秋宮アンソロジー   作:秋宮 のん

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専門校で、『萌え』と『初恋』を題に書く事になった短編です。
短くまとめるのが大変でした。


萌えと初恋

萌えと初恋

 

 普通、女と出かけるにしてもいろんな場所があるのは知ってる。だから俺は自転車の後ろに乗ってる女の行きたい場所に連れて行ってやることに文句はない。少し我侭なくらいが最近の女らしいから別に良いと思う。俺だって嫌々じゃない、おまけに初恋の相手と来たからなおいい事だ。だけどさ、なあ、ここはねぇだろお前……。

「楠、着いたぞ」

 俺は後ろに乗っていた女にそう声をかける。

「………」

 だが、そいつは俺にしがみ付いたまま放そうとしない。訝しく思って顔を覗くと瞳を閉じてうとうとしてやがる。

「起きろ!! (くすのき)白妙(しろたえ)!!」

 怒声にも似た声を上げ頭にゲンコツ、白妙は両手で頭を押さえ目尻に小さな涙を溜めて顔を上げる。

 その顔は相変わらずの無表情。だが、長い付き合いからそれが非難している目だというのが俺には分かる。

「俺を非難する前にすることがあるんだろ」

 俺の言葉を聞くと納得したというより渋々と言った感じに自転車を降りる白妙。名前が白妙なわりに白い所なんてどこにもない黒統一の服を着ている。ショートカットの髪ももちろん黒だ。

 ボサボサ頭にメガネと言う俺とはえらい違いの美少女だ。友人曰く俺も美男子なんだそうだが言い寄ってくる女なんていないから怪しいもんだ。

「………」

 寡黙な白妙は俺の思考などどこ吹く風で歩いてゆく。俺もそいつのすぐ隣に並んで歩く。そうしないと人込みに紛れて間違いなく迷子になる。本当に冗談抜きでこんなところで迷子になんてなりたくない。ここ、『秋葉原』で………。

 俺がこいつのオタクという本性を垣間見たのは数ヶ月前の話だった。今年で八になる従兄弟に『魔法少女フラワー』の三人目のヒロイン『白銀の白妙』なるもののキーホルダーを鞄に忍ばされた時だった。たまたまクラスの知人にそれを見つけられクラス内で小さい騒ぎになった。俺は呆れ半分にその場を適当に流して放課後、 そのキーホルダーを教室のゴミ箱に捨てた。だが、帰宅途中に課題のプリントを置き勉しているノートに挟みっぱなしだったのを思い出し教室に戻ったところ、白妙が教室のゴミ箱を漁ってキーホルダーを確保したところに直面した。

 そんな後グダグダとあっていつの間にか俺達は親しくなってこいつのオタクを隠したり買い物に協力したりとそれが当たり前になっていた。

「グダグダだな、おい……」

呆れ半分の俺の言葉を意に関した風もなく、白妙はなんかよく分からんアニメグッズを売っている店のフィギュアを一つ手にしていた。

「萌え~……」

聞きたくねぇ~!! 寡黙無表情の女からそんなボソリとした声で聞きたくねぇ~!! どうせなら性格激変してくれて「萌え~~~!!!」とか騒いでくれた方がいくらかマシだ! 呆然としてられる分、精神的ダメージが一番軽減できる!

 ゾッとする俺をよそに次々と品定めしていく白妙、無表情のまま。

 傍から見たら、とりあえず手にとって見てみただけと言わんばかりだが、俺にはその目が思いっきり喜んでいるのが手に取るように分かる。

 白妙は今フィギュアから離れ、何かのアニメグッズらしき物を手に今までで一番喜んだ瞳をしている。もう、爛々に輝いている。やっぱり傍からは分からないけど…。それにしても今持っているのはなんだ?

 こっそりと覗き込んでみればそれは『魔法少女フラワー』に登場する『白銀の白妙』が初恋の男の子に送ったと言う羽の形をしたアクセサリーだ。ブローチだったか? 服の胸の辺りに付けるオシャレ道具の一種だな。確かアニメでは送られた初恋の相手はそれに感動して『白銀の白妙』にいきなりキスして告白するなんて言う話だった気がする。白妙が自分と同じ名前だとかではしゃいでいた。もちろん無表情で。俺には順序逆だろとツッコミたいところなのだが……。

 しかし、この『魔法少女フラワー』は少し子供向けではない気がする。白妙に半ば無理やり一話から最終話、さらにおまけサイドストーリーみたいのまで一気に見せられたことがあったが、主役の『漆黒の黒百合』は名前とクールな格好のわりにはボケボケで、その親友みたいな役回りの『真紅の薔薇』はメガネかけた知的美人に見えてメチャクチャ体力派だし、敵か味方か分からないらしい『白銀の白妙』は可憐で繊細で美人でおしとやかでと、なんか子供向けアニメと言うより、もうちょっと大人向けのアニメに出てきそうなキャラだし。そんでもって物語は完全に哲学的な話で埋め尽くされて高校生の俺ですら話に追いついていけないほどだった。あの話の内容を完全に把握するには東大をトップで卒業しないと無理なんじゃないだろうかと疑問に思った程だ。って言うか、あの物語を考えた製作者は一体何者なのか問い質したくなって来るぞ…。恋愛の話一つですら手を抜かず重い話し出しまくってるし子供受け悪そうだ。

 だが、この業界には俺の知らぬ思想と言うものがあるのだろうか、このアニメすでに第六期まで上映されているとの話だ。俺にはどこまでも理解できない世界だが白妙を見るにキャラが可愛いければ全ていいのだろう。

「これ…する……」

「分かった」

 白妙が買いたい物を手に一杯抱えて、いや、既に背負ってと言うべきか…、ともかく大量のグッズを会計しにいった。俺は返答しつつも帰りはあれを自転車に積んで俺が漕ぐのかと思うと気が滅入った。ただでさえ秋葉原なんて自転車で来るような所じゃねえのに明日までに帰るのか俺達……。

 

 

 

 

 夕方の帰り道、荷物が多くなりすぎて自転車に乗れず結局自転車は荷車状態になっていた。確実に今日中に帰宅できないな、これは……。

 何とはなしに夕日を眺めながら俺はぼやきたい気分に駆られる。初恋の相手がすぐ傍に、手を延ばせば捕まえられる所にいるのに、あらゆる面からも他人として最も近い所にいる筈なのに、俺は彼女とまったく進展しない。何より憂鬱なのは俺の気持ちはこいつに届かないと言うことだ。

 聞けば白妙はまだ恋をしたことがないと言う。それは恋という感情を知らないということだ。例え俺が彼女に好きだと今ここで告白したとしても彼女には俺の伝えたかった意味はまったく伝えられず混乱させるだけだろう。気長に待てば良い。そう自分に言い聞かせながらも彼女の心に触れられないのはもどかしかった。初恋の相手だからひとしおだ…。

 俺は心の中でそっと白妙に問いかける。

 

「 なあ 俺はいつになったら伝えられるんだ? 」

 

 問いかけた瞬間いきなり白妙が振り返ったので軽く驚いてしまった。

 白妙は何も言わず自転車に乗せた買い物袋を漁ると、一つの小さな紙袋を俺によこし、自分はさっさと先に進む。こういう時のこいつの仕草は何かプレゼントしてくれた時の仕草だと言うのを俺は知っている。渡された袋の中身を何かと思い確認し、軽く驚愕を覚えた。

 羽の形を模ったブローチ。『魔法少女フラワー』の『白銀の白妙』が初恋の相手に送った一品。

 視線を先に戻すと何かを期待して立ち止まっている白妙の背中が見えた。

 このやろう……。

 お菓子をお預けされていた子供がやっと解禁された気分に似ていた。多分顔にもそんな笑みが出ていると思う。

 俺は白妙に近づきつつ、いたずらを思いついた子供の様に笑っていた。

 え~と、確かアニメでブローチを送られた男は何をしたんだっけ?

 もしかしたら勘違いかもという怯えた心が生まれる。でも、迷わない。迷いたくない。初恋は大抵叶わないものだけど、でも、叶う時があっていいと思うから。

 いいさ、お前が望んでいるなら俺がお前を『白銀の白妙』とやらにしてやるよ。 初恋の叶った、あの白妙に。

 アニメはやっぱり俺には理解できんが、それでも今は付き合っても良いと思う。 大好きな人の、小さく不器用な願いなのだから……。

 白妙のすぐ後ろに来て自転車を固定、不安が滲み出したその肩に触れる。

「白妙……」

 肩を引き、アニメの順取りを思い出しながら俺は彼女の望みを叶えた。

 




『乃木坂春香の秘密』に触発されて書いたものです。
御題がちょうど良かったのでこんな感じになりました。
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