三週間ぶりくらいに漸く更新できました。お待たせして本当申し訳ない。
そして、タイトル見たら分かると思うけど、今回の話では博麗(変態)は出ない。
出ない。
では、本編の方をどうぞ宜しく。
――これは、博麗の巫女が異変解決に乗り出した後の少女達の話である。
主が不在である筈の博麗神社には三つの人影があった。
「折角、新しいスペルを思いついたから見せてやろうと来てやったのに。……アイツ、何処行きやがったんだよ」
スペルカードをペラペラと揺らしながら、ちぇーっとつまんなさげに口を尖らせているのは、普通の魔法使い、霧雨魔理沙。
「はぁ、今日は私と一緒にお茶会の約束があった筈でしょう? 約束すっぽかして何処行ったのよ。……霊夢の馬鹿」
自分の人形の手入れをしながら、ちょっとだけ悲しそうに目を伏せているのは、人形師、アリス・マーガトロイド。
「あの馬鹿巫女の事だから、異変解決のために何処か行ってるんでしょ? 最近、間欠泉が吹き出して大変な事になっているそうじゃない。……はぁ、新しい本を持ってきてあげたのに」
口ではツンツンしつつ、霊夢を擁護するような事を言っている紅魔館ヴワル魔法図書館の司書、パチュリー・ノーレッジ。
主不在の博麗神社に土足で踏み入り、自由気ままにお茶菓子などを広げて談笑している魔女っ子三人娘である。
それぞれがそれぞれ、巫女の不在を嘆きながら、好き勝手にお菓子を食べたり、お茶を飲んだりしている。……ちなみに、このお菓子とお茶は博麗神社の物である。
「それにしても、パチュリーが一人で出歩くなんて珍しいな。従者の小悪魔とかはどうしたんだよ?」
「あの娘には図書館の掃除を任せてあるわ。……此処に来たのは霊夢に貸している本があるから、それを返却してもらおうと、ね」
序でに新しく本を貸してあげようと思って、と何冊かの本を取り出して見せる。
「私が借りに来た時とは偉い対応の違いだな、おい」
魔理沙は自分がヴワル魔法図書館に訪れる度に、弾幕が降ってきたり、罠が張り巡らされたりしている光景を思い出して、霊夢と自分に対する対応の違いに若干ムッとする。
「当然じゃない。霊夢はお客さん、貴女は泥棒。対応も変わるわ」
それに間違っても霊夢に嫌われるなんて、嫌だもの、という言葉は飲み込んだ。
魔理沙にだけ、ちょっと対応が厳しいのは、自分と同じように一人の人間を慕っているライバルだからである。しかも、自分よりもあの巫女との距離が近い。それに嫉妬して、ついつい言葉が強くなってしまうのだ。
「へぇー、そうなのか」
嘘つけ、本当は嫉妬だろうが。
魔理沙は知っていた。パチュリーが霊夢に対して並みではない強い感情を抱いている、という事を。
いや、パチュリーだけではない、この場に集っている者たちや、この場にいない者たち。……数多くの女たちが、大なり小なり、あの霊夢の事を慕っている。
女の勘は鋭い。特に自分が慕っている者に寄せられている好意には敏感だ。
パチュリーは魔理沙に嫉妬している。恐らくは霊夢と親友同士であるからだろう。
親友であるがゆえに、確かに自分と霊夢の距離は近い。長い間ずっと親友同士で一緒なのだから、必然的に距離は近いものになる。……だがちょっと待て、と魔理沙は言いたい。
(霊夢に手を出された事があるお前に、嫉妬なんかされたくない!)
魔理沙は霊夢に手を出された事は一度もない。せいぜい、ほっぺたを執拗にこねられたりした事があるくらいだ。修行の時のペナルティやマッサージをされた時でも、過激な事は一切されたことがない。
何が基準なのかは分からないが。霊夢はお仕置きで、周りの女の子達を玩具みたいに弄んでくる。此処にいる奴等で、霊夢の本格的なお仕置きを受けたことがあるのは、この引きこもりだけである。
自分とアリスは、あの霊夢から手を出された事は一度もない。その事実に嫉妬してしまう。自分には魅力がないのかよ、とちょっと悲しい気持ちにもなってしまう。
霊夢がお仕置きしているのは、パチュリーみたいなグラマラスな体型の奴だけではない。レミリアやフランドールなんかの、自分に近い体型の奴もお仕置きの対象になっているのだ。それなのに、自分は手を出されない。
自分だって霊夢と大人みたいなやり取りしたいんだぞ、と魔理沙はパチュリーに嫉妬するのだ。
「この引きこもりめ」
「五月蝿いわよ泥棒猫」
「私の方が霊夢の事を一番よーく知っているんだぞ!」
「ふんっ子供ね。私は霊夢に胸を揉みしだかれた事があるわ!」
「なら私は霊夢と一緒にお風呂に入ったことがある!」
「なっ!? 羨ましいっ! このっ泥棒猫っ!」
「羨ましいのはこっちだよっ! このっ紫モヤシっ!」
――バチバチバチバチ
お互いがお互いへ嫉妬し、二人の間に火花が散る。
一人の巫女を巡って争うライバル、肩を並べて仲良くする、なんて事が出来る筈もない。
「霊夢に胸揉まれたって何なんだよテメェ! どんな感じだったのか聞かせろよっ!」
「優しくも荒々しく、私の身体を労るように、だけど激しく貪るように、徹底的に揉みしだかれたわ! そっちもどんな風に一緒にお風呂に入ったのか聞かせなさいよっ!」
「私の頭を優しく洗ってくれたり、手で直接身体を洗ってくれたり、後は霊夢の身体を私が洗ってみたりした! 後、一緒に湯船に浸かって、抱き締められたりしたぞ!」
お互いが霊夢との間に起こった嬉し恥ずかしのエピソードを赤裸々に語っていく。エピソードが語られる毎に、いいなぁやら、羨ましいっみたいな言葉も飛び交っている。……訂正、意外にも仲は良いのかもしれない。
「何か盛り上がってるけど、今回の異変にどうやって介入するか、それを考えるのが先決じゃないの?」
そのやり取りを止めたのは、基本的にクールビューティーな人形師、アリスである。
若干呆れたような表情なのは、きっと気のせいではない。……しかし、本心では混ざりたかったのだろうか、よく見れば微妙にそわそわしていたりする。
「あ、そうだったな。パチュリー、続きはまたの今度にしようぜ」
「異論はないわ。次こそは、どちらが羨ましい体験しているのか決着をつけさせてもらうわよ」
「へっ、望むところだ!」
「……その時は私も混ざるわ」
「「え?」」
「え?」
え?
「えー、アリスが何か言ってるけど、それは置いておいて、何か意見があるやつ挙手」
「待ちなさいよ! 私も混ざって良いじゃない! 私にも霊夢との思い出を語らせなさいよ!」
「ちょっと何言ってるのか分からないわ」
「分かりなさいよ! 私も自慢したいのよ! 霊夢と一緒にお茶してる話とか、一緒にお料理してる時に、手が触れ合った時のドキドキとか色々と語りたいのよ!」
私にも語らせなさいよぉぉぉ、と魂の叫びを上げる人形師(くーるびゅーてぃー)。
霊夢が絡むと途端にキャラ崩壊待ったなしである。普段の冷静沈着さ、人形のように冷たい美しさは何処へやら。子供のように腕を振り回し、憤りながらバンッバンッと机を叩いている。……哀れ、あまりにも哀れ。
「いや、アリスの話は何かフワッフワッで色気も何もないからな」
「そうね、砂糖菓子みたいに甘過ぎて、(苛々で)胸がムカムカしてくるから、聞きたくないわ」
「良いじゃない健全で! これこそ王道って感じの恋愛じゃないのよ! 霊夢が王子様で、私が霊夢のお姫様、そんな素敵なお話だから甘くて当然よ!」
「へぇ? 誰が誰の王子様だって?……霊夢は私の大事な親友だ」
「聞き捨てならないわね。霊夢は私の大事な友人よ」
「「「あ?」」」
今度は三人でにらみ合いである。
魔理沙は八卦炉を取り出し、アリスの背後にはいつの間にかおびただしい数の人形達が現れ、パチュリーは静かに魔導書を開いた。
魔力と魔力、尋常ではない三つの魔の力が解き放たれ、三人の中心で壁の様にぶつかり合う。せめぎ合う魔の力は博麗神社を、大地を、空気すらも震撼させる。
普通の魔法使い、七色の人形遣い、七曜の魔女と謳われし彼女たちは並みの実力者ではない。どちらも極限まで研ぎ澄まされた魔法を行使する強者である。
そんな彼女たちが本格的にやり合い出せば、この場所は確実に消し飛ぶことになるだろう。
「止めた止めた、こんな事をしてても埒があかないぜ」
「そうね不毛にも程があるわ」
「此処を滅茶苦茶にしたら霊夢に申し訳ないし。決着はまた別の機会にでもしましょう」
しかし、三人とて馬鹿ではない。すぐに三者ともその矛を収める。先ずは魔理沙が魔力を収め、続いてパチュリー、アリスも魔力を収める。
三人共、この場所を荒らすつもりはないのだ。現在進行形でお菓子を勝手に食べたり、お茶を勝手に飲んだりしているが、決して荒らしたいわけではないのである。
「それはそうと、今の今まで触れなかったが、アイツは一体何をやっているんだ?」
「知らないわよ、というか知りたくもないわ」
「すごい楽しそうにしているのだけは伝わってくるわね。ええ、本当に」
魔理沙が指差した方――博麗神社の庭。
そこに佇む一つの影がある。自然そのものが物質化したような深い緑の髪を風に靡かせ、肉食獣が獲物を前にして舌舐めずりするような、獰猛過ぎる笑みを顔に貼り付けたその人物。
ひまわりに似たシルエットの日傘をくるくると回し、機嫌良さげに鼻歌を歌っているその人物。
「アハッ♪」
――風見幽香。
幻想郷最強の妖怪が、そこにいた。
住処である太陽の畑から滅多に動くことはない、その筈である凶悪極まりない暴力の化身が博麗神社にいる。……では、その凶悪な妖怪である風見幽香が、博麗神社の庭でナニをやっているのか?
「うふふっ、これが霊夢の育てた花々ね。……うん、うん、良い香りね。あの娘の匂いがするわ」
博麗神社の庭、霊夢が育てた花々。その香りを嗅いでは恍惚とした笑みを浮かべていた。……どう控えめに言ってもただの変質者である。
幽香は花々の匂いを嗅ぎながら、霊夢の香りを、正確には霊夢の霊力の名残を感じ取り、興奮していた。見れば片手は下腹部に伸び、時折「霊夢、霊夢っ!」などとこの場にはいない巫女の名前を呼びながら、ナニかしていた。……どう取り繕っても完全なる変態である
「お、おい、幽香!」
「はぁはぁ、霊夢っ! 霊夢っ! アハッ! アハハッ! アハハハハハッ!」
魔理沙が声を掛けるも反応はない。
幽香は幸せの絶頂にいるかの様な恍惚としすぎた表情……俗に言うアヘ顔を惜しみなく晒しながら、薬でもキメたかのように物凄い勢いで狂ったような嗤い声を上げている。
美少女である分、需要はあるかもしれないが、狂気的な絵面で精神的に大変宜しくない。有り体に言ってしまえばかなり恐い。
「何だコイツヤッベェ」
「全然聞こえてないみたいね」
「触らぬ幽香に祟りなしよ。放って置きましょう……そんな事よりもよ」
庭の方で悶えている凶悪妖怪を放置して、三人は話し合う。
「先ずは私達が今回の異変でどんな風に霊夢の手助けが出来るのか? それを考えることが重要よ」
「そもそもアイツと合流しないことには始まらないけどな」
「それについては問題ないわ。私の魔法を使えば、誰が何処に向かったのかを探り出すことも可能よ」
パチュリーは本を開き、手に魔力の光を灯しながら言ってのける。
実際、ありとあらゆる属性魔法を極めたパチュリーに取ってみれば、自然の精霊たちの力を借りて、情報を拾ってくることなど容易いことだった。
「へぇ、便利だなその魔法。私を覚えてみようかな?」
「貴女みたいに不器用な娘には無理よ。諦めて力任せに破壊光線でも打ちまくっていなさい」
「モヤシはすぐに人をけなすから嫌になるな」
「あら、必要最低限の女子力も身に着けられないお子様には言われたくないわね」
「「あ?」」
「ちょっと二人とも、喧嘩は後にしてちょうだい。……それでパチュリー、霊夢は何処に向かったの?」
「少し待って。……見えたわ。霊夢ともう一人、小柄な妖怪の足跡が妖怪の山の方角へと進んでいっているわね」
パチュリーの目にはくっきりと霊夢ともう一人の足跡が見えていた。霊夢の力強くも神聖な霊力、そしてその横にピッタリとくっついている妖力。……妙に距離感が近いことに少しばかりイラッとしたのは此処だけの話だ。
「へぇ? どうやら今回の異変にはアイツらが関わっているようねぇ」
「「「ひゃいっ!?」」」
すぐ真後ろから聞こえてきた愉悦混じりの声に、びっくりする魔女っ子三人娘である。
「びっくりしたっ! マジで、びっくりしたっ!」
「い、いいいいいきなり声を掛けるのは止めてちょうだい!」
「し、心臓が止まったかと思ったわ」
「あら、ごめんなさい。あんまりにも隙だらけだったから背後取っちゃたわ。……私が敵だったら、この時点で貴女達の命はないわねぇ、うふっうふふふっ」
「「「ひぇ」」」
凶暴な肉食獣が舌舐めずりするような、ペロリと自身の唇を舐める。
実際、幽香がその気だったらこの場にいる魔理沙、アリス、パチュリーの三人の命はないだろう。それだけ三人とこの目の前のバケモノの間には絶対的な力の差が存在している。
だからこそ、冗談で言っていると分かっていても恐いのである。三人は捕食者を前にしてしまった被食者の様に、プルプルと震えるしかない。
幽香も幽香で、自分を恐がって震えている少女たちを見て、Sっ気に塗れた恍惚とした笑みを浮かべ、ニヤニヤとしている。
「まぁ、冗談はさておいて。……今回の異変について話しましょうか」
「な、何か分かったのか?」
「ええ、そこのモヤシちゃんの話、此処最近の幻想郷で起こっている異常。この全てをまとめたら私達が何をすればいいのか、何処に向かえばいいのか分かったわ」
幽香はニヤニヤと嗤いながら自分の考えを口にした。
「モヤシちゃんは言ってたわよねぇ? 霊夢と小さな妖怪の足跡が妖怪の山に向かって伸びているって。そして、今の幻想郷には間欠泉の異常が起こっている。間欠泉の位置はあの守矢神社の近くであり、どういうわけかクソッタレな”神の気配”を大地の奥深くから感じる。……なら、答えはもう出た様なものじゃない」
「神様の気配。……そうかっ! 霊夢は関連性のありそうな守矢神社へ先に向かったのか!」
「幻想郷にいる神で今も表立って活動できるのって、守矢神社の八坂神奈子と洩矢諏訪子の二人しかいないものね」
「他の神共は好き勝手やりすぎて、霊夢にボッコボコにされて二度と顕現できない様にされたからねぇ、うふふっ」
あれは見ものだったわぁ、と幽香は嗤う。
数多の神々を討ち滅ぼす、人間という一匹の怪物の事を。自身すらも捻じ伏せる圧倒的なまでの力を思い出しては、ニタニタと凄惨な笑みを浮かべる。
「つまり私達も、先ずは守矢神社に向かわないといけないって事か」
「そうなるわね。……ねぇ、貴女達。私と協力しないかしら?」
「協力? 幻想郷最強の妖怪からそんな台詞が聞けるなんて思ってもみなかったわ」
「いくら力が強くても出来ないことはあるのよねぇ。……人探しなんて特に苦手よ。すぐに迷う自身があるわ」
「そこで真顔になられても反応に困るわね。……はぁ、どうするの? 魔理沙、パチュリー」
「私は良いと思うな。何だかんだ言って強いし、頼りになりそうだ。……恐いけど」
「勝手にしなさい。いてもいなくてもどっちでも良いわ。……出来ればいないで欲しいけど」
「らしいわよ」
「うふふっ、礼を言うわ。キノコちゃん、メルヘンちゃん、モヤシちゃん」
「「「は?」」」
嘲るように言った幽香を見て、魔理沙、アリス、パチュリーはその額に青筋を作り上げる。
「……ねぇ」
「何かしらぁ?」
「さっきからモヤシちゃん、モヤシちゃんって、私はモヤシじゃないわ。パチュリーって、ちゃんとした名前がある」
「へぇ? この私に意見しようって言うのかしらぁ?」
「知らないわ。貴女も私にとってはライバルみたいなものだもの」
「アハッ、アハハハッ! なるほどねぇ、霊夢と関わるとどいつもこいつもこんなに面白い奴にねぇ。……気に入ったわ、貴女、もう一度名を名乗りなさい」
「パチュリー、パチュリー・ノーレッジよ」
「パチュリーね、覚えたわ。私は負けてあげるつもりは毛頭ないからこれから宜しくねぇ」
「ふんっ、最後に笑うのは私よ。……それと、他の二人もちゃんと名前で呼んで上げなさい。人の名前をちゃんと呼べないのは正直軽蔑するわ」
「アハッ」
好戦的な視線を向けてくるパチュリーの様子を、心底可笑しいと笑みを浮かべ視線を返す。
「私は霧雨魔理沙だッ! 断じてキノコちゃんなんかじゃない! 次そんな風に呼んだら、ぶっ飛ばすぞ!」
「はぁ、私はアリス。アリス・マーガトロイドって名前があるわ。メルヘンちゃんなんて変な呼び方は止めて貰いたいものね」
「この私に殺気をぶつけるなんてねぇ。……アハハッ、本当、面白いわぁ」
勇ましく八卦炉を構え、幽香を睨みつける魔理沙。
静かに両脇に人形を控えさせながら、冷たい目を向けてくるアリス。
パチュリーだけではない。魔理沙もアリスも、この場にいる三人は自分と戦っても良いという、殺し合っても良いという覚悟がある。
それが出来るだけの最低限の力は持ち合わせており、想いの強さに至ってはこの自分にも匹敵している。……恐怖を押し殺している足がプルプルと震えているのはご愛嬌と言ったところか。
――楽しみだわ。
この三人が成長して、自分とあの娘を巡って争い合う関係になるのが。
恋の障害は大きければ大きいほどに熱く燃え上がる物。想いの強さは百点満点。後足りないのは実力だけ。それもこの娘達ならばすぐに埋めてくるだろう。
――本当に楽しみ。
この娘達と血で血を洗う様な、巫女争奪戦をするのが。
「改めて宜しくするわ。魔理沙、アリス、パチュリー」
「「「こっちは願い下げだ(よ)!」」」
凄惨な笑みを止めて、まるで聖女のような柔らかい笑みを浮かべだした幽香に対して、三人の返答は、それはそれは力強い拒絶だったという。
ーーー
「へぇ? 地底ねぇ」
「そんなところがあったんだな、知らなかった」
「私と早苗も詳しくは知らないんだけどね」
何やかんやあって、早速守矢神社にやってきた四人は、住人である守矢の神、洩矢諏訪子と、風祝、東風谷早苗に聞き込みをしていた。
「神奈子のやつが何かやらかして異変が起きて、霊夢が神奈子に尋問と、お仕置きのためにやって来て、そのまんまの足で異変解決に地底へと向かって行ったよ。……私達には殆ど構わずにね」
「ちょっと挨拶したらすぐに神奈子様のところまで行っちゃいましたからね。……今晩は夕食抜きですかね?」
「いやいや、お前ら目が恐いぞ?」
「仕方ないじゃないですか、折角霊夢さんが訪ねてきたからワクワクしていたのに、神奈子様に独り占めされたんです。そりゃーもう、テンション下がっちゃいますよ」
「神様を無視するなんて、本当に不敬なやつだよ全く。……まぁ、それが霊夢らしいって言えば霊夢らしいんだけどね」
その上、知らない小さな妖怪まで連れ回しているときた。……二人の距離感が妙に近くて、モヤモヤしたのは記憶に新しい。
「で、その肝心の神奈子は何処にいるんだ?」
「神社の奥の方で頭の中お花畑になってるよ。視界に入れるのもイライラするから、祟って、ふん縛って吊るしておいた」
「それでも笑顔で幸せオーラ全開なのには流石の私でもイラッとしました。ぶっちゃけ
心底からイライラしている、というが伝わる冷たい表情で拳を握る祟り神の頂点と、守矢最強の奇跡の巫女である。
「何が……いいえ、ナニがあったのかしらねぇ?」
「そう言えば、此処を去る時の霊夢さんから、家で使ってる石鹸の香りがしたような。……あ」
「神奈子も髪の毛とか濡れてたような。……あ」
「「あ〜〜〜ッ!?」」
その場にいた全員に電流が走る。
――妙に幸せオーラ全開の脳内お花畑な風神。
――風神の髪の毛は濡れていた。
――この場を去った霊夢からは、芳しい石鹸の香りがした。
つまり、つまりつまりつまりつまりつまりッッッ!
「あ〜の〜バ神奈子ぉ! 私達に黙って霊夢のやつと一緒にふ、ふふふふ風呂に入ってたなぁ!」
「偉大なる私も流石に怒りましたよ。ええ、これ以上ない怒りです。……ふぅ、久々に我が
自分だけ良い思いをしていたと知った神と巫女の怒りは凄まじいものがあった。
片や、祟り神としての力に恥じぬ、禍々しくも強大な神気をその小さな身体から溢れ出させ。
片や、その全身から迸る圧倒的な威圧と、超越的なまでの膨大な霊力を濁流の様に辺りに撒き散らし、徐々にその力の上限を引き上げていく。
「わ、私だって最近一緒にお風呂なんて入っていないのにぃ!」
「確か、拷問用に作った人形があった筈。……ああ、これよこれ」
「ふ、ふふふっ、この本なら丁度いい鈍器になりそうね」
魔女っ子三人娘もその例外ではなく。
普通の魔法使いである少女は地団駄を踏んで悔しがり、その身から爆発的な魔力を放出して、空に向かって魔力の破壊光線を連射し。
七色の人形遣いである少女は冷たい笑みを浮かべながら、何処からか恐ろしい名伏し難い得物を携えた、不気味極まりない人形を取り出して、何やら準備を始め。
七曜の魔法使いである少女は吹っ切れたように清々しい笑みを浮かべながら、人を殴りつけたら確実に死ぬであろう、とても重厚な本で勢い良く素振りをしていた。
「へぇ? 一緒にお風呂にねぇ?」
そして、何よりも危険極まりない凶悪妖怪、風見幽香はただただ意味深に狂気的な笑みを浮かべている。
各々が各々で、嫉妬と羨望に突き動かされ、一人美味しい思いをした神奈子討つべし、といった殺る気満々状態で、その場には混沌とした空気が広がりつつあった。
「ふはははははっ!」
しかし、突如として響き渡る自信に満ち溢れた笑い声が、混沌としたその場の空気を引き裂いた!
「この声はっ!?」
「まさかっ!」
「その通り! とおっ!」
その者は、無駄に神々しく光り輝き、無駄に威光を撒き散らしながら、少女たちの前に降り立つ。
「ふっはははははっ! 我が輝きを、幸福に彩られし我が威光をその目に焼きつけよ!」
「眩しいっ!?」
「あ、あああああっ!?」
その輝きは、見るもの全ての目を潰さんばかりに無駄にピカピカと光を撒き散らし続け、普段から暗がりを好む魔法使い達の視界を閉ざす。
アリスは目を抑えてプルプルと震え、パチュリーは刺激的な光に目を焼かれ、その場で両目を抑えてゴロゴロと転がっている。
「神奈子ぉ!」
――守矢の風神、八坂神奈子。
「何だっ! 何なんだその姿はっ!」
普段の紫色の髪は何処へ行ったのか? その髪は太陽を一杯に浴びた稲穂の様に輝く黄金色。瞳の色も常の赤から、雲一つとして浮かんでいない空の如き碧眼である。
――何が、一体何が神奈子の身に起こったというのだっ!
その場にいた全ての女たちは、目の前に現れた神奈子の姿に同じことを思った。
「見ての通りだっ! 私は幸せの絶頂から(霊夢の)全てを手に入れるために(脳内の)楽園より帰還した守矢の神。……誇りすらドブに捨てた純粋な被虐願望を持ちながら、霊夢との甘い一時により目覚めた伝説の神……
「「な、なんだってぇぇぇ!?」」
超守矢神、八坂神奈子。字面はふざけているが、その身から溢れ出す力の奔流は成る程、確かに
単純な力だけで言うならば、この場にいる規格外筆頭の最高戦力である風見幽香、東風谷早苗の両名の足元程度までには達している、という出鱈目っぷりである。……何だコイツ。
「話は丸っと聞かせて貰ったぁ! 霊夢を追いたくば、この私を越えて行けぇ!」
「あ、じゃあ遠慮なく――恋符『マスタースパーク』!」
「ぬわぁぁぁぁぁ!?」
破壊の閃光が一瞬にして神奈子を覆い尽くし、天高くまで光の柱を形作る。山にすら風穴を開けるマスパを躊躇いもなく、一個人に向けてぶっ放すとは……魔理沙、非常に非情で容赦なしである。
それも仕方ない、自分の想い人とイチャついていた疑惑のある女が、ノコノコと目の前にやって来た上に、隙だらけで、無駄に喧しいのだ。これはもう開幕ブッパで薙ぎ払うしかないだろう。誰だってそうする。
「ふっ、全てを薙ぎ払う破壊の光でも、たった一人の神を壊すことは出来ないようだな!」
しかし、超守矢神、八坂神奈子は健在である。恐ろしいことに傷一つない。
これが超守矢神の力とでも言うのか、その身からは迸らせる圧倒的な神気で、魔理沙のマスタースパークを無力化してしまった。
「マジかよ」
「次はこちらの番だな。……はあぁぁぁぁぁ!」
「うわっ!? な、何て力の高まりだっ!」
神奈子、否、
「お、ん、ば、し、らぁぁぁぁぁ!」
黄金に輝く御柱が、空中に現れ、雷速を大きく上回る圧倒的な速度で、地面に向かって突き刺さっていく。突き刺さる度に、衝撃波が走り、森を、大地を震撼させる。
「ふはははははっ! はーっはっはっはっはっはっ!」
神奈子は自分の限界の殻を打ち破った。霊夢への熱い燃え滾る想い、神としての
それこそが超守矢神。神としての基本性能を数十倍まで引き上げる変身だ。いや、変態だ。
神奈子は酔いしれていた。脳内麻薬が分泌するほどの幸福感が、神奈子を暴走させていく。
脳裏に浮かび上がるのは、自分が霊夢にひたすらイジメられている光景、頬が真っ赤になるまでビンタされたり、お腹をゆっくりと踏みつけられたり、椅子にされたり、首を締められたり、罵倒されたり、などといったアブノーマルなプレイ。そして、霊夢に褒められ、犬のように喜ぶ自分の姿だった。……神奈子の脳内は未だにお花畑である。
こんなやつでもいきなり最強クラスの領域に片足を突っ込んでいるのだから、この世界は間違っている。……上に行くやつほど、変態になっている事実からは目を背けるべきだろう。
「「五月蝿いわよ(です)」」
「はふんっ」
だが、如何に殻をぶち破り、限界を越えて強くなったとしても、この怪物達に勝てる道理は何処にもない。
幽香が無造作に振り下ろした傘が、早苗が横薙ぎに振るった払い棒が、それぞれ神奈子の脳天に、脇腹に直撃し。瞬時に神奈子を沈黙させた。
「ざまぁぁぁ! 神奈子、ざまぁぁぁ!」
「さぁ、今の内に縛っときましょうか」
気を失った神奈子を縛り上げ、木に逆さ吊りにする。逆さ吊りにされた神奈子の周囲を回りながら、諏訪子は「ねぇねぇ、どんな気持ち? どんな気持ち? 調子乗って出てきたのに、一蹴されたのってどんな気持ち?」などと煽っている。
もう大丈夫だとは思うが、念の為である。もう一度あの状態で暴れられると、幽香や早苗はともかく、魔女っ子三人組と、諏訪子の身が危険だ。
「な、何だこの状況はァァァァァ!?」
数瞬の間に意識を取り戻した神奈子。
ふんぬぅぅぅぅぅ、やら、ぬあぁぁぁぁぁんなど妙な声を上げながら、物凄い勢いで、身を捩り出す。余りにも力を込めて身を捩っているために、宙吊りの神奈子は、まるで振り子の様に右から左へと高速で移動している。
「ぐわぁぁぁぁぁ!? け、景色が歪んでりゅぅぅぅぅぅ!?」
挙句、目を回して更に見苦しく叫び出す始末である。
神としての威厳ゼロ、むしろ女として大事なものを幾らか失っているようにも見える。
「おい、誰か止めろよアレ。……早苗、お前んところの神様だろ? 止めてやれよ」
「態々、偉大なる私が止める必要はありませんね。……諏訪子、貴女が止めてきなさい」
「嫌だね、神奈子の自業自得だし。……ねぇ、人形遣い、アンタが止めてきてよ」
「私は部外者で、一切関係ないから遠慮しとくわ。……パチュリーはどう?」
「やると思うの? 力尽きるまで回っていれば良いんじゃないかしら?」
誰も神奈子を止めようとしない。
もう色んな意味で、天元突破している神奈子に触れたいと思う者が皆無なのだ。何処ぞの変態の様に、取り繕えば良いものを、素直に自分の熱意を表に出すからこんな事になる。
「止ぉぉぉまぁぁぁらぁぁぁなぁぁぁいぃぃぃぃぃ!?」
回転に応じて、騒々しさが増している。そろそろ止めないと、鼓膜がヤバイ。
――ガシッ!
「頭痛いっ!?」
神奈子の叫びが最高潮に達しようというところで、何者かが神奈子の高速移動を止めた。
高速で動きすぎて残像すら見え始めた神奈子の頭を正確に捉え、無理矢理筋力で回転を止めた何者か――我らが
「な、何だ貴様は、わ、私はお前の責苦で興奮するほど安い女じゃないぞ? 私がイジメられて興奮するのは霊夢だけd」
「ねぇ」
「ッッッ!?」
「次、五月蝿くしたら――」
――ドズンッ。
その日一番の鈍い音が周囲に木霊する。幽香が地面を軽く足の裏で叩いた音である。たったそれだけの動作で、地面は大きく罅割れ、衝撃波が一瞬の内に幻想郷中を駆け巡った。
「――殺すわよ?」
「あ、はい。ごめんなさい」
常に浮かべる狂気の笑みすら浮かべぬ無表情。感情を一切排したその表情を見て、神奈子は悟った。
次にこの女の気に障ることをしてしまったら、自分に明日はない。生きて未来を迎えることは出来ないだろうと、本能が理解した。
神奈子ガクブルである。喧しい神奈子はもういない。そこにいるのは涙目で恐怖に耐えている宙吊りにされた残念な美少女(博麗の巫女限定のドM)である。
「――というわけで、霊夢のやつは古明地さとりを伴って地下の奥深く、旧地獄と呼ばれている場所に向かったんだ」
「やっぱりね」
「幽香の推測どおりだったな」
幽香に脅されるままに、神奈子は霊夢達に伝えた事をそのまんま一から十まで全部吐いた。
自身が立てた温泉計画。それを実現させるために八咫烏を利用しようとしたこと、失敗して八咫烏が地底の妖怪と融合して、半端じゃないバケモノが生まれてしまったこと。
霊夢にバレて、お仕置きされたこと。そのお仕置きの後に一緒にお風呂に入って、隅々まで身体を洗ってもらったこと、可愛いって褒めてもらったこと。
後半に至っては完全に自慢であるが、取り敢えず全部吐いた。……後半の話で、神奈子を見る全員の目に殺気混じりの嫉妬が乗ったのはきっと気のせいではない。
「でなでな、霊夢がな〜私を可愛いって言ってだな〜」
「……さっきから同じことを言いまくっててすっげぇ腹立つんだが?」
「完全に自分の世界に入ったわね」
「はぁ、まーた始まったよ。……なんかすごいムカつくから祟っとこ」
「我が奇跡の力で封印もしときましょう」
「んじゃ、私は顔に落書きでもしとく」
「私は」
「私は」
少女たちは団結し、神奈子に悪戯を開始する。顔に神(笑)と書いたり、全身が痒くなるように祟ったり、封印して数時間の間絶対に身体を動かせないようにしたり。
「……聞きたいことは聞けたわ。これは放って置いて先を急ぎましょう」
話の途中から完全に自分の世界に入って戻ってこれなくなった神奈子を放置して(悪戯も終え)、一同は守矢神社を後にする。目指すは地底、想い人たる博麗の巫女がいる異変の地。
魔理沙は親友である巫女の力になるために。
アリスは自分の王子様の勇姿を一番近くで見守るために。
パチュリーはカッコイイ友人の勇姿をこの目に焼き付けるために。
幽香はあわよくば、今回の異変に乗じて霊夢との殺し愛をするために。
そして、途中で参加することになった守矢組。
早苗は異変に乗じて、守矢の信仰、そして、巫女の身と心を完全に手中に収めるために。
諏訪子はあの巫女を無理矢理にでも自分たちの勢力に迎え入れるために。
それぞれの思惑を抱えながら……。
一方、残された神奈子は……。
富・威厳・力、その全てを手に入れた女、守矢の風神、八坂神奈子。頭までお花畑になっている彼女が放った一言は、女達を地底へと導いた。
――私の温泉? 欲しけりゃくれてやる。探せぇ! あらゆる全てを地底に置いてきた。霊夢大しゅきぃぃぃ! もっとお仕置きしてぇぇぇ! 褒めてぇぇぇ!
イヤンイヤンッと悶え続ける風神(脳内お花畑ドM)を他所に、女達はアンダーグラウンドを目指し、巫女を追い掛ける。世はまさに大温泉時代。
よく分からないテンションで、よく分からない事をしていた。……何処の海◯王のつもりなのだろうか?
かくたのぉ!(恒例の挨拶)
如何だったであろうか?(内心ドキドキのブルブルの春巻きである)
時間掛かったのもあるけど、ちゃんとキャラ一人ひとりの描写を使い分けきれているのかが心配なところです。
個人的には、神奈子様の下りはきっちり書けているんじゃないのか? って思ってはいるんだけどね。……別に、最近ドラゴンボール見直しているから、それをネタとしてぶっこんだわけじゃないよ? 本当だよ? ナメック星人ウソツカナイよ。
それよりも感想を、感想を下せぇ。春巻きさんに愛と勇気をくだせぇ(アソパソマソ感)。
んじゃ、次の更新まで、またのぉ!