絶望鬼ごっこパロディ(アーカイブ)   作:絶望鬼ごっこパロディアーカイブ

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この企画の初めての本編がこの投下です。


“Trick or Treat”

川尻早人はとある一軒家で傷を手当てしていた。鍵は掛かっておらず、大体の代物は揃っていたので、救急箱を拝借させてもらった。

 (不法侵入に当たるだろうが、この状況では仕方がない)

 

「ふぅ……これで良し。ちょっと深く切りすぎたかな」

 

 傷口に絆創膏を貼り、一段落した作業を止め一息つく。

 しっかりと消毒はしたが、パイツァ・ダストの効果を確かめるためとはいえ、不衛生な森の中で傷をつけるのはやや軽率だったかもしれない。

 

「それにしても……何か妙だ。この家もそうだけど、まるで『さっきまで人が住んでいた』みたいな感じがする……」

 

 家の中には生活用品やその他のものがそっくりそのまま残されていた。この家の住人や町の人々は何処に行ったのだろうか。

 もしもこの鬼ごっこのためだけに全員が退去させられたとしたら、想像よりも遥かに強大な何かが裏で動いているのかもしれない。

 

 (ぼくが『子』と仮定して、不確定要素は『鬼』の存在と『親』の勝利条件…… 

 でも、僕一人じゃどう足掻いてもこの状況をどうにかできるとは思えない。なら、当面は協力的な『親』か同じ『子』と合流して、情報を集める必要がある)

 

 兎に角、人手も情報も何もかもが足りない。ならば行動あるのみと立ち上がりかけたとき、無人の筈の家屋から足音がした。

 

(なッ馬鹿な! 確かに此処には誰も居なかった筈 ……どうする? 『子』か『親』か? もし『鬼』なら……)

 

 ちらり、と早人はランドセルを一別する。

 もしも危険人物ならば、殺られる前に此方から殺る!その覚悟を決め、リビングの扉が開くのを待つ。

 しかし、入ってきた人物を目にしたとき、早人は愕然とした。 

 

「そ……そんな、何で……『ママ』!!」

 

 来訪者は、早人の母親だった。

 

「早人……早人ッ!あぁ、あたしの愛しい息子……会いたかったわぁ」

 

 駆け寄ってきたしのぶは、はたと息子を抱き締め、涙する。

 その暖かい感触に緊張で凝り固まった早人の心は溶け堕ちる。

 

「うん、うん……ぼくもだよママ。でも、ママもこの鬼ごっこに参加してるなんて……」

 

「えぇ、お前はずっとあたしを守っていてくれたわよね。……でも、ね、遅いのよ」

 

「……え?」

 

 血だ。早人のものではない。 

 

 「痛い、痛いよ痛いよおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!

 こんな手じゃあなぁにんにもできないわぁ!!お前が守ってくれなかったから、悪い鬼に手を取られちゃったのッ!!!

 悪い悪い殺人鬼に切り落とされちゃったのッ!!!!」

 

 しのぶは早人を突き飛ばす。想像を絶するであろう苦痛で顔を歪め、"手首から先が無い"両手を振り回し、泣き叫ぶ。

 

「そ、そんな……まさかあの男に」

 

 早人の脳裏に吉良の姿がよぎる。あの殺人鬼もこの鬼ごっこに参加していて、等々母を毒牙にかけたのかと。

 しかし、それはおかしい。先程まで確かにしのぶは平常であった。

 それが一瞬で血塗れになり、加えて両手が無くなるなんてあり得ない。まるで幻覚ではないか。

 聡明な彼なら普通ならそう考え付く。しかし、眼前の母の姿は、早人の冷静さを意図も簡単に奪っていた。

 

(このままじゃあママが死んじゃう、止血しなきゃ、でも腕が無いんだぞ! そのままにしておけば不味い!でもどうすれば、あぁぁ)

 

 母が死ぬ。自分が守れなかったから、あの男の欲望から救えなかったから。

 

 体が震える、息が上がる、考えが纏まらない。

 

 

 

「ーー『恐怖』したな」

 

 男の声だ。早人の動きが止まる。母を見る。彼女はそのまま見つめ返す。

 彼女は笑っていた。

 その顔が変貌する。滑らかな髪は茶髪に代わり、肌はペンキのように不自然に白く、鼻が赤く、換わっていく。

 無くなっていた筈の両腕が膨れ上がり、早人を掴む。

 しのぶの皮を被った鬼は、本性を表した。

 そこにいるのは彼の母ではなく、ひとりの醜悪な道化師(ピエロ)であった。

 彼はお茶目な仕草で呆然と立ち尽くす早人を見下ろすと、一言。

 

「やぁ、坊や」

 

 

「うッ、うわああああああッ!!!」

 

 反射的に逃げ出そうとするが、逃がさないッ!とばかりにピエロは強い力で早人を引き寄せ、早人を覗き込む。

 その瞳は透き通るような青で、どこまでも引きずり込まれそうなほど澄んでいた。

 化粧で表情は読みにくいが、ピエロが心底喜んでいることが早人には分かった。

 

「おっ、お前は、誰だ!! ママはどうした!!」

 

「私はペニーワイズ……歌って踊る道化師さ!君のママはね、今はとっても愉しいところに要るよ。

 そこは皆で浮かぶんだ。ふわふわ風船みたいに……君もそこに連れていってあげよう」

 

 浮かぶ、浮かぶとはどういうことだ。もしや母もこの鬼ごっこに参加していて、このピエロに襲われて既に……

 

「そんな、ママが……嘘だ!お前の言うことなんて信じないぞ!」

 

 早人の態度が気に入らないのか一瞬顔をかめるも、にやり、と不気味な笑みを浮かべる。

 煽るように顔を近づけると、その口から赤い舌が早人の頬を味わうように舐め回す。

 強烈な嫌悪感に背筋が凍る。その反応はペニーワイズを喜ばせた。

 

「ふむ、これは嘘つきの味だ。知っているかい?こうして汗を舐めるとそいつが嘘をついているかどうかはすぐ分かるんだそうだ。

 しかし旨い、君は旨いなぁ! 美味しい美味しい恐怖の味!!新鮮な子どもの魂を感じる!!」

 

 堪能したとばかりに舐めるのをやめると、ペニーワイズは大口を開ける。   

 めぎり、と口が裂ける。鋭い牙がずらりと並ぶ咥内が笑顔の中から飛び出してくる。まるで口というより穴だ。底が見えない獲物を貪るための補食機構だ。

 あまりにも非現実的な光景に、"ああ、これで噛みつかれたら痛いだろうなぁ"なんて感想が思い浮かんだ。

 そして、事実このペニーワイズはその口で早人を喰い殺すつもりなのだろう。

 

「……ねない」

 

「は?」

 

「ボクは!ボクは!!ママを助けるまで絶対に死ぬわけにはいかないんだッッ!!!」

 

「……」

 

 ペニーワイズの動きが止まる。

 

 母を守る。その決意と濃厚な死の気配が、逆に早人の聡明さを取り戻させた。

 元より、あの殺人鬼を殺すと決意を固めたときから、"自分が殺されるかもしれない"なんて事はとっくに分かっていた。  

 絶望に屈しない早人の意思は、まさに『黄金の精神』というべきものであった。

いや、根底にあるものが殺意とするなら、『漆黒の意思』にも通じているのかもしれない。

 そしてその人間の魂の輝きは、恐怖を糧とするペニーワイズにとって水と油に等しい。

 

 出端を挫かれ、今まさに食いつかんとしていた口が引っ込む。

 人間に近い表情に戻ったペニーワイズは、その白塗りの顔を怒りで染めた。

 

 

「無駄だ。全くの無意味だ。このゲームは憐れで矮小な人間の、それも子どもがどうにかできる場ではない。

 私たち鬼が狩りを楽しみ、お前たち人間はその糧として貪られるための贄なのだ!! 思い上がるんじゃないぞ!!」

 

 何を愚かなことを、とばかりに早人を嘲笑う。しかしその言葉の節々には僅かな苛立ちが含まれていた。

 事実、早人は非力である。

 こうして人外に押さえつけられ、スタンドも持たない身ではロクな抵抗すらできない。

矮小な人間、それも子供に何ができる?そう事実を突きつけ、早人の心を折ろうとする。

 

 しかし彼は思い違いをしている。それは単純だが大きな間違い、と言ってもいい。

 

 早人は『非力』ではあるが、『無力』では無いのだ。

 こうして鬼として参加させられているのは、ひとえに彼が見下していた人間の意思に敗北した為である。

 確かに早人は弱いだろう。しかし、彼は絶望に立ち向かい成長できる人間だ。

 それは人間のみがもつ可能性なのだ。

 人間には、単なる化け物の持ち得ない強さが確かにあるということを、地獄に落ちてもなおIT(それ)は理解していなかった。

 だからこそ、次の展開はペニーワイズには予想すら出来ないものだった。

 

 

「早人ッッ!!!!」

 

 リビングに女の声が響き渡る。悲鳴一歩手前の、切迫した声が。

 "信じられないものを聞いた"

 まさにそんな、あり得ないと言いたげな顔で振りむいた道化は、来訪者と対峙する。

 そこに居たのは、先程まで彼が化けていた女が、居た。

詳細は解らずとも、直感で察したらしい。

 川尻しのぶは息子を捉えた鬼を、怯えながらも睨み付けた。

 

 何故ここでしのぶが出てくるのか。

 此ればかりは幸運の女神が早人に微笑んだとか、運命が味方したとしか言えない。

 直感で息子の影を探し回っていたしのぶは、早人いる家の前を偶然通りかかり、早人の悲鳴を聞き付けた。そして家に入ってきた。過程はただのそれだけだ。

 

 まさか、本物がこのゲームに参加しているとは予想もしていなかった。

 予想外の事態に、ペニーワイズは早人を押さえる力が緩まる。

 その時点で、彼の命運は決まった。

 

 

「ママ伏せて!!!」

 

 

 早人は拘束から抜け出すと、側に置いてあったランドセルをひっ掴み、開けた。

 切羽詰まった叫び。何をする気かと考える間もなく、ペニーワイズの頭が、風船のように弾けとんだ。

 

 ランドセルの中身は『猫草』。

 その奇妙な植物は、突然の光に驚き本能的に空気弾を射出した。

 それは狙い通り、ペニーワイズに直撃したという訳である。

 

 

 場は沈黙する。

 原型は残っているが、空気弾の直撃で頭の半分が消し飛んでいた。

 傷口からは、脳や血液のようなものは一切流れず、代わりに煙のような黒い何かが溶け出している。その中は空洞だった。

 虚ろな呻きが口から溢れ落ちる。化け物でも痛みは感じているらしい。

 

ーーまだ生きている!

 

 追撃のために猫草を使おうとするも、それは出来なかった。

 

「フシャァァァァーーー!!!」

 

 ランドセルのなかの猫草が、しのぶを目にして暴れ始めたのだ。

 

「は、早人……その草、庭にあった…… 何で貴方が持っているのッ!?」

 

 詳しい事情は知らないが、猫草は母を嫌っているらしい。

 このままだと母を撃ちかねないと、慌ててランドセルの蓋を閉じる。

 その隙は、鬼にとって好機であった。

 

「ひふふふ……ぎゃはは、ぎゃははははは!!!! HA

HA HA HA HA HA HA HA HA!!!!!!」

 

 道化の殻が軋む。

 人間に近かった顔が蕩けるように歪み、猛獣のような何かに変貌する。

 あまりに異様な姿に早人の動きが止まる。

 その隙を狙ったのか、愉快な道化の形をかなぐり捨て襲いかかる。

 早人ではなく、後ろのしのぶを。

 

「えっ?」

 

 鋭い爪が、しのぶの腹を切り裂く。皮膚が裂け血が床を染める。悲鳴とともに床に倒れるしのぶを突き飛ばし、ペニーワイズはふらふらとした足取りで逃走する。

 

「ママ!!!」

 

 傷は……そこまで深くない。ただショックだったのか気絶していた。

 最悪の事態には至っていないと知り緊張が緩むも、次に沸いてくるのは怒りである。

 

「……許さないッ!!」

 

 奴を放っておけば他の子を襲うのは火を見るより明らかだ。

 何よりも早人が許せなかったのは、奴が母の姿で自分を弄んだことだ。

 奴は自分と、母を侮辱した!

 とあるギャング曰く、侮辱とは死をもって償わせても神は御許しになるという。相手が人間ですらない化け物なら尚更だ。

 しのぶを寝かせると、ランドセルをひっ掴み、リビングを飛び出す。

 あの傷ならそう遠くには行けない筈、今度は確実に止めを刺す!

 視界の端にペニーワイズの姿を捉える。何故か奴は玄関ではなく家の奥に逃走していた。

 行き先は……風呂場!

 しめたッ!!と早人は思った。先程まで救急箱を探すために大体の場所を漁っていたが、彼処から外に通じる窓や出口はない。

 その確信は予想外にも裏切られた。

 

「そんな……ここは密室の筈!あいつはどこに行ったんだッ!?」

 

 風呂場に飛び込むと、そこにはペニーワイズの影も形もない。

 あり得ない。一体どういうことなのか理解不能理解不能!!

 窓もない狭い風呂場で外に通じている場所は……いや、ひとつだけある!

 小学生とは思えない驚異的な理解力により、早人はある仮説を導きだした。

 覗き込むものは風呂場のーー湯船!

 

「ま……まさか……排水溝から逃げたのかッ!?こんな小さな穴に潜って!!」

 

(あのピエロはママの姿に変身した……体を柔らかくなり小さくなるなりして逃げることも可能なのかもしれない!)

 

 排水溝の蓋は空いている。風呂にはいるつもりなんて毛頭なかったから、さっき見に来たときは確認すらしていなかった。

 覗き込むも底は見えない。例え此処から逃げたとしても、追うことは不可能だ。

 ならば深追いをしている暇はない。当面は母の手当てと、現状の把握が最善。そう判断し、早人は風呂場を後にした。

 

【E-07/00時50分】

【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】

[役]:子

[状態]:健康、右手に切り(治療済み)、ペニーワイズへの怒り

[装備]:『水晶』、ランドセル

[道具]:猫草@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない、救急箱

[思考・行動]

基本方針:母を守り、帰還する

1:ペニーワイズ、鬼に警戒。

2:親か子と合流する

※その他

※各役の人数・会場の地図・制限時間の詳細は未把握。

※自分の役を子であると推測しています

※ペニーワイズの『変身する能力』を認識しましたが、詳細は把握していません

 

【???/00時50分】

【川尻しのぶ@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】

[役]:親

[状態]:ダメージ(小)、気絶中

[装備]:ー

[道具]:デイパック(不明支給品3)

[思考・行動]

基本方針:家に帰りたい

1:早人……

※その他

自分の役・各役の勝利条件・制限時間を把握

 

 

 

 湯船の底、排水パイプの先のそのまた先、沖木島の下水の底にペニーワイズは居た。 

 彼は憤っていた。

 食事にありつけず、逆に敗走する始末。これでは嘗ての焼き直しではないか。

 

 何故だ、何故喰えなかった?

 最初は上手く行っていた。あの獲物の『最も恐怖するもの』に擬態した筈なのに……

 あぁ、傷が痛む。

 

 スタンドによる攻撃は銃撃よりも遥かに深いダメージをITに与えていた。  

 外見などはすぐに修復できるが、殻の裏の本質はそう簡単には直せない。

 

 必要なのは、餌だ。恐怖させ、食らえば、力も戻るし傷も直る。

 今回は運が悪かっただけだ。あのハヤトとかいう餓鬼がたまたま強かっただけ。まだやりようは幾らでもある。 

 

 強い輝きを秘めた早人のあの眼、恐怖に立ち向かう輝きのある眼は、最も忌々しい子供たちと重なる。

 

 微かに生じた恐怖を否定するかのように頭をふると、鬼は新たな"喰いやすそうな"獲物を求めて移動を始めた。

 

【下水道/深夜】 

【ペニーワイズ@IT/イット “それ”が 見えたら、終わり。】

[役]:鬼

[状態]:ダメージ(中)、ペニーワイズの姿で行動中、川尻早人への怒りと恐怖

[装備]:ー

[道具]:四次元っぽい紙袋、不明支給品3つ

[思考・行動]

基本方針:恐怖させ、喰らう

1:手頃な相手は幻術で追い詰める

2:もっと喰いやすそうな獲物を狙う

 

※下水道で繋がっている場所なら何処からでも出現できます

※川尻早人の最も恐怖するもの(川尻しのぶの死)を把握しました




だんだん『鬼』も仕掛けはじめます。
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