床主市の外れにあるとある森の中で、1人の男性が木々の間を縫うようにして歩いていた。朱色の雲模様がある黒い外套の様な服を身に纏い、長い金髪を頭頂部で結って、前髪で左目を隠すという珍しい髪型と服装に、何かのマークが付いた額当てをした見た目20代後半程のその男性がしばらく歩き続けていると、少し開けた場所に辿り着き、足を止めた。
「この辺りでいいか…うん」
男性はあたりを見回しながらそう言うと、自分の右手のひらに視線を向けた。いたって普通の手のひらだが、中心辺りが裂け始めたかと思うとそこに1つの『口』が現れた。その男性はそれを見ても慌てる事なく両腰にあるチャックの開いた大き目のウエストポーチに突っ込み、少ししてからウエストポーチから出して手のひらを見る。手のひらの『口』はクチャクチャと何かを噛み締めており、やがて噛んでいた物を吐き出した。それは白い粘土だった。男性はそれをグッと握り締めてから手を開くと、どうやったのかは不明だが、粘土が小さな小鳥の形になっていた。
「んじゃ、先ずはこれぐらいで行くか…うん」
男性は自分が作った小鳥の形をした粘土造形品を見て満足そうに頷くと、それを少し離れた場所にある木に向けて投擲した。投げられた粘土造形品はポン!と煙に包まれるとまるで生きているかの様に動き出し、粘土で出来た翼を羽ばたかせて狙っていた木に向かって飛んで行き、木の枝に停まった。それを見た男性はニヤリと笑いながら片手で
「芸術は…爆発だァ!……喝ッ!!」
ドゴォンッ!!!
男性が声高々と唱えると、木の枝に停まっていた小鳥型の粘土造形品は盛大に爆発した。男性はそれを見るとウンウンと頷いて大変満足した様子だった。
★
主人公side…
突然だがオイラの名前は《
貰った特典は【NARUTOのデイダラの能力と装備品】だった。デイダラってのはオイラが生前好きだったNARUTOという忍ばない忍者が出てくる漫画のキャラクターの1人で、両手のひらにある『口』に起爆粘土を食わせ、作った粘土造形品を操りそれを爆発させる能力を持っている。爆発は“C1”、“C2”、“C3”、“C4”と、数字が上がる程威力が上がっていき、最後に胸の辺りにある『口』に起爆粘土を食わせると、半径10kmの大爆発を起こす
“
更に、起爆粘土以外にもデイダラには他にも忍術が使えるのだ。だからこの特典は当たりだと思っていた。
……そう、
何故なら、オイラの転生したこの世界は、NARUTOの世界でも、剣や魔法のファンタジーな世界でもない。車が道路を走り、飛行機が空を飛び、夜は電気で明るい、オイラの前世によく似た世界だったんだ。しかも滅茶苦茶平和な日本の一般家庭だぜ?こんな能力いつ使うんだって話だ。
しかしせっかく貰った特典だし、使わずに一生を終えるのは勿体無い気がしたからこうやって町外れの山や森で忍術の修行(笑)をしているんだ。
「うん!うん!やっぱり芸術は爆発だ。どんどん行くぜ!…うん!」
オイラは先程の爆発の威力を見ながら新しい作品を作る為に今度は両手を腰のウエストポーチに突っ込んだ。
どうやらオイラはデイダラになった所為か、性格もデイダラ寄りになっており、戦闘狂ではないが、儚く散りゆく一瞬の美に芸術を感じるようになった。しかもこのウエストポーチは何故か起爆粘土が無くならない…いや、正確には減りはするが、使い切って少し時間が経つとまたポーチの中が起爆粘土でいっぱいになるのだ。だから補充する必要がない。
オイラは今度は蜘蛛型の粘土造形品を4つ作り、近くの岩まで移動させる。そして岩に飛び付いたのを確認して印を結ぶ。
「喝ッ!!」
ドゴォォンッ!!!!
蜘蛛型の起爆粘土が先程の小鳥型より大きな爆発を起こし、岩を粉々に粉砕した。その爆発の威力に心満たされる気持ちになっていると、オイラの携帯の着信音が鳴り響いて少しムッとした。
「あ〜あ…ったく。誰だよ今いいとこだってのによぉ…うん」
オイラは溜め息を吐きながら携帯を取り出して誰から掛かってきたかを確認し、名前を見て首を傾げた。
「あん?リカからだと?あいつ今日は仕事で床主空港に行ってる筈だろうが。なんかあったのか?」
電話して来たのはオイラの現在同棲している幼馴染の
《
「う〜む、取り敢えず出るか…うん。《ピッ!》リカか?いったいどうし『やっと出た!!デイダラ、貴方無事!?今どこにいるの!!?』〜〜〜ッ!!?」
耳痛ァッ!!あのバカそんな大声で電話するんじゃねぇよ!リカの奴オイラの鼓膜を破る気かよ。
「うるせぇぞリカ!!電話でデカい声出してんじゃねぇぞ!…うん!」
『それどころじゃないのよ!急いで藤見学園に行ってちょうだい、静香が危ないわ』
「おいおいおい!落ち着けよリカ。なんで静香の奴が危ねぇんだ?何をそんなに焦ってやがるんだ?」
静香ってのはリカとオイラと同い年の友達だ。フルネームは《
しかし、静香の奴が危ねぇってのはどういう意味だ?
『とにかく急いで静香を迎えに行って!それと貴方も気を付けてよ?町がまるでゾンビ映画みたいになっているから』
「はぁ?それは何かの冗談か?それ本気で言ってるのか?…うん?」
オイラは一瞬リカが言っている事を理解出来なかった。普通いきなり電話掛かって来て町が映画のワンシーンみたいになってるって言われても信じられないが、リカの焦り用から察するに本当だろうな。
『えぇ、信じられないでしょうけど本当なの』
「………分かった、今から行く。なんかあったら連絡してくれ。そっちも危なくなったら躊躇わずに
『分かったわ。気を付けてね』
オイラは通信が切れた携帯をポケットにしまいながら腰のポーチに手を突っ込み、起爆粘土を用意した。少しの間粘土を噛んでいた『口』から起爆粘土を吐き出させ、それを鷲の様な形にして地面に転がす。そして印を結んぶとその造形品がボフン!と煙を立て、人1人が乗れる程の大きさになった。オイラはそれに飛び乗り、起爆粘土を飛ばして藤見学園に向かった。
★
空を飛んでいるとすぐオイラ達が住んでいる町が見えて来た。しかしつい数時間前までいつも通りだった町ではなかった。あちこちで煙が上がっており、地上は何やら慌ただしい様子だった。オイラはポケットから原作でデイダラが左目に付けているスコープの様なものを取りだし、左目に付けて地上の様子を見た。
「マジかよ。こりゃ確かに映画の撮影って言われた方がまだ納得出来るな…うん」
地上はまさに映画ワンシーンと呼ぶに相応しい状況になっていた。そこ等中から悲鳴が上がり、道端や建物の壁には血痕があり、道路は所々交通事故で塞がっている。そして何より、そこら中を動く死体がヨロヨロと歩き回り、必死の形相で逃げ回っている人間を捕まえては喰らっているのだ。
こいつ等は映画の通り頭を潰したら活動を停止するのか?こういうのは大体音に反応するとか、噛まれただけでアウトとかが有名なんだが……試してみるか。
オイラは起爆粘土を用意して適当な動く死体に狙いを付けて落とした。用意した蜘蛛型の起爆粘土はポン!と煙を立てて動き出し、狙いを付けた動く死体の顔に自ら貼り付いた。それを確認したデイダラは印を結ぶ。
「まずはチャクラレベル“C1”で試すか。……喝ッ!!」
ドゴンッ!
起爆粘土に噛み付いていた動く死体は爆発によって頭を吹き飛ばされ、活動を停止した。どうやら頭を潰したら活動を停止するのは間違ってないみたいだな。それに爆発の音を聞いて周りの奴等が集まり始めてやがる。しかも互いにぶつかってもなおまっすぐ進もうとする辺り、視覚や痛覚は死んでるみたいだな。
「ハァ……それにしても、何がどうしてこうなった?特典がこんな形で役に立つとは思わなかったぜ…うん。まさかこのウエストポーチ、こうなる事分かってて改造したんじゃねぇだろうな?ま、取り敢えず早く藤見学園に行って静香の奴を迎えに行かねぇとな…うん」
オイラはこの世界に転生させたあの女神にいつか【C4・カルラ】を食らわせてやると思いながら静香のいる藤見学園に急いだ。実際に来るのは初めてだが、校庭は既に学生の動く死体でいっぱいだ。
「外でコレじゃ、中はもっとヤバいかもな…うん。取り敢えず屋上の奴等は少ないからそこに降り……あん?」
オイラが屋上の様子をスコープで確認すると、そこには3人の生きた人間がいた。金属バットを持った黒髪の少年と、知的な感じのイケメン君、そして棒を持った長髪の美少女だ。彼等は天文台に登ろうとしているのか、階段に向けて走り出した。階段を登る途中、最後尾の長髪の美少女が手にした棒を近付いてきた動く死体に突き刺していた。
「へぇ?槍術か…いや、銃剣術も混ざってるな。いい構えだな……ってヤベ!!」
刺した後に油断して目を離した為、棒を動く死体に掴まれて壁に叩きつけられやがった!オイラはすぐさま起爆粘土を急降下させて少女に近寄る死体を足で捕まえさせて動きを封じた。そのままオイラは起爆粘土から飛び降り、動く死体を捕まえた起爆粘土をそのまま上空に飛ばした。
「………え?」
「危ねぇから伏せてろ!上のお前等もだ!……喝ッ!!」
ドガァァァンッ!!
少年少女達は呆けた顔をしていたが、オイラの言うことを聞いて伏せた。それを確認してすぐに印を結び、もがく動く死体を捕まえて飛んでいる起爆粘土を盛大に爆発させた。