東方博麗伝説   作:最後の春巻き(チーズ入り)

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ふはははっ! 私だよ!
驚いたか? 驚いたよな!

君たちが楽しみにしている地霊殿編、その一話目の更新だ!
昨日から私の筆の勢いが加速しておってな! 早速、投稿したよ!
自分でハードル上げまくったから、内心ガクブルしてるよっ! 震えるな、震えるんじゃない、マイボディ!

前書きは、この辺で、本編の方、楽しんで下さい。
(※春巻きは深夜テンションです。最高にハイになっています)



【地霊殿】巫女、守護る【プロローグ】

 良い子の皆ぁぁぁ! 博麗お姉さんだよぉぉぉ!

 今日も一日張り切って、幻想郷のおにゃのこ達と、くんずほぐrげふんげふんっ、頑張って行くんやでぇぇぇ!……あぁ、乳揉みてぇ。

 

 さてさて、いつもの発情霊夢ちゃんは、その辺にポイッと投げ捨てておいて、本題に入ろうか。……喜べ諸君、事件発生だ。

 間欠泉が爆発して、温泉がヒャッハーした。その序でに地底の方から怨霊がおんりょぉぉぉんしてしまったようだ。我ながら詰まらないな、座布団は返しますね。

 温泉云々で、怨霊がたくさん湧き出てて大変やね、と来たらもう一つしか無い。……そう、遂に東方地霊殿が始まったのである。

 東方地霊殿については、皆ご存知の通り、この幻想郷の真下にある旧地獄と呼ばれている場所が舞台となる異変だ。

 ツインテ可愛い釣瓶落としやら、スカートの中身が気になる土蜘蛛やら、嫉妬可愛い橋姫やら、姐さんパネェ鬼やら、マタタビ投げつけたい火車やら、アホの子マジ天使の八咫烏in地獄鴉やら、小五ロリ可愛いサトリ姉妹やらが出てくるため、正直大変楽しみである。……ぐへっぐへへへへへ!

 

「で、話とは一体何かな? 古明地少女よ」

「ひぃ……は、はい。ごめんなさい、許して下さい。お願いします」

「いや、謝ってほしい訳ではないのだが……」

 

 今、私の眼の前には一人の可愛らしい小五ロリがいる。

 名前は古明地さとり。幻想郷の地下、旧地獄の灼熱地獄後に、地霊殿と呼ばれている屋敷を構えて、そこの主人を務めている大変可愛らしい、大変可愛らしい(大事なことなので二回言いました)、私が常日頃からペロペロペロペロしたいと考えている幼女である。むしろ食べたい(いかがわしい意味で)。

 癖のあるサイケデリックな薄紫のショートボブ、ジトっとしたハイライトが消失した瞳は大変可愛らしく、あの目で睨まれたらそれだけで達してしまうかもしれない。そして、顔立ちは幼いながらも何処か大人びており、知的な印象を与えてくれる、可愛い。

 服装はフリルが多くついているゆったりとした水色の服に、膝丈くらいのピンクのスカートを身に着けている。そして、頭には赤いヘアバンドを着け、胸元には複数のコードによって繋がれている第三の目(サード・アイ)が浮いている。コードの末端部分はハート型になっており、思いっ切りにぎにぎしてみたいくらいに可愛らしい。むしろ口に含んで舐め回したいです、はい。

 頭に頑固な汚れのごとくこびり付いている原作の知識によると、古明地さとりは母性に溢れ、寛容さと優しさに満ち溢れた性格をしている。この幻想郷中を探しても、彼女ほどに愛情深い妖怪は中々いない、との事である。

 これは是非とも仲良くなりたいところ、仲良くなってあわよくば、彼女の【禁止用語】を【止めたまえ】したいところである。

 しかし、そんなさとりちゃんに私はーー

 

「やだぁ、恐い恐いよぉ。助けて、お燐、お空」

 

ーーガタガタガタガタガタ。

 

 怯えられている。ハイライトが消えた瞳一杯に涙を溜めて、身体全体を震わせているさとりちゃん。……ごめん、何か知らんけどすっごい興奮した。本当、ごめんね。はぁはぁ。

 どうしてかは知らんけど、自己紹介したっきりあの調子で、ガタガタとマナーモードになっているのである。

 ちなみに私は何もしていない。むしろこれ以上無いくらいに馬鹿丁寧に壊れ物を扱うように優しく、慎重に慎重を重ねて接したという自信がある。

 本当に意味が分からないよ。……あ。

 

 さとり、サトリ、悟り、小五ロリ、覚り。……覚り妖怪。覚りの名の通りに、相手の心を読むことが出来る力を持っている。

 

ーー相手の心を読むことが出来る。

 

ーー相手の心を。相手の心を。相手の心を読むことが出来るのだよ、ワトソン君。

 

 つまり、私の心を読むことが出来る。

 この私の魂の叫びも、欲望に満ち満ちたショッキングピンクな精神も、全部読み取ることが出来る。

 

「……お、おうふっ(大量の汗)」

 

 し、シマッタァァァ! 私の心の叫びとか筒抜けじゃねぇかァァァ!? うわァァァ!

 そりゃあ、怯えるよ! こんな変態ド畜生の、心の中だけケダモノオンリーの毎日発情中のお猿さん状態の淑女(笑)の心の声を聞いたら誰でも怯えるに決まってんだろぉぉぉ! ぬおぉぉぉ!

 ご、ごめんねさとりちゃん。私の汚らわしい欲望に満ち満ちた声に怯えてしまっていたんだね! 許して、許して下さい! 何でも、何でもするから許してください! 頼みます! 嫌いにっ! 嫌いにならにゃいでぇぇぇ!

 美少女に嫌われたら、嫌われちゃったら、私死んじゃいます。そんな悲しみに耐えられる強靭な精神なぞ、この博麗霊夢、一切持ち合わせてはおらん!

 

 届いて、私の精一杯の気持ち! らぶらぶきゅん!

 あ、間違えてさとりちゃんと仲良くしたい、ラブラブでキャッキャウフフな事したい、という大変アレな思考をしてしまった。……終わった。これ、完全に嫌われちゃったわ。送りつけたイメージのせいで、むしろさとりちゃんのハートにトラウマ攻撃だわ。さとりちゃんとお友達コースの道が完全に閉ざされちゃったわ。

 

 拝啓、私を此処まで育ててくれた八雲一家の皆様、魔理沙たんを始めとする友人様方。

 お元気ですか? 私はあんまり元気じゃないです。調子悪いです。死にそうです。自重が出来ない自分に腹が立ってしまって、いい加減本気で首でも吊りたくなってまいりました。

 愚かな私は、幼気な少女の心にトラウマを作ってしまうという、余りにもドッし難い大罪を犯してしまったのです。これはもう死んで詫びるしかありません。

 仲良くしてくださった皆様には大変申し訳ございませんが、この博麗霊夢、けじめを付けるため、潔くこの命で以て償おうと思う所存でございます。かしこ。

 

「ど、どうして泣いているの?」

「っ!?」

 

 気が付いたら心の汗が流れていたらしい。ボタボタッと止めどなく溢れ出す私の心の汗。

 これは、これは私の心が美少女を怯えさせてしまったという事実に嘆き苦しんでいる証だ。耐えきれずに、汗となって、目から溢れ出してしまったのだろう。

 ああ、何と情けないことか、守るべき美少女に、それも私が怯えさせてしまった美少女にこんなみっともなく、カッコ悪い姿を見せてしまうとは。……情けねぇ、オラ、本格的に死にてぇぞ、べ◯ータ。

 

「い、いや、すまないな。見苦しいところを見せた」

「……あの」

「な、何をっ!?」

「ずっと昔の話なんですけど、母に「泣いている人がいたら、こうして抱きしめて上げなさい」って、家のペットの子達も、悲しい時はこうしてあげているんです」

 

 子供特有の温かさが、私の頭を包み込む。柔らかく慎ましやかな胸に顔を押し付けられて、ゆっくりと髪を梳くように頭を撫でられる。

 本来の私だったら、この状況に荒ぶり続けて大変危険な思考で暴走を始めたことだろう。さとりんのちっぱいだぁぁぁヒャッハーなどと興奮し、そのままさとりちゃんを押し倒していたかもしれない。しかし、今の私の心にあるのは、ただただ一つの感情だった。

 

ーー許された。許してもらえた。

 

 それは、圧倒的な安心感。

 母親に抱き締められる子供のように、温かで絶対的な安心感が私を包み込んでいるのだ。

 邪な気持ちで接しようとしていたこの下劣で愚かなる巫女を、このさとりちゃんは許してくれた、許してくれたのである。

 涙は当の昔に止まった。そして、代わりに私の心に燃え上がる強大な意思。

 

ーー守護(まも)らねばならぬ。

 

 己の欲からも、ありとあらゆる外敵からも、さとりちゃんを、尊さの化身である、この愛おしい妖怪の少女を守護(まも)らねばならぬ。

 この命の全てを掛けて守護(まも)り、慈しまなければならぬ。

 

「ありがとう。もう、大丈夫だ」

「くすっ、ごめんなさい。私も恐がりすぎました。悪い人ではないと分かっているんですけど、貴女が強すぎるのが恐かったんです。もしもこの力が自分に向けられたら、何も出来ずに殺されてしまうから……」

「安心しろ、私は幻想郷の守護者だ。お前たちを守護りはするが、傷つけることは決して無い。……そして、すまない。私の醜い心根を、お前のように優しい奴に見せてしまった」

「ふふっ、いえ、謝らなくて結構です。私の家にいるペット……お燐や、お空も似たような感じなので」

 

 え、此処に来て一番の衝撃なんだけど。

 お燐とお空の思考回路が私によく似ている? ちょっと待って、ステイステイステイステイステイ。……え?

 あんな可愛らしい猫耳ゴスロリ素足少女と、鳥頭グラマラスな天然系少女が、私と似たような思考回路をしている? えぇ?

 ってことは、いつもいつも万年発情期で、常に身体を火照らせ、同性の少女たちとあーんなことやこーんな事をしてしまいたいと考えているってことですかい? 何それ胸熱。

 彼女たちとは一度、一緒にお酒でも酌み交わしたいところだ。絶対私達ソウルフレンドになれると思うよ。なんなら、お互いの火照った身体を冷やし合う関係でも可。

 

 そ、それならば、私の変態的な思考を晒してもさとりちゃんは怯えていなかったって事? ただ私の力を読み取って、それに対して怯えていただけって事なの?

 確かにさとりちゃんは妖怪の中でも強い方ではないけど。……そうかそうか、それならば、ある程度はさとりちゃんの前でも素の思考をしても良さそうだな。

 じゃあ試しに、おっぱい! 乳首! 美少女と夜の大運動会! セッ◯ス! 【ピッ―――】! 【ピッ―――】! 【ピッ―――】!……どうや?

 

「……? 何でしょう?」

「……私の心を読んでも平気なのか?」

「くすっ、はい、変わっているとは思いますけど。もう、大丈夫ですよ」

 

 さとりちゃんが天使を超えて、パーフェクトな女神だった件について。……ああ、尊い。

 

「ど、どうしたんですか? 今にも死んでしまいそうな安らかな顔をしていますけど」

「ああ、大丈夫だよさとり。私はこれからも頑張っていくから」

「ちょっと待って下さい!? 消えてます! 身体が消えてますよ!」

 

 ああ、身体が軽いな。今なら何処へでも飛んでいけそうだ。……そう、あの空の彼方まで!(さとりちゃんの必死の説得と、抱き着き攻撃により無事に帰還しました)

 

 

 

ーーー

 

 

 

「お空を止めて欲しい?」

「はい、家のお空を、霊烏路空を。神の権能を手にして暴走しているお空を止めて欲しいんです」

 

 さとりちゃんは語った。

 曰くーー灼熱地獄の温度管理をしているお空が、どういうわけか神の権能を手に入れてしまったということ。その権能を使って、際限無く力を高め続けており、地底の旧地獄は地獄よりも地獄らしい極暑に見舞われているということ。そして、最終的にお空は地上を焼き払う気でいること。

 

 ふむ、話を総合したら原作の地霊殿とあまり変わりは無いみたいだね。いきなりさとりちゃんが押しかけてきた、というトラブルはあったけど、大筋に変化はないようだ。

 ならば、これからやることは地底に行って、原作同様、弾幕ごっこでお空達を下せば良いって事かな?

 

「止めるに当たって一つ問題があるんです」

「問題?」

「弾幕ごっこのルールが、まだ地底では普及していないんです。未だに勝敗は、ケンカとか殺し合いで決めたりしている世紀末です」

「……つまり」

「お空も全力で殺しに来ます」

 

 うん、いきなり原作が死んだぞ。この人でなしめ。

 マジか―、マジでかー。地底の娘達とガチの潰し合いかよぉ。いい加減、弾幕ごっこさせろよぉー。異変の度に弾幕ごっこのルールが守られていないじゃんかよぉー。

 過去に起こった異変。……吸血鬼異変、紅霧異変、春雪異変、三日置きの百鬼夜行、永夜異変、大結界異変、守矢が信仰を集めようと滅茶苦茶やった事件、天界の総領娘が引き起こした博麗神社大崩壊事件。

 その全てにおいて、弾幕ごっこのルールが適応されたことはない。私、全部で普通に殺し殺されのデッドファイトしている。……勿論、殺そうとしてくるのは相手だけで、私はどうやって無力化しようか四苦八苦している。美少女は幻想郷の宝だからね、仕方ないよね。

 でも、そっかぁ、今回の異変もかぁ、マジかぁ、折角弾幕ごっこ用の弾幕考えていたのになぁ。……当たると服だけ綺麗に吹き飛ばす弾とか、一発直撃する毎に、相手の感度を1.1倍ずつ高めていく弾とか色々と用意しているのに、使った試しがないぞ、ちくせう。

 

「止める、という事は出来る限り怪我などはさせたくはないんだな?」

「はい、難しいことだとは思いますが、幻想郷最強の人間と言われている博麗さんならば、と思いまして。……お願いします。私に出来ることなら何でもします。どうか、お空を、私の家族を助けて頂けないでしょうか!」

「顔を上げろ、古明地……いや、ここはさとりと呼ばせて貰おうか。さとり、そこまでお願いしなくても大丈夫だ。この幻想郷が危機に晒されるとあっては、私が動かないわけにはいかないしな」

「博麗さん」

「霊夢で構わないとも。だから私に任せろさとり。お前の大事な家族は、この博麗霊夢の名において、無事にお前の元に帰す事を約束しよう」

「はい、はいっ! どうか、どうかっよろしくお願いします。霊夢さん」

 

 では解決のために、動くとしましょうかね。……先ずは、この状況を作り出したであろう犯人を捕まえに行きましょうか。

 

 さとりちゃんを伴って、目指す場所は守矢神社。用があるのは、その神社で祀られている神の一柱、風神の八坂さんである。……フフッ、逃 さ な い ぞ ?

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 その人間を初めて目にした瞬間、古明地さとりの心を襲ったのは恐怖だった。

 古明地さとりには、相手の心を読み取る力がある。その力を使って、この巫女の、博麗霊夢の心の内を覗き込んだのだ。……そして、その直後に後悔した。

 

『好き、大好き、好き、大好き、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きッーー』

 

ーー愛している。

 

 自分に向けられる好意という感情の嵐。

 途轍もない好意という名の巨大な桃色の壁が自身に迫ってくるという、とんでもなく恐ろしいイメージがさとりの頭を駆け巡る。

 恐い。初対面のこの人間がどうしようもなく恐い。

 人間とは思えない、妖怪すらも超越したその身に秘められた圧倒的な力もさることながら、何よりもその心が、その思考が恐ろしくて、恐ろしくて身体の震えが止まらない。

 

(どうして、どうして?)

 

 どうしてこの人間は、初対面である筈の自分に対して、これ程までに強い、強過ぎる好意を持っているのだろうか?

 どれだけ記憶を遡ってみても、この巫女と邂逅した記憶など欠片もない。正真正銘、今回初めて顔を合わせた。……そんな自分に対して、どうしてこれ程までに強い感情を持てるのだ?

 

 不可解、理解不能。

 本来、好意というものを向けられるのは嬉しいものだ。だが、これは余りにも、余りにも突然過ぎる。自分と関わりのなかった存在から向けられる好意が、まさかこれ程までに理解し難く、恐ろしいものだったなんて、思いもしなかった。

 

 その上、その上である。さとりは、霊夢の思考をまともに読み取ることが出来ないでいた。

 さとりの力は相手の心の声を拾うことが出来る、それは即ち相手の考えていることが読み取れるということに他ならない。しかし、この霊夢から読み取れるのは、霊夢の思考ではなく、霊夢の感情の声だけだった。

 

(感情が大き過ぎて、心の声を読み取ることが出来ないっ)

 

 さとりにとって、これは初めての経験だった。心の声を遮るほどの感情の奔流など今の今まで見たことはない。

 今までのそれなりに長い妖怪としての生の中で、自分に読み取れなかった心はなかった。悪意に満ちた声であろうと、何だろうと感情にかき消されること無く、思考を読み取ることが出来た。それなのに、この人間の思考は一切読み取ることが出来ない。

 

 相手の考えていることが読めない、という衝撃的な事実が、さとりに恐怖心を抱かせたのである。

 心を読めない、理解できないこの人間が恐い。恐くて、恐くて仕方ないのである。無意識に身体は震え、言葉は上手く紡ぐことが出来ない。

 地上に出てはならない、という賢者との約束を破ってまで、やって来たのに、この巫女の助力を得ようと、地底で起こっている異変を解決して貰おうと、此処まで足を運んだというのに、大事な家族であるあの娘を助けてもらいたいのに、どうしても、言葉が出ない。

 

「やだぁ、怖い怖いよぉ。助けて、お燐、お空」

 

 それどころか、この場にいない、しかも助けを待っている己のペットに助けを求める始末。これではいけない、と己を叱責するも、身体は今まで以上に震え出し、どうにもならない。早くしないといけないのに、こんな事で時間を掛けてはいられないのに。

 弱い自分が情けない、心が読めないからって、相手が理解できないからって、此処まで震える自分が情けない。

 

(動いて、動いてよ身体。震えないで、手足っ! こんなところで立ち止まっているわけにはいかないのっ!)

 

 強い意志を込めて、手足に力を込める。心を読めないからって何だと、理解が出来ないからって何だと、己を強く叱責しながら、力を込める。

 眼前で佇む巫女をしっかりと見据えて、此処に来た己の目的を果たすためにーー

 

ーーポタッ、ポタッ。

 

(ーーえ?)

 

 そして、己の目を疑った。

 

「ど、どうして泣いているの?」

 

 恐ろしいと感じていた巫女が泣いていた。

 その美しすぎる顔を僅かに歪めて、真珠のように綺麗な涙の雫をポタリッポタリッと地面に落としながら、泣いていたのだ。

 さとりの声に反応して、驚いた様子を見せていることから、自分が泣いている事に気が付いていなかったらしい。

 

 そして、さとりが何よりも驚いたのが……。

 

『ごめん、ね? 恐がらせて、ごめんね? 嫌いに、嫌いにならないで』

 

 あれ程、強く自己主張していた強過ぎる感情の奔流が、まるで波紋一つ立たない水面のように、静まり返って悲しみの声を上げていたのだ。

 悲しみが深すぎて、相変わらず彼女の思考を読み取ることは出来ない。だが、さとりはもうこの巫女の事が恐くなくなっていた。

 分かったのだ。この巫女はーー

 

(あの娘達と、お燐やお空みたいに能天気で、ちょっとお馬鹿なんだ)

 

 特に人を疑うこと無く、すぐに懐いてしまうところなんて、お空に似ている。

 思えば、あの娘達も、最初から好意全開でさとりに接していた。流石に、この巫女のように、頭の中で考えている事が読み取れない、などという異常な事態は起きなかったが、それでも同じように、最初からその感情は好意に満ちていたのだ。

 この巫女もお燐やお空と一緒、初対面であっても仲良くなりたい、という気持ちが先走ってしまうのだ。そして、この巫女はその感情が、他の何よりも強い。それこそ、その頭で考えている言葉まで打ち消してしまうほどに。

 

「い、いや、すまないな。見苦しいところを見せた」

 

 痛々しく目元を腫らせ、巫女は笑う。悲しみを隠しきれていない不格好な笑顔を見たさとりは……

 

「……あの」

 

 身体が勝手に動いていた。

 

「な、何をっ!?」

「ずっと昔の話なんですけど、母に「泣いている人がいたら、こうして抱きしめて上げなさい」って、家のペットの子達も、悲しい時はこうしてあげているんです」

 

 遠い遠い昔の記憶。母と呼べる存在がいた頃の懐かしい記憶。

 心を読む力を制御できなくて、辺りの恐い感情まで読み取ってしまい、泣き喚く自分を、母は優しく抱き締めて、ゆっくりと優しく頭を撫でてくれた。

 お燐も、お空も、自分にこうして抱き締められて頭を撫でられると、どんなに塞ぎ込んでても、安心してくれる。

 だから、貴女もーー

 

「大丈夫、大丈夫ですよ」

 

ーー安心して欲しい。

 

 気付けば震えは止まっていた。もうさとりが恐がることはない。

 今はただ純粋に、悲しみの声を上げているこの巫女の心を癒やしてあげたい、と思うだけである。

 

「ありがとう。もう、大丈夫だ」

 

 泣いている姿を見られたのが恥ずかしかったのか、それとも見た目が幼いさとりに慰められたことが恥ずかしかったのか、どちらかは定かではないが、霊夢は頬を真っ赤に染めて、少しだけ名残惜しげに、さとりの胸から顔を上げる。

 さとりはそんな霊夢の顔を見て、可愛らしいものを見たと、頬を緩めた。

 

「くすっ、ごめんなさい。私も恐がりすぎました。悪い人ではないと分かっているんですけど、貴女が強すぎるのが恐かったんです。もしもこの力が自分に向けられたら、何も出来ずに殺されてしまうから……」

 

 本当のところは、あんまりにも好き好きって言われるからびっくりしただけなのだが、それはさとりの胸の内に留めておくことにする。また、霊夢が悲しんじゃったら可哀想だったからである。

 

「安心しろ、私は幻想郷の守護者だ。お前たちを守護りはするが、傷つけることは決して無い。……そして、すまない。私の醜い心根を、お前のように優しい奴に見せてしまった」

 

 醜いだなんてとんでもない、むしろ可愛らしいと思いますよと、さとりはついつい笑ってしまう。

 

「ふふっ、いえ、謝らなくて結構です。私の家にいるペット……お燐や、お空も似たような感じなので」

 

 特に抱き締められて、悲しい気持ちが何処かに飛んで行くところなんて瓜二つと言っても良い。

 見た目は綺麗でカッコイイのに、中身は相手のことを好き好き大好きって言っちゃう意外な一面があるなんて、ね。残念というよりは、可愛らしい。思わず、抱き締めて頭を良い子良い子したくなるくらいに可愛らしい。

 いつの間にか、さとりは霊夢の事が好きになり始めていた。甘やかしてあげたい、安心させてあげたい、と思ってしまう程に。

 さとりは目覚めていた、母性本能という物に完全に目覚めてしまっていたのである。

 

「……? 何でしょう?」

 

 ふと気付けば霊夢が自分の事を、じっと見つめていた。

 

『大好き、大好き、さとり、大好き、愛している、ギュッとして? 頭撫でて? 大好きっ!』

 

 その心には、グレードアップした、けれど最初の時のように威圧的ではない、親愛の情が渦巻いていた。心なしか、感情の声が幼児退行している気がしないでもない。

 

「……私の心を読んでも平気なのか?」

 

『さとり、嫌い? 霊夢のこと、嫌い? それとも好き? 霊夢のこと、好き?』

 

 表面上の綺麗でカッコ良く大人びている少女と、内部の感情の声の温度差が凄まじい事になっている。それが何とも面白く、笑いを堪えながらさとりは言う。

 

「くすっ、はい、変わっているとは思いますけど。もう、大丈夫ですよ」

 

『さとり大丈夫、なら霊夢のこと好き! 好きなんだ! 好きぃ!』

 

 喜びの声を上げている霊夢の感情の声が、さとりに伝わってくる。それが何とも可笑しくて、可愛らしくて、さとりは今日一番でとても優しい気持ちになれた。

 

 なお、その後のやりとりで、いきなり天に召されようとした巫女については、心臓が飛び出るんじゃないのか、と言わんばかりに驚き、全力でそれを阻止した。

 可愛いと好意を持った相手がいきなり死にそうになるなど、誰が想像できるというのだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「お空を止めて欲しい?」

「はい、家のお空を、霊烏路空を。神の権能を手にして暴走しているお空を止めて欲しいんです」

 

 さとりは態々八雲紫との約定を破ってまで、地上にやってきた経緯を語った。

 お空が神の権能を得てしまい、その権能のせいで暴走し、地底が大変なことになっている。挙句、最後には地上を焼き滅ぼすとさえ言っている、と霊夢に話して聞かせた。

 

 さとりの力では神の権能に振り回されるお空を止めることは出来なかった。さとりの呼びかけにも応じず、ただただ力を高めて、地上を焼き払うことのみを考えているお空。

 お空は優しい子だ。本当はこんな酷い事をしようだなんて、思っていない。神の権能が強すぎて、あの子の意識が乗っ取っられてしまっているんだ。

 そんなお空を止めたかったから、さとりは約定を破って地上にやって来たのだ。

 さとりは聞いたことがあった、幻想郷の地上には、ありとあらゆる大妖怪をも屈服させ、神すら地べたに這い蹲らせる、尋常ではない力を持った一人の人間がいる、という噂を。

 信憑性は定かではなかったが、藁にも縋る思いでさとりは、噂を信じて地上にいるというその人間……博麗神社で巫女をしているというその人間を探した出したのである。

 

「止めるに当たって一つ問題があるんです」

「問題?」

「弾幕ごっこのルールが、まだ地底では普及していないんです。未だに勝敗は、ケンカとか殺し合いで決めたりしている世紀末です」

 

 ルールの整備など進んでいない。

 皆、やりたい放題に好き勝手にケンカや殺し合いをしている。昨日見た顔が、今日はいなくなっているなぞ、珍しいことではない。

 弱肉強食。力こそ全て、力持たない者は、あの地底の中では生きていけない。

 さとりはそこまで強力な妖怪ではないが、心を読むという力を忌み嫌われていたお陰で、あまりやっかみを受けることは無かった。

 

「……つまり」

「お空も全力で殺しに来ます」

 

 弾幕ごっこのルール無しで、今の状態のお空を相手にするのはとても危険な行為だ。

 八咫烏という、太陽の化身と言っても過言ではない神の鳥の力を得たお空は、最早並みの妖怪とは比べ物にならない力を手にしてしまっていた。

 あの有様はまさしく、地底に君臨する地獄の太陽。核融合を司り、膨大なエネルギーで以て敵対する全てを蒸発させる圧倒的破壊力を持った人型の最終兵器その物だった。

 

「止める、という事は出来る限り怪我などはさせたくはないんだな?」

「はい、難しいことだとは思いますが、幻想郷最強の人間と言われている博麗さんならば、と思いまして。……お願いします。私に出来ることなら何でもします。どうか、お空を、私の家族を助けて頂けないでしょうか!」

 

 お空は自分にとって大事な家族なのだ。あの子は今も苦しんでいる。自分が望まぬ、破壊をしようとしている。その事実に苦しんでいるに違いないのだ。

 そして、願うならば、あまり大きな怪我はさせずに、止めて欲しい。あの子は自分の意志で破壊を撒き散らそうとしているわけではないのだ。

 さとりの頭に、お空の苦しげな声が思い出される。

 

ーー「さとり、様。恐いよぉ、頭の中で、コワセ、モヤセって、カミサマが言うの。さとり、様、助け、て」

 

 自分の身に起きる異常に、顔を歪ませ泣いている、可愛いペットの声が思い出される。

 

「顔を上げろ、古明地……いや、ここはさとりと呼ばせて貰おうか。さとり、そこまでお願いしなくても大丈夫だ。この幻想郷が危機に晒されるとあっては、私が動かないわけにはいかないしな」

「博麗さん」

 

 だから、さとりにとって、霊夢は最後の希望なのだ。大事な家族を救うための最後の希望。

 

「霊夢で構わないとも。……私に任せろさとり。お前の大事な家族は、この博麗霊夢の名において、無事にお前の元に帰す事を約束しよう」

 

『だから、出来たら褒めて? ギュッとして?』

 

「はい、はいっ! どうか、どうかっよろしくお願いします。霊夢さん」

 

 この巫女に全部任せてみよう。

 初対面の相手でも全力で大好きって言ってしまう、今も真剣な顔の裏で可愛らしい発言をしている、あの子によく似た心を持っているこの巫女に。……この巫女ならきっと、お空の事をしっかりと救ってくれると思うから。

 

(だから、お願いしますね。可愛い巫女さん)

 

ーーもしお空を救い出せたら、また抱き締めてあげますから。

 

 覚りの少女は願いを託す。救って欲しいと願いを託す。

 聞き入れるのは博麗の巫女、心の内より愛叫び、覚りの願いを叶えるために、その一歩目を踏み出した。

 




かくたのぉ!

春巻きだよ! 地霊殿書いたよ! 今までの更新速度を超えたよ! やったね!
スキマ時間を利用して、めちゃくちゃ書きまくった結果、これほどの更新速度で投稿できました。スキマ時間は偉大。ありがとう紫様(違うと思う)。

書いている端から頭に文字とか展開が思い浮かぶから、指の速度を必死で追い付かせていた。おかげで指がボドボドだぁ(でも楽しい、楽しいぞ)。

いきなりさとり様の登場で、何だこりゃ? って思っている人もいるとは思いますが、私はこんな風に最初っからさとり様が出てきてもいいんじゃないのか? って思っちゃったんだよ(プロット通り)。
ちなみに私の作品内でのさとり様には敬語キャラになって頂きました。さとり様って敬語も似合うと思うのよね。……+で母性全開とか最強だと思わないかね?

そんなわけで皆様。
次の話まで、どうぞ、ゆっくりしていってね!!

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