サァァァァァァ………
静かな執務室に、雨の音が響く。
季節は梅雨。連日雨が降り続いている。
提督は外を見て、ため息を一つ。
叢雲が聞いてくる。
「雨は嫌い?」
「ああ、あまり好きじゃないな。少し憂鬱な気分になる。そういう叢雲はどうなんだ?」
「嫌いではないわね、少しゆっくりできるじゃない。まあ、晴れてる日の方がいいけれど……」
「そうか…」
再びの沈黙。雨音を背景に静かな時間が流れる。空気は湿気て、重くなっているが、涼しいお陰でそれ程の不快感は感じない。
降る雨の音は単調で、しかし心地よく、気を抜けば眠くなってしまいそう。
叢雲の言っていた事が、少し分かった様な気がした。
ふと気になって叢雲に聞いてみた。
「みんな雨の日って何してるんだ?」
「そうねぇ……」
「ヒーマー!ヒマヒマヒマヒマヒーマー!!」
雨が降り始めて三日目、深雪はずっとこんな感じだ。普段から外で遊んでいることの多い深雪は、連日の雨でストレスが溜まっているのだろう。さっきからヒマを連呼している。
「まあまあ深雪ちゃん、もうちょっと落ち着こう?」
吹雪はみんなの姉として、みんなを落ち着かせようとしている。真面目な姉だなとは思うし、そんな吹雪を誇らしくも思う。
初雪は布団にずっといる。この恰好が落ち着くと本人は楽しそうだが、そのうちキノコが生えないか心配だ。
磯波はカメラを携えて色々な写真を撮っている。最近は新しいレンズを買おうと電器店を巡っていると聞いた。今まで磯波はずっとオドオドしている様な子だったから、この変化は姉妹としても嬉しく思う。
「……こんな感じよ」
「へぇ、なかなかみんな元気だな。もっと溜め込みそうなものだと思っていたが」
「私達、雨の日でも戦うのよ?今更この程度の雨で音を上げる訳ないじゃない」
まったくもってその通りだ。
ゴロゴロゴロ……
遠雷が聞こえる。いよいよ雨は強くなってきた。さっきまでは心地よい音でだったが、ここまで来ると騒々しく感じる。
秘書艦席を見ると、叢雲が震えている。
ピンと来た。
「叢雲」
「な、何よ?」
「もしかして、雷怖いのか?」
「そそそそ、そんな訳なななないでしょう!?」
明らかに動揺している。少し悪戯心が湧きあがってきた。
ニンマリしながら、
「ほう、ならいいが」
「全く、この私になんて事聞いてるのよ……」
明らかに目が泳ぎまくっている。このままいじり倒すのも良いが、少し放置しようかと思った。
ピカッ
ゴロゴロゴロゴロ……
さっきよりも近い。叢雲を見やると、アンテナの発光部が赤くなっていた。叢雲自身もちょっとビクビクしていて可愛らしい。
「な、何見てるのよ!!」
「いやー?なんでもないですよ〜」
「全く、ニヤニヤして……」
「やっぱり雷怖いんじゃないかなって思ってね〜」
「そ、そんなわけないじゃな────」
ピカッ
ズドォォォォォォォォン!!!!
「キャアアアアアアアア!!!!」
今度はかなり近かった。それと同時に、叢雲が物凄い悲鳴をあげた。
「…………」
「……………………」
気まずい沈黙。
「やっぱり怖いだろ」
諦めた様に、吹っ切れたかのように叢雲がまくしたてる。
「そうよ!雷怖いわよ!!文句ある!?」
「ごめんごめん、そんな怖いとは思ってなくて。
しばらく業務は休憩にするから、雷遠くなるまで休んでな」
「わ、わかったわよ……その……ありがと」
数時間後。
「忘れなさい」
「嫌だね」
「忘れなさい!絶っ対に忘れなさーい!!」
「面白かったし可愛かったから絶対嫌だ」
「ああああああ一生の不覚よぉぉぉ……」
そこには恥ずかしさで真っ赤になりながら提督に向かって怒鳴る叢雲と、それを見てにんまり笑う提督がいるのだった。
「でも俺は、叢雲の強い面、凛々しい面ばかりではなくこういった可愛い面ももっともっと見たいなって、そう思ってるよ」
「アンタ……」
「やっぱり俺の奥さんは可愛いなぁって」
「やっぱり忘れなさーーーい!!」
数週間後、今度は猛烈な暑さに見舞われて、熱中症の艦娘が続出するのだが、それはまた別の話。
ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
このストーリー、一ヶ月前に考えてから、ちんたら進めていましたが、漸く日の目を見せられそうで安堵しています。梅雨の話なのに夏に出すあたり、私のガバガバ能力が垣間見えますが、楽しんで頂けた様なら幸いです。
最後に謝辞を。今作の校正や編集に携わって頂いた各方面の皆さん、ありがとうございました。
それでは、また次でお会いしましょう