デイダラside…
話の途中に聞こえて来たエンジン音が気になってベランダに出て下を見ると、1台の黒いSUVを先頭に、小型トラックと給水車が1台ずつ屋敷の門を通って来た。下の噴水の周りには難民キャンプの人々が集まっており、高城家の部下達と百合子さんも外で走って来る車を待っている。しかも部下達は皆頭を下げて待機しているな。
「どうやら、この百合子さんの旦那様がお帰りの様だぜ?…うん」
「高城さんのお母さんの?て事は……高城さんのお父さん?」
「そう。旧床主藩高城家、現当主。全てを自分の掟で判断する男……私のパパ。高城 壮一郎よ」
沙耶の紹介が終わった直後、車は百合子さん達の前で停車し、SUVの後部座席から1本の日本刀を持った厳つい顔の男性が降りて来た。軍服の様な服を着ている事もあり、その姿はまるで軍人の様だった。
「(ほぉ?あれが高城の親父さんか。百合子さんと同様に動きに全く無駄が無く、更に隙が全くねぇ。もしかしたらチャクラの練り方教えたら1発で高度な術使えるかもな…うん)……?ゲッ!?」
「?どうかしたのか?暁月さん」
「あ?あぁ…なんでもねーよ…うん」
冴子が不思議そうな顔で聞いて来たがオイラは誤魔化した。というかあの人怖ッ!なんでこんだけ離れてんのにオイラの視線に気付くんだよ?しかも鋭い睨みに若干の殺気までピンポイントにオイラに当てて来やがったし。
オイラが少し苦笑い気味になっている間に、壮一郎は噴水の前に置かれた台に登った。すると小型トラックから檻に入った高城家の部下と同じ制服を着た〈奴ら〉になった男性がフォークリフトで降ろされ、壮一郎の前に運ばれて来た。
「この男の名は…《土井 哲太郎》。高城家に仕えてくれた旧家臣であり、私の親友でもある。そして今日…救出活動の最中、仲間を救おうとし、噛まれた!まさに自己犠牲の極。人として、最も高貴な行為である」
壮一郎は声高々に〈奴ら〉と成り果てた親友を紹介し、〈奴ら〉になった経緯を説明し始めた。周りで見ている避難民達は恐ろしい物を見る様な目で檻の中の元人間を見つめている。
「しかし、今の彼は人ではない。ただひたすらに危険なものへと成り果てた。だからこそ、私はここで…真なるものへ、高城の男としての義務を果たす!」
壮一郎は刀を鞘から抜き出して構えた。部下の1人がそれを見てコクリと頷き、檻の鍵を開けた。扉が開いた瞬間、中にいた〈奴ら〉は檻の前に立って刀を構えている壮一郎に襲い掛かった。壮一郎はそれに臆する事なく、振り上げた日の光を反射してギラリと輝く刀をぶれる事なく〈奴ら〉の首に振り下ろした。刀は〈奴ら〉の首を見事に切断し、胴体から切り離された首は宙を待って噴水の中に着水した。壮一郎は刀に付いた血を刀を振って取り除き、ゆっくりと鞘の中に収めた。
「これこそが、我々の
壮一郎の言葉を彼の部下達、難民キャンプの難民達は皆黙って聞いていた。難民達は半分程が目を逸らしたり閉じたりしていたが、彼の部下達と1部の人々は彼から目を離さずにいた。話を終えた壮一郎は、台から降りて百合子さんと屋敷の中に入る途中、チラリとオイラを見てから中に入って行った。
あちゃ〜……ありゃ、目を付けられたな。
「刀じゃ……効率が悪過ぎる……」
「あん?刀がなんだって?」
「効率が悪いんだよ!日本刀の刃は骨に当たれば欠けるし!3〜4人も斬ったら役立たずになる!」
「それは違うな…うん。確かに刀は鉄や骨なんかに当たれば欠ける。だが、刀の出来と使う者の技術によっては木の丸太や岩だって斬れるんだぜ?なぁ?」
「いや…そんな当然だろう?とばかりに私を見ないでくれ。だが確かに決め付けが過ぎるよ、平野君。剣の道において、強さは乗数で表わされるのだ。剣士の技量、刀の出来、そして精神の強固さ…この3つが高いレベルで掛け合わされたなら、何人斬ろうが戦闘力を失わない」
冴子はいきなり話を振られて少し困惑した様子だったが、コータに優しく説明した。孝達は成る程と言わんばかりにフムフムと頷いていたが、コータはまだ納得いかないようだった。
「でも!血脂が付いたら…」
「そんな物は拭き取ればいいだろうが…うん。いいか?確かに銃は刀より安全に離れた場所から戦えるが、弾が無限にある訳じゃねぇ。銃だって弾が切れたらただのお荷物か、鈍器になるだけだしな…うん」
「でも…ッ!!」
まだ言い返そうとするコータにオイラは少しイラッとしてポーチから取り出した苦無を突き付けた。オイラの行動を見て冴子や孝達は目を見開いて驚いた。
「ッ!?デイダラさん!何を…!?」
「お前等は黙ってろ。おい
ここまで言うと平野はハッとした顔をした。どうやらやっとオイラが言った事を理解出来たようだ。オイラが苦無を下ろしてポーチに仕舞うと、平野は申し訳なさそうに顔を俯かせた。
「暁月さん……すみませんでした」
「分かりゃいいんだよ。分かりゃ。こっちもいきなり苦無突き付けて悪かったな…うん」
コータはどことなくションボリした様子で部屋を出て行った。まぁ、あいつだったらすぐにいつもの調子に戻るだろ。
「はぁ…平野の調子が戻るまで話は後にしましょう」
「そうだな。平野君も私達のチームのメンバーだ。後でまたこの部屋で話し合おう」
沙耶達の案にオイラ達は賛成し、また呼び出しが掛かるまでオイラは再び屋敷の屋根の上に飛び乗り、寝転んだ。日が傾き始めた空は段々オレンジっぽい色に染まり始めており、雲が風に流されていた。
しばらく新しいアートのアイデアを考えていると、庭の方から何人かの怒鳴り声が聞こえて来た。
「い、嫌だ!」
「ふざけんじゃねぇ!!」
「さっさと渡せ!!」
(あん?今の声……コータか?)
聞こえて来た声の中にコータの声が混ざっていた為、オイラは体を起こした声のする庭の方を見下ろした。そこにはリカの銃を守るように抱えたコータと、それを囲むように立っている壮一郎の部下達がいた。
「なぁ君、こういうご時世だ。それだけの武器を独り占めしてはいけない。渡したまえ」
「ダメです!コレは借り物なんだから…それに!ここで俺以上に上手く扱えるのは、暁月さんしかいません!」
「チッ……おい、取り上げろ。こうなったら、子供の我が儘なんかに構っていられるか」
コータの奴…銃を出しっ放しで持ち歩きやがったな?話の内容からしてリカの銃を壮一郎の部下達が渡せとコータに要求してるが、コータがそれを拒否してるって所か。流石にリカの銃を奪われるのは黙ってられねぇな。
オイラは起爆粘土を用意し、それを7匹のムカデ型にして投擲し、印を結んだ。ムカデ型起爆粘土はボン!と煙に包まれて巨大化し、コータから銃を取り上げようとしている壮一郎の部下達を拘束した。
「グァ!な、なんだ!?」
「なんだこの変なのは!?離せ!この…!」
「これは…暁月さんの」
壮一郎の部下達はなんとか拘束を逃れようと腕に力を込めるが、そんなんじゃオイラの芸術は外せない。オイラは屋根の上から直接コータの前に飛び降り、いつでも爆破出来るように印を結んだ。
「変なのはねーだろ。そいつはオイラのアートだぜ?…うん。おうコータ、だから銃は布とかに包んで隠して持ち歩けって言ったろうが…うん」
「あ、あああ暁月さん!?す、すみませんでした!」
「次同じ様な事したらその銃返してもらうからな?さてと、こいつの持ってる銃はオイラの私物だ。勝手に取り上げられると困るんだが?…うん?」
「な、なんだテメェ!この変なのはテメェの仕業か!今すぐ離せ!」
「コータちゃん!」
「平野!」
拘束されている連中がオイラを睨みながら怒鳴っていると、ありすちゃんとジークが駆け寄って来てコータの下へ行き、少し離れた所に立っていた孝がコータの名を叫んだ。どうやら騒ぎを聞きつけたらしい。すると新しい気配を感じ、そちらの方を見ると、壮一郎と百合子さんが歩いて来た。
「何を騒いでいる?」
「そ、総帥!奥様!こ、この子供が、銃をオモチャと勘違いしている様で…」
「おい!さっき言ったろうが!この銃はオイラの私物で、こいつに貸してんだよ!…うん!」
「ふむ…私は高城 壮一郎!旧床主藩藩主、右翼団体憂国一心会会長である。2人共、名を聞こう!」
「ひ、ひひ平野コータ。藤見学園、2年B組!主席番号32番ですぅ!」
「…暁月 デイダラ。こいつが抱えている銃の持ち主だ」
壮一郎…いや、高城総帥の方がいいか。高城総帥にオイラ達は名を聞かれ、コータは高城総帥の気迫にビビりながらも自己紹介をし、オイラも面倒だったが名乗った。
「2人共、どうあっても銃を渡さぬつもりか?」
「あぁ、渡す気はねーよ…うん」
「だ、ダメです!嫌です……銃が無かったら俺はまた元通りになる…元通りにされてしまう!自分に出来る事が…ようやく見つかったと思ったのにぃ!!」
コータは泣きながらも首を横に振った。勿論オイラもリカの銃を渡すつもりは無い。もし高城総帥がオイラの話も無視して奪おうとすればこの屋敷を“C3”で木っ端微塵にしようとも考えている。
「出来る事とはなんだ?言ってみろ」
「そ、それは…それは……」
「貴方のお嬢さんを守る事です!」
孝がコータを庇う様にオイラの隣に立ち、高城総帥にコータの代わりに答えた。
「小室…!!」
「小室?成る程。君の名前には覚えがある。幼い頃より娘と親しくしてくれているな」
「はい。ですが、この地獄が始まって以来、沙y…お嬢さんを守り続けていたのは、平野です!」
高城総帥は孝を鋭い目付きで観察し、コータは自分の前に立つ孝を涙目で見上げる。
「彼の勇気は、私も目にしています。高城総帥」
「私もよ!パパ!」
すると着物を着た冴子と沙耶、更には静香と麗までやって来た。というかこれでオイラ達のチーム全員集合しちまったぞ。
「チンチクリンのどうしようもない軍オタだけど、こいつが居なかったら…私は今頃、動く死体の仲間よ。そうよ、こいつが私を守ってくれたのよ!パパじゃなくてね!」
「た、高城さん……」
コータは沙耶を涙を流しながら見上げていた。高城総帥と百合子さんはしばらく沙耶を黙って見ていると、フッと小さく笑った。
「いいだろう。その銃は君達が使うがいい。部下達にもそう伝える。だから彼等の拘束を解いてはくれぬか?」
「了解だ…うん」
オイラが印を結ぶとムカデ型起爆粘土はボン!と煙を上げて消えた。高城総帥と百合子さんは面白いものを見たとばかりに顔に小さな笑みを浮かべた。
「ほう?消えたか。暁月君だったな?君はいったい、何者だ?」
「あん?オイラか?オイラはただの爆発に芸術を感じるアーティストだ…うん」
「ふむ、芸術家の割には随分と鍛えられている。興味深いな。…ふむ、暁月君。私と1つ…手合わせをしてもらいたい」
「「「「「………は?」」」」」