とある鎮守府の日常   作:さと(仮)

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なんと4ヶ月も放置してすみません……


私がクソと呼ぶ理由

ある日の事である。

 

「ねぇ、曙ちゃん」

同室の潮が話しかけてきた。

私は読んでいた本から顔を上げずに応じる。

「なによ」

「前から気になってたんだけど、曙ちゃんここに来た頃ってその鈴なかったよね」

「そうね」

「どうして付けるようになったのか聞かせて欲しいなぁ、って」

潮に顔を向けると、期待の眼差しを送られていた。

「そんなに面白い話じゃないわよ」

「いいよ、それでも。……あ、無理に言わなくても良いよ?」

潮は俯いて、ゴニョゴニョと言った。

「話すわよ。しょうがないわね……」

私は本を閉じ、話し始める。

 

「あれは、着任してからしばらくしての事よ……」

 

─────────────────────

 

「クソ提督が付いてくるぅ〜!?」

 

その日、秘書艦から小物の買い出しを頼まれていた私は、その次の言葉で驚いた。

 

クソ提督。

初めて会った時に、思わずクソを付けて呼んでしまった。以来、引っ込みが付かなくなりずっとクソと呼んでいる。そんなんだから、提督との距離も微妙である。いや、私が避けているだけなのかもしれない……

 

「そうよ。ここでアンタの心の中にある提督との距離を埋めて来なさい。それと、そのクソ呼ばわりも直してきなさい。」

「アンタだって提督に対してアンタとか呼んでるでしょーが!!」

「私たちは付き合いが長いんだからいいのよ!!」

こんなやり取りをしながら予定していた出発時間を迎えた。提督は既に正門で待っていた、……のだが。

 

「って、クソ提督、なんて格好よ」

提督は私服だった。

「言ってなかったか?今日は午後休だぞ」

「それは知ってるけど……」

「まあせっかくだし、着替えてきな」

「……持ってない」

「……わかった。じゃあ行くか」

提督が歩きだし、私はそれを追いかけていった。

 

近くのバス停からバスに乗り込み、ショッピングモールに向かう途中、提督が話しかけてきた。

「なあ曙」

「なによ」

「私服持ってないって言ってたけど」

「それが何よ」

「休日何してんだ?」

「……特に何も」

 

実際そんな趣味もないので、鎮守府図書室で借りた本を読んでいたりする位だった。

だが提督は、それを聞くと考えだした。

ややあって、提督がまた話しかけてきた。

「なあ曙」

「なによ」

 

「今日、私に少し付き合ってもらっていいかい?」

「……まあ、いいわよ」

 

ショッピングモールに到着して、早速提督は私を連れ回しはじめた。

「クソ提督、どこいくのよ」

「付いてくればわかるさ」

そう言ってしばらく歩いた先にあったのは、

「服……屋?」

「そう。さっき、私服持ってないって言ってただろ。それじゃ不便だからな。私服はあった方がいい。」

そう言って入っていった。

提督はしばらく見て回っていたが、しばらくして、

「おっ、これいいんじゃないか」

提督が手に取ったのは桜色のワンピースとベージュのコート。

 

「覗いたらコロス」

「わかってるわかってる」

 

数分後、試着室から出てきた私をみて、提督は

「可愛いじゃないか。よく似合ってる」

…………結局買ってもらってしまった。

「せっかくだしコイツに着替えたらどうだ」

なんだか上手く誘導されてる気がする。

 

モール内を散策していたら、

 

『これより、噴水広場にて、NKC48のライブを行います』

 

所謂ご当地アイドルだろうか。こんなのもあるのかと思っていたら、人の流れが速くなってきた。

どんどん流れていく。付いていくのが精一杯だ。

「曙!離れるんじゃないぞ!」

「わかっているわよ!」

そんな事言いながらついて行っていたが、とうとう

「あっ!!」

転んでしまった。その瞬間、提督の手が離れていく。

「曙!!」

あっという間に、視界から提督が消えていった。

 

しばらくして人の流れは収まったが、提督はどこにいるのかわからなくなった。更に、ここがどこなのかもわからなくなってしまった。要するに迷子である。

「うっ……ぐすっ……」

広いモール内、行くあてもなく歩いていると、自然と涙が出てきた。

「どこ……行ったのよぉ……クソ提督ぅ……」

 

よそ見をしていたせいか、通行人とぶつかってしまった。物凄い形相で睨まれる。

「前見て歩け、クソガキ!!」

足が動かない。普段はこんな奴より100倍怖いはずの深海棲艦を相手にしてるのに、いざこうなると足がすくんで動けない。情けなさで更に涙が出てくる。

 

その時。

 

「曙!!」

この声は。

「くそ……てい…とく」

 

来てくれた。

提督が。

 

「申し訳ない、連れが迷惑をかけた」

「……おう、気をつけろ」

私がなんにも出来なかった相手を、あっという間に宥めてしまった。

 

脇道に入ったら、提督が頭を下げてきた。

 

「悪かった。見つけるのに手間取って、曙に怖い思いをさせたな」

 

その瞬間。私の中でなにかが切れた。

 

「うぅっ……うゎ……うわぁぁぁん!!」

堰を切ったように涙が出てくる。情けなさ、恐怖、助けてくれた嬉しさ。様々な感情が混ざりあい、涙となって溢れてくる。

「ずっと、一人で」

 

「クソ提督を探してて」

 

「でも見つからなくて」

 

「それで、あの人にぶつかって」

 

「私はなんにも出来なくて」

 

「普段色々言ってるのに、こんな時なんにも出来なくて」

 

「そしたらクソ提督が助けに来てくれて」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

提督は何も言わなかった。黙って私を抱きしめて、私の話ともつかない言葉の束を聞いていた……

 

落ち着いてから、ショッピング再開……とはならず、自然と帰る方向で話が進んでいった。そうして、バス停に向かっていたのだが、ふと提督が足を止めた。

 

「どうしたのよ」

「曙、あと一軒だけ行って良いかな」

「……まあ良いけど」

 

そこは雑貨屋。所狭しと商品が並べられていた。

提督はどんどん奥へ入っていく。そしてすぐに袋を持って出てきた。

「おまたせ」

提督は小さな鈴を買っていた。

「鈴?」

「ああ。また迷子になっても、すぐ見つけられる様にな」

「そ、そんなに!何度も……迷子に……ならないわ……よ……」

強く否定しようとしたが、先程の事を思い出し、言葉尻が弱々しくなってしまった……

「まあまあ、とりあえず付けて欲しい」

「まぁ……いいわよ」

 

チリ……ン

 

軽やかな鈴の音が響いた。綺麗な音色だった。

花の髪飾りの横に付けたら、「うん、似合ってる」と言われた。

一瞬イラッと来たのでとりあえず沈黙で返した。

 

バスの中で、ずっと思っていた事、言いたかった事を、ぽつりぽつりと話し始める。

「クソ提督…」

「ん?どうした曙」

「いつも……いつもクソ提督って言ってごめんなさい……

初めて会った時、思わずクソ提督って言っちゃって、なんか引っ込みがつかなくて。

でも普通に接したくて、ずっと提督と普通に話したくて、でも顔を合わせるとクソ提督って言っちゃって。

でも本当は、本当は……」

段々自分が俯いていく。

ふと影が差した。顔を上げたら、提督が私の事を撫でていた。

「そんな風に思ってくれていたんだな、嬉しい。

でも、あまり無理しなくてもいい、自分が呼びたいように呼ぶといい。でもいつか、普通に、自然に、提督って呼んでくれる、そんな日がくるのを待っているよ。ゆっくりでいい。今日は、曙からそんな言葉が出ただけで良かったよ。曙を連れ出した甲斐があった。」

 

撫でられているのが心地好く。段々眠くなってきた。

 

「ありがとう、提督……」

 

そして、意識が暗転した。

 

─────────────────────

 

眠ったか……

無理もない。今日一日でだいぶ精神をすり減らしただろう。きっと疲れも溜まっていたのだ。

曙があんな風に思っていたとはな。やはり見立て通り、決して悪い子ではなかったのだ。ただ、自己表現が苦手なだけであって……

ゆっくり待とう。「いつか」を……

 

─────────────────────

 

「で、曙。頼んでおいたものは買ってくれたかしら?」

 

「あっ」

 

 




ご覧頂き、ありがとうございます。
えー、新シリーズと銘打ってはや4ヶ月となって、まだ2作目とかいう状況で本当にすみません……
今回は曙の過去編ということになります。曙の鈴のストーリーですね。ただ、それ以外のネタも少し入れてあったりします。

以下謝辞になります。

原案を頂きました、とい。様(@toy_Re_bel)、この様な場を提供して頂きました、はまけん。様(@twdshamano)、深夜の妄言にお付き合い頂きました、はまけん放送。コミュニティの皆様、この場を借りて、御礼申し上げます。

次回がいつになるかは全く決めていませんが、気長にお待ち頂けると幸いです。

それでは、また次でお会いしましょう
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