敢えて何も言わないスタイル
【くけけけけけっ! 消えろ人間っ!】
「貴方が消えなさい!」
より邪悪に力を増した負の怪物が、ほの暗き地底の大地でどす黒い妖気を撒き散らしている。
対するは光を纏う人間、奇跡のごとき輝きで邪悪に抗い、地底を明るく照らしている。
【他愛なしぃ!】
「それはッこちらのッ台詞ですッ!」
怪物ーー緑眼の者、パルスィが一喝すると共に九つの尾が縦横無尽に暴れまわり、尋常ではない破壊を周囲に撒き散らしている。
人間ーー傲慢なる奇跡、早苗がその手に持った払い棒に奇跡の力を込めて振り下ろせば、眼前の全てを吹き飛ばさんと、暴風が巻き起こる。
方や、己の規格外極まりない巨体を生かした災厄。方や、己の埒外の力を存分に使った災厄である。……だが、どちらも恐ろしく強力で、理不尽そのもの。
地底へのダメージなぞ知ったことかと言わんばかりに力を撒き散らす彼女たちの姿は、正と負という全く正反対の性質でありながら、まるで鏡写しのように似通っていた。
もしも、地底という場所に意志があったとするならば、間違いなくこう言った事だろう。……「お前ら、他所でやれ」。
「消し飛びなさい!」
――【
奇跡の力が練り込まれた常識外れの一撃が、早苗から放たれる。
放たれたその一撃は空間を捻じ曲げ、地底そのものを蹂躙しながら、緑眼の者、パルスィへと突き進む。
【もうそれは効かぬわぁ!】
しかし、パルスィには通じない。否、通じるわけがなかった。パルスィは己に迫りくる空間を捻じ曲げる一撃を、その九つある尾の内の僅か一本の尾で迎撃し、容易く引き裂いてみせた。……そう――何故ならば、パルスィは先程までのパルスィとは別次元の領域まで成長を遂げていたからである。
矮小なる人間、奇跡を操る、妬ましき存在。正の力を司る、負の極限の己とは正反対の全く以て忌まわしき存在。……怨敵と言っても過言ではないその存在から受けた屈辱が、パルスィの内に秘められた緑眼の者としての力を、己の嫉妬心というおぞましくも恐ろしい力を引き出したのである。
引き出されたのは単純な力。ただでさえ巨大な身体をより大きく強靭に成長させ、その身から溢れ出す負の妖気をより強力にするだけの単純な力の底上げである。……それ故に強力無比。
現に見るがいい、あの早苗が、傲慢極まりない奇跡の権化が、守矢が誇る最終兵器である人間が、終始押され続けている。
本人曰く――奇跡の出力が足りていないというのだが、それを加味したとしても圧倒的である。それほどまでに今のパルスィは逸脱していた。……恐らく単純な妖怪としての力だけを見るならば、この地底で進化を遂げた妖怪たちの中で、彼女が一番規格外だ。
「くっ、やはりダメですかっ」
歯噛みする早苗。
早苗には分かっていた。どう逆立ちしたところで、“今”の自分ではこのバケモノには勝てないという現実を理解していた。……今の己の奇跡では、このバケモノを倒し切るだけの奇跡を起こすことなど出来ない。
早苗の力は、奇跡の力はこの幻想郷でも類を見ないほどに規格外だ。だが、その規格外には時間という大きな代償が存在している。……早苗がその本領を発揮するにはどうしても時間が必要なのだ。
故に早苗は、相手の力を上回る奇跡を使えるようになるまで耐え続けるしかないのだ。……当然、相手が強大であればあるほどに、その難易度は劇的に跳ね上がる。
【どうした人間! もっと踊ってみせろぉ!】
「かはっ!?」
大技を放って動きが鈍っていた早苗目掛けて、パルスィの尾による横薙ぎが直撃する。
尾は早苗の脇腹に直撃した。……衝撃でくの字に折れる身体、続いて骨がピキピキとひび割れる鈍い音を早苗の鼓膜を叩く。
吹き飛ばされ、地底の大地に強かに打ち付けられる。打ち付けられた身体はまるで鞠のように跳ね上がり、何度か地面をバウンドして、そのまま大岩へとぶつかって漸く静止する。
「ごほっ、ごほっ……ふぅ、まさかこの私がここまでやられるとは、ね」
何度か吐血する早苗。
早苗は満身創痍と言った有様だった。幾度と無くあのパルスィの猛攻を捌き続けたせいで、その肉体はボロボロだ。無事なところを探すほうが難しい。
奇跡の力で身体の回復力を無理矢理引き上げているが、回復した端から傷を負っているために、焼け石に水で、何の気休めにもならない。
「ふ、ふふっ、フハハハハハッ!」
【絶望して気でも狂ったかぁ?】
「いえ、己の無様極まりない有様が可笑しくてね。……こんな有様で傲慢なる奇跡を自称する私自身が余りにも余りにも滑稽で滑稽で」
【分を弁えぬ人間らしいではないか。……そうだ、お前は無様だ。そして、これから何も出来ずにくたばるのだ】
「フハハハハハッ! ええ、そうなるでしょうね。このままだと私は確実にボロ雑巾の様に、それこそ貴女の玩具にされる運命でしょうねぇ!」
早苗は嗤う。傲慢に振る舞い、この世全ての奇跡を操ると豪語した己自身を嘲笑う。
笑わせるなよ東風谷早苗、お前の何処が奇跡に満ち溢れているというのだ。お前程度の存在など、この幻想郷には山程いるぞ(※いません)。お前以上の力を持った存在は両の手では数え切れないほどにいるぞ(※両の手に収まる程度です)。
「滑稽ですよねぇ! こんな奇跡があるわけがないですよねぇ! 超越者? 傲慢なる奇跡? こんな無様を晒している私がそんな大層な存在であると? 煽てられて調子に乗ったただの矮小な小娘がですかぁ!?」
人間の超越者の一人? あの博麗の巫女に好敵手の一人として認められた規格外? 驕るなよ小娘。
おこがましいにも程がある。この程度の力を奮って、あの巫女に並んだ気になっていた自分自身の愚かしさに反吐が出る。こんなものはもう傲慢ではない。こんな人間が奇跡の体現者であるわけがない。
――否。
「認めません」
――否。
「認めませんよ」
――否。
「そんなの認めるわけがないじゃないですか」
――断固として否。
「この“我”が矮小などと、認めるわけがないだろうが」
己は東風谷早苗。この幻想郷に君臨する絶対強者の一人。人間という種族の限界を超えた領域に座する超越者の一人だ。
奇跡という神の領分の力を好き勝手に振るい。この世全ての事象現象を己の思いのままに操作する埒外の存在、それが己という存在だ。
そんな存在である己がここで負ける? この程度の脅威に挫け、敗北する?……認めぬ、認めてはならぬ。そんなものは断じて認めない。
自分に勝って良いのは博麗の巫女、あの愛しい博麗霊夢だけだ。それ以外の存在に負けるなど認めない。死んでも負けてなどやれない。
――もうこれ以上の無様は晒さない。奇跡が足りないなどという戯言は金輪際吐かない。
「礼を言おう。貴様という強者の存在が、この我をまた一つ強く成長させてくれた」
【何を言って――ッッッ!?】
「これは慈悲だ。我が奇跡、その最たる力を貴様に拝ませてやろう」
――【
早苗の姿が
見目麗しき乙女は、その輝きを更に増し、より大人びた姿へと成長していく。少女から女のそれへと変化していく。
若草色の長髪は、星を散りばめていくかのように輝きを放ちだし、地面すれすれまで伸びていく。ただでさえ豊満だった胸も、何処ぞの巫女に匹敵するほどに成長を遂げ誇らしげに揺れている。
何よりも目を引くのが、彼女の背後に現れた日輪のごとき輝きを放つ光輪だ。まるで神、全てを睥睨し、全てを掌握する神のごとき威容、その絶対的な光は見るものに畏怖の念を刻み込む。
【なん、だそれはっ】
「一騎当千天地無双、私の全力全開の姿です」
動揺を隠せない緑眼。
当然だろう、今の今まで虫の息、吹いたら倒れる満身創痍、風前の灯と言っても過言ではなかった人間が、今すぐにでも無様に倒れゆく筈だった人間が、息を吹き返したのだ。
いや、息を吹き返したどころの話ではない。明らかに、確実にだ。更なる嫉妬によって、その身をより強靭な肉体へと変化させた自分よりも、上の力を。……同じ生物とは思えないような圧倒的な力の奔流を感じる。
ただ対面しているだけで、この巨大な我が身が蒸発してしまいそうな、それほどの暴威を伴った威圧を、負の側面である我が力を打ち消さんと輝く、絶対なる光を感じている。
【あああああぁぁぁぁぁ!】
無意識だった。無意識に緑眼は攻撃していた。
それは恐怖から来る破れかぶれの攻撃、その九つある尾を、全力全開で敵対しているこの人間に叩き込む。
「かゆっ」
【ぎぃっ!?】
がしかし、無傷。薄皮一枚も傷つけることが出来ない、逆に打ち込んだ此方の尻尾が傷つき壊れる始末だ。
滑らかな金の毛皮が抉れ、血が溢れて滲み出し、その骨が粉々に砕け散っている。九本全部がその有様、最早、無事な尾は一本も存在しない。
固い金属の壁を、ただの人間が加減を考えずに殴りつけた状況を想像して欲しい。何かと何かがぶつかりあった場合、特殊な状況を除けば、固い方が勝つのは自明の理。……それはまさしく緑眼の強靭な肉体が、人間である早苗の肉体強度に劣っているという証明に他ならない。
「あまり長く時間を掛けるのも好ましくないですね、一撃です。……精々、抗いなさい」
早苗はゆっくりと両腕を左右に広げる。
さぁ、幕引きの時間だ。これで最後だ。これが東風谷早苗という人間を象徴する一つの技だ。
【くそっくそっくそっくそくそくそくそくそくそくそがぁぁぁぁぁ!】
悪寒がする。とんでもない規模の悪寒が我が身を襲う。
あの女が、東風谷早苗という人間の女に、この緑眼が恐怖している。嫉妬の化身、負の権化、この世全てを妬み呪う、この緑眼が、ただ一人の人間の女に恐怖しているッッッ!?
【あああああぁぁぁぁぁくるなくるなくるなくるなくるなぁぁぁぁぁ! 我にッ! 我に近付くなァァァァァ!】
「哀れ……【奇跡――」
広げられた両腕が全てを包み込むように閉じられる。
――サナエサーン】
それだけで全てが終わった。
決着は静かだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……い、いやぁー、し、死ぬかと思いましたぁ」
早苗の放った奇跡の一撃は、緑眼の巨大な身体を打ち砕き崩壊させて、その中身に潜んでいた本体――水橋パルスィにすらも直撃した。
「……どうして、どうして情けを掛けたの? あの一撃で私を殺せたはずでしょう?」
パルスィに傷は一つもなかった。ただの一つも、それこそかすり傷一つとて、その身には負っていなかった。
代わりのパルスィの身から立ち上っていた負のオーラ。嫉妬混じりの極大な負の力が消し飛ばされていたのだった。
当然だ。語るまでもない簡単な話だった。早苗は――
「や、やだなぁ、私が霊夢さんの友達を殺す筈ないじゃないですか」
――始めから殺す気はなかったのだ。
傷つけるつもりは微塵たりともなかったのだ。
始めから早苗は、パルスィを戦闘不能にまで追い込み、無力化することだけを考えて動いていたのだ。
全ては彼女にとっての至上である霊夢のため、そのためだけに苦戦しながらも、決してパルスィを傷つけることはなかったのだ。
無論、それは困難な事だった。他ならぬ早苗だったからこそ出来たのだ。奇跡の体現者であり、幻想郷に存在する超越者の一人である彼女だったからこそ出来たのだ。
「はぁ、負けたわ、負け、完敗、私の負けよ。……本当に妬ましい、妬ましいわ」
「は、ははっ、私もまさかこんなに追い込まれるなんて思いませんでしたよ。……緑眼さんとっても強くて、私も全力でやらないとダメでした」
実際のところ早苗としてもギリギリだった。
大抵の相手を
「……パルスィよ」
「え?」
「緑眼はあの時の姿の名前。……私の本当の名前は水橋パルスィ」
自己紹介するパルスィ。
辺りの地形がぐちゃぐちゃに崩れていなければ、とても戦闘の後とは思えないやりとりだ。
「アンタもあの巫女……霊夢の事が好きなんですって?」
「パルスィさんもでしたね」
「……負けないから」
「私としては全員霊夢さんのものぉーでも良い気がするんですけどね」
「……アンタ、何か性格変わってない?」
「あ、あはは、私、奇跡を貯め始めると我が強くなるみたいでして……いや、パルスィさんも人の事言えなくないですか?」
「私も嫉妬が高まると気が可笑しくなる質だから……」
「……」
「……」
身に纏う力の方向性は違えど、奇妙に似通った二人。お互いに見つめ合い――
「「ぷっくふっ、アハハハハハッ!」」
――同時に吹き出した。
「アハハッ、何か絶妙に似た者同士ですね私達」
「本当に妬ましいくらいに似てるわね私達」
芽生えた親近感。まるで長年苦楽を共にした友にやっと巡り会えたかのような、不思議な感覚。
「早苗、一つ提案があるの」
「何でしょうパルスィさん」
「手を組みましょう早苗。……私と貴女で霊夢を独り占めするの」
「……それはそれは面白そうですねぇ!」
謎に芽生えた友情が、此処に異色のコンビを生み出した。
絶対的な正の存在、奇跡を司る東風谷早苗と、その対照に存在する絶対なる負の側面、嫉妬という感情を司る絶対悪、水橋パルスィの二人という余りにも卑怯極まりないコンビ。
「例え一目惚れでも、私は霊夢に惹かれちゃったのよ!」
「ぶっちゃけると私も人の事言えないので! その気持ち分かります!」
即席ながらも妙に調子が合う二人のコンビは友情を育む。
「やっぱり霊夢の一番の良いところは絶対に支えてくれると確信できる腕にあると思うのよ」
「おっ、流石はパルスィさん、短い邂逅でもうそこまで分かるんですか! ですが、敢えて私はあの吸い込まれそうな瞳だと答えましょう! あの瞳で直視されたらもうそれだけで幸せになれますよ!」
「早苗、貴女天才? 嫉妬していい?」
「いいえ、奇跡です。存分にパルってください」
「「パルパルパルパルパル!」」
いつかこの二人による、とある巫女を相手とする攻略物語が始まるかもしれない。
◆◆◆◆◆
「そして、私は言ってやったんだ。これは逃げてるんじゃない、次を繋げるために走っているだけなんだとぉぉぉぉぉ!?」
「喋ってる暇あったら走ってよぉぉぉぉぉ!?」
「霊夢、私怖くないわ。だって今もほら貴女が側で笑ってくれているもの。霊夢はいつだって私を連れ出してくれるんだもの、そうよ怖くないわ。怖くない怖くない怖くない怖くない怖くないぃぃぃぃぃあああああぁぁぁぁぁ!?」
「ゾンビよりも紫の人のほうが怖いぃぃぃぃぃ!?」
阿鼻叫喚。此処は地獄か? 地底だよ。
魔女組とお燐は逃げていた。背後から迫りくる絶望の使者。主に彼女達の貞操を狙っている恐怖の追跡者たちから逃げ惑っていた。
「魔女っ子ちゅうぅあぁァァァァん!」
「キシャァァァァァ!(金髪っ子のお尻ペロペロぉぉぉぉぉ!)」
「スタァァァァズ!(おっぱぁぁぁぁぁい!)」
「猫……耳?(あれ? これ怖がられてね?)」
背後から襲い掛かるゾンビーズの魔の手から逃げ惑っていたのだ!
捕まったら無事では済まない! 主に貞操がっ! 主に彼女たちのハジメテが無事では済まないのは確定的に明らかである!
現状では逃げ切れている。だが、相手は体力無尽蔵のゾンビーズ! このままでは体力切れで捕まってしまうのは時間の問題っ! どうにかしてこの状況を切り抜けねば、彼女たちに未来はないッッッ!
「あっ!?」
しまった!? 地底一の猫耳美少女である、お燐が小石に躓き倒れる!
妖怪である彼女が石に躓くということは通常考えられない。これは、霊夢の手によって覚醒させられてしまったが故の弊害ッ! 自分の認識と肉体スペックの差が余りにも開きすぎているがために、この単純なミスを引き起こしてしまったのだ!
「ウホッ! これは良い猫耳美少女ぉぉぉぉぉ!」
「キシャァッ!(猫耳少女の尻ッ!)」
「スタァズッ!(猫耳おっぱいッ!)」
「ひぃっ!?」
そんな彼女に迫るのはゾンビーズ! 別々の獲物を狙っていたはずの彼らが、目の前に置かれた極上な獲物に標的を変える。……ぶっちゃけ彼らは自分の性癖にマッチングする女なら誰でも良いのだ、その柔肌を、乙女の純血を蹂躙できれば満足できてしまうケダモノ共なのだ。
恐ろしいケダモノ集団が迫りくるッッッ!? 危険、余りにも危険ッ! このままお燐は蹂躙されてしまうのかッ!?
「猫耳ぃぃぃぃぃッッッ!(させるかぁぁぁぁぁ!)」
しかし、此処であの巨漢が、あのシルクハットの巨漢が動いたッ!?
お燐を狙っていた筈のシルクハットの巨漢――タイ◯ントが、他のゾンビーズを横合いから思いっ切り殴りつけて吹き飛ばした。
「猫耳ぃ?(無事か猫耳よ)」
「え? えぇぇぇぇぇ!?」
お燐の目の前に片膝をつき、そのまま手を差し伸べるタイ◯ント……伏せ字が面倒なので、以降はシルクハットの男、即ち、紳士で帽紳士とする。
意味が分からない。どうしてこうなっている。
お燐の頭を大量の疑問符が支配する。この眼の前にいる帽紳士は、己の身を狙っていたのではないのか? それが何故、自分を守ってくれているのだ!?
訳も分からず立たされ、背後に隠される。……お燐は見た。男、否、漢の背中を! 何と逞しき背中なのか! 何と頼れる背中なのか!
「猫耳……猫耳ッ!(猫耳は……猫耳は俺が守るッ!)」
この漢は、帽紳士は猫耳好きだ。より正確に言うならば、猫が大好きだ。
勿論、普通に愛でる対象として、庇護するべき対象として大好きなのだ。そこには性欲は微塵たりとて存在する余地はなく、恋愛感情も皆無だ。
そんな彼だからこそ、猫耳が悲しむことを否とする。猫耳は、猫耳は、常に笑顔でなければならない。自由気ままに笑い、自由気ままに世界を謳歌する存在でなければならないッ!
それが、あのような下劣な欲望に蹂躙されるのはッ! そんな理不尽など絶対に認めるわけにはいかないのだッ!
そう彼は――
「猫ッ! 猫耳ぃぃぃぃぃッッッ!!!(守るためッ! 俺は阿修羅となろうッッッ!!!)」
――何処までも紳士だった。
紳士とは、愛していても決して手を出さない。
紳士とは、愛のままに全てを守る漢をそのまま指し示す言葉だ。
紳士とは、愛するものに迫りくる脅威を取り除く絶対的な矛なのだ。
帽紳士は吠える。
彼の肉体が咆哮と共に強靭に進化を遂げる。目の前にある猫耳の脅威を取り除く為に、彼の筋肉が一瞬だけ膨張し、その次の瞬間には圧縮を繰り返し、彼の姿をより強力な存在へと進化させるッ!
これまで無駄だった部分を収縮して、よりコンパクトに、そして、より早く動かせるようにシャープに進化させたッッッ!
「これが! これが! 猫耳の守護者の姿だッッッ!!!」
キャーフツウニシャベッタァァァァァ!?
彼……否、彼女の頭には誇らしげに揺れる猫耳がッ!? 臀部には、日本の猫尻尾がッ!?
大きく開いた猫のような丸い瞳。色白であるが僅かに桜づいた肌。髪はクールな彼女をそのまま体現したかの様に青一色。四肢はスラリと長く伸びており、引き締まった筋肉で覆われた抜群のプロポーションが美しい。
服装は先程まで着ていた黒一色のコート、同じく真っ黒なシルクハットを女性用に置き換えたようなデザインッ!
まるで、そう、まるでお燐の色違いッ! お燐をそのまま色を反転させたかのような色合いの美少女がそこにはいたのだッッッ! 服装は違う上に、その肉体は少し筋肉質ではあるが、その姿形は、明らかに、間違いなく火焔猫燐その人だったッッッ!
そう、この場で帽紳士は進化を遂げたのだッ! 意味が分からないが、帽紳士はただの帽子で紳士なマッチョから、猫耳美少女へと進化を遂げたのだッッッ! 意味がわからないがッ!(コレ大事)
「あ、アンタは一体」
「後は私に任せてゆっくりと見物していると良いぞ、素敵な猫耳を持つ我が主よ!」
言うな否や、猫耳を愛する猫耳美少女はその身を舞うように踊らせ、ゾンビたちに向かっていく。……全てはこの世の猫耳を守るためにッ!
「……なぁ」
「何だい?」
「アレ、何?」
「何だろうねぇ?」
死んだ目をした魔理沙の質問に、同じく死んだ目で返すお燐なのであった。
「男で、しかもゾンビだったわよね?」
「そうだね。ゾンビだったね」
「それが女の子になったわね」
「そうだね、女の子になったね」
死んだ目をしたアリスの質問に、同じく死んだ目で返すお燐なのであった。
「何で、貴女と同じ姿なの?」
「五月蝿いッ! あたいが知りたいよそんなのぉぉぉぉぉ!」
死んだ目をしたパチュリーの質問に、遂に死んだ目を返上してうがぁぁぁぁぁと叫び声を上げて、頭をかきむしるお燐。
何で、自分が召喚したゾンビ共はイカレポンチが大量に出てくるんだッ! と憤慨している。覚醒する前にゾンビを召喚しても、そこら辺にいる小妖怪や、妖精のゾンビしか出てこなくて平和だったのに。……あっ(察し)。
「あ、アレだぁぁぁぁぁ!?」
お燐は気付いた、気付いてしまった。
この可笑しな状況を生み出すに至った、そもそもの元凶をッ! 自分の力を覚醒させた張本人である巫女の存在をッ!
気付いてッ! あの巫女のッ! 博麗霊夢の顔が思い浮かんだッ!……奴は嘲笑っていた。笑っていたのではなく、嘲笑っていたのだ。綺麗に、憎たらしいほどに綺麗に嘲笑っていたのだ。
力に振り回されているお燐の無様な姿を、逃げ惑う魔女組の姿を見て嘲笑っていたのだッ!(思い込みです)
「れ、霊夢ぅぅぅ!」
「うぅ、酷いわ霊夢」
「絶対に許さないわよ、霊夢」
お燐から巫女の所業(仮)を聞かされた魔女組も憤慨する。
本気で怖かったのだ、本気の本気で怖かったのだ。何せ貞操の危機だ、乙女の純血が脅かされたのだ。……霊夢めぇッ! こうなること分かっていやがったなぁ!
「「「ゆ゛る゛さ゛ん゛!」」」
実際のところ、霊夢はこの件には無関係……というわけではない。
霊夢の覚醒術はその特性上、自分の霊力の一部が僅かに覚醒対象に混ざり込んでしまう。……あの幻想郷最強の人間(ガチレズの変態)の一部がお燐に混ざったのである、影響を受けないわけがない。
つまり、彼女達の怒りは正当なものであり、元凶である霊夢は、彼女たちの怒りを全て受け止めてあげないといけないのである、QED完了。
「あたいの!」
「「「私達の!」」」
「怒りと!」
「「「恐怖を!」」」
「「「「絶対に味あわせてやるぅぅぅ!」」」」
あの巫女本当どうしてくれようか(全員目が据わっている)。
霊夢にどうにかして(色々とお見せ出来ない)お仕置きをしてやろうと、魔女組と地霊殿の火車が手を組んだ、組んでしまったのだ。……近い将来、自分の身に迫りくる危機(襲われる的な意味で)を、霊夢はまだ知らない、知る由もなかった。
「唸れぇぇぇぇぇ! 我が拳ぃぃぃぃぃ!」
「ぐわぁぁぁぁぁ!? ば、馬鹿なァァァァァ!?」
「ギシャァァァァァ!?(せめて一舐めだけでもぉぉぉぉぉ!?)」
「スタァァァァァズ!?(揺れる乳を見れただけ満足ぅぅぅぅぅ!?)」
決着は早かった。……というよりも猫耳美少女が強すぎた、余りにも強すぎたのだ。
その手で、ゾンビーズの一角である魔女専、もとい美少女なら何でもいい系ゾンビの顔面を吹き飛ばして消滅させ。
その手で、ゾンビーズの一角である尻フェチの脳味噌剥き出し野郎の舌を断ち切り、その胴体を両断し、粉々になるまで、連打で破壊し。
その手で、ゾンビーズの一角であるおっぱい大好き改造人間のフランケンシュタイン野郎の触手を無理矢理引き千切り、骨という骨を砕いて、トドメに拳圧で押し潰した。
蹂躙、ただしく蹂躙。元同族相手であろうと容赦なく蹂躙して、この世から跡形もなく消し飛ばしたのだった。
「ご苦労様、助けてくれてありがとね」
「ありがとな!」
「ありがとう」
「礼を言うわ」
「気にしないで欲しい。……私はただ、猫耳の危険を取り除いただけだ」
主である猫耳のお燐と、彼女と共に追われていた猫耳が似合いそうな魔女組さん達の感謝の言葉を受けつつ。……自分の身に生えた猫耳の触り心地を味わいながら、気にするなと手を振る。
事実、猫耳美少女にとって、猫耳を守るという行為は無償の奉仕。己の損得鑑定などを挟む余地もない、当然の行動でしかなかった。
――感謝など要らぬ。ただ、この世全ての猫耳が幸福であることこそが、我にとっての至上の喜びなのだ。
ましてや今は、自分自身が猫耳美少女へと進化したのだ。
切っ掛けをくれた愛すべき猫耳主のためならば、それこそ地獄の果てまでも飛び込んで見せよう。
「その熱い猫耳推しは何なんだ?」
「これは異な事を言うな、猫耳が似合いそうな魔女ッ娘よ。……猫耳は猫耳で私が猫耳を愛するがゆえに猫耳もまた私、故に私は猫耳となり、猫耳を守護する猫耳となったのだ」
「待って、何言ってんのかわかんない」
「即ち猫耳とは、全ての中心であるがゆえに猫耳であり、猫耳を得た私もまた守護するべき猫耳と共に猫耳で以て猫耳を愛するという事なのだ」
「……そうだなっ!」
猫耳の圧が半端ではない、そう思った魔理沙なのであった、猫耳。
「魔理沙が不甲斐ないから私が聞くわ、貴女さっきまであのゾンビ共と同じだったじゃないの、それがどうしてそんな事になってしまったのよ?」
「猫耳だ」
「はい?」
「猫耳を、見たのだ。ただの愚かしい俗物だった我らに追われ、涙を流して逃げ惑う猫耳を。……その時、私の中で猫耳が揺れたのだ。それはつまり閃き、あの有名なニュートンがリンゴが落ちるのを見て万有引力を提唱した様に、私は私の中で燻っていた全ては猫耳に通じるという一つの結論を得たのだ」
「ちょっとm」
「結論を得てからは早かった、まさに猫のように俊敏だった。私は嫌悪した猫耳に欲をぶつけようとしていた愚かな私自身を、ただ表面的な部分でしか猫耳を見ていなかった愚かな私自身を嫌悪したのだ。……気付いたのだ、猫耳は猫耳は追い求めるものではなく、ただそこにあるのを見守るべき存在なのだと」
「話を聞いt」
「故に猫耳を愛した私もまた猫耳だった。猫耳にならなければならなかった。だからこそ、私もまた主と同じく猫耳なのだ」
「……私が悪かったわ魔理沙、これは手に負えない」
アリスは知った。猫耳は全てに通じるという謎の知識を情熱を。……猫耳の霊夢を想像してちょっと彼女の気持ちが分かった気がした、猫耳。
「二人共だらしないわね、後はこの私に任せなさい。……猫耳?」
「猫耳だ」
「つまり猫耳とは猫耳であるが故に猫耳であると、猫耳がそこにあったからこそ、貴女もまた猫耳の猫耳による猫耳のための試みとして猫耳と化した。……そういうことね?」
「その通りだ同志よ」
無言で握手。……何故かパチュリーとは通じ合った。
「な、何で通じ合ってんだよ?」
「……一時期、猫耳霊夢で書いてた時期があったのよ」
「成る程、つまり猫耳霊夢可愛いって事で大丈夫かしら」
「大丈夫よ、問題ないわ」
「……全然話に付いて行けない。コイツらヤベェ」
この中で一番純粋、霊夢とは健全な友人関係を育んできている魔理沙だけが取り残されてしまっている。
他の二人は、一人は霊夢を王子様扱いして常日頃から妄想している恋愛脳で、もう一人は霊夢を使って自分自身のためのちょっとえっちぃ内容の小説などを書いているちょっとアレな人物だ。……そのため、話に付いて行けないのは仕方がない。
「ところで主よ、一つだけ願いを聞き入れて貰えないだろうか?」
「な、何よいきなり改まって……助けてもらったんだし、アタイの出来る範囲でなら大丈夫だけど」
「――名を」
「え?」
「名を、貰えないだろうか? これから貴女を守る下僕としての名を」
恭しく傅き、お燐を見上げる猫耳美少女。
そう、猫耳美少女と化した彼女には名前がない。本来、召喚され、ただただ消費されるだけにしか過ぎなかった存在である彼女にはタイ◯ントという種族の名はあれど、彼女個人を指し示す名などなかったのだ。
故に、彼女は欲した。自分を示す名を、自分というただ一人を指し示す名を欲したのだ。
「……お煉」
「お煉?」
「火焔猫煉で、お煉。……アンタ、アタイとよく似てるし、アタイの力で生み出されたって事はアタイの娘みたいなもんだしね」
「娘……お煉、お煉か」
貰った名前を噛みしめるように何度も繰り返す猫耳美少女――お煉。
嬉しかった、まさに歓喜だった。その場で躍り上がってしまいたいほどに、それほどまでに湧き上がる感情がお煉の心を一杯に満たした。
そして、娘……娘と呼んでくれた。我が最愛の猫耳主が、取るに足りない存在である己を、ただの下僕でしかなかった己を娘と、呼んでくれた。
目頭が熱くなる。歓喜の余り、涙が溢れ出しそうだ。……いや、もう溢れ出ている。嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。頬を熱い雫が伝っていく。
「……って、何だ泣くのッ!? そんなに嫌だったッ!? 嫌なら別の考えるから!」
「いや、いい。これで、いい。……ありがとう、母よ」
涙を流しながらも少女は笑った。この喜びを、感謝を精一杯込めて笑った。……まるで可憐な花が、満開に咲き誇っているかのように。
また一つ、地底での戦いが終わった。……残るは、後一つ。
◆◆◆◆◆
「ふむ、他はもう終わっているようだな」
ハロー、幻想郷の由緒正しき巫女巫女霊夢ちゃんだよぉ。
どうやら皆の戦いが終わったようだね。大きな怪我もないようで安心安心。……え、お前は見てもいないのに、何を言っているんだって?
チッチッチッ、甘いな、甘い、甘すぎる、まるでチョコラテの様に甘い、クリームマシマシのチョコレートパフェにこの世のありとあらゆる甘味料を注ぎ込んだ意味不明なスイーツ(笑)よりも甘いッ!
私の知覚能力は、君たちの想像の遥か上だという事実を忘れてはいないかね?……この幻想郷のありとあらゆる美少女の状態を常に把握しているというのを忘れてはいないかね?
そう、私は全てを知覚していた。この地底で行われていたありとあらゆる戦闘行動を全て知覚していたのだ。……いつでも介入できるようにしっかりと見守っていたのだよ。
もしも危険が危ないな状況だったら、瞬で駆けつけていたよ。……この博麗霊夢の手に掛かれば、瞬間移動とか朝飯前だ。多分、寝てても瞬間移動とか余裕余裕。
「雨降って地固まる、というわけではないが……皆、仲良くなれたようだな」
まぁ、そんな心配なんてしなくても良かったみたいだけどね。
幽香と勇儀姐さんは、血湧き肉躍る殴り合いから始まる女同士の友情的な感じで終始ぶつかり合って仲良くなっていたし。……幽香が最後に放った一撃で博麗大結界がちょいヤバイけどな!
諏訪子ちゃんとキスメちゃんとヤマメちゃんは、ヤンデレ諏訪子ちゃんの暴走っぷりを、見事なコンビネーションで止めて最後には額と額でごっつんこで止まったし。……うん、突っ込まんからな。
早苗とパルスィちゃんは、もう怪獣大決戦という有様で、地底が危うくアボーンするかなぁと思ったんだけど。……何やかんや意気投合してキャッキャしているの尊いので後でギュッギュしてあげようと思います。
魔理沙ちゃんとアリスちゃんとパチュリーちゃんとお燐ちゃんは、ゾンビ共ぶっころ案件だったけど、途中で寝返ったゾンビが、お燐ちゃんによく似た猫耳美少女になって解決したから正直意味が分からない。……あの猫耳美少女から、お燐の妖力と混ざっている私の霊力を感じるのは気のせいか?
何はともあれ、無事に解決したみたいだから良かった良かった。……一部、突っ込みきれないけどな!
「後は、私がお空を仕置すれば終わりか……ふんっ!」
「うにゅっ!」
【もっと力を上げろぉ! 空ぉ!】
暴れ回るお空ちゃんの攻撃を全部受け止めて無力化したりする。
やれやれ、本当にじゃじゃ馬娘だなぁお空ちゃんってばぁ。……進化した力を全部火力に極振りしているせいで、私自身の身体で受け止めてあげないと、地底そのものが崩壊してしまうほどだ。
もう何度も、お空ちゃんの放っている熱線を食べたりして無力化している。……お空ちゃんの妖力と、八咫烏ちゃんの神力、美味しいです、もぐもぐ。
二人共気付いているのかなぁ? 攻撃すればする程、私が食べれば食べるほど、自分の攻撃が効かなくなってきているという事にさぁ。
【このままでは埒が明かんっ! 空ぉ! 最後の手段だぁ! アレを使えぇぇぇぇぇ!】
「うにゅぁぁぁぁぁ!!」
――【
瞬間、お空ちゃんを中心として莫大な核エネルギーが増幅し、周囲の空間を焼き払いながら、私目掛けて迫ってくる。……熱いな、これが恋の核融合ッ!(アホ)
まぁ、私が攻撃を食べているのは、別に私がお空ちゃん達の力をペロペロして性欲を発散したかったというだけではない。……相手の力を取り込むという行為に意味があるのだ。
私の霊力操作。……もっと言うならば力の流れを自由に操る技量は唯一無二、誰にも真似出来ないと自負できるほどだ。
そんな私が相手と同じ力を取り込み、その本質を理解する。……それがどれほど驚異的なのかは、語らずとも分かるだろう。まぁ、その、つまり何だ――
「うにゅっ!?」
【ば、馬鹿な!? 太陽よりも莫大な核エネルギーだぞ!?】
――もうそれは効かん。
お空ちゃんから放たれていた核エネルギーを全て掌握し、地底に被害が出る前に私の中へと取り込んでいく。……あぁ、熱い、熱い、身体が、火照ってしまいます(恍惚のヤンデレポーズ)。
お空ちゃんの力はもう覚えた。取り込んで身体が理解した。……だから、もう何も出来ないし、させない。
嘆くことはない、悔いることはない。……最初から詰んでいたのだ。私に攻撃したあの瞬間から、私に熱線を食われたあの瞬間から、君達の敗北は決定していたのだ。
「うにゅぅぅぅぅぅ!」
【まだだ! まだ我らは負けていないッ!】
「フフフッ、良いぞ。……おいで」
遠距離では効果がないと踏んだのか、近距離戦に持ち込もうとするお空ちゃん。制御棒を振り回し、溶岩上の固形物質で覆われた右足で踏付けてくる。
「うにゅぁ!?」
【ぐぬっ!?】
その全てを真正面から切って落とす。
振り下ろされた制御棒を、柔らかく受け止めて、全ての力を受け流し、踏付けてきた右足をそのまま荒々しく力任せに掴み、そのまま彼女を地面に叩き下ろす。
背中から強かに打ち付けられたお空ちゃんは、中にいる八咫烏ちゃん共々短い悲鳴を上げる。……さぁ、お仕置きの時間だッッッ!!(今回一番の心の叫び)
「う、うにゅにゅにゅにゅにゅ!」
【空! 頑張れッ! 頑張るのだ!】
お空ちゃんと両手を絡み合わせながら押し合う。……いや、必死に押しているのはお空ちゃんだけで、私はそのまま抑えているだけなんだけどもね。
フフフッ、さっきのように胸で私の顔面を包み込んでも無駄だぞ。今の私は、お仕置きという大義名分を得たスーパーでアダルティな私だ。……最早、胸に顔を埋めるだけでは動きを封じることは出来ぬよ(イッパイイッパイ)。
「そら、もう少し強くするぞ」
「うにゃぁ!?」
【空ぉ!?】
僅かに力を込めて、お空ちゃんを完全に押し倒す。
抵抗するお空ちゃんだが、私に敵うはずもない。完全体幽香に匹敵するほどに迫っているとは言っても、所詮は進化したての雛鳥だ。……力の使い方が分かっていないお空ちゃんでは例え逆立ちしたって、私に勝つことは出来ない。
私より体格が良い? 太陽の力を進化の力として振るい、無限に成長を続ける進化の怪物?……で、それがどうしたのかな?
まさか進化できるのが自分だけだとか、思っていないよね? 最強で無敵のこの博麗お姉さんが、進化できないとか思っていないよねぇ?
――甘ぇよ。
お空ちゃんは確かに強いよ。私が好敵手として認めた彼女達を除けば、このパワーインフレな幻想郷でもトップレベルと言っても良いくらいにはチート街道を爆走している。
「う、うにゅぅ」
【う、空が完全に抑え込まれて】
「たかが進化で、この博麗の巫女を止められると本気で思っていたのか?」
でもねぇ! そんな彼女達を抑えて頂点に立っているのが私だぁ! この私博麗霊夢だッ! 最強の存在は私一人だッ! 進化? 進化だとッ! そんなもので超えられるほど私は甘くねぇ! 私達クラスになるとなぁ! 戦いの一瞬一瞬で、日常の一コマ一コマで見違えるように成長するのは普通なんだよッ! 今更進化の何だのとォ! 甘すぎるぜぇぇぇお嬢ちゃぁぁぁぁぁん!
「食い尽くしてやろう。……二度とこんな馬鹿な事をしでかさないように、ゆっくりと刻み込むように」
【な、何を、言っている】
「さとりとこいしにお仕置きを頼まれている。……徹底的にお仕置きして欲しいそうだ」
今日の霊夢ちゃんはさとりちゃんとこいしちゃんとのお約束を守るとっても良い子なのぉ(無垢な笑顔)。
「さて、覚悟を決めろ」
「うにゅ、ぁ……ぁぁ、ぁ」
【や、止めろ、来るな、来るんじゃない】
恐怖一色に染まったお空ちゃんの表情と、八咫烏ちゃんの怯えた様子の声に軽く興奮がニュークリアフュージョン。
大丈夫、大丈夫、ほら私優しいから。最初から感度マックスで絶頂できるように色々と手を加えるから大丈夫、大丈夫。……お仕置きだから取り合えず軽く百倍からイッてみよっか?
「舐めたらダメだよぉ、汚いよぉ」
「フッ、期待で溢れさせておいて良く言う。……お前はイヤらしい娘だな」
「あ、あぁッ!? うにゃぁぁぁぁぁッ!?」
「またイッたか」
博麗の巫女の手によって、ヨガり狂う地獄の鴉。
明るく脳天気で純粋な、穢を知らなかった一羽の鴉。……そんな彼女が淫靡に嬌声を上げ、己の身体中で暴れ回る快楽に振り回されている。
知らなかった。無垢なる少女は知らなかった。かつてない程の衝撃が全身を隈なく駆け巡り、休む間もなく意識の消失と覚醒を繰り返される。
もう止めてと懇願しても巫女は止めてくれない。狂いそうになっても、無理矢理意識を元に戻されて、何度も何度も繰り返し快楽を刻みつけられる。
巫女の口が、この身体の何処かに触れる度に、お空の身体から進化の力が吸い出され、代わりに快楽が与えられる。吸われた力は、そのまま音を立てて咀嚼され、目の前で巫女の身体の一部として同化していくのを見せ付けられる。
「うにゅ、あ」
あれは、私の力なのに。
息も絶え絶えに見せ付けられる屈辱的な光景。自分の力を噛み砕かれて飲み干されるという余りにも屈辱的な光景。
お空が如何に能天気とは言え、自分の力にはある程度の誇りはある。その誇りが巫女によって土足で踏みにじられ、蹂躙されていく。
屈辱、屈辱だ。末代まで祟ってもなお足りない屈辱的な行為だ。だが、どうしてどうしてだろう?
「なん、でぇ?」
全身が疼く、耐え切れないほどに疼いている。
巫女が口付けた場所が堪らないほどに熱を持ち、心臓が激しく鼓動する。彼女の唇から零れ落ちた力の残滓が、散っていく光景を見て、どうしようもない程に身体が熱を持ってしまう。
「フフフッ、もっと可愛い姿を見せておくれ、お空」
「あ」
地獄の鴉は思い知らされたのだ。……誰が上で、誰が下なのかを。誰が捕食者で、誰が被捕食者なのかを。
地獄の鴉は刻み込まれたのだ。……自分の一部を喰らわれるという喜びを。誰かと一つになるという行為がどれだけ素晴らしいものなのかを。
――もっと、私を食べて。
また一人、無垢なる少女が狂気に落ちた。
【ひっ!? な、何でッ】
「お空の意識とお前の意識を入れ替えた。……成る程な、入れ替わるとお空とは正反対の容姿になるのか」
【何だ、これ、知らない。我はこんなの知らない、恐い、これが恐怖? イヤだイヤだイヤだぁぁぁぁもがっんっん】
「敗者は敗者らしく大人しく沙汰を受け入れろ。……さぁお前にもお仕置きをしてあげようか」
【んっ!? んぅぅぅぅぅ!?】
お空が無事にお仕置きを終えた後も、巫女の調k……お仕置きは終わらない。
次に巫女の対象となったのは、お空と同化していた八咫烏である。巫女の手によって、既に屈服したお空の精神と入れ替えられてしまった。
そして、八咫烏を襲うのが、お空が受けていた快楽の余韻。今の今まで一切感じたことのない未知の感覚が、性知識が僅かしか存在しない八咫烏の精神を横合いから殴りつける。
未知の感覚に恐怖し、逃げようとする八咫烏だったが、無論、そんな事、この巫女が許す筈もない。……一切の抵抗を許されること無く、猿轡をされ、亀甲縛りにされて、その場に転がされてしまう。
【ふぐぅ! んぅッ! んッ!?】
「神の精神が強いのは神奈子と諏訪子で分かりきっているからな。……少々、痛いくらいが丁度いい」
【んぐっ!? うぅぅっ! んッ!】
涙が溢れる。
高貴なる太陽、天照の使いである八咫烏。そんな存在である自分が、ただ一人の人間に手も足もでない。良いように弄ばれている。……その事実が彼女の神としての自尊心を粉々に打ち砕く。
休む間もなく送り込まれる痛みを伴った快楽が、未知の感覚として押し寄せてくる快楽が、彼女の心の恐怖を煽り続け、抵抗という抵抗を封じていく。
もう、そこに神の使いである八咫烏は何処にもいない。神の力を持っただけのただの恐怖に怯える少女の姿がそこにあるのみだ。
【ひっく、ぐす、うぅ】
「ああ、済まない。やりすぎたようだな」
巫女は、それまでの仕置の一切を止め、泣いている八咫烏の縄を解きあやす。まるでガラス細工を扱うように丁寧に、母親が子供を泣き止ませるように柔らかに、何処までも優しげにあやしている。
「よしよし」
【……】
ストックホルム症候群という言葉を知っているだろうか?
誘拐や拉致、人質に取られた被害者が、犯人と一時的に時間と場所を共有することで、依存関係にも似た強い同情心や、好意を抱いてしまう心理学である。……そう、自分を害している筈の存在に対して好意を抱いてしまうのである。
【もっとぉ】
「ん?」
【もっと撫でてぇ】
「……よしよし」
可哀想なことに八咫烏は落ちてしまった。
深い深い、二度と戻ってこれぬ依存の沼へと、ズブズブ、ズブズブと落ちていったのだ。……沈みゆく彼女を引き上げる者は誰もいない。誰も、いないのである。
異変は終わった。全ての戦いは終わり、異変は間違いなく終結したのだ。……数々の問題を残して。
「霊夢ぅ、もっとギュッてしてぇ……もっとぉ、もっとぉ一杯、私を食べてぇ」
【空、次は我の番だぞ、霊夢にナデナデしてもらうのだ】
「……うむ! やりすぎた!」
ごめん、コンティニューって出来ない?
かぁくぅたぁのぉ!(若本風)
猫耳とは?(哲学)
多分、猫耳関係の調べものしてたからそのせいだと思う。だから私は悪くない。
何だかんだ、地霊殿での戦闘シーンのラストがヤベェ事になっているけど、大丈夫やで(白目)
何で、書けば書くほどキャラクターが壊れていくんだ(困惑)。……うん、これも全部巫女が悪いな、そうに違いない(盛大な責任転嫁)。
色々とカオス極まりない事になっている当作品ですが、多分これからもカオスは広がります。
感想でも何処でも良いので存分に突っ込んでくれて結構です。むしろ突っ込んで下さい(ドギツイ下ネタ)
それはそうと皆さん。……性転換とかどう思います?(極悪スマイル)
では、またのぉ!