ーー眼が見開いた。自分はもう既に次元の壁に飛行機ごと突っ込んでしまい身体は消し飛んでしまったはずだ。ーーだから生きている訳がない。ーーだが、身体が軽くまるで二十代の頃を思い出す様な心地よさがありまるで生きていると錯覚してしまう。眼の前には白い天井が見える。辺りを見回すとどうやらここが医務室か何かだということにはシャルルには分かった。
「どこだここは? 自分は死んだはずだぞ」
そう本来なら狩乃シャルルは既に他界しているはずなのだ。ーー身体と機体の不良によって次元の壁を通ったのだから他界というよりは消滅に近いーーだが狩乃シャルルは生きている。誰かに運ばれたのかわからないがベットで自分は横たわっている。手を確認するとついこの間まで見ていた皺くちゃな腕では無く、若き腕で瑞々しかった。シャルルは自分の顔に手を置く。するとザラザラでは無く、するりと滑らかな皮膚であることがわかる。ーーどうやら何かの因果で若返っていることがわかる。おそらくはあの作戦から数年経った位の年齢であろう。
この状況をシャルルは整理し、理解しようとしていたがなかなかに理解出来ない。
「気がつきましたか? 」
シャルルは相手の言葉が若干神聖レヴァーム皇国の物とは少し違ったが、それでも要点は訳することができたため、内容は分かった。
「はい......で、ここはどこなのですか? 」
「やっぱり多少言葉は違う様ですね。話す分には問題はありませんがついうっかりで間違えてしまいそうです。ーーあっ場所ですね、ここはIS学園の保健室です」
ISと言われてもシャルルには聞き覚えのあるワードは無く、それがいったいどういう物なのかはいっさい分からなかった。
「......はぁ......そのISというのはなんですか? 」
「IS知らないんですか⁈ ーーまぁこっちもこっちでそちらのことで知らないことが多いですし」
緑髪の女性と会話をしていると一人のスーツを着こなした凛々しい女性が歩いてきた。髪の色は自分と同じく黒色で、天ツ上の人物を思わせる姿だった。
「ーー山田先生。待たせたな。おい。そこの青年、名前はなんだ? 」
この緑髪の女性の苗字は山田だということが分かり、この人も天ツ上に近い人なんだということがシャルルの脳内に想定できた。この女性の喋り方は随分とぶっきらぼうな喋り方だなあとシャルルは思った。
ここでシャルルは元本名である狩乃シャルルを名乗っていいか疑問に思う。もしかしたらこの二人は神聖レヴァーム皇国の敵なのかもしれないという予測が立てられる。ーーつまりはだ。自分を助けたのは自分を捕虜にして神聖レヴァーム皇国の情報を聞き出すためなのかも知れない。ーーだがもしこれが好意で助けられたのなら話は別になるであろう。ともかく神聖レヴァーム皇国の名前を出すのが先決なのかも知れない。
「その前に一ついいですか? 」
「別に構わんが......」
「神聖レヴァーム皇国という国を知っていますか? 」
「神聖レヴァーム皇国? ーーそのことか。それについて此方が余計聞きたいくらいだがな。あいにく私達はその神聖レヴァーム皇国という国を聞いたことがないんだ」
この女性はあの大規模な国家ーー神聖レヴァーム皇国を知らないというのだ。遠くの多島海の方まで名前が轟いているはずなのにだ。ここはこの女性や緑髪の女性を見る限り天ツ上に似た場所ということが予想できた。
「聖泉、大瀑布、天ツ上というワードには聞き覚えはありませんか? 」
「......いや、それもないな。早く名前を教えてくれないか? 」
この時名前を教えることをすっかり忘れていたことに気づく、さっきはどうするか考えていたのに混乱しているためか、あまり正確な判断が出来ない。ーーだがこれだけは理解したのだ。この世界はもともと自分が生きていた世界では無く、別の世界であるということを。ーーだから聖泉も大瀑布も天ツ上もーそして神聖レヴァーム皇国もこの女性らは知らないのだ。
なら自分の名前を言っても相当なリスクは無いと想定できた。きちんとした本名ーーいや、旧名をいうのが先決だと自分は思った。いち早くもこの世界について知らなければならない。ーーだからこの女性たちに自分の名前をいうことにした。
「海猫ーー狩乃シャルルです」
そう胸を張って、海猫ーー旧名狩乃シャルルは女性たちに自分の名前を言い放った。