もものはなびら舞い散る中、流れるはかのんの調べ 作:猿野ただすみ
「ありがとう、鷲羽ちゃん!」
かのんはお礼を言って、個室から出ようとする。しかし。
『ああ、ちょっと待ちな』
ディスプレイの中の鷲羽が呼びとめる。
『かのん殿、あなたの携帯電話をディスプレイにかざしてもらえないかしら』
「え? あ、はい……」
かのんは訝しみながらもケータイを取り出し、パソコンのディスプレイにかざしてみる。すると。
パアァァ……
ケータイがうっすらと光り出し、数秒ののちに治まった。
「えっと、何をしたの?」
『なに、こちらとの通話機能と鷲羽ちゃん特製のアプリをダウンロードしただけさ』
かのんの疑問に、こともなげに答える鷲羽。
(このケータイに、そんなにデータが入るの?)
疑問には思うものの、鷲羽の超科学を目の当たりにしている身としては信じるしかない。
『アプリは全部で3つ。それぞれ使用回数は一回だけ。
その特徴は…』
鷲羽がアプリの内容を説明し、それをかのんは黙って聞く。
『……以上。これをどう生かすかは、かのん殿次第だよ』
「うん。改めてありがとう、鷲羽ちゃん」
お礼を述べたかのんは、再び部屋を出ようとして。
『ちょい待ち。ネットの接続は、ちゃんと切っていきな』
「……はい」
顔を赤らめながら、謝った。
「ふう…。ようやく一息つけるね」
椅子の背もたれに身を預け、ふぅ……と深く息をつく鷲羽。
ここは
「しかし、女神を宿す六人の少女か。
鷲羽が不穏なことを口走っているが、少なくとも、たいして肉体的負担を与えたりはしない。大体は、アストラルデータから再現したプログラムでシミュレートしたものからデータをとる。実際に被験者からデータをとるにしても、充分に安全性を確保した上で行われることがほとんどだ。
もっとも、地球と銀河系レベルでの常識の差はかなりの開きがある上、鷲羽はいわゆるマッドなサイエンティストなので、精神的負担に関しては保証の限りではないのだが。
コンコン…
扉がノックされる音に、鷲羽はモニターで相手の確認をする。
「……ああ、天地殿か。いいよ、入っといで」
鷲羽が声をかけると、扉を開けてひとりの少年が入室する。
彼は柾木天地。実質的なこの家の家主だ。
「鷲羽さん、首尾はどう?」
「ああ、ようやく協力者が見つかったとこだよ」
天地の質問に、コキコキと首をならしながら答える鷲羽。
「その人は、もも君を助けられそうかな?」
心配顔で尋ねる天地に、鷲羽は優しい笑顔を作り言葉を返す。
「ええ。中川かのんっていうアイドルの子だけど、もも殿のことにとても親身になってくれてたよ。
それに彼女は、もも殿を助けるための手段をいくつも持っているようだしね」
「手段?」
聞き返す天地に、鷲羽は首を縦に振る。
「かのん殿はその内に、アポロという女神を宿しているんだよ」
「アポロって確か神話の…、あれ?
アポロって男の神様じゃ…」
神話にそこまで詳しいわけではない天地だが、アポロという神が男だということは知っていた。
「その末裔で、名を受け継いだ巫女なんだってさ。
六人…、六柱って言った方がいいのかな? その女神たちが、『ユピテルの姉妹』という巫女として姉妹の契りを結ぶらしいね。
もっとも300年くらい前、地獄で起きた戦争を収めるために肉体を失って、今はそれぞれ、人間の女の子の身体を間借りしてるそうよ」
「そのひとりが、かのんって子なんだね」
「そういうこと」
鷲羽は頷き、それにと続ける。
「かのん殿には、頼れる相談相手がいるからねぇ」
「相談相手? 鷲羽さん以外に?」
「ええ。『桂木桂馬』って少年が、もも殿を救うための方向性を示したみたいよ」
そう言いながら擬似力場体のコンソールを叩き、同じく擬似力場体のディスプレイに、マイクを持った少女の姿と、証明写真らしく無表情な少年の姿を映し出す。
「マイクを持った少女が中川かのん殿で、もうひとりが桂木桂馬殿。桂馬殿は、高校のデータベースにハッキングして引っ張り出した写真よ」
「ハッキングって…」
呆れた面持ちの天地だが、咎めるようなことはしない。
「桂馬殿は、女性の心のスキマに入り込んだ悪魔の魂を、追い出す手伝いをしていたらしいんだ」
「女神の次は悪魔か」
頭が痛くなってきた天地だが、宇宙人だっているのだから、と自らを納得させることにした。
「それで少し気になってもう少し調べてみたんだけど、どうやら彼は、ネットの世界で有名な『落とし神』みたいね」
「落とし神?」
「そ。重度のギャルゲーマーで、その攻略速度と正確さ、そしてサイトのタイトルから、自他共に『落とし神』と呼ばれてるのさ。その正体を知ってるのは、ごく一部の人間だけどね」
銀河アカデミーの哲学士レベルの変人だね、と付け足し笑う鷲羽。
「で、この情報にかのん殿の話を照らし合わせると、どうやら悪魔を追い出すために対象を恋に落とし、心のスキマを埋めていたみたいだね。それこそ、恋愛シミュレーションゲームの要領で」
「そんな無茶苦茶な!」
呆れながら言う天地に、ニヤリと笑い鷲羽は言った。
「かのん殿も、桂馬殿に救われたひとりなんだってさ」
「ええっ!?
いや、でも現実とゲームは…」
「ああ、違うね。ゲームは様式美によって彩られた虚構の世界。
でもね、天地殿。そのストーリーに登場する女の子たちの悩みっていうのは、案外現実の女の子たちも抱えていたりするものなのさ。
桂馬殿はおそらく、現実の雑音の中から、ゲームと同じ音色を見つけていったんだろうね」
実際の桂馬は人の心を察することが出来ず、ゲームの攻略方法でしか対応出来なかったのだ。
しかし、ゲームでも
「まあ、私の推測が合っているかどうかは別にしても、桂馬殿が彼女たちの悩みを解決して、悪魔を追い出してたのは間違いないだろうねえ」
「そう、なんだ…」
そう応えて天地は、ディスプレイに映し出された少年をみる。
と、その時。
こんこん!
再び扉をノックする音が。鷲羽は慌てて画像を切り替えると、そこには。
青く長い髪をツインテールにした少女の姿があった。頭の上には、ウサギのように耳の長い、猫のような生き物がチョコンと乗っている。
「「砂沙美ちゃん」」
鷲羽と天地が同時にその名を呼ぶ。ちなみに、頭の上にいるのは魎皇鬼という。
『あ、よかった。天地兄ちゃんそこにいるんだね?
あのね、阿重霞お姉様と魎呼お姉ちゃんが、またケンカを始めたんだ』
『ミャー、ミャミャア!』
砂沙美と魎皇鬼の訴えに、またかという顔をする天地だったが。
『ケンカしてる場所が、天地兄ちゃんのニンジン畑なんだけど…』
『ミャ~』
「なんだって!?」
天地は血相を変えた。
「ごめん、鷲羽さん。ふたりを止めてくる!」
「ああ、天地殿!」
飛び出そうとする天地を呼び止めて。
「時期が来たら、その時は頼んだよ、天地殿」
「……ああ、わかってるよ」
笑顔で頷き、今度こそ天地は部屋を出ていった。
「……かのん殿、上手くやってくれるといいんだけど」
部屋でひとり、鷲羽はそう呟いた。
結「五位堂結…」
剣士「柾木剣士の…」
結・剣士「あとがき代わりの座談会コーナー!」
結「……って、キミは
剣士「一応『魎皇鬼』シリーズの『柾木天地』の弟で、4期に幼い俺は出てたし、作者が言うには中の人つながりだって」
結「あー、そういえば桂馬くんと同じ声だったね」
剣士「それはそれで、雨音さんの立つ瀬が無くなるんだけど」
結「まあ、そこは特別出演ってことでいいんじゃないかな?
さて、時間も無いことだし、そろそろ解説を始めないとね」
剣士「そうですね。
それじゃあまずは、かのんさんの携帯に特製アプリをダウンロードしたところだけど。
鷲羽さんにしては結構、大盤振る舞いだと思うな」
結「いや、そうでもないよ。作中でも言ってたとおり、使い方は彼女次第だからね。それを観察するのも、目的だったみたいだよ」
剣士「それなら、らしいかな?
次は、天地
結「実験方法は、『魎皇鬼』シリーズからだっけ?」
剣士「はい。正確には外伝『GXP』からです。少し後にある『哲学士』もそうですね。
『愛・天地』は完結してる話だから、少しくらい『魎皇鬼』・『GXP』から設定を持ってきてもいいだろうと、作者が言ってました」
結「所謂、捏造設定だね。まあ、それらを引き合いに出さないと、天地シリーズの『あかいあくま』が伝わらないか。
あとは、今回ようやく柾木天地が登場したね。砂沙美と魎皇鬼も」
剣士「兄ちゃんはともかく、あとのふたりは顔出し程度ですけど」
結「魎皇鬼なんか、アニメじゃ最終話にちらっと出てただけだから、セリフがあるだけでも扱いはマシだよ」
剣士「うーん。本編に出て、少しだけセリフがあるのと、本編に出られず、ここで解説するのでは、どっちがマシなんだろうか…?」
結「それは、意外と奥が深い話だね。まあ、そのへんの捉え方は人それぞれだから。
とにかく。今回はこれでお開きにしようか」
剣士「そうですね。俺も戻らないと、ラシャラ様からお説教が…。
あ、ゴホン!
それじゃあみなさん。次回もみてください」
結(微笑ましいなぁ)