俺はサイヤ人の王になる   作:SHV(元MHV)

1 / 4

とりあえず完全に活動沈黙するのも癪なのでチラシの裏で活動します。


取り憑かれた男

気がついた時、俺は戦場にいた。

 

どうやら頭を打ったらしく、ひどく酔った時に似た感覚が全身を支配していた。

 

「ちくしょう……こんなところで死んでたまるかよ……!」

 

左腕が動かない。感覚が無いが無事なのだろうか。

 

ひとまず右腕で自分の身体を這いずらせ、先ほどから頭上を行き交うエネルギー波から逃れるべく窪地へと転がる。

 

「ぜっ……! はあ、はあ、はあ……!!」

 

呼吸をするのも辛い。喉から肺が出そうなほどに荒い息を繰り返すが、まるで楽にならない。

 

すると、そこへ俺と同じように片腕を怪我したサイヤ人が転がり込んできた。

 

「ちっ……!」

 

つり目がちのひどく好戦的なサイヤ人に、俺は何故か見覚えがあった。

 

「ベジー……タ……?」

 

知るはずのない男の名前。だが不思議としっくり来るそれを、俺は呟いて意識を失った。

 

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

──ビー!──

 

機械音に従いマイクロマシンが含まれた回復液が回収され、俺は目を開けて口に取り付けられたマスクを外す。

 

目を覚ますと、そこには腕を組んだ男──ベジータが立っていた。

 

「おまえは……」

 

「ふん、目を覚ますというから来てみたが……。俺の名前を知っているようだったが、貴様一体誰だ?」

 

「おれ……か? 俺は……」

 

どうしたことか、自分のことを思い出そうとした瞬間俺はひどい喪失感に襲われる。

 

「俺は……だれだ?」

 

自分自身に関する、記憶がない。生まれた場所。両親の顔。何一つ覚えていない。

 

いや、覚えていることもある。俺はサイヤ人と呼ばれる戦闘種族で、他の種族よりも圧倒的に強い存在であること。そして、ツフル人という科学力に長けた連中の下で奴隷として働かされていること。

 

前者はともかく、後者は勘弁願いたいな。

 

「ふん! 奴隷階級でも随分と下級のようだな! 覚えておけ、俺はいずれ“王”となる男だ! サイヤ人の王にな!!」

 

野心をみなぎらせた視線を隠そうともせず、ベジータは嗤う。

 

「はっ、そいつは楽しみだ。……だがそうだな、自分の名前も思い出せないんだ。せっかくだから俺も“王”になることを目指してみよう。そうだ、それがいい。その時はおい、ベジータ。お前俺の部下になれ」

 

「きっ、貴様ぁ……!」

 

俺の突拍子もない言葉に、目の前で王になることを宣言したベジータは顔を真っ赤にしてこちらを睨む。

 

「おいおい落ち着けよ。せっかく治療受けたのにまた怪我したんじゃなぁ?」

 

「ふん! 次は拾ってなどやらんぞ!」

 

そう言ってベジータは怒りをむき出しにしながら去っていく。やれやれ、ああ気が短くて王になどなれるのかね。いや、俺が王になれば済む話か。

 

「俺のマスターは今どこにいらっしゃる?」

 

俺は自分を治療した回復ポッドの前にいた、監視を兼ねたロボットに自分の飼い主の居場所について質問する。

 

「今ハ惑星“フィトサ”へ出掛ケテオリマス」

 

「そうかい……」

 

短い会話だが、また少し自分の立場について思い出してきた。

 

俺の立場は奴隷とは言っても、それほど不自由があるわけではなかった。

 

食事は好きなタイミングで食べることができるし、トレーニング設備もいつだって利用できる。

 

風呂もトイレもある。

 

唯一禁止されているのは“戦うこと”。

 

「はっ! 戦闘民族に“戦うこと”を禁止するたぁ、皮肉な話だぜ……」

 

不思議だ。以前はそのことを考えるだけでイラついていたようだが、今は“戦うこと(それ)”を禁じられてもそれほどストレスには感じていない。

 

「妙な気分だな……」

 

俺はひとまず自分の部屋だとされる場所へロボットに案内させ、クッションくらいしかない簡素な部屋で座り込んだ。

 

あぐらをかき、目を閉じてゆっくりと自分自身へと埋没していく。

 

はて、こんなことを俺は今までしたことがあっただろうか。

 

そんな思考も置き去りに、俺は俺の深い部分へと眠るように落ちていった。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

鼻から出た血が、リノリウムの床を汚す。

 

続けざまに殴られた頭部への衝撃と痛みから、床に叩きつけられ、そこへさらに追撃の蹴りが頭へ、脇腹へと降り注ぐ。

 

(ちっ、なんでこんないいようにやられてやがる。てんで大したことのない蹴りじゃねえか。こんなもん、掴んで足首をへし折ってやればいいものを……)

 

思わずイラつきながら呟く。俺は自分ではない自分を通して感じる()()()()()()痛みに、眉をしかめて耐える。

 

「あのよぉ、お前がナマ言った相手、誰かわかってるぅ?」

 

頭を庇う手を踏みにじりながら、口の臭い男が優越感に浸った声でこちらを挑発する。

 

(けっ、クセえ口開きやがって。俺なら今すぐその顎を引きちぎってやるのによぉ……)

 

まるで理路整然としない、文字通り言いがかりの暴力。

 

やれ態度がなってない。やれ今後は俺の命令に絶対服従だ。

 

俺じゃない俺は、それに徹底的に心を折られたようで、次の日から口がクセえ男の奴隷と化した。

 

稼いだ金は巻き上げられた。親の金を盗んでこさせられた。

 

モノを盗む行為を強制され、それを告げ口されその様を遠くで見ながら笑われた。

 

(こいつは……こいつの知識が流れ込んでるのか……)

 

俺は見知らぬ世界の目まぐるしい情報に驚きながらも、こいつの心を蝕んでいく侮辱と屈辱にイラつきだけを募らせていく。

 

(情けねえ野郎だぜ。弱いからこういうことになる……)

 

サイヤ人にとって、強さは絶対の指標だ。口のクセえ男みたいな奴もいないことはないが、あんな風に奴隷として扱われるのは俺達にとっては屈辱の極みだ。まあ、俺やベジータみたいな例外もいるがな。

 

俺じゃない俺は、クセえ馬鹿になぶられない自宅にいるときは、ひたすらに漫画とやらを読んでいた。

 

その中のひとつに、俺は全身を震わせる思いになる。

 

(サイヤ人だと……!?)

 

俺じゃない俺が読んでいた漫画ドラゴンボール。そこには、俺と同じサイヤ人でありながら地球という星でどんどんと強くなっていく男を主人公とした物語が描かれていた。

 

(最初はてんで大したことのないガキだったが……デカくなりゃ大したもんじゃねえか!)

 

俺は孫悟空というその男の物語を追っていく内、すっかり感情移入してしまっていた。

 

実の兄であるというラディッツとの再会と、サイヤ人であることを知りその日に死ぬ孫悟空。

 

ドラゴンボールという願いを叶える玉によって蘇生し、ベジータそっくりの男と凄まじい激闘を繰り返す孫悟空。

 

宇宙の帝王を自負するフリーザとの戦い。そして──超サイヤ人への覚醒。

 

(なんだこりゃ……スゲエじゃねえか! 超サイヤ人!! こいつにさえなれれば、もう恐いものなんぞねえ!!)

 

フリーザと互角以上の戦いをする超サイヤ人となった孫悟空。

 

自分の生きている世界が漫画という絵に描かれていることを少しだけ気味悪くも感じたが、そんなことを凌駕するほどにこの物語は面白かった。

 

(レッドリボン軍! いたなぁ、そんな奴等!!)

 

かつて少年時代の悟空によって壊滅されたレッドリボン軍の生き残り、科学者ドクターゲロ。

 

その男が仕掛けた人造人間という存在。超サイヤ人となったベジータをも圧倒するそのパワーは実に興味深い。

 

(やっぱ科学者ってのは敵にしちゃダメだな。サイヤ人はその辺思考が短絡的だからな……)

 

いずれは自分を奴隷とするツフル人を滅ぼすつもりなのは、恐らくはベジータも同じはずだ。

 

だが俺は、この物語を見ていて危惧することがあった。サイヤ人より圧倒的に上の科学力を持つツフル人の科学者がひとりでも生き残っていた時、このドクターゲロと同じことをしないとは言い切れない。

 

その上悟空はこのとき心臓病を患った。原因はいくつか考えられたが、少なくともブルマという女が未来から息子を送り込んでいなければ悟空は間違いなく死んでいた。

 

復讐の権化となった科学者を相手にすれば、最悪サイヤ人のみでは滅びる可能性すらある。

 

(地球を支配してサイヤ人とのハーフを大量に作らせ兵隊にするか? ……いや、反乱されればこちらが不利だな。だったらまだ人造人間の方が無難だ)

 

反乱を起こされても確実に止める手段がある人造人間の方が兵隊としては優秀かもしれん。

 

やがて人造人間を相手にする物語は佳境を迎え、悟空はその命と引き換えに自分が犯した過ちを精算した。

 

(悟空のミスは全部ひとりでやろうとしたクセに、一番大事な部分をガキにやらせようとしたところだな。だからいざってときに大混乱になる。俺なら……)

 

自分が悟空の立場ならどうしたか。何ができたのかを考える。セルと呼ばれるキメラを退治するには何がベストか。

 

(死んでも終わりじゃないのか。あの世ねえ……)

 

例え死んでも神に気に入られれば肉体を持つことが許されるらしい。媚を売るのは好かないが、手段のひとつとして覚えておくべきだな。

 

悟空はそれによって一日だけ地上へやってくる権利を行使してかつての仲間とライバルの前へと顔を出した。

 

だがしかし、それは新たな戦いのはじまるきっかけに過ぎなかった。

 

魔人ブウ。悟空の至った超サイヤ人の進化形態である超サイヤ人3と互角に戦う存在。

 

(悟空め、加減しやがったな。相変わらず余計なことを独りよがりで考えるのが得意な野郎だぜ)

 

その思考に嫌悪はしたが気持ちはわからないでもない。悟空は強くなりすぎた。自分以外の人間が理解できなくなるほどに。

 

そうして物語が締め括られたが、悟空とは思わぬ形で再会することができた。

 

アニメ、という文化だ。

 

動く悟空に俺は興奮した。日々なぶられる俺じゃない俺の心はすり減っていったみたいだが、その頃には俺はもうそんなことは気にならなかった。ただドラゴンボールの物語がもっと見たかった。

 

(超サイヤ人4! 大猿を制御した果てにそんな姿があるとはな……)

 

俺の危惧した通り、ツフル人の科学者が残した遺産がサイヤ人を滅ぼすべく動き出していた。

 

ベビー。ツフル人の王の遺伝子をもつというその存在は、他人を乗っ取る能力によってベジータを取り込み地球人全てを支配下に置いて見せた。

 

(すげえ力を手にいれたくせに馬鹿なのかこいつは? 正面から戦おうとするから負けるんだよ)

 

せっかく取り込んだベジータの力も、覚醒した悟空のフルパワーには敵わずベビーは太陽へと葬られた。

 

その後も邪悪龍とかいうドラゴンボールのデメリットそのものが現れたが、まあそいつはどうでもいい。

 

いよいよ俺じゃない俺が、限界を迎えつつあったからだ。

 

奴隷として扱われるこいつは、ある日ちょっとしたきっかけから口がクセえ馬鹿をナイフで襲った。

 

どうやらようやくやり返してやる気になったらしいが、遅すぎだ。

 

半端な体勢で襲ったナイフは馬鹿に刺さったものの、逆にそれを奪われ俺じゃない俺は滅多刺しにされて死んだ。

 

最後にこいつが思ったのは“もっと強くなりたかった”だ。

 

なんて間抜けな話だ。強くなりたいなら、強くなればよかっただけの話だっていうのによ。

 

結局こいつは時間を無駄にして、呆気なく死んだ間抜けだ。

 

で、そんな間抜けが取りついたのがこの俺ってわけなんだが、どうやら間抜けはすっかり弱っていたみたいで、俺に取り込まれて消えちまったみたいだ。

 

自分の記憶を見せてなにかを分かってほしかったみたいだが、俺があの馬鹿を直接殺せるわけでもねえっつうのに何がしたいんだか。

 

だがまあこいつが見せた記憶と知識は俺にとって有効に使わせてもらおう。

 

くくく、ベジータの名前を知っているはずだぜ。あれは本来なら俺達サイヤ人の王になるべき男だ。

 

だが俺は未来を知った。限定的ではるが様々な可能性と一緒に。

 

ひとまずはトレーニングでもさせてもらうとするかな。次の戦場に送り込まれるまでにはまだ時間がありそうだしなぁ。

 

俺は嫌らしく嗤いながら、トレーニングルームで身体を動かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





色々略した。書きたい場面には遠い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。