学園黙示録〜暁の芸術家になった転生者〜   作:☆桜椛★

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第4話だ…うん!

デイダラside…

 

 

ピンク髪の少女が泣き止んだ後、オイラ達は一旦職員室に避難し、扉の前にバリケードを作った。ピンク髪の少女は給湯室の水道で今顔を洗い、眼鏡を掛けて戻って来た。どうやらコンタクトレンズがズレるので眼鏡に変えたらしい。

 

 

「さて、先ずは自己紹介をしよう。鞠川校医は皆も知っているな?私は毒島 冴子。3年A組だ。剣道部の主将をしている」

 

 

木刀美少女…もとい冴子は、木刀を皆に見えるように少し持ち上げながらそう自己紹介をした。彼女の名前を聞いて麗が口を開いた。

 

 

「去年、全国大会で優勝された毒島先輩ですよね?私、槍術部の宮本 麗です」

 

 

へぇ?全国大会で優勝か…それは凄いな。さっきから視線をチラチラ感じていたからバレない程度に観察していたが、剣道部主将なだけあって動きに殆ど無駄がない。

 

 

「小室 孝。2年B組」

 

「あ、えと……B組の平野 コータです」

 

 

さっき釘打ち機を銃の様にして構えていた眼鏡の少年はコータって名前なのか。

オイラは彼の持つ釘打ち機を観察した。ガス式の釘打ち機に木製の巨大直角定規をテープで固定して銃床(ストック)代りにして、短くした鉛筆と2つに切った消しゴムで照準器(サイト)代りにしている。しかも先に倒されていた〈奴ら〉を見たが、全て眉間に命中させている。あんな武器でよく当てるものだと感心しながら興味本位でコータに聞いてみた。

 

 

「平野って言ったな?お前、以前どっかで実銃撃った経験があるだろ?しかも1日2日じゃなくて1、2ヶ月ぐらいは誰かに教えてもらっていたな?」

 

「え!?た、確かに…アメリカに行った時、民間軍事会社ブラック・ウォーターに勤めていたインストラクターに、1ヶ月教えてもらいました。しかも元デルタ・フォースの曹長にですよ!?…あっ…す、済みません。でも、どうして分かったんですか?」

 

 

なんか凄い事聞いた様な気がするな。民間軍事会社の奴に教えてもらってたのかこいつ。通りで命中精度が高い訳だな。

 

 

「さっき倒れていた〈奴ら〉の眉間に釘が刺さってた。お前があの場からあまり動いてないとしたら、色々くっ付けたとは言え、ガス式の釘打ち機で眉間を狙い撃った事になる…うん。それにお前の構え方はなかなか良かったし、ただの学生が出来る芸当じゃねぇからな…うん」

 

 

オイラの説明にコータは驚いたような顔をしてオイラを見ていた。孝や冴子も目を見開いているが、静香は「流石デイちゃんね♪」と笑っている。

だから…デイちゃんは止めろって!

 

 

「私は高城 沙耶よ。それで?さっきから気になってたけど、貴方何者?警察でも自衛隊でもなさそうだし、変な爆弾みたいなの使ってたし」

 

「おい!オイラの作品を『変な』とはなんだ!?アレはオイラが起爆粘土で作った作品だ!『変な爆弾』なんかじゃねぇ!…うん!」

 

「…作品?」

 

 

ピンク髪の少女…沙耶はオイラの作品と言う単語に首を傾げている。静香以外の奴も同様にだ。

 

 

「そうだ!オイラの使ったあの粘土造形品、洗練されたラインに二次元的なデフォルメを追求した造形、まさにアートだ!だが、オイラのアートはアレだけじゃない。オイラのアートは流動的だ。形ある時はただの造形物に過ぎない…うん。オイラの作品は爆発(・・)する。その爆発により、その存在を昇華させて、初めて本来の作品となる!芸術は…爆発なのだァ!!…うん」

 

 

おっと!つい熱く語っちまったぜ。みんなオイラの語りに目を見開いている。沙耶って少女もだ。しかし、これでオイラの作品が素晴らしい芸術的な作品だと分かっただr…

 

 

「済まない。私はそれのどこが芸術か上手く理解出来ない。何せそういう物に疎いのでな」

 

「う〜〜ん、私もちょっと分からないかな。高城さんは?」

 

「私も理解出来ないわ。ていうか、生き物みたいに動いて爆発する粘土なんてどういう原理よ?」

 

「済みません。僕も全く分からないです…」

 

「それって軍用プラスチック爆薬のC4みたいな物ですか?」

 

「全然分かってねーじゃねぇか畜生!!」

 

 

まぁ半分分かってはいたが、こうも理解してもらえないのは辛いな。最初はリカや静香も全く理解出来てなかったからなぁ。

 

 

「ハァ……例えば、夏祭りの夜に空に打ち上げられる花火。学校とかにある桜の花が散って舞い落ちる光景。それを『綺麗だ』とか、『芸術だ』とか思ったりしねぇか?…うん?」

 

「あぁ、納得した」

 

「それなら私にも分かる。成る程、つまり貴方はそれを自身の粘土造形品を爆発させる事で表しているのだな?」

 

 

冴子の奴はすぐに分かってくれた。やっぱりこういう分かりやすい例えを挙げないとオイラの芸術は伝らねーのかなぁ?

……って、今自己紹介の途中だったな。オイラの芸術を語っててすっかり忘れてたぜ。

 

 

「そういやまだ名乗ってなかったな。オイラは暁月 デイダラ。デイダラでいい。オイラは知り合いに頼まれてそこにいる静香を迎えに来たんだ…うん」

 

 

オイラは静香を指差しながら自己紹介した。しかし沙耶はなんだか求めていた答えと違うと言いたげな顔をしていた。どうせオイラの職業とかが聞きたかったんだろうが、残念ながらオイラは今無職だ。…いや、少し違うな。正確には静香の世話係的な事をリカに頼まれている。報酬付きで。

あいつ、よく今まで生活してきたなと今更ながら感心するぜ。

 

 

「あ、そうだ。鞠川先生、車のキーは?」

 

「あぁ、バッグの中に……」

 

 

孝に聞かれて静香は自分の机の上にあるバッグの中をゴソゴソと探った。

ん?でも確か静香の車って……?

 

「全員を乗せられる車なのか?」

 

「2人乗りの軽自動車だな…うん」

 

「うっ!そうだった……」

 

 

静香の奴、確か冴子と2人で行動してだからな。途中で生き残りと合流して逃げる可能性を忘れてやがったな?

 

 

「部活遠征用のマイクロバスはどうだ?壁の鍵掛けにキーがある」

 

「えっと……バス、あります」

 

 

冴子の提案を聞いて窓に近い場所にいたコータが窓の外を覗き、駐車場にマイクロバスがあるのを確認した。

成る程バスか…確かにそれならこの場にいる全員が乗れる。

 

 

「それはいいけど…どこへ?」

 

「家族の無事を確かめます。近い順にみんなの家を回るとして、必要なら家族を助けて…その後は、安全な場所を探して…」

 

 

コピー機にもたれ掛かる様に座り込んでいる孝に静香は行き先を聞き、孝は家族の安否を確認する事を提案した。

オイラは机の上に座って孝の話を聞いていると、ふと職員室のテレビを見上げながら固まっている麗を見つけた。

 

 

「ん?宮本、どうかしたのか?…うん?」

 

 

オイラの問いに麗は何も答えず、周りのみんなも麗の様子がおかしいのに気付いて麗に視線を向ける。全員に見られながらも、麗はテレビから目を離さなかった。

 

 

「なんなの?……これ」

 

「あん?…ッ!?毒島、そこのリモコンで音量を上げろ!」

 

 

オイラが麗に釣られてテレビに視線を向けると、すぐさまリモコンの置いてある机の近くにいた冴子に音量を上げるように言う。冴子はリモコンを手に取って音量を上げた。

 

 

 

 

 

 

小室 孝side…

 

僕達は様子のおかしい麗に釣られて、音量を上げられたテレビに視線を向けた。テレビではあるニュースが流れていた。

 

 

『…()ん国各地で頻発する暴動事件に対し、政府は緊急対策の検討に入りました。しかし、自衛隊の治安維持活動については…』

 

「暴動ってなんだよ!?暴動って!?…」

 

 

僕はテレビについ聞き返してしまった。

〈奴ら〉が現れ、生きた人間が〈奴ら〉に喰われ、死んだ後は〈奴ら〉となって蘇り、生きた人間を喰らう為に彷徨う……これだけの事が起きてるのに、暴動事件で済む訳が無いだろ!!

すると毒島先輩がチャンネルを切り替えて他の番組を確認した。チャンネルを変えた先でも似た様なニュースをやっていたが、こっちは生中継だった。

夕日に照らされるなか、女性キャスターの背後では警察官と救急隊員が走り回り、〈奴ら〉に襲われたであろう怪我人達が救急車に運ばれていた。

 

 

『ていません。既に埼玉県内の被害は1万名を超えたという見方もあります。知事により、非常事態宣げ

《パンッ!》ッ!!は、発砲です!遂に警察が発砲を開始しました!いったい何に対して……ッ!?』

 

 

突然発砲音がして、そちらの方向にカメラが向けられた。そこでは複数の警察官が腰から拳銃を抜いて救急車の前に置かれた担架から起き上がろうとする〈奴ら〉に更に2回発砲した。

 

 

『きゃぁぁぁ!!嫌!来ないで!あぁ助けて!!ああぁ!あ〝あ〝ぁぁぁぁぁぁあ!!…』ザァ、ザァーー!!

 

 

女性キャスターの悲鳴を最後にテレビ画面は砂嵐になった。僕達はただ黙ってテレビの画面を見つめていた。

 

 

『…ぁ、何か、問題が起きたようです。こ、ここからは、スタジオよりお送りします。えー、どうやら、屋外は大変危険な状態になっているようです。可能な限り、自宅から出ないよう注意して下さい。通信が復旧し次第、再び…』

 

ガンッ!「それだけかよ!?どうしてそれだけなんだよ!?」

 

 

僕は机を殴りながら声を荒げた。さっきの映像は生中継だった、だから女性キャスターやスタッフ達が〈奴ら〉に襲われているのも写ってたんだぞ!?それなのに自宅から出ないように注意するだけだなんて……。

僕がそう思っていると、あの人…デイダラさんが僕の問いに答えてくれた。

 

 

「パニックを抑える為だな…うん」

 

「パニック?……今更?」

 

 

麗がそう聞き返すと、今度は高城が眼鏡をクイッ上げながら麗の疑問に答えた。

 

 

「今だからこそよ。恐怖は混乱を生み出し、混乱は秩序の崩壊を招くわ。そして…秩序が崩壊したら…どうやって動く死体に立ち向かうと言うの?」

 

 

高城が鋭い目をしながら説明をしている間に、毒島先輩が他のチャンネルを確認していた。

それによって分かった事は、〈奴ら〉が現れているのは日本だけじゃないって事だ。世界各国が日本と同じ状況になっているらしい。しかもまた砂嵐状態になり、それっきりテレビは砂嵐の画面を流し続けた。

 

 

「そんな……朝ネットを覗いた時は、いつも通りだったのに…」

 

「だが、今はこの町どころか、日本全体、更には世界中に〈奴ら〉が出現し、人間を喰らっている。信じたくねぇ事実だな…うん」

 

 

砂嵐を映すテレビの画面を見上げながら平野が呟き、デイダラさんも深刻そうな表情をしている。

 

 

「この分だと、安全な場所があるかどうかすら分からねぇな…うん」

 

「そんな!でも、きっといつかは…またいつも通りに…」

 

「なる訳ないでしょ?パンデミックなのよ?」

 

 

麗の言葉を高城はキッパリと言った。しかし、パンデミックって、なんだ?

僕が首を傾げていると、それに気付いたデイダラさんが簡単に説明してくれた。

 

 

「集団爆発…世界中で同じ病気が大流行してるって事だ…うん。まぁ分かりやすく言えばインフルエンザとかだな。だが今回の場合はヨーロッパの3分の1が死んだ14世紀の黒死病に近いな。あの時は感染する人間がみんな死んじまって感染は止まったが……」

 

「そう、今回は感染した動く死体が生者を求めて自分で動いてる。感染する人間がいなくなったら……別の場所に移動して、また感染が始まる可能性があるわ」


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