俺はイクス系アルタ人 作:バァサァカァ
個性と呼ばれる超能力紛いな力が人類に宿ってから早幾星霜。昔はコミックの話だったヒーローと悪の勧善懲悪の物語が現実のものとなり、ヒーローという職業が当たり前の存在になり始めた現代。
そんな時代に、一人の男児が誕生した。親は両方がヒーローで、いわゆる個性婚と呼ばれる愛のない父親と母親の元で生まれた。とはいえ両親がヒーローなのである程度裕福ではあったし、父親は自分の個性を引き継いだ我が子をそれはもう可愛がった。
しかし、そんな父親だが母親を金や権力によって無理やり囲い、そのうえで結婚し子供を身籠らせた、見る人が見たら屑と表現しても差し支えないような男であった。
母親はそんな父親が、無理やり身籠らせられた我が子をまるで金の生る苗の様に可愛がっている姿を見て、不幸にも生来のものであった善性の精神にすぐに限界を迎えた。
「もう限界なの…ごめんね、ごめんね…」
母親はそんな言葉を残して姿を消した。その時、何故か息子は置いて行ってしまった。無理やり産ませられた子どもを共に連れていくほど、余裕はなかった。
逃げられた父親は涙を流し激怒した。父親は母親の事が好きだった。幸運にも個性の相性が良く、相手が貧乏でこちらが金持ちで権威を持っていた為、無理やりモノにし結婚した。いくら愛していたといっても、そんな横暴な手を使い結婚したのだ。それまでのツケが来るのは当然と言えた。
「お前の所為だ!」
そして、運の悪い事に父親の性格は悪性のものだった。ヒーローをやったのは金や名声が手に入るから。決して人の為ではなく、自分の為だけにヒーローを張ってきた。そんな男だった。
父親の態度は即座に反転し、実の息子に対して暴力を振るうようになった。次第に酒におぼれ、ヒーローとしての資格も無くなり、家は貧乏になっていった。
これは、そんな家に生まれた一人の少年の物語である。
「…どうしてこうなった」
一人の少年が小さくそう呟いた。
少年の名前は生須圭人。濡れ羽色の中に二筋のオレンジ色のメッシュが入ったような短髪が特徴的な、5、6歳の小さな少年だった。
圭人は転生者だ。それも中身は3、40歳程になるだろうか。30歳の頃に死に、神の手によって転生させられたので恐らくそのくらいだ。生前はホームワーカーをやっており、一定の収入を稼いでいたが、交通事故により帰らぬ人となってしまった。
その後は驚かされたものだ。目を覚めれば目の前に神を名乗る謎の老人。なんでも天界入り10兆人目の魂という事で、キャンペーンとして特典を持って転生させてくれるというのだから驚きを通り越して呆然としたのもまだ記憶に新しい。
男はとりあえずそれを信じることにして、特典を持って転生することに決めた。他の世界でとはいえ、せっかく生き返らせてくれるというのだからそれに乗らない手はなかった。そして一応特典も貰っていた。生前大好きだった漫画アニメの『鉄腕バーディー』と呼ばれる創作物に登場した、『イクシオラ』と呼ばれる種族の力に似た感じで、と頼んだ。
転生と言えば、ファンタジー系の異世界だ。だがこれだけの力があれば普通に生きていく程度は出来るだろう。そう考え、男は意気揚々と転生するために天界から旅立った。
そして目が覚めれば、これだ。
(ここってヒロアカの世界じゃねえか)
そのことに気が付いたのは2歳の頃。母親に抱かれてテレビを見ていたら、『ヒーロー』やら『ヴィラン』やら『オールマイト』などといった聞き覚えのある単語が耳に飛び込んできて、実際にオールマイト本人がテレビに出てきたのを見て気が付いた。
ヒロアカの世界と言えば、ヴィランが闊歩するような非常に危険な世界である。なまじ全世界の人口のほぼ全員が個性を持っているので、その犯罪率や犯罪の度合いは彼が元いた世界とは雲泥の差である。さらにオールフォーワンといった危険人物がいたりいなかったりするという、一般人に非常に優しくない世界でもある。
(ゆ、憂鬱だ…!)
しかも憂鬱な理由はそれだけではない。もう一つの理由は、今世の家族があまりにも悲惨すぎるという点だった。
母親は圭人が5歳の頃に蒸発。父親暴発。虐待じみた教育()をずっと受け続けているのが現状だ。中身30歳越えのオジサンだからこそ耐えれているだけで、もしこれが中身普通の子どもだったら、目も当てられないくらい悲惨な事になっていただろう。
一つだけ幸運なことがあるとすれば、生前に望んだ特典が正常に受け継がれていた事だろうか。
イクシオラ。簡単に説明すれば、地球人によく似た見た目の宇宙人であるアルタ人の中でも遺伝子レベルの調整…つまり改造を施された事で特殊な能力を持って生まれた個体の事である。イクス系アルタ人とも呼ばれる存在で、もしイクシオラ同士で戦った場合そこら一帯の地形が変わるレベルの力を持っている。詳しくはウィキペディアや本作『鉄腕バーディー』の漫画かアニメを参考されたい(ダイマ)。
圭人の場合は、バーディーの力・生体バリアと、奈多流のワープ能力を足して2で割ったような能力だった。つまりヒロアカ風で言えば超パワーとバリアに空間転移能力が合わさったような力だ。
父親が身体能力増強、母親がバリアを作る個性だったため、一応二人の遺伝子を引き継いで生まれたという事になるだろう。しかしこの場合異形型になるのだろうか。一応中身はイクス系アルタ人なのだが、とちらほら考えはしたが、正直転生の理屈や詳細が分かっていない時点で答えの出ない疑問だ。後々子どもの出来やすさとかで判別可能だろう、と考え今は思考の放棄に徹している。
父親は圭人をぶん殴る時、生体バリアによって阻まれる事が嫌らしく度々バリアを切る事を命じてきたりするが、圭人にしては何の義理があって殴られなきゃならないんだという事で一度も切ったことはない。そういう訳で父親と圭人の中は完全に冷え切っている。部屋で酒を飲んで日々貯金を切り崩していく父親と、そんな父親の財布から金をすって食事をとる息子。一体どうしてこんな廃れた家庭に生まれてきてしまったのか。この時ばかりは神を微かに恨んだりもした。もう少し選んでくれてもよかったのではないか、と。
とはいえ、生まれてきてしまったものはしょうがない。ただでさえ前世の記憶を持ち越しできているのだ。生まれる場所も決めてしまっては、贅沢すぎるというものだ。そう自分を無理やり納得させた。
ただ生まれてきて何の目的もなく死ぬのでは、何のために生まれてきたのか分からない。そう考えた圭人は、とりあえずヒーローを目指してみることにした。折角ヒロアカの世界にやってきたのだ。ならば作品に関わらないと損だろう。そんな気持ちだ。
ちなみに原作の流れが崩壊するとかなんとかは、そもそもここが漫画と同じ世界なのかもわからないし、未来などそれこそ千差万別に分かれているはずである。未来が変わるからと言って、では何もするなというのは生まれてきた意味を否定することにもつながりかねないので気にしないことにしている。
「まずは筋トレからだな」
父親はヒーローとしてはまずまずの働きだったため、家も結構豪邸だ。今は散らかって入るものの、トレーニングルームや個性を使用していいような道場部屋もきちんと配備されている。少し片づければ使えるようになるだろう。
ご飯は父親の財布からすればいいし、幼稚園はそもそも本人に行くつもりがない。娯楽などもってのほか。なので後はトレーニングしかすることがないというのも本音だ。
走り込みから腕、足、背筋腹筋などといった筋トレ。そして後は個性の使用。それを毎日行う。
しばらく経つと7歳になり、小学校に通う事になった。父親も世間体を気にしてそこだけは行かせてくれるようなので、遠慮なくいく。
しかしすぐに辛くなる。圭人にとっては常識も常識な事を毎日たっぷり5,6時間はかけて勉強しなければならないのだ。これが苦痛以外のなんというのだろう。クラスメートたちのあまりの子どもらしさについていけない中身アラフォー寸前のオジサンは割とすぐにボッチ小学生という称号を取得するに至ったのだった。
なのでさらに訓練に力を入れる日々。すると、今度は父親に変化が見られた。これまで圭人に興味がないようにふるまっていたが、ふと気が付くとトレーニング中に見られている事が多くなった。初めは偶然か気まぐれだろうと思っていた圭人だったが、それが数日続いた為、流石に首をかしげるようになったある日。
「圭人…お前、何になりたいんだ?」
父親がしゃべりかけてきていた。圭人は驚きながらも、汗をぬぐいながら答えた。
「ヒーローになりたい」
その言葉に父親はしばらく黙りこくって、そして「そうか…」と小さくつぶやくと、ついてこいと道場に圭人を誘った。そして対人戦闘の訓練を付けてくれるようになった。
何故彼がそんなことをするようになったのかは分からない。何かに対する贖罪なのか、それともただの暇つぶしか気まぐれか。ただ、圭人にとっては対人戦闘の訓練なんてそうそう受けれるものでもない。相手がロクデナシであろうが、教えてくれるというのなら喜んで教えを請う事にしたのだった。
それからの圭人の成長の度合いは飛躍的に上昇した。腐っても元プロヒーロー。最前線で活躍していたヒーローの指導が、圭人を強くしていった。
小学6年生。この時点で、既に圭人はトラックに使われるゴムタイヤをサッカーボールの様に蹴飛ばしたり、20mを軽々とジャンプしたり、鉄板を殴って変形させることができるようになっていた。また、目がいい圭人は父親との組手でも勝率が8割を超えるようになってきて、父親では歯が立たなくなってきていた。
あれからめっきり虐待をやめた父親は、圭人が中学生に入学すると同時に、圭人を残してどこかへ旅立ってしまった。
ある日の夜、圭人は珍しくも父親が、外のベランダで月を見て黄昏ているのを見て、声をかけた。
「…おい、寝るならちゃんと布団に行けよ」
「…ああ…ふん、大丈夫だ」
そういった切り、彼は圭人に顔を向けないで月を見上げていた。
そして、唐突に切り出した。
「…子供の頃、俺は正義の味方に憧れていたんだ…」
「…なんだよそれ。あんたとは最も程遠い言葉じゃねえか」
「ああ…まあ、そうだな…その通りだ」
圭人の本音に、父親は乾いた笑い声をあげた。
「…いつからかな。ヒーローになりたいって気持ちは、いつの間にか有名人や、金持ちになりたいって気持ちにすり替わっていった。正義の味方になるってことを、きっとどこかで諦めちまったんだろうな…こんな事、もっと早くに気が付ければよかったんだが…」
哀愁漂うその男の姿に、圭人はただ漠然と『何言ってんだこいつ』という気持ちになった。母親を無理やり囲ったはいいものの逃げられたからって実の息子を虐待し、酒に溺れ無職になった。残った莫大な貯金を切り崩して飲んだくれる父親の姿を見て育った圭人には、そんな事しか思えなかった。
ただ、この流れであれを言わないのはちょっともったいないかなと思った。
「それじゃあ、仕方ないな」
「…そうだな。ああ、仕方ない…仕方がない事だ」
「仕方がないから、俺がなってやるよ」
「…何?」
父親が、初めて圭人の目を見た。
「俺が、お前の夢を代わりに叶えてやる。正義の味方になってやるよ。だから安心しろって、父さん」
ちなみに、圭人はこの時初めて父親の事を父さんと呼んだ。
父親はその言葉になんとも言えない表情になり、そして何かを噛みしめるように目を瞑った。そして震える声でこういった。
「そうか…それは…安心した…」
次の日。息子の入学式の当日だった。父親は家から出ていった。自分だけの何かを探すために、そして贖罪の為に、彼は旅立ったのだ。
「じゃあな、馬鹿野郎」
誰もいなくなった部屋で、圭人の口からはそんな言葉しか出なかった。