秋宮アンソロジー   作:秋宮 のん

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また古いのを引っ張ってきました。
キャラ優先で、作ってみた時の作品なので、世界観がまったく伝わってきません。
まあ、暇潰し程度に役立てばと思います。


虚無の日常に蒼い光を

       虚無の日常に蒼い光を

 

          1 焔

 

「何をしている?」

「ん?」

 少年、津崎(つざき)(ほむら)は、自分の所属している部活の部室の隅にいる部長に向かって憮然とした表情で問い掛ける。

「これが錬金術や魔方陣の研究に見えるかい?」

「むしろ、それらを片っ端から否定している失礼極まりない研究をしているように思えます」

「無論全ての理論を超越するのが私の求むところだ」

 焔に呆れられているこの男性、逸紫(いつむらさいき)(かえで)は子供の落書きともピカソの芸術とも取れる“絵”としか表現のできない物を紙に描き、“液体としか表現したくないもの”を入れられたビーカーをそ、の上に幾つも配置している。

「頼むから失敗しても“爆発止まりにしてください”」

「何を言う。爆発なんてありふれた失敗の形など私は許さん。例え失敗でも魔界とも天界ともとれぬ異世界の魔獣とも人間ともとれぬあらぬ生物を――」

「貴方は本当にするから止めてくださいと本気で言ってるんです」

 焔は溜息をついて呆れて見せるが、実際の所は全く興味を持っていなかった。彼はたんなる癖でこういった反応を示すだけだ。

「む、不老不死という世界の神秘が硬い事を言うでない」

 言われた焔は今度は本当に心から疲れた溜息を吐く。

「不老不死でなく、俺は不老だ」

「似たような物だよ」

 ここら辺でこの二人の詳しい説明をしたほうが良いだろう。

 津崎焔は不老の少年、自分がいつの時代の人間だったかは既に覚えていない。

 男性にしては長めの髪は黒というより暗いと表現される光を全く反射しない色をしていて、その瞳は何処までも漆黒な闇色である。

 だが、顔は童顔で着やせるタイプなため、服装次第では女性に間違われる事も多い。不老なのでこの体系は死ぬまで変わらない。

 現在は高鳴学園の高等部二年生として在籍している。

 対して逸紫楓。ボサボサの髪なのに何故か整って見え、吊り上った目はどこか不敵な笑みを思わせ、かけられた伊達眼鏡が知的性を醸し出し美形少年にさえ見える。

 実際天才なのだが、自分の興味の無い事に関しては全く取り合わず、逆に興味のある物に対しては、他人の迷惑など知ったことなく躊躇無く暴走する。いや、むしろ自発的に暴走する高等部三年生である。

 それでも女性に上下関係無く好かれるいろんな意味で変人である。

 その変人が作り出した部活は理論探求部といい自分達の求めたい知りたいという欲求に対して何処までも突き進む部活である。――といえば聞こえはいいが、たんなる自分達が知りたいと思っていることなら例えエロスだろうがバイオレンスだろうが教師を敵に回そうが法を敵に回そうが総理大臣に目をつけられようが世界レベルで危機を作ってしまうがなんでもするというとんでもない部活である。

 そんな部には一つだけあるルールは『世界征服して他人の探求の邪魔をするような独り占め行為は止めましょう』である。

「ところで何か用かね? 部員とはいえ君がこんなところにくるなんて珍しい」

 自分の部活を変人の集まりだという事に疑いを持っていない楓は面倒くさがり屋の焔に訪ねる。

「いや…、今日はきてないのか?」

 焔にそう訪ねられて楓は理解する。

 普段からどんな事に対しても無表情、呆れ、疲れ、ネガティブ、そういった類の物しか見せない彼が唯一僅かな微笑を向けられる相手、その少女の事を言っているのだと分かり楓はニヤニヤと笑う。

「恋人ならまだ来ていないね~」

「いつ恋人にしてもらえたんだ」

 呆れた声を出す焔だが違うと否定しない辺りが彼の心を感じ取れる。

 と、まるでそのタイミングを見計らったかのように部室の扉が開いて一人の少女が現れる。

「おはよ!!」

「いや、もう放課後だ」

「こんばんは!!」

「その挨拶をするにはさすがにまだ早すぎる」

「あけましておめでとう!!」

「ああ、季節すら無視した挨拶だな」

「たのも~~!!」

「もはや時代すら超越するか」

 と、開口一番に外れた挨拶をして焔に連続の冷静な突込みを入れられているこの少女は橘巴(たちばなともえ)という。

 茶味がかった黒短髪に大きな瞳、夏服の学生服から見える肌はうっすらと小麦色に染まっていて運動系を思わせる。

 橘家は古くから格の高い神社で巴も強力な符術を使う妖怪対魔符術師の巫女である。一人称が僕のボーイッシュな中等部三年。

 高鳴学園は小、中、大、の統一性なのだ。

「ありーヴぁでるち」

「まだ引きずるのか、しかも日本語でなくなったどころか意味すら変わってしまってるぞ」

「ぬわっ!? ネタ切れだよ!!」

「声を大にして言う事ではない。そしてネタ切れが早過ぎる」

 焔は嘆息して巴の頭を撫でる。

「……(あおい)は一緒じゃないのか?」

 鬱宮(うつみや)(あおい)。理論探求部の最後の部員で、高等部の一年生。無口無表情だが何事もそつなくこなす楓の次に天才とも言える。本人にとっては感慨を持つものではないと思っているようで、あまり気にかけていない。巴とは幼馴染で二人一緒にいる時が多い。空のような蒼い髪は腰まであり、深海のような青い瞳は見ているときらきらと言う効果音でも聞こえてきそうなほど神秘的な輝きを燈している。

 彼女は理論探求部の中では珍しい一般人だ。

 楓のようにネジの外れた天才理論で錬金、魔法、気、独学を探求するわけでもなく。

 巴のように異能の家系を持った術者でもなく。

 焔のように異体質というわけでもない。

 蒼は完全なナチュラルな人間なのだ。

 そして、焔が唯一微笑を向けられる相手でもある。

「蒼、先生に呼ばれたとかで職員室に行くって言ってた」

 頭を撫でられながら巴が憮然とした表情を作る。

「絶対生徒指導のキヨシだよ!! 部長の責任全部蒼に吹っかけてるみたいだし!!」

「…またか、まあ、あの教師じゃなくても俺達より蒼に言いたくなる気持ちは解らんでもないが…」

 楓の場合は言ったところで止まるわけが無く、退学にすれば家で同じ事をするのでむしろ被害が増加するとPTAに止められたりと教師は半ば諦めている。

 巴には術があるのでそれを使って逃走しまくっている。一度幻覚を出して逃亡したときは、幻覚の範囲が広すぎてとてつもない事になった。

 そして焔に関しては我関せず、関しても理詰めにしたりと、本人本当の事を言ってるだけのつもりなのだが、現代教師に千年位生きている焔の知識は相当痛いようだ。

 結果、ただ巴の付き合いで入部している蒼がとばっちりを受ける事になる。

「反論せんと律儀に伝えにくるあいつもあいつだがな」

 僅か苦笑しようとして、やっぱり止めたような変な表情で焔は呟く。

「蒼はいい子だもん!!! その蒼を苛めるなんて許せないよ!!」

「そう思うなら逃亡を図るな」

「その内必殺の『万炎武符(よろずえんぶふ)』をかましてやる」

「文字通り必殺になるから止めろ。後、それで火事になったら更に蒼に迷惑だ」

「ああんもう!! 我慢できない!! こうなったら今すぐ殴りこみに……!!」

「だから蒼に迷惑だ。そして俺の話を悉く無視しているのはなぜだ」

 っと言いつつ焔は既に興味を無くして楓の実験を見つめていた。先ほどから妙に危険な煙が湧きあがっている。

「楓、失敗したな」

 率直に聞く焔に楓は笑いながら返す。

「まだ途中だから大丈夫だ」

「妙な妖気をを感じるが?」

「問題ない」

「召喚の術式と融合の力場を感じるのだが?」

「狙ったからね」

「制御できていないようだが?」

「考えてないからね」

「いつもの事か?」

「いつもの事だね」

 焔は疲れた溜息を吐いて楓から遠ざかる。

 このままここにいたら何かしらの災厄に巻き込まれると判断したのだ。

「いやいや! 一人二人倒したところで第三第四の生徒指導教師が来る!! ならいっそ、我が橘家に伝わる『爆激滅殺破却(ばくげきめっさつはきゃく)の法』を持って――!!」

 っと入り口付近で未だに熱く独り言を語っている巴を横目に焔は教室を後にした。

 廊下を歩いている焔は後ろ髪を掻きながら嘆息する。

(長生きしすぎたな……、こんな異常なはずの空間にいても全く何の感慨も浮かばん……)

 焔はここ数年、自分に感情の変化が無い事に少々鬱屈していた。

(不老になって初めての高校生活が嘘のような日常のつまらなさだな…)

 と、焔が肩をすくめた所で廊下の向こう側から一人の少女がこちらに歩いてくるのが見えた。

(……)

 蒼い髪と青い瞳の無口無表情の少女。

 焔の過去に繋がる唯一の人。過去の一人の人にだぶる少女。

(やっぱ、なんか懐かしい……)

 知らず、焔は少女の、過去の少女の名を口にした。かつて自分が愛したただ一人の少女の名を。

火澄(こすみ)……」

「蒼です」

 ぼそりと呟いただけの小さい声を蒼は聞き逃さず正面から言い放った。

「初めて会った時も間違えた…。私は蒼です…。あなたの知っている女性じゃない…」

 何処か拗ねたような目をする蒼に焔は微笑を浮かべる。

「すまん。条件反射だ」

 笑って流し焔は話題を変える。

「教師は何だって?」

「『これからも何か起こすのであればせめて自分達で処理するようにしろ』と、泣きながら言われた…。了承したら泣きながら感謝された…」

「ついに泣いたか教師……」

 呟く焔を、蒼は腕を抱くようにして捕まえると、そのまま部室に向かって引っ張っていく。

「おい、今楓がやばいんで退却したところなのだが」

「部員は部活に出ないと駄目…。それに部長が失敗するならそれの処理を早急にしないと…。それに…」

 蒼は最後に聞こえないような声で付け加えた。

「私を私として見てくれないと…、言えないから…」

 その声は焔にも聞き取れないほど小さい物だった。だが、焔はそれでも微笑を浮かべていた。

(変なところで生真面目、火澄とこんな所まで同じだな…)

 笑いながら強引な所は蒼ならでわだと笑みを濃くする。

 

 バガンッ!!

 

「ぬわっ!! 部長また失敗を!!」

「いや!! ただの爆発ではなく何かを召喚できているから成功だ!! 狙った物ではないがね」

「それは失敗だよ~~!!!」

 このまま部活に向かえば間違いなく一苦労あるだろう事が容易に想像できる声を聞いて二人は嘆息する。

「急ごう。焔様。ちゃんと部員で処理しないと…」

「分かったよ」

 焔は頷いて走り始める。

 そばに一人の少女がいるならどんな自体も楽しめると密かに笑いながら。

 




ルビ変換してるのに、ルビにならない………。

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