全ての楽器紹介が終わり、担当楽器決めに移った。
まず、1人ずつ希望楽器を吹いていき、希望者の数により、小規模なオーディションを行う。
各楽器ごとに1,2人が付く事になっている。
友希那はオーボエ担当だ。
トランペットやトロンボーンも順調に集まっているようで安心した。
「あの…。」
「何かしら。」
あの赤メッシュの子だ。
確か、蘭と言ったか。
「オーボエ希望で…。」
オーボエ希望者は初めて見た。
オーボエは良い楽器なのだが、いかんせん知名度がない。
中高と吹奏楽部に入っている友希那も、第1希望者は初めてだ。
「なんでオーボエ希望なの?」
そんな事聞かれると思っていなかったのか、彼女は少し驚いた表情を見せた。
「難しいとおっしゃってたからです。
簡単よりも難しい方が燃えるでしょう?」
…とんでもない子が来てしまった。
「では、1度リードだけで吹いて見ましょうか。」
オーボエはダブルリードの楽器だ。
クラリネットなどと違い、音を出すにはリードが2枚必要。
1枚で3000円程で購入後も微妙な調整が必要なので、オーボエはお金がかかる。
「今回のリードは学校の備品を使うけれど、オーボエ担当になったら自分でリードを買ってもらうわ。
高いから割らないようにね。」
すると蘭はリードをしげしげと眺めた。
「わかりました。」
そして、息を目一杯吸い込み、思いっきり吹く。
……!
初めてでこんなに音が出るものなのか。
「あの、先輩?」
「え、ええ。じゃあ、楽器に付けて見ましょうか。」
蘭からリードを受け取り、本体に取り付ける。
友希那はオーボエを吹いたことは無いが、運指や吹き方は知っている。
去年もダブルリードとはパート練の場所が一緒だったのだ。
「これがB♭。チューニングの音よ。」
蘭が楽器に息を吹き込む。
…吸い込まれそうな音色だ。
初めてだからかどこかたどたどしさはあるものの、惹かれる音がする。
「…これがC。ピアノで言う『ド』の音よ。」
〜♪
本当に綺麗な音色だ。
彼女には才能がある。
友希那は確信した。
「合格よ。貴女はオーボエ担当ね。」
「あ、えっと、有難うございます。」
彼女も少しテンションが上がっているのだろうか。
頬が桃色に染まっている。
…よく見ると、とても美人だ。
烏の濡れ羽色の細い髪。
繊細そうな白い肌。
儚さと情熱を兼ね揃えた柘榴色の瞳。
目鼻立ちの整った顔。
オーボエという楽器を体現したような子だ。
…思い込みすぎだろうか。
じっと見つめていると、蘭が首を傾げた。
「どうしたんですか? …先輩。」
「友希那よ。湊 友希那。友希那でいいわ。」
「友希那先輩ですね。あたしも蘭でいいですよ。」
では、遠慮なく呼ばせてもらおう。
我がフルートパート唯一の1年生だ。
親睦を深めた方がいいだろう。
「友希那先輩はオーボエなんですか?」
どうやら勘違いさせてしまったようだ。
入部したばかりなので、まだ全員の名前と楽器を覚えられていないのだろう。
「いいえ。私はフルート担当よ。」
「…ぽいです。」
「あら? そうかしら。」
2人見つめ合い、クスリと笑い合う。
蘭とは、いい関係が築けそうだ。