秋宮アンソロジー   作:秋宮 のん

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 嘗て、世界を震撼させる最強無敵の魔王と称された少女、東雲神威。
 彼女の首を狙って訪れた退魔師、聖職者、軍隊、異界からも英傑勇者が送られ、挑み、……そしてその全てが容易く葬られていった。
 その後に必ず行われる報復により、人類に戦力と言う物は殆どなくなってしまっていた。
 その災厄を終わらせた少女がいた。
 後に英雄として誉れを受けた少女の名は朝宮刹奈と言う。





神威さんは刹奈さんが大好き

「か・む・い~~~~~~~っっっ!!」

 現代日本、山奥に創設された静謐なる神社、天岩戸神社にて、一人の高校少女が怒声を上げて境内を進んでいた。

 歩みは荒々しく、廊下をズンズンと音を鳴らして歩み、禊から上がって来たばかりなのか全身ずぶ濡れで水滴を散らす。水にぬれた襦袢は肌が透けてかなり際どいことになっていたが、この神社には他に見咎める者もいないので怒り狂った刹奈は気にしないことにしていた。

 っと言うよりも、それ以上に頭がかんかんになることがあり、そちらを優先したくて仕方がなかったのだ。

「ここにいるのっ!? 神威!」

 一つの部屋に目星をつけた刹奈が力任せに襖を開く。元々穏やかな性格である彼女にしては珍しい行為であったが、相手が神威の事になると日常の風景となっていた。

「相も変わらず騒がしい。何か良い事でもあったのか?」

 開かれた襖の向こう、炬燵で丸くなっていた巫女小装束姿の女性が、薄ら笑いを浮かべていた。腰ほどにもある黒く長い髪に、人をおちょくって楽しんでいそうな切れ長の目。普通の物より装飾が多く重ねられた装束は体を太めに見せてしまうはずなのだが、スタイルの良さがそのマイナスを完全に相殺している。胸の強調がされ難い和服姿で、なおも存在を誇示する豊満な双丘は、母性と言うよりは艶めかしさの方が強い。見た目からは地位の高い巫女なのだろうかと言う様相だが、その首には重々しい鉄の首輪が嵌められている。その首輪に『式』と書かれた札が何枚も貼り付けられ、彼女が式神として使役されていることを現していた。

 首輪に繋がれた鎖をジャラジャラ鳴らしながら、楽しそうに主を見つめる従僕に、刹奈は羞恥心から顔を真っ赤にして、頭から僅かに湯気を立ち昇らせながら、手に持っていた物を投げつけた。

「これがっ!? アナタっ!? “良い事”ですかっ!?」

 投げつけられた衣服を片手で器用に掴み取った神威は不服そうな表情になる。

「私は、禊の後の着替えを用意してとお願いしたはずですよっ!?」

「魔法少女はお気に召さなかったか?」

 神威の手にあるのは『魔法少女フリルプリンセス』なる、ともかくフリフリな衣装に身を包む女の子キャラが多いことで有名な女児向けアニメの主人公が着る、魔法少女変身後の衣装で、年頃の女子高生が着るにはかなりの勇気か、場の雰囲気を要する代物であった。しかも元が女児向けアニメ、衣装は小さい子供を彩るコンセプトにしているため、高校卒業間近の刹奈にはとてつもなく不釣り合いであった。せめて、後十年若ければワンチャンOKだったかもしれない。などと思ってしまったことは秘かな屈辱であった。

「年頃の女子高生……しかもそろそろ女子大生の自覚を持たなければというタイミングに、この衣装を着させるアナタの神経はどうなっているんですかっ!?」

「女の子は皆変身願望があると聞いていたのだがな?」

「魔法少女変身願望なんて幼い内だけですよっ! しかも私達は現役の退魔師なんですから、似たようなものですっ!」

「つまり和風版魔法少女と言う事か? それなら魔法少女で変身願望は叶えられなかったな、すまん」

「そういう問題じゃありませんっ! って言うか、そう言う考えはやめてください! なんだか退魔師としての自分の姿にコスプレ的違和感が……、か、考えてはいけない……っ!」

「悪かったな。次はもっと別な物を用意させよう。……次は姫騎士か、あるいはSFと言う手も……?」

「普通の服を用意してくださいっ! なんで式神なのに、私にこんな悪戯できるんですかアナタはっ!?」

「式神でも善意から来る行動は抑制されんからに決まってるだろ?」

「これ善意なんですかっ!? そもそもこんな衣装何処から調達してるんです?」

妹弟(いもおと)に作らされせた」

「弟君にこんな被服スキルがっ!?」

「私が一から教えた! その気になれば自分でも作れる」

「無駄にレベルの高いスキル仕込んでおいて、くだらないことに使わせないでくださいっ! それと、自分で作れるなら自分で作りなさいとは言いませんよ。そんなこと許したら、また妙な服を量産するつもりでしょ?」

「無論だ」

「くぁ~~~……っ!」

 頭痛がしてきた額を押さえて立ち眩む。

 ここに来てやっと声を聞きつけた見習の巫女が二人、刹奈の姿に驚きながら労わりの声をかける。

「刹奈様!? だ、大丈夫ですか!?」

「え、ええ……、いつもの事ですからお気になさらず」

 見習いにまで心配をかけるわけにもいかず、すぐに平常心を取り戻し、襦袢の胸元を押さえて肌を隠そうとする。そこで自分が濡れたままだと言う事を思い出し、寒気を覚える。

「……っくちゅんっ」

 可愛らしく出たくしゃみに、見習いたちは風邪をひいてしまうかもしれないと慌て始める。

 それを手の平を振りながら宥めていると、いつの間にか立ち上がっていた神威が、両手を広げて思いっきり刹奈に抱き着いてきた。

「わぷっ!?」

 いきなりの事で対処しきれず、厚手の服と豊満な胸の中に押し込まれる刹奈。さらに神威から光る様に美しい白の髪を乱暴に撫でまわされ、体全体をこすりつける様にされてもみくちゃにされる。

「な、なんですかっ!?」

 やっとのことで押しのけた刹奈は、そこで神威の服がずぶ濡れになっていることに気付く。濡れていた自分に抱き着いたのだから当然といえば当然だ。

「着替えてくるよ」

 端的に伝えた神威は、そのまま部屋を出て行ってしまう。

 背の背中を見送りつつ、「拭いてくれるつもりなら、普通にタオルで拭いてくれればいいのに」と、刹奈はひっそりぼやきつつも、後で必ずお礼を言おうと誓った。

「やっぱり刹奈様はすごいのですね……、あの『災禍の顕主』などと綽名された存在を使役し、ああも人間らしく振舞わせるなど……、一体どのようにして調伏したのですか?」

 巫女見習い二人の視線を受けた刹奈は、思わず「はぁ?」っと声が漏れそうになった。

 どうやっても何も―――っと思いだされるのは、嘗て神威と敵として戦った最後の日の事。

 全ての敵となり、全てと戦い、ただ一度も負けることなく、全勝不敗の果てに、ただ一度も欲しい物を得る事の無かった災厄。そんな彼女に、必死に喰らい付き、持てる才能と積み重ねた技術、霊力のあらん限りを費やして接戦した。そんな中での最後の問答。

 

 「なぜ私にここまで挑み続ける?」

 

 「あなたが大切な人だからですよっ!!」

 

 その後、神威はあっさりと負けを認め、主従の契約を結んだ。

「……まあ、要するに人間なんて、求めている物はみんな一緒ってことですよ」

 

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