もものはなびら舞い散る中、流れるはかのんの調べ 作:猿野ただすみ
「私は、中川かのん。あなたの声、聞こえたよ」
かのんは少女に向かってニッコリと微笑んだ。
『私の、声?』
「うん。『だれか、私を見つけて』って言ってたでしょ?」
『あ…』
思い当たったのだろう。少女は小さく声を漏らす。
「ねえ、あなたの名前を教えて?」
『……私は、
少女、ももが答える。
「そっか。ねえ、ももさん。隣に来てもいいかな?」
『え、はい。いいですけど…』
ももの答えを聞いたかのんは、なんの躊躇いもなくもものすぐ横に立つ。
『あの…、かのんさんは私が怖くないんですか?』
「怖い? どうして?」
『だって私は、幽霊
するとかのんは、くすりと笑い。
「幽霊みたいなのなら、私の知り合いにもいるよ」
『え?』
かのんは手にしたコンパクトを再び開く。
『こりゃ、かのん。「みたいなの」はちと、ひどくはないか?』
「幽霊は否定しないんだ?」
『身体を失っているのは事実じゃからの』
いきなり行われたアポロとの会話に目を丸くするもも。
『え、なに? 手品と腹話術?』
鏡の中で動いて喋るかのんを見て、ももは当然の疑問を投げかける。
『ま、そう思うのも仕方ないのう。
わらわはアポロ。天界の女神ぞ。今は訳あってかのんの身体を借りておるがの』
『えっ、神さま…?』
思わずかのんの顔を見るもも。かのんは静かに頷いた。
「『ユピテルの姉妹』の一人で、地獄の悪い悪魔たちを封印したんだって」
『そのとおり。新悪魔たちも、もう少し我ら姉妹を敬うべきじゃわ』
『へぇ、そうなんだ』
素直に感心するもも。しかし。
とくん!
『え!?』
突然、激しい動悸、……の様なものが起こり、身体中を何かが駆け巡るかのような感覚に襲われる。
「どうしたの、ももさん!?」
『
「ももさん!」
『かのん! 近寄ってはならん!!』
アポロの強い口調に、かのんは伸ばしかけた手を引っ込める。
『ともかく少し距離をとるのじゃ!』
「う、うん…」
アポロに促され、かのんはももから離れることにする。
『ああ、あ……!』
ももは自分の肩を抱きながら呻き声をあげはじめた。
「ももさん!」
かのんが声をかけるが、ももからの反応はない。
「アポロ、何が起きてるの!?」
『うむ。よもやこのような事だったとはな』
「どういうこと?」
『あの娘の姿をよく見るのだ。わらわを宿すかのんなら見えるはずじゃわ』
アポロに言われ、かのんは目を凝らしてももを見る。すると。
「えっ? なに、あれ…」
かのんが見たもの。それは、ももの身体から黒い靄が溢れだし、その身を覆い尽くしているところだった。
『あれは瘴気。我ら神の力が理力ならば、瘴気は悪魔の力じゃ』
「悪魔!? それってもしかして、桂馬くんが追い出してた…」
『そうじゃ。新悪魔が言うところの駆け魂、我らが
「そんな!?」
---ワタシヲ、ミツケテ
「ももさん!?」
---ワタシハ、ココニイルヨ
(え…?)
『どうやらヴァイスの影響で、かのんと会ったことを忘れておるようじゃの』
「ちがうよ」
『ぬ、かのん?』
「今のももさんの想いは、さっきのとはちょっとちがうよ。
さっきのは不特定の誰かだけど、こっちのは…」
だが、かのんが最後まで言いきる前に。
『メガ、ミ、ユル、サナイ』
声はもものまま、しかし明らかに違う意思が言葉を発する。
『恐らくヴァイスは、わらわの存在に触発されて活性化したようじゃの。わらわが名乗ったり、「ユピテルの姉妹」のことを語ったのが不味かったみたいじゃな』
つまりはかのんが、失態の一端を担っているということでもある。
もちろんアポロはそれを責めているわけではない。単に、健全なる事実を述べているに過ぎないのだ。
『ともかく、ヴァイスをどうにかせねばならん。かのん、わらわと替わるのじゃ』
「待って! それじゃあ、ももさんはどうなるの? 幽霊みたいなモノって言ってたけど、もしかしてヴァイスと一緒にどうにかなっちゃうんじゃ…?」
それではここに来た意味がない。かのんは、あの声の主のために来たのであって、ヴァイス退治の見返りに
それに、かのんはもものことが気に入ってしまった。もう既に他人事ではない、助けてあげたいのだ。
だがそう思っていたのは、かのんだけではなかったようだ。
『安心しろ。わらわとてあの娘のことは気に入っておる。
取り敢えずこの場は、わらわの祈祷によってヴァイスの力を抑え込み、娘の意識を回復させる。ヴァイスをどうするかは後回しじゃ』
「本当に…?」
『うむ。女神のわらわが言うのもなんじゃが、天地神明にかけて、ぞよ』
アポロが真摯に応える。それを見て、かのんも腹を決めた。だが。
『うあ、あ……』
ももが再び苦しみだした。
『てん、ち…』
「え?」
『天地、せん、せい…』
「天地先生?」
聞き返すかのんの言葉にももは、ぴくり、と小さく反応する。
『あ…、かのん、さん』
「ももさん!?」
ももの反応にかのんは駆け寄ろうとするが。
『だ、めーーーーーッ!!』
叫ぶと同時に、ももの身体から閃光が放たれる。
あまりにもの眩しさに目を瞑り、再び開かれたときにはもう、ももの姿はそこになかった。
ホテルへと向かう帰り道。既に人通りもほとんどなく、アポロと会話しても特に支障は無さそうだった。
『ところでかのん。先程なにか、言いかけておったな。不特定の誰かがどうとか』
「あ、うん。最初の『見つけて』は、とにかく誰かに見つけてほしかったんだと思う。でも、あのときのは、特定の誰かに見つけてほしいって、そんな感じがしたんだ」
『成る程のう。そしてそれが恐らく』
「天地先生、だね」
ももが漏らした人名。それが何者なのかはわからないが、ももがよほど信頼をおいた人物なのだろう。
「そういえばももさんって、幽霊じゃないの? 本人は『みたいなモノ』って言ってたけど」
『うむ。わらわの見立てでは、あの娘は残留思念体じゃな。空間に焼き付いた強烈な思念に、ヴァイスが取り憑いたのじゃろ。
じゃがその思念はすでに、記録を元にして本来の「川流もも」を完全に再現しおる。そして彼女自身がその事を自覚しているのだろう。それゆえの「幽霊みたいなモノ」なのじゃろうな』
「そう、だったんだ…」
自分が本物の自分じゃないなんて、どんな思いを抱いてるのか。当然、かのんには計り知れないことである。それでも、その気持ちを汲む事くらいは出来た。
しかし、それとは別に、かのんはあることに気がついた。
「あれ? でも、確か駆け魂って…」
『そうじゃ。詳しくは聞いておらんが、奴らは転生するために女性の心のスキマに入り込む。じゃが、彼女は残留思念体。子を儲けるための身体はない。つまり、完全に想定から外れた状況、ということじゃな』
「そうだね…」
…………。
完全に黙りこむ二人。そのとき。
---〜♪
ケイタイからの着信音。慌ててポケットから取り出して着信画面を見ると。
---岡田さん
「いけない、岡田さんからだ!」
『どうやら抜け出したことが、バレたようじゃの』
「アポロ、どうしよう?」
『残念ながら、こういったことにはわらわは力添え出来んぞ』
「そんなぁ」
かのんの情けない悲鳴が、夜空へと消えていった。
魎呼「魎呼…」
阿重霞「阿重霞の…」
魎呼・阿重霞「あとがき代わりの座談会コーナー!」
魎呼「ってなんか、天地のラジオ番組思い出すなぁ」
阿重霞「……言いたいことはわかりますけど、生憎とわたくし、中の人が替わっておりますので」
魎呼「あー、そういやそうだっけな」
阿重霞「まあ、それを抜きに致しましてもこの作者、昭和臭が激しく漂いますわね」
魎呼「天地は平成作品なのにな?」
阿重霞「そして今回クロスしている【愛・天地無用!】は、天地無用! シリーズ20周年記念作品。TVシリーズ初のデジタル・ハイビジョン作品ですわ」
魎呼「おう! アタシも久々に暴れられ…、って愛・天地の説明じゃなくて、この作品の説明だろーが」
阿重霞「あら、そうでしたわね。
では、改めまして。今回名前が明らかになった川流ももさんですが、愛・天地に登場したももさん本人ではありません」
魎呼「作中でも説明してたとおり、残留思念体だな。同じく登場した駆け魂が取り憑いて、ももの思念体っていうエネルギーを奪おうとしてるって構図か?」
阿重霞「そういう単純な話でも無いみたいなのですが。そちらにつきましては、近いうちに本編で明かされると思いますわ」
魎呼「ああ。次回登場する、ゲーム大好きキモオタクか」
阿重霞「魎呼さん、もう少しオブラートに包んでくださいな」
魎呼「いいじゃねーか。そんなの推測出来んのは、鷲羽かそいつくらいしか居ねーんだから」
阿重霞「まあ、そうですけれど…」
魎呼「ま、てなわけで、今回はこの辺で終わりかな」
阿重霞「なっ、なぜ貴女が仕切って…!?」
魎呼「じゃ、次回も見てくれよな!」
阿重霞「納得がいきませんわーっ!!」