学園黙示録〜暁の芸術家になった転生者〜   作:☆桜椛★

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第17話だ…うん!

デイダラside…

 

 

「………腹が立つ程いい天気だなぁ…うん」

 

 

オイラは今、沙耶の屋敷の屋根の上で寝そべって空を眺めていた。結果的に言うと、この屋敷の主人である沙耶の父親…《高城 壮一郎(そういちろう)》の部下達に完全包囲されていたオイラ達は、現れた沙耶の母親である紫色の髪をした美女…《高城 百合子(ゆりこ)》さんの一声で高城家に迎え入れられた。

それから1日経ち、今では久々に穏やかな時間を過ごしていると感じている。この屋敷は高く分厚いレンガの塀に囲まれており、この屋敷に繋がる全ての道はワイヤーやコンクリートバリケードで完全封鎖されており、〈奴ら〉は侵入出来ない。更に銃や刀で武装した高城家の部下達によって守られている。食料だってありすちゃんがケーキを食べれるくらいには余裕があるし、足りなくなったら高城家の部下達がトラックなどで街へ向かって回収してくる。しかもそこで生存者がいたら救助して連れ帰る。敷地内には難民キャンプまで出来ている。

まだこんな事態になってから3日程度しか経っていないんだが、よくこんな短期間でこれだけの対策を考えて実行出来たものだな。

 

 

「だが、オイラの芸術を探求出来ねぇのは問題だな…うん」

 

 

この屋敷についてからすぐ、沙耶にここにいる間は芸術を探求する事を禁止すると言われてしまったのだ。まぁ自分の家の敷地内で爆発を起こされるのは嫌だと思う気持ちは少しだけ分かるが、芸術家ってのはより強い刺激を求めていねーと感情がにぶっちまうもんなんだがなぁ。

 

 

「はぁ…今日明日にでも高城に街へ行って芸術を探求して来ていいか聞いてみるか。屋敷の外なら多分問題ねーだろ…うん」

 

 

オイラは体を起こして屋敷の屋根の上から玄関に飛び降りた。普通なら足挫くどころか天に召される程の高さでも、オイラには殆ど関係ない。玄関から出てきた段ボールを持った2人組と入れ替わる様に屋敷の中に入ると、そこにはどことなく不満そうにしている孝がいた。

 

 

「あん?小室、どうかしたのか?」

 

「あ、デイダラさん。いや、なんて言うか……」

 

「子供扱いされて不満になってるだけだよ。暁月さん」

 

 

孝の代わりに答えが返ってきた方を見ると、青い着物を着た冴子が歩いて来た。〈奴ら〉との戦闘でずっと木刀を使っていた事もあり、着物を着た彼女はとても良く似合っていた。

 

 

「へぇ?似合ってるじゃねーか…うん。その姿で難民キャンプに行ってみろ。男共の視線はみんなお前に行くだろうよ」

 

「な!!?か、揶揄わないで欲しい。流石にお世辞でも言い過ぎだ」///

 

「お世辞じゃねーよ。これはオイラの本心だ…うん」

 

 

オイラの言葉に隣で孝がコクコクと頷いた。冴子は顔を真っ赤にしてオイラから視線を逸らした。

 

 

「そういや、さっきのはどういう意味だ?子供扱いされて不満ってのは?」

 

「え?…あ、あぁ。小室君が先程、荷物を運んでいた大人達を手伝おうとしたのだが、その人達に『これは大人の仕事だ』と断られてね」

 

「ほぉ〜?だから〈奴ら〉を倒しまくっている大人な小室君は、年齢で子供扱いされて不満そうにしてたって訳だ?」

 

「う〝!?えっと…あははは」

 

 

孝はそう言って笑って誤魔化した。どうやらオイラの言ったことは図星だったらしい。オイラと冴子もそれに釣られて苦笑していると、玄関のドアを開けてありすちゃんとジークが入って来た。

 

 

「え?何々?何かいい事でもあったの?」

 

「ん?別にそんなんじゃねーよ。ただ1人の男の子が子供扱いされて不満そうにしてたのが可笑しかっただけだ。なぁ?小室()?」

 

「あははははは……そうっスね」

 

フッ……(笑)

 

 

ニヤリと笑いながらありすちゃんの頭を撫でて孝に視線を送ると、孝は笑いながらスッと顔を逸らした。ありすちゃんはそんな孝を不思議そうに見つめていた。なんか今ジークが孝を鼻で笑った様な感じがしたが気の所為だよな?

 

 

『分かったわよ!!ママはいつだって、正しいわよ!!』

 

「む?今の声は……」

 

「高城のお嬢様だな…うん。随分と御乱心みたいだが」

 

 

突然上の階から沙耶の怒鳴り声が聞こえて来た。どうやら百合子さんと話をしていたみたいだな。

 

 

「僕、ちょっと様子を見てきます」

 

「あ、ならオイラはコータの所に行ってくる。ガレージで銃の手入れを任せてるからな…うん」

 

 

オイラは沙耶の事を孝に任せてコータが銃の手入れをしているガレージに向かった。この時頭の隅で「これなら最初からガレージに向かえば良かったんじゃね?」とか思ったりしたが気の所為という事にする。

 

 

 

 

 

 

「よぉ!コータ、調子はどうだ?」

 

「あ、暁月さん」

 

 

ガレージの中に入ると、作業台でどっかの悪の科学者みたいに不気味な笑みを浮かべて【イサカ M37】を整備しているコータがいた。ホントこいつって銃の事になったら人が変わるよな。

オイラはコータの隣に立って作業台に置かれた整備済みの【AR-10】を手に取って構える。スコープを覗いて空のまま引き金を引く。

 

 

「動作は良好だな…うん。いい腕してるな」

 

「ハハハ…暁月さんにそう言ってもらえて嬉しいです。………良し、コレも終わりました」

 

「どれ、貸してみろ。………コレも問題なさそうだな…うん」

 

 

コータが整備を終えた【イサカ M37】を構えて空撃ちしていると、背後から人の気配がした。誰か来たのかと振り返ってみると、首に赤いスカーフを巻いた中年のおっさんがガレージに入って来た。おっさんは銃を構えているコータを見つけると、オイラ達に近付いて来た。

 

 

「オイオイ、兄ちゃんそれ本物だろう?子供がいじっていいものじゃないぞ」

 

「あぁ、問題ねーよ…うん。ここに置いてある銃は全部オイラの私物だからな。ただ整備を手伝ってもらってただけだ。それに、こいつは銃の扱いに関しては一級品だ。こいつがいなかったら、ここのお嬢様は今頃〈奴ら〉の仲間入りしてたかも知れない程にな…うん」

 

「ほぉ〜〜?そうは見えんがなぁ?」

 

「人は見かけによらねーって言うだろ?…うん」

 

 

中年のおっさんはジーッと銃を抱えるコータを観察する。コータはこういった事に慣れていないのか、少し緊張した面持ちで観察されていた。するとまた新しく人の気配がした。そちらに目を向けると、赤いドレスに白いストールを纏った百合子さんが笑顔を浮かべて歩み寄って来た。

初めて会った時から思っていたが、この人動きに無駄が無いんだよな。何か武道でもやっていたのか?

 

 

「《マッド》さん。どうかしましたか?」

 

「お、奥様!?いえ…その、車両の整備に必要な工具を取りに来たらその子供が本物の銃を持っていたので…」

 

「そう……確か平野君と暁月さんだったわね?沙耶から話は聞いてますよ。マッドさん、ここは大丈夫なので、早く仕事に向かってあげて下さい」

 

 

中年のおっさん…マッドさんは少し歯切れの悪そうに報告した後、百合子さんに頭を下げると棚に置いてあった工具箱を取るとガレージから去って行った。百合子さんはマッドさんを見送ると、こちらに向き直った。

 

 

「ごめんなさいね?こんな怖い所で。一度お礼を言いたいと思っていたの。娘がお世話になったようね」

 

「い!?いえいえそんな!!気にしないで下さい!」

 

「まぁ、オイラも静香を迎えに行く次いでだったからな。礼を言われても少し困るんだが…」

 

「ふふふ♪でも助けて頂いた事には変わりありませんから」

 

 

百合子さんはクスリと笑いながら笑顔でそう言った。コータはその笑顔を見て顔を真っ赤にしながらなんか幸せそうな顔をしていた。

 

 

「あ、そうだコータ。ここにある銃は布とかに巻いて隠して持ち歩け」

 

「え?なんでですか?」

 

「さっきのマッドさんの反応見たろ?この屋敷ではお前や小室達はただの子供として扱われてんだ…うん。だからそんな子供が実銃を持っていると知られたら、必ず面倒事になるだろうが…うん」

 

 

オイラがそう説明するとコータは滅茶苦茶不満そうな顔になった。さっきの孝と一緒で子供扱いされていると知って不満なんだろう。だが実際こいつ等は日本の学生だ。そんな連中がリカの物とは言え、実銃を持っているとここの連中にバレたらすぐにそれを取り上げようとするだろう。

その事も追加で説明しようとすると、今度は孝がガレージにやって来た。

 

 

「あ!よかった、まだ居た。悪いけど、高城がみんなを集めてくれって言ってるんだ。来てくれ」

 

「高城さんが?なんだろ?」

 

「オイラに聞くなよ。んじゃ、百合子さん。オイラ達はこの辺で失礼するぜ…うん」

 

 

オイラ達は百合子さんに礼をしてからガレージを出て、沙耶が待っている部屋があるという屋敷の中へ向かった。

 

 

 

 

 

 

鞠川 静香side…

 

 

私は今、高城さんに話があるって言われたから、高城さんのお家の部屋の一室に来ているわ。今集まっているのは私と宮本さん、毒島さん、ありすちゃん、高城さんの5人と、ありすちゃんの足元でお座りしているジークちゃん。小室君もさっきまでいたんだけど、デイちゃんと平野君を呼びに行ったわ。

しばらくデイちゃん達が来るのを待っていると、部屋のドアが開いてデイちゃん達が入って来た。

 

 

「高城、暁月さん達呼んで来たぞ」

 

「おう、来たぞ。それで?話ってのはなんだ?…うん?」

 

 

デイちゃんは高城さんにそう言った。これからとても大事な話がある事はなんとなく分かるけど、私が聞いても分からないかもだし、後でデイちゃんに教えてもらいましょう。あ!このバナナ美味しいわね♪

 

 

「えぇ、私達がこれから先も…仲間でいるかどうかよ」

 

「ッ!!?ケホッ!!コホッ!!」

 

「し、静香先生…大丈夫ですか?はい水」

 

 

いきなり私にも分かりやすくてかなり大事なお話だったからむせちゃったわ。私は宮本さんから水を貰ってなんとか落ち着くと、話は続いた。

 

 

「いきなりだな…うん。確かに今オイラ達はよりでかい集団に合流した形になっているからな。となるとチームとしての選択肢は、呑み込まれて集団の一部になるか、別れるかだな…うん」

 

「えぇ…暁月の言う通りよ」

 

「で、でもよ…別れる必要あるのか?町は酷くなる一方だけど、お前の親父さんは手際がいい。お袋さんも凄いし…」

 

 

確かに、まだパンデミックが始まって3日ぐらいしか経っていないのに高城さんのお家はもう対策を打っているものね。

私がそう思っていると、高城さんの肩が少し震えているのに気付いた。

 

 

「えぇ、それが自慢だった。でも、それが出来るなら…」

 

「高城…ご両親を悪く言っちゃいけない。こんな状況だし…」

 

「名前で呼びなさいよ!分かってるわよ!パパとママは凄いわ!町が変なのを逸早く察知して行動して、屋敷と部下とその家族を守った!凄いわ!勿論娘の事は1番に考えてた!流石は私のパパとママ!生き残ってる筈ないから!即座に諦めたなん「止めろ沙耶!!!」ッ!!?」

 

 

高城さんが興奮して怒鳴り続けていたら、小室君が高城さんの胸倉を掴んで持ち上げた。先生として止めた方がいいんだろうけど、デイちゃんが私を見ながら首を横に振ったので、黙って小室君に任せることにした。

 

 

「お前だけじゃない!みんな同じなんだよ!!両親が無事だと分かってるだけお前はマシだ!マシなんだよ!!」

 

 

そうなのよね。私やデイちゃんは兎も角、平野君や小室君、宮本さんや毒島さんはまだ両親が無事か分かってない。無事だと分かっているだけ高城さんはまだいい方なのよね。

 

 

「ッ!!………分かったわ。分かったから離して」

 

「ッ!あぁ………悪かった」

 

「ホントよ…でもいいわ」

 

 

小室君はゆっくりと高城さんを下ろして一言謝った。高城さんは床に落ちた眼鏡をかけ直した。何もしなかった私が言うのもおかしいけど、少しハラハラしちゃったわ。

 

 

「さて、本題に入るわ。私達は……?」

 

 

高城さんが話を再開しようとしたとき、外から複数の車の音が聞こえて来た。

何かあったのかしら?


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