最近、加賀さんの様子がおかしい。
加賀さんは鎮守府でも特に精強を誇る一航戦の一員、そして私、赤城の相棒として鎮守府のみならず、一般にも広くその名を知られた艦娘です。普段は冷静沈着で、ともすれば冷淡であるという誤解を与えることも多いですが、実際にはその胸の奥に、優しさと強い情熱を秘めています。
そんな加賀さんは、最近朝は早くから夜遅くまで起きていますし、訓練も実戦も休みなく行っていると聞いています。
明らかなオーバーワーク。一度は止めようとしましたが、ふと加賀さんを見た時の、鬼気迫る表情に、何も言えなくなってしまい、結局一度も止められませんでした。
ある日の昼下がり。
基地近くに設定された訓練海域で私達は演習を行っていました。私の前を先行するのは加賀さん。
今日の加賀さんは、動きに精彩を欠いています。それがやけに気になって、加賀さんを呼びました。
「加賀さん、お疲れでしたら少し休みましょう?」
ですが、加賀さんは
「いえ、大丈夫です。」
明らかに嘘です。加賀さんは他の子には気付かれない様に上手く取り繕っているようですが、加賀さんの全ての動作においてワンテンポ遅れており、かなり無理をしている様です。
このままではいずれ事故を起こす。そう思い、提督に訓練中止の意見を具申しようとしたその時。
先行していた加賀さんの身体がぐらりと揺れ、その瞬間、そのまま倒れました。
「加賀さん!しっかりしてください、加賀さん!!」
「極度の疲労ですね」
医務室に担ぎ込まれた加賀さんを診た明石が言いました。予想通り、極度の疲労によって加賀さんの身体がついてこなくなり、倒れたとのことでした。本来なら自室で休んでも良いのですが、医務室に担ぎこまれた時に高熱を発していたため、体調が落ち着くまでは隣の部屋のベッドで寝かせておくとのことでした。
許可が出たので、加賀さんのベッドの横に座らせてもらいました。提督も様子を見にいらっしゃいましたが、ご多忙なのか、秘書艦の方に呼ばれて離席されました。
加賀さんは、今は熱も引いたらしく、穏やかな顔で眠っています。やはり相当疲れていたのかなかなか目を覚ましません。いつもはあまり無茶をしないはずの加賀さんがオーバーワークをした挙句、過労で倒れるのは何か理由があるのでしょうか。そこまでするほど追い詰められる理由が………
「ん…っ」
日もかなり傾いた頃、静かな部屋に小さく声が響きました。ベッドを見ると、加賀さんが目を覚ましていました。
「ここ、は…」
「医務室ですよ」
声を掛けると加賀さんが驚いた顔でこちらを向きました。
「赤城…さん」
「はい、おはようございます。加賀さん」
その瞬間、加賀さんが弾かれたように飛び起きました。
「そうだ、訓練!!」
慌ててベッドに押し戻します。
「加賀さん!無理しないで下さい!!」
やはり本調子じゃないのか、思ったよりあっさりベッドに倒れこみました。驚いた顔で加賀さんがこちらを見てきます。
「加賀さん、あなた訓練中に倒れて医務室に運ばれたんですよ」
そう告げると、加賀さんは色々納得した顔で「そう…」とつぶやき、ベッドに戻りました。
「みんな心配していましたよ。もちろん、私も」
「そう…心配させてすみません」
加賀さんが珍しくしおらしくなっていました。
「呼吸も脈も安定、うん、大丈夫そうですね」
明石さんが加賀さんに言いました。ただ、大事をとって、明日の朝まではこの部屋にいるように、とのことでした。
明石さんが退室して後、しばしの沈黙の挟み、加賀さんがぽつりと口にしました。
「その…ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」
私は加賀さんに、ずっと聞こうと思っていた質問をぶつけてみました。
「何か……あったのですか?」
「え?」
「最近殆ど休まず訓練か出撃していたじゃないですか……こんなになるまで……何がそこまで加賀さんを駆り立てたのかと思いまして……」
その質問をした時、初めは言い淀んでいましたが、やがて、ゆっくりと話し始めました。
「その…赤城さんが、改二になって、私では追いつけない遠い所に行ってしまう気がして……もう赤城さんと一緒に並べなくなるのかと思うと怖くて……何としてでも追いつきたくて…無理をしました」
そんな加賀さんの答えを聞いて、私は少し笑ってしまいました。
「赤城さん!私は…!!」
加賀さんが少し怒ってしまったので、謝りながら話します。
「すみません、加賀さんも同じように思っていたのかと思うとつい…」
そういうと、加賀さんの瞳が驚きに染まりました。
「加賀さんも…って?」
「ええ、私も…加賀さんとずっと並んでいたくて…だから改二の改装案が来た時にすぐに同意したんです…なのに加賀さんがすぐに追い抜いちゃったら、私の立つ瀬がないじゃないですか」
そういったら加賀さんはキョトンとした顔でこちらを見てきました。そしてひとしきり見つめ合った後、二人で笑いあいました。
ひとしきり笑った後、加賀さんに言いました。
「隣の芝生は青く見えるものですね…
だから…もうこんな無茶しちゃだめですよ。」
やや照れた顔で加賀さんが答えました。
「私の場合は青いというより赤いですけどね。
わかりました、今後は気を付けます」
その答えにまた二人で笑い。
そうして二人の夜は更けていきました。
それから、加賀さんが過剰な訓練を課すことはなくなりました。
そして私は、今日も加賀さんと共に出撃します。共に戦い、肩を並べられるように。
「一航戦、赤城、出ます!!」