シャルルは空を飛び終え充分に満足したような顔をしていた。どうやら久々に空を自由にそして壮大な空中ダンスを繰り広げるほど飛ぶのは本当に嬉しかったようだ。シャルルはISを解除しISを元に戻すーーが元々はリストバンドぐらいの大きさのゴーグルだったが何か変化したのか海猫のバッジに変化している。うしろには着ける器具がついているようで、手際良くバッジを軍服に付けた。ーーシャルルはまさに若きしころの実力をほぼ取り戻し自信が付いたのだろう。眼は飛ぶ前というかISを起動させる前までは空を飛べないと嘆いていた眼も色を取り戻していた。ーーそれくらいこの青年、狩野シャルルには空が大事なのだ。
地上から夜空を眺めるとさっきまで近場にあった星や月は小さく見えており一部の星は雲に隠れて見えなくなっていた。ちぇとシャルルは言うがやはり空が大切だということを改めて再認識したきっかけにもなった。
「どうだ? ISで空を飛んだ感想は? 」
「とても心地が良くて空を感じーー風と一体となることができて感動しました。ーーでもこれ兵器なんですよね......」
「世間ではスポーツ目的だとかなんとか言っているが、それは紛れもない人を殺めることができる兵器だ。使用方法を間違えれば人っ子一人くらいは簡単に殺められるさ......ところでお前はこの後どうするか決めているか? もしお前が並行世界から来たとするとこの世界で戸籍なんてものは存在しないだろ? 」
そう自分には空を自由に飛ぶ手段はあっても空を飛ぶための権利が存在しないのだ。確かにさっきは飛ぶことが出来たからもしれないがあれはこの人たちの合意を得たからだ。次からはその保証はない。ここはISの訓練所と言ったーーつまりは訓練生が大多数存在している中、見知らぬISが飛んでいたら一体どんなことになるか。ーーしかも最悪なことに、その謎のISを操っているのが本来は動かすことの出来ない「男性」だということも拍車にかかるだろう。ーーだから飛ぶことが出来ない。戸籍を手にいれようにもそういったルートも知らないし、万が一ルートが見つかったとしてもその戸籍入手にかかるこの世界でのお金を用意することが出来ないのだ。お金を稼ごうにも戸籍が無くては働けない。お金が無くては戸籍を手に入れられないと悪循環するばかりだ。
「いえ......特にお金もありませんし何も今のところは? 」
そのセリフを待っていたかのよう花スーツの女性の顔はニヤリとしもう逃げられないと言わんばかりの眼をしている。ーーまるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
「ーーなら、ここの生徒として通うのはどうだ。それを交換条件として戸籍の手配もしよう。ーーなぁに、ここの権力は絶大だからな。一人の戸籍くらい簡単に入手出来る。ーーさぁどうする? 」
「そちらになにかメリットがあるのでしょうか? なにぶんこちらに利益が高いと思うのですが......」
「こちらも多大な利益がある。まず一つは数が二人しかいない「男性IS操縦者」を自分の膝下に置くことが出来る点。ーーそして狩野、お前と違って完全にド素人な
私の愚弟ーー一夏の護衛にもなるしとにかく他の男性がいるという点で一夏はそこまでパニック障害になることがないという点だがな。ーーなにぶんあいつはISとの関係が薄すぎる。なんせIS関連の情報はほぼ知らないーー一般常識さえもな」
そういいこのスーツの女性は苦虫を噛んだかのような言い方をする。これを表すならあの空戦恋物語を現実に表したあの少年の国の言葉でいうなら「ブラザーコンプレックス」ーー俗にいう「ブラコン」というやつだろう。あの少年にはついうっかりと自分には自分自身よりも大切な人がいると答えてしまった。暴露ていないからいいものの、もしこれが「海猫作戦」のときに護衛した「ファナ=レヴァーム」だということがばれてしまっていたら現在の「海猫」が「狩野シャルル」であることが全国民に暴露ていたかもしれない。
「弟さん......大事にしているんですね」
「まぁ私の唯一の家族だからな。......少しは大切にしている」
そのときこのスーツの女性は一瞬だが暗い顔をしていた。「唯一」ということは残る家族はその「一夏」という弟だけになる。ーーもしかしたら自分と同じ境遇だったのかもしれない。
「ではこの取引に賛成しますね。空を自由に飛べるのならこれくらいの取引は受けますよ。ーーところで名前は何というのですか? 自分は答えましたが貴方の名前を聞いていなかったので」
「じゃあ取引は成立だ。私の名前は織斑千冬という。こちらは山田真耶だ。これから一年一組の担任と副担任になる。よろしく頼む」
「私からもよろしくお願いします。狩野さん」
「わかりました。では今日の宿は何処に? 」
「それなら教員用の寮を使うといい。一室空いていたはずだからな」
「わかりました。では案内をお願いします」
そうして三人はシャルルの仮の宿になる教員用の寮へと足を運んだ。これによって織斑一夏の部屋が教員用の寮から生徒用の寮に変更されたのはいうまでもない。