もものはなびら舞い散る中、流れるはかのんの調べ 作:猿野ただすみ
「かのんはももを、どうしたいんだ?」
桂馬が問うと、しばらくの間かのんが沈黙する。
『……桂馬くん。それって、助けたいって答えじゃダメなんだよね?』
口を開いたかのんが、桂馬に問い返す。
「そうか、少し質問の仕方が悪かったみたいだな。それじゃああらためて聞くぞ。
かのんにとってはどうすれば、ももを助けたことになる?」
『あ…』
電話口の向こうから、かのんが洩らした小さな声が聞こえた。かのんはようやく気がついたのだ。今まで説明してきた中で、「助けたい」という言葉は何度も使っていたものの、具体的にどうしたいのかは一言も語っていなかったということを。
『私にとっての…』
そう、一言だけ発して、再び口をつぐむかのん。
…………。
「あの〜…」
えりが口を挟もうとするが。
「(静かにしろ。かのんは今、ももを助けたいという想いに心の中で向き合っている。今、声をかけたら、その妨げになるからな)」
「(わ、わかりましたぁ)」
桂馬にたしなめられてしまった。
そして、さらに沈黙すること十数秒。かのんが口を開いた。
『……私ね、「私を見つけて」って言葉に導かれてももさんと出会ったの』
「…そう言ってたな」
『だけどね。駆け魂が暴走したときの言葉は「私はここにいるよ」だった』
「ああ」
『きっと、その時の望みを叶えても、本当の意味で満足してる訳じゃないんだと思う』
「その場凌ぎの満足感か」
『うん。だから…。
駆け魂を追い出すのはもちろんだけど、私はももさんの心を救ってあげたい! 桂馬くんが言う、心のスキマを埋めてあげたい!!』
かのんは、自分が為すべき目標を掲げた。それを聞いた桂馬は、わずかに微笑みを浮かべる。
「かのんの気持ちはわかった。その想いに免じて、このボクが知恵を授けてやろう」
『なんじゃ、その尊大な態度は』
桂馬の態度に、やや機嫌を損ねたアポロがツッコミを入れる。
「なんだアポロ。ボクは数多のゲーム美女を攻略し、あまつさえ、その知識を駆使してリアル女子を恋に落とし駆け魂を追い出した、いわば神だぞ」
いつものごとくの自己PRを繰り広げる桂馬だが。
『うむ。それに関しては確かに驚きを禁じ得ぬが、数多の娘を食い物にするのは、別段誉められたことではないと思うのじゃが?』
「食いも…!?」
想定外の反論に、思わず言葉に詰まる。
『うん。桂馬くんには感謝してるけど、それはちょっとね』
「にーさま、最低です」
さすがに思うところがあったのか、アポロに同調するかのん。えりも、それに乗っかるかたちで非難をするが。
「ちょっと待て、エルシィ! やらせてたのはお前だろう!!」
「あわわわ、そうでした〜」
『えりさん…』
聞き捨てならないとばかりに苦言を呈する桂馬のセリフに、今更ながらにその事を思い出すえり。さすがにかのんも呆れてしまう。
「……まあいいさ。今はももを助ける、そっちの方が大事なんだろ?」
『……!
うん、そうだね』
桂馬によって、話の流れは修正される。
『それで、何をすればいいの?』
かのんが尋ねると。
「決まってるだろう。まずは情報収集だ!」
「なんだかいつもの攻略と変わりませんねー?」
「このバグ魔! ……って今は悪魔じゃないのか。
とにかくだ! 何か行動を開始するなら、まずは情報だ。情報も無しに行動して上手くいくなんて、そうそうあることじゃない。そんな運任せ、ボクの中では攻略とは言わないからな」
そう。桂馬のやり方は全て、情報収集から始める理論立てた攻略。
『そう言えば、わらわの占術世界でも、似たようなことを言っておったの?』
それは女神さがしをしていた頃。とあるきっかけで桂馬の意識のみがかのんの精神の中、アポロが創った占術世界に引きずり込まれた。
そこでアポロ、そしてかのんと会話したのだが、少しでも災厄を祓おうと祈祷していたアポロに桂馬は言ったのだ。
---余計なことするな。ツキに頼るなんて、そんなの攻略じゃない!!
と。
『「正しい選択肢を選び続けるだけ」、じゃったか。今回もそうだと言いたいのか?』
「ああ」
一部の例外があるとはいえ、桂馬はこのやり方で攻略を成功させてきたのだ。
「ただし、今回は女子同士の攻略だ。『恋愛』を使っての攻略はほとんど無いと思った方がいいな」
『ほとんど?』
「かのん、そういうセカイもあるだろう?」
『あ…』
桂馬の言いたいことがわかり顔を赤くするかのん。
「まあ、『天地』という人物のこともあるし、その辺は心配しなくても大丈夫だろう。
そうなると、今、一番可能性が高いのは友情ルートか」
友情ルート。恋愛美少女ゲームにおいて、バッドエンドよりはましな展開。あるいは同時攻略時(ハーレム展開を除く)、最終的に攻略したヒロイン以外が友達としてエンディングを迎える場合もある。どちらにせよ、恋愛系ゲームではわざわざ狙ったりしないルートだ。
「あれ? でもいつもは、『ルートを見極める』とか言ってませんでしたっけ?」
「ほう。お前にしてはよく覚えてたな。
だが友情ルートは、比較的移行しやすいルートだ。仲良くなるような選択肢を選びつつも、恋愛まで発展しなければここに落ち着くことが多い。
そして、女子が女子たちとなにかを始める系のシミュレーションゲームでは、一緒に悩み、ぶつかり合いながら友情を深める展開も多いからな。今回はこれと親和性が高そうだ」
えりの疑問に、桂馬はわかりやすいようにゲームにおいての友情展開を説明する。
だが、それに驚きを禁じ得ぬ者が。
『おぬし、恋愛以外のげーむもするのか!?』
「ボクをなんだと思ってるんだ!?
ボクはギャルゲーマーだ。美少女が出て、パラメーターがあって、ルートがあれば立派なギャルゲーだろ!?」
『あはは、桂馬くんらしいね』
カノジョが出来てもブレない桂馬。だからこそ、かのんも安心できるのだ。
『それで情報を集めて、仲良くなる方法を見つけて、ちゃんとお友達になれれば、ももさんを助けられるの?』
かのんが尋ねると、桂馬が一瞬沈黙し。
「おそらく心は。だが、駆け魂が出るかはわからない」
桂馬の発言に、電話口の向こうにいるかのんとアポロ、そして隣にいるえりも驚きを露にする。
「そもそもお前たちは、自我を持った残留思念に駆け魂が憑いた前提で話してるが、残留思念に駆け魂が憑いて自我を持ったって考えた方が自然じゃないか?
その場合、心のスキマ=駆け魂の棲み家という図式は成り立たない」
『あ…』
どうやら無意識に、いい方へと物事を考えていたことに気がつく。
「まあ、そう悲観するほどでもないさ。
駆け魂の力の源は負のエネルギー。心のスキマが埋まれば、その結びつきだって弱まるはずだ」
『そうか。……うん、そうだね。ありがとう、桂馬くん』
「それから、集めた情報はPFPにメールで送ってくれ。ルート修正が必要なら、こちらから連絡する」
『うん、わかった。桂馬くん、それにえりさん。本当にありがとう。
それじゃあ、お休みなさい』
「ああ」
「かのんちゃん、お休みなさい」
そして通話が切れた途端。
「もー、にーさまってば。こんな夜中に私を起こすくらいなら、ケータイくらい持ってくださいよー」
えりが文句を言う。だが、桂馬の答えは意外なものだった。
「ん? 携帯なら持ってるぞ」
「……はい?」
「前に母さんに、無理矢理持たされたから。まあ、充電してないから使えやしないがな。
ん? どうした、えり?」
気がつけば、えりは俯き体を小刻みに振るわせている。そして。
「にーさまの、ばかぁ!」
そう言ってからケータイを掴み、部屋から出ていった。
「なに怒ってるんだ、あいつ」
相変わらず、振り回される人の気持ちがわからない桂馬だった。
月夜「九条月夜…」
栞「汐宮栞の…」
月夜・栞「あとがき代わりの座談会コーナー」
月夜「……って、敢えて私たちを使うなんて、作者もいい度胸なのね」
栞「……」(こくこく)
月夜「ともかく、今回の解説を始めるのだわ」
栞「……」(こくこく)
月夜「まずは、あのアイドルの子の答えを聞いて微笑む桂馬なのだけれども、あれは攻略ヒロインを第一に考えた答えに満足した、ということなのね」
栞「……」(こくこく)
月夜「……今度は栞が説明して?」
栞「……うえぇっ!?」
月夜(全部私が説明したら、栞のためにはならないのですね)
栞「……ええ、と。以前、魎呼さんたちが言っていた残留思念と駆け魂の関係、こういうことです」
月夜「こういうことって?」
栞「桂木くんが言っていた、駆け魂が憑いて残留思念に自我が芽生えたこと、です」
月夜「原作で説明されていた、『駆け魂の力を逆利用している』状態なのですね」
栞「それから、最後にえりさんが怒ったのは、自分が必要とされてるって言われたかったからというところもあります」
月夜「ハクア? とは違って、ささやかな想いみたいだけど。
でも前回を読めばわかるとおり、桂馬も必要だから呼んだのだわ。ちゃんと説明すればよいのに、相変わらず攻略以外では卜念仁なのですね」
栞「うん。女の敵なのだわ」
月夜「そこまで言ってない。
それにしても、桂馬が携帯電話を持っていたことには驚きなのですね」
栞「それは作者も同じで、天星さんの二次の後書きでかかれていたのをみて、最後のくだりを付け足すことにしたらしいです」
月夜「多分作中では、桂馬とその母親しか知らないのでしょうね。
さあ、もう終わりの時間なのですね。みんな、次回もまた見るのですね」
栞「……」(こくこく)