絶望鬼ごっこパロディ(アーカイブ)   作:絶望鬼ごっこパロディアーカイブ

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実戦派。


第十八章 とにかく殺せとりあえず殺せ (流美、金谷章吾)
とにかく殺せとりあえず殺せ


「いちおう言っておくけど、俺は鬼じゃな――」

 

 金谷章吾が言い終わるより早く、佐山流美は物干し竿を振るう。ステンレス製のそれは重量から取り回しが悪く素人が振るったところでそうそう当たるものでもないが、直撃すれば一発で致命傷になりかねないものだ。それを危なげなくかわしながら章吾はどう目の前の相手をやり過ごすかを考え、流美はいかに目の前の相手を早く殺すかを考えた。

 

 G-06で遭遇した二人が戦闘に突入するのにさしたる時間はいらなかった。スピードに任せた突貫を仕掛けた流美だが警戒されていたために空振りに終わり、しかし相手が無手のこともありラッシュを仕掛けることでリーチ差を活かしイニシアチブを握る。一方の章吾はたえちゃんが逃走しかつ農協のおっこに事情を話して立て籠るなり逃げるなり援護に来るなりの判断と実行ができるまで時間稼ぎをするつもりだった。鬼の単身での撃退も考えないわけでもないが、あまり体力を使えば後に響くためわざわざリスキーな手段はとりたくない。そのため最低限の動作でありながら慎重に攻撃を回避することに努めていた。そしてその結果起こるのは、戦闘の長期化である。

 

(早く、早く!)

(こいつ、こんだけ振っててまだ振りませんのかよ……)

 

 焦りに駆られて物干し竿を振り回す流美は、息が上がりながらもしかし章吾を攻め立てる。腕が上がらなくなってきたことと振り慣れてきたことで大ぶりな軌道が小さく無駄のないものとなるが、駄目。いまだ当たらない。そのことが更に流美を焦らせる。

 一方の章吾もこうして時間を稼いでいることに限界を感じつつあった。流美の気力と執念は想定を上回っており、その執拗な攻撃は徐々にであるが回避を困難なものしつつある。依然章吾は一発たりともかすりすらしていないが、常に振るわれるため足を止めることができない。これでは足を使わされてしまう。そしてもう一つ。この戦闘の中で二人は元の場所から離れ徐々に農協へと近づいていっている。章吾の誘導で東に回り込むような形にはしているが、しかし直線距離で言えば10や20mは詰められてしまっていた。これは考えものである。いっそ息があるうちにカウンターを仕掛けるか、それとも農協までダッシュで逃げてしまうか。そう考えたところで流美の物干し竿が顔面に迫った。

 

「ッ!」

 

 息を呑む。バックステップでは流美の踏み込みと突き出しによるリーチの延長から逃れられず、尻もちをつくように倒れ込むこと刺突を凌ぐ。ぐっ、と声にならぬ息が漏れる。ハッ、と喜色の混じった声なき息が流美から漏れる。そこから振り下ろし。ローリングでの回避。凪ぎ。伏せて回避。再びの振り下ろしと、ローリング。

 

(やばい……立てねえ……!)

(殺った……!)

 

 必死のラッシュが引き寄せたワンチャンスでありワンミス。章吾の体勢とともに崩れた均衡が勝負を動かす。うつ伏せになったその背中を刺し貫かんとでも言うかのように流美は全力で跳躍した。空中で物干し竿を背中に垂直になるように立て、全体重をもって振り下ろす。上半身を狙ったその一撃はどこに当たろうとも骨折か内臓破裂を確実に引き起こすだろう。

 もし当たればだが。

 

「ナメんな。」

「ぎゃっ!」

 

 行われたのは逆立ち放たれたのは後ろ蹴り。上半身の腕力・握力・背筋力を連動させた強引な体勢の変更とその副産物として上方向に向けられた下半身を蹴りとして使うカウンター。それが流美の顔面を急襲する。前歯を叩き折られながらも地面に刺さった物干し竿を引き抜こうとするも、一瞬早く勢いを無くした章吾の脚がそれを絡めとる。そしてポールダンスの要領で上下の動きを横への動きに変えた章吾に無防備な体を抑え込まれた。

 まさしく一瞬の一転攻勢。絶対的な優勢が次の瞬間には絶望的な劣勢へとシフトする。腕を極められ大地に組み伏せられた流美は、その時になって自分の危機に気づいた。

 なんで、どうして、と自問する。わけのわからぬうちに自分は武器を無くし身動きできなくされている。つい数秒前までは明らかに勝っていたはずなのに、なんたる理不尽!

 

(包丁まで持ってたのか……ヤバかったな。)

 

 一方の章吾に訪れたのは安堵感。不利な均衡をひとまず勝利で終わらせられたことは大きい。後は拘束したまま刃物などの凶器を没収して絞め落として逃げれば当座の安全は作り出せるだろうと考えながら流美から包丁を奪い取る。火事場の馬鹿力とでも形容したくなる強い抵抗はされたが、関節を極めているのだ、その状態で遅れを取るほど章吾はぬるい男ではない。今までの流美の動きからして彼女が武器を無くした段階で勝ちの目は完全に消えていた。

 だから、まだ流美は限り無く詰みに近い五分であり。

 

「……んな。」

「は?ようやく話す気に――」

「ナメんなァッッ!!」

 

 章吾の腕に熱が走る。そこに赤い線が真一文字に刻まれ空中へと歪に拡がっていくと同時に痛みが襲い、体勢が崩れる。

 

「死――ねええええええええ!!」

「クソっ――」

 

 奪い取った包丁を取り落とす。それを抜け目無く奪い返した流美が振り下ろす包丁を手首を殴りつけて防ぐ。それと同時に別方向から向かってきた光に反射的に腕を上げ顔を守ると、再び熱が走った。

 

(こいつ、包丁を――)

「死ねっ!死んで!!」

(――包丁を2本持ってやがった!)

 

 反転攻勢、両手に包丁を握った流美のラッシュが章吾を襲う。今度は物干し竿の時のように走り回って逃げることはできない。下半身は抑え込みをひっくり返されたため流美に乗っかられている。それは刃物を持った相手にマウントポジションを取られたことを意味する。この体制では格闘技でもそうそう勝ち目は無い。まして上にいる側が凶器を持っているとなれば。

 

「クソっ!クソクソっ!早く死ねって!」

(待て、止めろ、死ぬだろ、嘘だ、助けてくれ。)

 

 結果は歴然としている。

 流美の腕が振り下ろされる度に章吾は必死に腕を盾にする。それは命を繋ぐために必要な行為であるが、一撃毎に筋肉を破り骨を絶ち神経を斬り腱を抉られていく。出血とともに章吾の脳内を駆けるアドレナリンが増加、体感時間が引き伸ばされ自分の命が失われていくのが痛感させられる。ビクビクと痙攣する2本の腕を介して体に叩き込まれる。それと共にその視界には流美ではなく他の物が見えてきた。母だ。入院している母が章吾には見えた。それは走馬灯であったが章吾にはそれが何なのかすらわからなかった。ただただ必死に頭部を腕で抑えながら、なぜかすごく遠いものに思えていくその面影だけが印象的だった。

 

「これで、終わりだああっ!!!」

 

 どこかで誰かが叫んでいた。必死な顔だった。誰が終わりなのか。章吾だ。章吾自身が終わりなのだ。

 

(――終われねえ。)

 

 だめだ。

 

(――帰るんだ。)

 

 いいやここで死ね。

 

(――生きて帰るんだっ!)

 

 いいや違う、金谷章吾。お前はここで死――

 

「俺は、死ねねえっ!!」

「がっ、あがあああああっ!!!」

 

 問答無用!それは頭突き!自分の顔面を掠める包丁を見向きもせず、佐山流美の鼻っ面に前頭部を叩き込むっ!そしてすぐさま追撃として向けられるのは、歯!それが流美の右目を喰いちぎったのだ!!

 

(逃げないとマズイ!)

 

 流美は手をにやろうとするのを気合で抑えると、猛然とダッシュを始める。激痛の中辛うじて残った理性は、ふつふつと沸いてくる恐怖心と共に撤退を選択する。潰れた視界では自分がどこに行こうとしているのかもわからなくても、急速に戦場から離れることには変わりなかった。

 そして残された章吾は、しばしの間茫然としていた。腕の痛みと寒さと口の中の水晶体ら眼球の味だけが意識を覚醒させ続けている。遅れてやってきた生きているという実感も、相手の眼を喰らったという行為も、困惑を深めるだけ。ただそれでも、この場を離れなければという意識だけは残されていた。

 

 

 

【G-06/00時38分】

 

【金谷章吾@絶望鬼ごっこ】

[役]:子

[状態]:左下腕10ヶ所・右下腕9ヶ所・左上腕6ヶ所・右上腕3ヶ所の包丁による刺し傷、失血(小・継続中)、精神的疲労(中)

[装備]:『式札』

[道具]:若干のお小遣いなど

[思考・行動]

基本方針:絶対に生きて帰る

1:何がなんでも生きて帰る。

2:自分以外の存在を捜索。

※その他

自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。

佐山流美を『鬼』と誤認。

 

【佐山流美@ミスミソウ】

[役]:子

[状態]:、右目喪失、失血(小・継続中)、顔に傷、血は止まっている

[装備]:包丁×2、『水晶』

[道具]:

[思考・行動]

基本方針:殺される前に殺してやる

1:逃げる。

2:たえちゃんを殺す。

3:自分がどの役か知りたい

※その他

自分の役・各役の人数・各役の勝利条件・会場の地図・制限時間は全て未把握。

参戦時期は第18話開始直後。

金谷章吾を『鬼』と誤認しました。

 

 

※流美が現地調達した物資が近くの物陰に隠されています。内容は後続の書き手さんにおまかせします。




この二人の戦いの実力は全部込みこみでほぼ互角だと思います。
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