わからない。
何故昔の言葉を勉強しなければいけないのか。
現代国語もわからないのに古文が分かるはず無いではないか。
別に友希那は勉強が苦手なわけではない。
…興味が無いだけだ。
そんな事より今日から1年生の部活動体験開始だ。
緊張して授業に集中する事など出来ない。
出来る訳がない。
ああ、早く放課後になればいいのに。
部活に行きたい。
「ではこの問題を…湊さん。」
無性にフルートが吹きたい。
友希那は友希那の音が大好きなのだ。
「湊さん。」
別にナルシストではない。
自分の出す音が好きなだけだ。
「湊さん!」
「は、はい。」
ヤバイ。全然聞いて居なかった。
取り敢えず席から立って見たものの、何をすればいいのか全くわからない。
「友希那ちゃん、25ページの5行目だよ。」
前の席の彩がこっそり教えてくれた。
「ま」るやまと「み」なとなので、新学期が始まったばかりの今は、席が近いのだ。
とてもありがたい。
「ありがとう。」
小声で礼を言うと、指定された部分を読む。
…何故国語の授業はこんなに眠いのだろう。
やっと放課後だ。
待ちに待ったこの時がやってきた。
友希那は意気込んで鞄を肩にかける。
「友希那ちゃん、一緒に行こっ!」
「ええ。」
彩とは去年も同じクラスだったので、比較的仲が良い。
真面目だがドジなのがたまに傷だ。
成績的には余裕でC組なのだろうが、時折授業中に眠っているからB組なのだろう。
気持ちは凄く分かる。
「友希那ちゃん、今日寝てたの?」
そんな失敬な。
「いいえ。少し考え事をしていたの。」
「へえ。さっすが部長さん!」
彼女は素でこう言う事を言う。
それが彼女が好かれる理由なのだろう。
休み時間も良く友人に囲まれているのを見かける。
…専らいじられ役なのだが、それも愛されている証拠だろう。
と、私も頑張らないと。と、自分に喝を入れる彩を見て思う。
彩は何をして居ても面白い。
「ちょ、ちょっと! 友希那ちゃん、何笑ってるの!」
「いいえ。面白かっただけよ。」
「何が! も〜! 教えてよ!」
騒ぐ彩をスルーし、部室への廊下を歩く。
少し緊張がほぐれた。
この子には、そう言う力もあるのだろう。
部室に着き、扉を開けると、既にリード楽器4人が練習をして居た。
流石だ。と友希那は思う。
やる気のある部員ばかりで、未来が明るい。
友希那も早速フルートを組み立て、音を出す。
初めはチューニング。
ピッチを合わせるのに必須な行為だ。
次にスケール。音階だ。
B♭から初め、だんだん高い音を出していく。
フルートは息のスピードで音を変えるので、スケールはとても大事だ。
たまに息を使いすぎて頭がクラクラする。
スケールを終えると既に部員全員が集まって居た。
伝達事項を伝える為、部員の前に立つ。
第1音楽室は舞台部分が他より高くなっている。
ミーティングの時、部長はそこに立つのだ。
部員の視線が自分に集まったのを確認し、友希那は口を開く。
「今日から1年生の部活動見学、並びに勧誘が始まります。
出来るだけ多くの部員を確保できるよう、音楽室に入った新入生は逃がさない様に。
知り合いなどは出来るだけ誘ってください。
音楽をやっている子だと、尚の事良いです。」
「はい!」
少し横暴かもしれないが、これで良いだろう。
吹奏楽部の去年までの顧問は全て生徒に任せっきりで、
部活は生徒同士が仲良くするものだと言う考えの持ち主だった。
だが、友希那はそうは思わない。
競い合い、技術を高め合うのも、部活動の一環だ。
今年は顧問が変わったみたいだが、一体どんな人になったのだろうか。
やる気のある顧問だと良いのだが。
そう考えていると、音楽室の戸がノックされた。
「どうぞ。」
友希那が応えると、扉が開く。
「1年A組戸山香澄! 吹奏楽部入部希望です!」
入ってきたのは茶色い髪を頭の上の方で猫耳の様にした元気そうな少女だった。
A組ということは相当な問題児なのか。
はたまたとんでもない才能がある子なのか。
「戸山さん…と言いましたか。楽器経験は?」
紗夜が問う。
流石。紗夜は友希那の考えを良くわかっている。
「ないです! 歌が好きです!」
友希那も歌は好きだ。
歌っていると心が晴れやかになる気がする。
そういう意味では香澄と仲良くなれるかもしれない。
「あと、この子も入部希望です!」
香澄にそう言われて入ってきたのは小柄で眩い金の髪を両耳の上側でツインテールにした美少女だった。
金髪といっても千聖とは質感が違う。
「ピアノやってたんだよね、有咲?」
「小学生の時ですけど。」
楽器経験者だ。これは良い人材だ。と、友希那はほくそ笑む。
目で合図すると、リサと花音が動き出す。
「はいはーい! これが入部希望用紙だよ〜!」
「えっと、ここが名前でここが希望部活動だから、全部書けたら担任の先生と保護者の方にサインを貰ってね。
それから部長に紙を持ってきてください。」
「はい! わかりました!」
香澄はやる気がある様で何よりだ。
隣で別に入るとか言ってないしとブツブツ言っている有咲には目を向けない事にする。
これで2人確保だ。
初日でこれは結構良いペースではないか。
すると、また扉が叩かれた。
「入部希望! 上原ひまり15歳! です!」
「なんだよその自己紹介。」
5人組だ。
一気に5人とは素晴らしい。
と、紗夜が驚いた様に目を見開いた。
「つぐみさん!」
「あれ? 紗夜さん、吹奏楽部だったんですね!」
つぐみと呼ばれた茶色い髪の子に目を向けると、紗夜を見て目を輝かせている。
紗夜と仲が良いなんて、何者だ。
紗夜と仲良くなれるなんて相当な強者だろう。
「つぐみさんは楽器をやっているのですか?」
「ピアノを10年程やってて、友達と一緒に吹奏楽部に入ろうと思って。」
ピアノ経験者か。
「他の方は?」
「私は何もやってません!」
ピンク色の髪の目立つ少女が言う。
「和太鼓やってます。」
これまた目立つ赤髪の少女が言う。
少し薫系のタイプかもしれない。
「箏やってます。」
黒髪に一房赤髪が混じっている目立つ少女が言う。
不良か。
不良の割に箏を習っているなんてもう訳がわからない。
「あれ? 蘭ちゃん! どうしたの?」
日菜と知り合いなのか。
さらにヤバいやつではないか。
「日菜ちゃん、知り合いなの?」
「うん! 中等部の時にクラスごとに1年から3年で3人組作って校外学習するみたいなのがあったんだけど、
あたしと蘭ちゃん、グループ一緒だったんだ〜。」
「へぇ。」
と言うことはA組か。
さらにさらにヤバいやつではないか。
「紗夜とその子は?」
友希那が問うと、紗夜が答えた。
「この子ではなく、羽沢つぐみさんです。
私がつぐみさんの親が経営している喫茶店で開催されたお菓子教室に行ったんですよ。」
紗夜がそんな物に行くなんて珍しい。
どんな心境の変化があったのだろう。
紗夜の話を聞いている間に、
もう1人ののんびりしていそうな銀髪の少女とリサが会話しているのが見えた。
…彼女らも知り合いなのか。
友希那の視線を感じ取ったのか、リサが少女を紹介してくれた。
「この子は青葉モカ。アタシとバイトのシフトが被る事が多くて、仲良くなったんだ〜☆」
リサはコンビニでバイトをしている。
何でも、服を買うお金が欲しいらしい。
友希那は服装にあまり執着がないので、わからないのだが。
「モカちゃんでーす。先輩方、よろしくお願いしまーす。」
「ええ。よろしく。」
のんびりした子だな。と、思った。
こんな子が激しい曲など演奏できるのか。
…まぁ、何とかなるだろう。
むしろ、あの赤メッシュの子が落ち着いた曲を演奏できるのかが問題だろう。
そもそも、入部してくれるのか。
「え、えっと。あ、あの…。」
「どうしたの? 燐子。」
燐子は人見知りだ。
初対面の人と全くと言っていいほど会話できない。
「あの、えっと、入部、希望用紙…。ここに名前、書いて…くだ、さい。えと、それで、サイン…。」
「らじゃーです! みんな、行こ行こ! サインサイン!」
「ひまり、何のサインか分かってんのか?」
「分かんないけど何とかなるって! 多分!」
なんて能天気な子なんだろう。
…今年の部活動は楽しくなりそうだ。