デイダラside…
「なんで声を出したのよ!?黙っていれば、手近な奴だけ倒して、やり過ごせたかも知れないのに!!」
「アレだけ響いたら、学校中の〈奴ら〉に聞かれてるだろうよ!…ッ!伏せろ!」
オイラは声を出した事に怒る沙耶にそう指示し、慌てて彼女が伏せた瞬間、背後から迫っていた〈奴ら〉の腹に蹴りを入れた。そいつは更に後ろにいた〈奴ら〉も巻き込みながら吹き飛び、壁に激突した。冴子と孝も木刀と金属バットで〈奴ら〉の頭を潰し、麗も手にした槍で〈奴ら〉の足を払い、地面に倒している。オイラはすぐさま起爆粘土を用意しながら釘打ち機を構えるコータに撃たないよう命じる。
「平野!ここはオイラがやる!数が多過ぎるだろ!?…うん!」
「わ、分かりました!お願いします!」
「任せな……うん!」
オイラは用意した起爆粘土を4匹の小鳥型に変えて投擲し、駐車場に続く道を塞いでいる〈奴ら〉の方へ飛ばした。そして4匹がそれぞれ爆破予定地点に到達するのを確認してから印を結んだ。
「吹き飛べッ!!……喝ッ!!」
ドドドドゴォォォォォンッ!!
起爆粘土は盛大に爆発して〈奴ら〉を吹き飛ばした。道が開いたのを確認して、金属バットで〈奴ら〉を殴り飛ばした孝が先陣を切って走り出し、他のみんなもそれに続く。
「話すより…走れ!走るんだ!!」
オイラも起爆粘土を用意しながら走り出した。手の『口』に目を向ければまだクチャクチャと起爆粘土を噛んでいる。少し多めに食わせたからな。
先頭を行く孝と冴子が道を塞ぐ〈奴ら〉を走りながら撃破し、その後に続いてコータと麗が前の2人が仕留め損なった〈奴ら〉を撃破して行く。オイラも近づいて来る〈奴ら〉を蹴りで撃退していった。ようやくマイクロバスが見えて来た時、あの首にタオルを掛けた少年が〈奴ら〉に捕まり、噛まれてしまった。
「グァッ!!あ〝あ〝ぁ〝……な、なおみ!逃げろ〝ぉ!!」
「たくと!!」
「諦めて!噛まれたら逃げても無駄!!」
彼の恋人らしき青っぽい髪をした少女が戻ろうとするのを沙耶が腕を掴み、諦めるよう言った。しかし彼女は涙を流しながら首を横に振り、掴まれた腕を振り解いて彼の下へ走って行った。
それを沙耶が有り得ないと言いたげな顔で見送る。
「待っ……なんでよ!?ちゃんと教えてあげたのに…どうして戻るのよ!?」
「だったらお前は、世界中こんな風になっている時に、目の前で大切な家族や友人が噛まれてもすぐに捨てて逃げようと思うか!?…うん!?」
「……ッ!!」
オイラの質問に沙耶は答える事が出来ずにいる。彼女も戻る理由を理解したのだろう。すると沙耶の背後に再び〈奴ら〉が迫り、それに気付いた静香がそいつに手を
「高城さん伏せて!!【水遁・水鉄砲】ッ!!」
パァンッ!!
静香の指先に水滴が集まり、その水滴がまるで弾丸の様な速度で飛んで沙耶の背後で噛み付こうと口を開ける〈奴ら〉の頭を貫通した。
【水遁・水鉄砲】の術。手をピストルの形にして指先から水滴を発射する術だ。水鉄砲なんて子供っぽい名前だが、上達すれば鉄板だって貫けるだろう。
原作では
秘伝忍術ってなんだっけ?…まぁいいや。
「良くやったぞ静香…うん!……静香?」
オイラが静香の方を見ると静香は【水鉄砲】を撃ったピストルの形にした手を見て固まっていた。いや、良く見ると少し震えている。オイラは黙って静香に近付き、肩に手を置いた。静香はビクッと肩を震わせてオイラを見た。
「いいか?〈奴ら〉はもう人間じゃねぇ。だから遠慮するな。お前が動かなかったら今ので高城が死んでたぜ?…うん」
「ッ!?………ふぅ。落ち着いたわ。ありがとうデイちゃん」
「だからデイちゃんは止めろ……って言ってる場合じゃねぇ!静香!お前はバスを運転しろ!…うん!」
「わ、分かったわ!」
静香はすぐに走り出してマイクロバスの扉を開けて中に乗り込み、オイラは手の『口』を見る。『口』は先程まで噛んでいた起爆粘土を吐き出した。
いっちょ、派手にやるか……。
★
鞠川 静香side…
私は鞠川 静香。藤見学園で保健室の先生をやっていたわ。でも今日現れたデイちゃん達が〈奴ら〉って呼んでいる人達の所為で平和だった学校が悲鳴に包まれた。
私は保健室にいたから騒ぎに巻き込まれずに済んで、保健室にやって来た男子生徒2人と一緒に居たんだけど、すぐに危なくなって鞄に持ち出せるだけ薬を入れて逃げる事にしたわ。でも片方の生徒が〈奴ら〉になっちゃうし、もう1人も保健室の窓を破って入って来た〈奴ら〉に噛まれちゃったわ。
どうやら噛まれたらすぐに死んじゃうし、死んだら蘇っちゃうみたいなの。まるで変な人達が大好きな映画みたい。
勿論私にも〈奴ら〉が襲って来た。だからリカの紹介で知り合ったデイちゃんに教えてもらった忍術を使おうと思ったけど、毒島さんがみんな倒してくれた。
それから毒島さんと一緒に車の鍵を取りに職員室に向かった。そしたらデイちゃんがいたからびっくりしたわ。で、その後私達はチームを組んで、途中で助けた生徒達とマイクロバスで逃げようとしたの。
でも途中で〈奴ら〉に見つかって、私達はマイクロバスまで走らないといけなくなっちゃったわ。
その時、私は初めて〈奴ら〉に向けて忍術を使った。
「ッ!!!」
私は頭を私の術で撃ち抜かれて倒れる〈奴ら〉を見て色々な感情が芽生えて動けなくなった。どれくらいそうしていたかは分からないけど…デイちゃん肩に手を置かれた事でハッと我に返った。
「いいか?〈奴ら〉はもう人間じゃねぇ。だから遠慮するな。お前が動かなかったら今ので高城が死んでたぜ?…うん」
そうよ。私が今撃たなかったら高城さんが死んでいた。それに……もう〈奴ら〉は人間じゃない。……人間じゃないの!!
そう思ったら段々落ち着いていった。だから私はデイちゃんに頼まれてバスの中に入って運転席に座った。……んだけど。
「……えぇ!?私の車と全然違う!え〜っと、先ずはエンジンを掛けて…」
「……あの、鞠川先生」
私が自分の車とバスとの違いに少し混乱していると、運転席の後ろの席で伏せている高城さんが話し掛けてきた。
「ふぇ?どうしたの?高城さん?」
「あの…さ、さっきはありがとうございました」
「……うん、気にしないで♪」
あの高城さんが私にお礼を言ってくれた。私はそれがとても嬉しかった。
私はそう言ってバスのエンジンを掛けた。
★
デイダラside…
「お!ようやくエンジンが掛かったみてぇだな…うん!」
「ハァ!!……暁月さん!小室君!全員乗った!」
「よし!お前等先に乗れ!……喝ッ!!」
ドゴォォンッ!!
オイラ達は今、バスに集まって来る〈奴ら〉を撃退し続けていた。最後の1人がバスに乗り込み、残りはオイラと冴子、そして孝だけになった。オイラは孝と冴子を先に乗せ、オイラも起爆粘土の残量を確認しながら後退した。
(起爆粘土は……足りるか微妙だな…。そろそろオイラもバスに乗るとするか…うん)
オイラがバスに乗り込み、スライドドアを閉めようとしたちょうどその時、「助けてくれ!!」と言う声が聞こえた。オイラが声のした方を見ると、何人かの少年少女と眼鏡を掛けた教師らしき男性がこちらに向かって走って来ていた。
「まだ生き残りがいやがったのか…うん」
「誰だ?あの先生」
「3年E組の
「ッ!!……紫藤ッ」
冴子の言った教師の名前を聞いてオイラの近くにいた麗の様子がおかしくなった。どうやら麗もあいつの事を知っているみたいだが、殺気立っているところを見ると、仲が良い訳ではないみてぇだな。
「もう行けるわよ!」
「もう少し待って下さい!」
いつでも出せる準備が整った静香に孝は待ったを掛けた。どうやらあの紫藤とかいう教師達も助けるつもりらしい。
「前にも来てる!集まり過ぎると動かせなくなる!」
「踏み潰せばいいじゃないですか!!」
「戦車じゃねーんだ!この車じゃ何体も轢いたら横倒しになっちまうぞ!…うん!」
孝は苦虫を噛み潰したような顔をして、金属バットを片手にバスから飛び出そうとした。しかしそれを麗が止める。
「あんな奴助けることない!」
「麗!?なんだってんだよ!?いったい!?」
「助けなくていい!あんな奴死んじゃえばいいのよ!!」
そうとう嫌ってるみてぇだな、あの紫藤って教師を。麗がこんな風になるとは……あいつ何したんだ?
オイラはそう思いながら紫藤という教師を観察した。今そいつは避難誘導もしており、、生徒を励ます言葉も投げかけている。すると最後尾を走っている教科書を抱えたガリガリ眼鏡の少年が転んだ。
「アァ〜〜〜〜ン!!!足首を、挫きましたぁ!!」
なんだ今の声、なんか無駄に響いたな。
オイラは紫藤の足を掴んだ生徒の声に少し変な感じをしながら観察を続けた。そして次の瞬間、紫藤が少年の顔面に笑顔でヤクザキックをかました。
(なッ!!?あいつ……)
オイラは背後で〈奴ら〉に食い殺されている生徒を気にも止めずにネクタイを締めて歩いてくる紫藤って教師の警戒レベルを最大まで引き上げた。
成る程、麗があんな事を言う訳だ……。
オイラは席に着きながら悠々とバスに乗り込んでくる紫藤を睨んでいた。
「静香先生!!」
「ッ!行きます!!!」
バスの扉を閉めた孝の声を聞いて静香がバスのアクセルを踏んだ。バスは急発進して、〈奴ら〉の間を走り抜けて行く。
「校門へ!!」
「分かってる!」
静香は慣れないバスをなんとか操縦し、校門を目指した。途中何体か〈奴ら〉を轢いたが、静香はいつもの天然っぽさを消し、真剣な表情で運転を続ける。
「ッ!!静香先生!」
孝が校門の方を見ながら叫んだ。まだ少し離れた場所にある校門の前には多数の〈奴ら〉が道を塞いでいた。このままではあの集団に突っ込むと、横転してしまう可能性が高い。
オイラはその集団を見て大きく舌打ちをした。
「チッ!静香!このまま校門に向けてまっすぐ走れ!…うん!!」
「ッ!!……分かった!」
オイラはすぐに起爆粘土を用意して鳥型にし、バスの窓から解き放った。鳥型起爆粘土は校門の前に集まっている〈奴ら〉の方へ飛んで行き、爆破予定地点に急降下した。起爆粘土が〈奴ら〉に当たる直前にオイラは印を結んだ。
「喝ッ!!」
ドドドドドゴオォォォォンッ!!!!
オイラの作品は今日1番の大爆発を起こして〈奴ら〉を吹き飛ばした。爆破の衝撃で校門も破壊され、バスは荒れた地面の所為で少し揺れたが無事に学校を脱出する事が出来た。
「ふぅ…今日1番の芸術だったな…うん。(しかし、さっきので起爆粘土があと蜘蛛型3発分しか残ってねぇな)」
オイラは溜め息を吐きながらポーチの中を確認した。すると後ろの方の席から紫藤が歩いて来て、木刀に着いた血を拭き取っている冴子に話し掛けた。
「助かりましたぁ。リーダーは毒島さんですか?」
「そんな者はいない。生きる為に協力し合っただけだ」
「…それはいけませんねぇ。生き残る為には、リーダーが絶対に必要です。全てを担うリーダーが」
紫藤はまるで獲物を見つけた蛇の様な目でそんな事を言った。今は仕方ないが、機会を見つけてあいつから離れる必要があるな。
オイラがそう思っていると、麗が紫藤を睨みながら孝に警告した。
「後悔するわよ。…絶対に助けた事を後悔するわよ」
「オイラもそう思うぜ…うん」
麗は意外そうな顔をしてオイラを見た。そんなに意外だったか?
「あッ!ま、町が!!」
1人の生徒が窓の外を見て叫んだ。そこにはあちこちから煙が立ち昇る町の姿があった。