変態の兄貴と、その彼女さん   作:おかぴ1129

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9. 後日談

――真琴さん! ちょっと今大丈夫ですか!?<スポンッ

 

 初めて小春さんと会ったあの日からしばらく経った今日、小春さんからこんなメッセージが私のスマホに飛んできた。

 

 ちょうどその時、私は憧れのトシくんと久々にデートしていた(ウッハァアー)。二人で雑貨屋で小物を見た後、トシくんから『ちょっといい喫茶店を見つけたんだよ』と連れてこられた、海が見えるアンティークな雰囲気の素敵な喫茶店でアイスカフェオレを飲んでいた。

 

「ん? 誰からLINE?」

「小春さん。兄貴の彼女」

「へー」

 

 ちなみにその時、トシくんはブラックのコーヒーを飲んでいた。ミルクと砂糖が入ったコーヒーは苦手なのだそうだ。うちの変態兄貴と違って、トシくんは大人の男だなぁウッハァアー。

 

 ひとしきり興奮してよだれを垂らし、憧れのトシくんから顰蹙を買ったところで、再び小春さんからメッセージが届いたことに気付いた。

 

――あの! えっと、聞いていただきたいことが!!<スポンッ

 

 あの、おっとり落ち着いたふんわり美人の小春さんにあるまじき、ひどく興奮したメッセージだ……本当は通話して何があったのか直接問いただしたいのだが……それでは憧れのトシくんとの大切な時間に水を指してしまう。とはいえ小春さんも今すぐ話を聞いてほしいみたいだし……とりあえずメッセージで小春さんの話を聞くことにし、その旨を小春さんに送信した。

 

 私が『何かあったんですか?』と問いただして数十秒後……

 

――雄二さんから、改めて告白されました!!<スポンッ

 

 という、文字ではなく、ある意味では小春さん自身の声ともいえる返信が、私のスマホに飛び込んできた。

 

 しかし兄貴、やるな。私が言ったことを気にしていたのか……はたまた、元からいずれ告白しようと思っていたのか……それは分からないが。どちらにせよ、これはうれしい報告だ。小春さんのメッセージも、心なしか弾んで見えている気がする。

 

――おめでとうございます!

――ありがとうございます! 私、もう嬉しすぎて、頭がどうにかっちゃいそうで<スポンッ

 

 んー。小春さん、嬉しそう。そらぁ愛する兄貴に『キミが好きだ』と言われりゃ、いかに清楚な小春さんでも、有頂天になるよねぇ。

 

 ここで問題になるのは、兄貴は、何と言って小春さんに意思表示したのか……その一点だ。まさかとは思うが、その瞬間にすら、おっぱいなんて言ってないだろうなぁ兄貴よ。淡い期待と多大な不安を胸に抱えながら、私は小春さんにメッセージを送った。

 

――兄貴が何て言って告白したのか、聞いてもいいですか?

 

 数十秒後……

 

――『キミの隣で、死ぬまでキミのおっぱいを守らせてくれ』<スポンッ

  そう言ってくれたんです! 雄二さんが! 私のおっぱいを守ってくれるって!!<スポンッ

 

 オーマイガー……まさか一世一代の告白のときにまで、おっぱいを口走るかあの変態は……兄貴の告白の言葉は、私には文字ではなく、悍ましい兄貴の声にしか感じられなかった。

 

 しかも『死ぬまでキミのおっぱいを守らせてくれ』とはどういうことか。これではまるで告白というより、プロポーズ……ハッ!? ひょっとして、兄貴は本気で小春さんと生涯を添い遂げるつもりか!?

 

 ……でも、小春さんがお姉さんだと、私も素直に嬉しいかな。あんな清楚で可愛らしいお姉さん、私の自慢のお姉さんになりそうだ。二人で買い物に行ったり、スイーツ食べに行ったり……そう考えただけで、胸が踊るわ。ふわふわと可憐で清楚な小春さんとデート……デュッファー。

 

 ところで、小春さんはこの事実に気づいてるのだろうか? 未だ止まらぬ、小春さんからのメッセージに目を通す。

 

――ぁぁああああああ……幸せです……私、幸せすぎます……<スポンッ

――雄二さんが……私のおっぱいを……キャー!!<スポンッ

 

 気付いてないようだ。……いや、気付いているからこそのこのはっちゃけぶりなのか?

 

 ……でもきっと、小春さんもそれだけうれしいんだろうな。コンプレックスだったおっぱいを『なによりも美しい』と本気で言われただけでなく、そのおっぱいを『死ぬまで守らせてくれ』て言われたわけだし。いいな……小春さん、ホントに幸せそう。

 

 ……フと、疑問が湧いた。私はその疑問を頭に抱えながら、愛しのトシくんを見つめた。愛しのトシくんは、私が小春さんとメッセージのやりとりをしている最中、コーヒーを飲みながら自分のスマホをいじっていたが、私の視線に気付いて、スマホの画面を切った。

 

「……お、終わったか?」

「あのさトシくん」

「お?」

「トシくんはさ。私のおっぱい、どう思う?」

「お前のおっぱい?」

「うん」

 

 口に出したあとで『なんということを聞いてしまったんだ私は!?』と一瞬焦ったが、まぁ口に出してしまったものは仕方ない……と途端に冷静を取り戻すあたり、私も兄貴に毒されてきているのかもしれないなぁ……。

 

 小春さんは、兄貴に自分のおっぱいを『美しい』と言われ、そして付き合うことになった。聞いてる私はとても非常識な告白だと思ったのだが、言われた小春さん自身は、とても幸せそうだ。

 

 一方で……私のトシくんはどうなんだろう? 男の人なら例外なくおっぱいが好きと聞くが(兄貴は除外)、果たして私のトシくんは、私のおっぱいを受け入れてくれるのだろうか?

 

 ちなみに私は、小春さんレベルのぺったんこというわけではない。かといって、大きいというほどでもない。至って普通のサイズだと、私自身は思っているのだが……。

 

「んー……」

「……」

「……んー……?」

 

 愛しのトシくんは、私のおっぱいをじーっと見つめ始めた。正直、ここまで自分のおっぱいに注目されるのもずいぶん久々だし、非常に居心地が悪い。これがたとえばトシくんではなく兄貴だったら、私は釘バットかなにかで確実に7回ほど地獄送りにしていたことだろう。愛しのトシくんの熱い視線だからこそ、我慢ができるのだ。デュフッ。

 

「……んー……」

「……」

 

 しばらく私のおっぱいを見つめた愛しのトシくんは、顔を上げ、私に怪訝な表情を向けた後、普段どおりの冷静な口調で、こう言い放った。

 

「……お前のおっぱい、小さくねーか?」

「は?」

「俺はもっと大きいおっぱいが好きだな。小島聡子みたいな」

 

 トシくんのセリフを聞いた直後、私の心の中に落胆が広がっていった。なんだよこの残念感。トシくんの言葉に……いや、トシくんにここまで落胆する日がこようとは……。

 

 私はため息を付いたあと、自分のアイスカフェオレのストローに口をつけた。

 

「……はぁ〜……」

「なんだよ?」

「別に。チュー」

「別にって顔じゃねーだろ。ふてくされてアイスカフェオレ飲んで」

「だって……チュー」

「何ふてくされてんだよ!?」

「小春さんが羨ましいなぁって思っただけ。チュー」

「は? 意味わかんねーよ……」

「ゾゾゾ……」

 

 へそを曲げた私は、愛しのトシくんが困惑しているその目の前で、これみよがしにアイスカフェオレをちゅーちゅーとストローで飲み干した。最後の方は、わざとらしくゾゾゾと盛大に音まで鳴らしてやった。

 

「どうみてもご機嫌斜めじゃねーかっ」

「うっさい。巨乳好きめ」

「はぁ!? 男なら誰だって大きいおっぱいが好きだろうがッ!」

「トシくん知ってる? 大きさや形でおっぱいを語る人って、本当のおっぱい好きじゃないんだってさ」

「なんだよそれ。意味わかんねー……」

「小春さんが羨ましいってこと」

「? ??」

 

 まったく……兄貴は小春さんのおっぱいを無条件で愛しているというのに……それに引き換えトシくんは……

 

「はぁー……」

「だからなんだよっ」

「残念だわ……ただただ、残念だわ」

 

 私のおっぱいを小さいとのたまうか。この巨乳好きは……。

 

 どうやらトシくんは、本当のおっぱい好きではないようだ。ひどく沈み込んでいく気持ちを隠し、私は手に持った空のアイスカフェオレのグラスを、テーブルにトンと置いた。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……フと気付く。私は今、何を考えた?

 

「ねぇトシくん」

「なんだよさっきから……」

「私さ。さっき何て言った?」

「は?」

「だから、私何て言った?」

「『小春さんが羨ましい』って」

「その前」

「俺に向かって『うっさい巨乳好きめ』?」

「その後」

 

 お願いトシくん……私の記憶と同じ言葉を吐かないで……この記憶は、誰かにインプラントされた偽の記憶か何かだと、あなたの言葉で証明して見せて……ッ!!

 

 しかし……私の必死の懇願も虚しく……トシくんはコーヒーをひとすすりした後、私が最も聞きたくないセリフを口にした。

 

「えーと……」

「……ッ」

「『大きさや形でおっぱいを語る人は、本当のおっぱい好きじゃない』だったか?」

「……!?」

 

 やはり記憶違いではなかった……私が、兄貴とまったく同じセリフを吐いただと……!?

 

「そ、そんなバカな……この、私が……!?」

「?」

 

 再び怪訝そうに私を見守るトシくんを尻目に、私の身体がガクガクと震え始めた。まさか私が、兄貴と同じことを考え、口走り、そしてトシくんに求めていた……!?

 

 なんということだ……兄貴とまったく同じ考え方を、無意識のうちにトシくんに求めてしまっていただと……そして、変態兄貴と結ばれた小春さんを、私は今、羨ましいと思っているだと!? そして、トシくんに兄貴と同じ思考を求めているだと……!?

 

「そんなバカな……悪夢だ……ハハハ……私が……」

「おい真琴!?」

 

 そんなショックなことに気付かされた私は、席から立ち上がり、しかしゾンビのようにフラフラとテーブルの周囲を彷徨った後、がっくりとうなだれ、その場に膝をついた。

 

 頭痛と目眩がする……私は兄貴とは違う……そう信じていたというのに……

 

「大丈夫か!?」

 

 トシくんが私を心配して声をかけてくれるが……今だけは、その心配の言葉が私の逆鱗を乱暴にザラザラと逆撫でした。私は膝をついたまま顔を見上げてトシくんを睨み、周囲に人がいるのも構わず、大声でトシくんに怒りをぶつけた。

 

「だまれ巨乳フェチ!!」

「は?」

「それもこれも、私のおっぱいを小さいって言ったトシくんが悪いんだ!!!」

「なッ!? 小さいとは言ってないだろ!?」

「うっさい巨乳フェチ! いいから黙って私のおっぱいを愛でろ! そして惚れろ!! ありのままの私とおっぱいに!!!」

「落ち着けって!!!」

 

 おわり

 

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