようだ。
先は明るいだろう。
…さて、千聖はどうだろうか。
コントラバスの方へ目をやる。
コントラバスは大きいので目立つ。
在るだけで凄い存在感を放つ楽器だ。
そんな楽器を小柄な千聖が弾きこなせるのだろうか。
友希那の思いとは裏腹に、基本的にはバイオリンと同じなのか。
運指表を片手に力強い音色を奏でている。
悩みは杞憂に終わりそうだ。
さて、と、友希那は思考を別の事に移す。
あとは新入部員の勧誘だ。
各学年に何人かは音楽好きな子がいるので、少なくとも5人は入ってくれるだろう。
…多分。
今年のA組に音楽に秀でた子はいるのか。
友希那は心を踊らせて居た。