暗い路地裏
そこにフードを被って顔を隠す少年がいた
表情は隠され、そのまま路地裏の奥まで入っていく
「…そこのやつ、少しこい」
「…」
声をかけられても返事はしない
向かいの男は苛立ち、足踏みをしながら少年を睨みつける
「来いって言ってんのが分からねぇのか?」
「…」
怒声を撒き散らしながら一層濃く睨みつけた
「…てめぇ、話聞いてんのか?」
「…だから、なんなんだ」
は?と首を傾げながら、男は少年を見た
表情は見えず、疎ましく思いフードを取ろうと掴みかかろうとした
「…」
「…っ、てめぇ」
しかし手は振り払われる
「…お前らは、そうなのか?」
「あぁ?知らねぇよ、答えねぇなら殺しても構わねぇよな?」
意味など分からず、痺れを切らした男は腰から武器を取り出す
少年は頃合いだと小さく零すと
「…逃げなくていいのかな」
「俺に指図すんのか?あー、まじで殺したくなる」
…そうか、合格だ
「…は、はは」
「ちっ、何笑ってんだよ」
「いいや?ただ…
『こんなやつ』なら、殺されても文句は言えないと思ってねぇ?」
心地よい風が路地裏を通り抜ける
「ふざけんなよ?」
「…っ」
ガン、と壁に打ち付けられる
乾いた声が漏れる
男は少年の被っていたフードを取った
薄く夜空に照らされた髪が、鈍く、赤く…
「…て、め、まさか」
男が怯む
男は知っていた、少年の事を
どこかで聞いた、夜の街に現れる悪夢の事を
「ごめんね〜、フードのせいで分からなかった〜?
ーーー俺の事…知らない?」
にやりと、長い前髪の隙間から見える月色の目が男を捉えた
「…っ、誘拐屋か!」
「はは、よく分かったねぇ
まぁ…分かっても、もう意味なんてないよ〜?」
いたずらに笑った
少年相応の表情のように
少年は首から下げていた鈴を取り出す
意味が分からないまま、男は逃げ出そうとする
「ちっ、逃げ」
「…」
逃げることも…叶わないというのに
チリン
1度だけ鈴を鳴らす
男の動きが止まった
「…は、………」
「そのままこっち向いて?」
「………」
抵抗も無く、言われるがだけに従う『人形』
そして、これから殺され、もう話すことのない『人形』に、少年は笑っていた
…ただ、虚しく
全てはあの約束の為
悲しさなどない、罪悪感などない
もう全て無くなった
何が…怖かったのか
君のいる世界が、ただ、眩しかった
こんな事になるなら、なんてこと…
「…」
天から見下ろす月だけが、少年の心を映し出していた
ぱちぱちと、手を鳴らす音だけが響く
狭い路地裏には、よく響いた
「はい!よく出来ました」