もものはなびら舞い散る中、流れるはかのんの調べ 作:猿野ただすみ
倉敷文化ホール。ここでは今、人気アイドルのコンサートが開かれている。
時刻はまもなく9時半、二度目のアンコール曲が終盤にさしかかるところだ。
[ダーリンベイビ]のサビ。観客にマイクを向けるとそこをめがけて観客達が該当フレーズを歌う。まさにアイドルと観客が一体になる瞬間だ。
「みんなー、ありがとー」
かーのーん
かーのーん……。
観客のコールが続く中、「中川かのん全国ツアー『THE BIRTH』in倉敷」は終了した。
「良かったわよ、かのん」
「ありがとうございます、岡田さん」
マネージャーの岡田郁子が、舞台袖へ戻ってきたかのんをねぎらい、そんな岡田にかのんはお礼をのべる。
「ホテルに入ったら、疲れをとるために早めに寝ること。
広島市でのコンサートは、余裕をもって一日空けたけど、明日の夜にはリハがあるからね」
「はい、わかってます」
かのんの返事にハァ、と溜め息を一つ吐く。
「しょっちゅう脱け出すあなたが言っても、信憑性がないわよ」
「え? あははー…」
心当たりが有りまくるかのんは、乾いた笑いを浮かべた。
「もう…。ほら、さっさと着替えて、ホテルにチェックインするわよ!」
「はーい」
かのんは再び返事をして、楽屋へと駆けていった。
倉敷市内にある大きなホテル。
チェックインを済ませたかのんは、部屋に入るなりベッドへ直行、そのまま倒れ込み。
「はぁ〜、疲れた…」
一言呟いた。すると。
キィィィン
ベッド脇の化粧台の鏡に映るかのんの姿が輝き。
『こりゃ、かのん。寝る前にぱじゃまに着替えねばならんぞ。
あと少し、年寄りくさい』
「もう、わかってるよアポロ。あと、年寄りくさいはちょっとひどくない?」
鏡の中のかのんが喋りだし、かのんは平然とそれに対応する。
実は人気アイドル中川かのんには、秘密にしていることがある。彼女の中にはアポロという名の女神がいるのだ。
会話をするときは、鏡や硝子、場合によっては影など、かのんの姿を映し出すものを通して行っている。さらにはかのんの身体を借りる、要するにかのんと入れ替わることもできる。まあ、入れ替わりは余程の事がなければやらないが。
「……ねえ、アポロ」
『ん? なんじゃ?』
「私の声、ちゃんとみんなに届いてるのかな」
『なんじゃ、昔のかのんに逆戻りかの?』
以前のかのんは、
けれども今回は。
「そうじゃなくって。アイドルとして、みんなに想いを届けることが出来てるのかなって」
『うむ。その事なら案ずることはないぞよ。愛に満ちたかのんの歌は、今でもわらわに力を与えてくれておる。それが人々の心に届かぬはずもなかろう』
女神の力の源は愛。そんな彼女が言うのだから、信憑性は高い。
「そうかな。そうだといいんだけど」
だから、このような発言も決して自信のなさから来るものではなく、実感として湧いてこないのが原因である。
『やれやれ、かのん。お主はちと、考えすぎるきらいがあるのう。あいどるとしては立派な心がけじゃが、もう少し気楽に生きてみてもよいのではないか?
最もわらわのように、なにも考えないのは困りものじゃがのう』
「うん。それはわかってるんだけどね」
………。
『これ、かのん。自虐ネタを突っ込んでくれぬと、さすがに虚しいのじゃが』
「あっ、ごめん!?」
結構いいコンビではある。
『……まあ、よいわ。
それよりも、まねーじゃー殿が言っておったように、さっさと寝て疲れをとった方がよいじゃろ? 睡眠は最良の薬じゃからの』
「うん。そう、だ…」
『どうしたのじゃ?』
かのんの言葉が途切れたことを不振に思い、アポロが尋ねる。
「声が、聞こえるの」
『声? わらわには何も…?』
---……か…。
---だれか…。
---だれか、私を…。
『むう、なるほど。確かに少女らしき声が聞こえるの。
しかし、よくもこんな小さな声を…』
「え? 私にははっきり聞こえるよ?
『だれか、私を見つけて』って」
『なんと! 女神を差し置くとは、この声の主とはよほど波長が合うようじゃな』
「アポロ、この声ってやっぱり…」
『うむ。生きた人間の可能性は低いぞよ』
かのんは胸の前で右手をぎゅっと握る。
「私、この子に会いに行きたい」
『相手は魑魅魍魎の
「それでも…」
かのんは、強い意思のこもった眼差しを鏡の中のアポロへと向けた。
「助けを求めてるのに無視なんて出来ないよ。私だって桂馬くんのお陰で、今ここに居られるんだから」
自分を導いてくれた少年の名を出し、アポロを説得する。
ハァ…
溜め息を一つ吐き。
『しょうがないのう。ホント、かのんはなかなかの頑固者じゃわ』
すると、かのんは笑顔で。
「そんなの、今更だよ!」
ホテルを抜け出したかのんは、[声]のする方へと街中を歩いて行く。そして辿り着いたのは。
「倉敷文化ホール…」
さっきまで自分のコンサートが開かれていたこの場所の名前を、かのんは思わず呟いた。
『ここまで来れば、流石にわらわにもわかるわ。この建物の屋上に、彼の者はおるようじゃな』
かのんが手にしたコンパクト。その鏡に映し出されたアポロが言う。
しかしさすがに、屋上に忍び込むのは難しい。
(舞校なら、屋上のパスワード知ってるんだけどなぁ)
舞校とは、かのんが通う[舞島学園]の略称だ。
たまに登校出来たとき、一人になりたい場合にはよく、屋上へ行く。そして、屋上の扉が施錠されていても、何故かそのパスワードを知っていたりもする。理由は恐らく、乙女の秘密だ。
(うーん…、仕方がないか)
かのんは人目につかないようにホールの裏手へまわる。もちろん、監視カメラには気をつけてだ。
「アポロ」
『うむ、わかっておるわ』
キイィィ…ン
アポロが応えると、かのんの身体が一瞬だけ淡い光を放つ。すると、その頭上には天使のような輪が。そして背中には、同じく天使のような翼が現れた。
また、顔には古代の巫女が施した化粧に、似た雰囲気の模様が浮かんでいる。
それは、先ほど鏡に映っていたアポロの姿そのもの。そう。いま、二人は入れ替わっているのだ。
「ふむ。あの高さなら、飛ぶまでもないの」
言ってアポロは、
シュタッ!
屋上に着地したアポロは、すぐにかのんと入れ替わる。
かのんは前方を見据えた。屋上の、自分が立つのとはちょうど向かい側の手すりの近くに人影が見える。かのんはためらわず、一歩、足を踏み出した。
人影に近付いてわかったのは、相手がかのんと年齢が近いように見える少女だということだ。
と、少女がこちらに気づき口を開く。
『あなたは、誰ですか?』
それは確かに、かのんが聞いた声だった。
「私は、中川かのん。あなたの声、聞こえたよ」
かのんは、ニコリと微笑みながら答えるのだった。
歩美「高原歩美…」
ちひろ「小阪ちひろの…」
歩美・ちひろ「あとがき代わりの座談会コーナー!」
ちひろ「……って、なんじゃこりゃーーーッ!?」
歩美「作者曰く、登場予定のない人たちへの救済措置だってさ」
ちひろ「そうなんだ、……って、うちらの出番、無いってことじゃんか!」
歩美「まー、かのんちゃんの話だから仕方ないよ」
ちひろ「……」
歩美「どうしたの?」
ちひろ「いやー、歩美はこの作者の、別作品の魔法少女もので主人公やってるから、余裕があるよなー、なんて」
歩美「なっ、あれは私だけど私じゃないって言うか…!?」
ちひろ「ま、私は後で桂木に慰めてもらうからいいのさ」
歩美「!! ……そんなことより、この物語について話しましょ!」
ちひろ(逃げたな?)
歩美「まずはタイトルだけど」
ちひろ「あの、やたら長いやつね」
歩美「TV版【魔法少女プリティサミー】のサブタイトルがモチーフだって」
ちひろ「作者、どんだけ魔法少女ものが好きなんだ!?」
歩美「いや、今回はクロス先の【天地無用!】シリーズ繋がりらしいよ?」
ちひろ「へー。……天地無用っていえば、最後の方に出てきたあの子。あれってやっぱ…」
歩美「中の人繋がりだって」
ちひろ「やっぱりそうかー!」
歩美「ちなみに作者は中の人繋がりで、【神のみ】と【プリズマ☆イリヤ】とのクロスも考えたことがあるみたいね」
ちひろ「やっぱり魔法少女ものが好きなんじゃん!!」
歩美「というわけで、作者の好みが暴露されたところで今回はお開きにしたいと思います」
ちひろ「歩美も結構えげつないよなー…」