幕間「サッカーしようよ!お姉様ゴールね!」
いつも通りの紅魔館、従者たちがあくせく働いているその館で私ことフランドール・スカーレットは暇を持て余していた。愛しい弟であるアルクはあの胡散臭いスキマ妖怪の家に居るので気軽に会えない、ならば必然的に姉と遊ぶぐらいしかやることがないのだが今日はそれすらも億劫だった。
そもそも何故こんなに愛しているのにアルクに会えないのだろうか。
一瞬そんな疑問が浮かび上がるが、会えない理由は最初から自分が良く分かっているので渋々我慢することにする。
本当は今すぐにでもスキマ妖怪をボコボコにして鼻にワサビでも入れて苦しめたあと、アルクを連れ去りたい気分だけど。部屋をゴロゴロ転がりながらそんな過激なことを考える。同じ気持ちであろう姉はアルクに手紙を書いているようだ。私も書いていたがさっき書き終わってしまった。そのため猛烈に暇なのだ。
「お姉様、暇」
「なら手紙を書き終わった後このボードゲームで遊びましょう。これはちょっと変わってて…」
「よいしょぉ!!」
「何してるのフラン!?」
私はボードゲームをひっくり返した。駒らしきものがバラバラ崩れていくのが目に入る。そんな光景を見ても私の心は満たされない。破壊することこそマイライフだったというのに傍にアルクが居ないだけでここまで空虚な行為となってしまう。世の理不尽さを呪いながら膝をつく私。そしてありったけの怒りを込めて叫んだ。
「アルクに会いたいよぉ!」
「このボードゲームには何の罪もないでしょうが!」
お姉様がバシィッ!と私の頭を叩く、痛い。これがドメスティック・バイオレンスというやつか、とうとう私の姉が世間の荒波の影響で鬼になってしまったことを嘆きながら私は殴られた所をさすった。対応次第ではあと二発ぐらいは追加されそうな気がする。
「ていうか暇なら図書館にでも行きなさい、パチュリー辺りが相手してくれるでしょう?」
「だってぇ…前のことがあったときから会いにくいし…」
パチュリーは正しく私達を救ってくれたのは感謝しているが少し負い目がある。レミリア姉様はとうに元の関係に戻っているが私はちょっと二の足を踏んでいる。ようするに、なんと言われるかわからないので怖いのだ。正直あの無表情で責め立てられたら泣く自信が私にはある。
「だからこそちゃんと会わなきゃダメじゃない、ほら行ってきなさい」
「わかったよぅ…」
私はとぼとぼと歩きながらチラチラお姉様の方を見る、少し歩いてチラッ、少し歩いてチラッ、チラッ。するとお姉様が深い深いため息をついてこっちを少し責めるような視線で見てきた。いやわかってるんだけど、行かなきゃダメかなこれ?
「早く行かなきゃあんたが夜な夜なアルクの写真でナニしてるかをアルクに言うわよ」
「いってきまーす!!」
私は即退散した、いやほんとにそれバラされたらヤバいからお姉様やめて。私は図書館まで全力疾走しながら何故姉がそのことを知っているのかを考えていた。ていうか絶対お姉様も同じようなことしてるのに自分のことを棚に上げないで欲しい。私は憤慨しつつそう思った。
「で、私のとこに来たと」
「あ、うん。えへへぇ…」
にへらにへらと愛想笑いをしながらパチュリーの方を見る。相変わらず人形のような鉄仮面だ、その顔で私を見ないで!
私はパチュリーのことは嫌いでは無いしむしろ好意的に見ているところもあるが、あまりに表情に乏しいので話をするときに無性に緊張するのだ。
私達の横で小悪魔は相変わらず軽薄な笑みを浮かべている。悪魔らしいといったら悪魔らしいがその顔は少し従魔としてどうなんだろうかと思わないでもない。まあパチュリーの部下だし私には関係の無いことだからどうでもいいけどね。
「前のことは別に良いわよ。いいデータも取れたしね」
「データ?」
初耳だ、なんのデータだろう。
「八雲紫について。能力など細かいところまでは無理だったけど結構わかったことはあるわ」
「へぇー、協力してたのはそういう目的も兼ねてたんだね」
「当たり前よ、そうじゃないと私が頭下げてまで敵陣にお願いなんて行かないわよ」
プライドは高くないが合理的なパチュリーなので無駄なところで頭は下げたくないのだろうと納得する。私はあのスキマ妖怪に頭下げるとか絶対無理だな、お姉様ではないが我慢出来ずに攻撃を仕掛ける未来が容易に見える。
「まあそれは置いといて、暇だから来たのよね?」
「有り体に言えばそうだね」
「ならこの本にあるスポーツをしてみたらいいんじゃない?」
「これは…?」
「『サッカー』、元は戦争で勝った人間が負けた人間の首を足で転がして戦争での勝利を祝うところから始まったスポーツよ」
「えぇ…」
なんて残酷なスポーツなんだ。やっぱり人間が一番狂気に満ち満ちていることを再認識しつつその本をペラペラとめくる。今はちゃんとボールを使った遊びになっていることに安堵しながらルールを見ていく。細かいところまで見るとややこしくなるようだがようはゴールにボールを蹴って入れたら勝ちってことね、簡単だ。
「よし!じゃあお姉様誘ってしてくるね!パチュリーは来る?」
「私がサッカーしたら喘息で死ぬから無理ね」
「そっか!サッカーのこと教えてくれてありがと!じゃあね!」
そして私はボールを持ってお姉様の部屋の扉を勢い良く開けた。中に居たお姉様はこちらを目を見開いて凝視しているが関係無くズカズカと部屋に入っていく。そして
「お姉様!サッカーしよう!」
「サッカー…?あのイタリアの宮廷の門でお金を賭けてボールを蹴り合う賭け事から始まったスポーツ?」
「え?そうなの?」
さっきと言っていることが違うがこっちはこっちで薄汚い大人の遊びという感じでなんか嫌だな、そんなことを考えながらとりあえずお姉様を外に連れ出す。なんかぎゃあぎゃあ言っていたが中でサッカーなんかしたら咲夜に叱られてしまう。だから外に出るしかないのだ。幸い今は夜なので遊び放題。お誂え向きな環境で興奮が冷めやらない。
「まだ手紙書いてる途中なんだけど!」
「お姉様いつも書くの遅いけど何で?」
「いや、アルクを表現するための言葉を探してるからちょっと遅くなっちゃって…」
「うわぁ…」
「何よその顔は!!」
そんなの、大丈夫かとか元気にしてますかとかそんなのでいいだろうに。変に凝った言葉を使うからお姉様の文章はわかりにくくなるんだ。手紙だからこそ相手に伝わりやすい言葉を使うのは常識だというのにお姉様はそんなこともわからないのか。アルクも困惑していることだろう。
「まあそれは置いといてとりあえず私がボール蹴るからお姉様受け止めてね」
「えっ」
私は魔力を足に込めて全力で走る、そして助走によってついたパワーを全てボールに流し前に押し出した。フランドール・スカーレットの全力のサッカーボールキックだ、いくらお姉様でも一週間はベッドの上での生活になる筈。だが
「くっそぁぁ!!こんなことだろうと思ってたわよ!!」
お姉様は両手をパーにして受け止めた、しかし勢いを殺すことが難しいのかそのまま紅魔館の外壁を破壊しながらどこかに行ってしまった。私はそんなお姉様を見て腹を抱えて笑っていた、いやほんと面白い人だなぁ。私のお巫山戯にも全力で応えてくれる人はやっぱりお姉様しか居ないだろうしね。
「いやー、楽しかった楽しかった。今度はこいしとかも誘ってみようかな」
「おや、フランドール・スカーレットお嬢様。どこに行かれるのですか?」
「えっ」
「たしかに紅魔館の中は何も被害はありませんが…外壁が壊れたままですよ?」
「い、いやでもそれは従者の子達にというか…」
ヤバいヤバいヤバい、ここをどうに切り抜けなければ咲夜からのお仕置きが待っている。それに加えたぶん私は外壁の修理をさせられるだろう。しかし私はそんなことしたくない、このまま紅魔館でまた暇をつぶす作業に戻りたいのだ。
「紅魔館の主代理ともあろうお方が自らの過失で外壁を壊しそれを従者達に任せる…ですか。わかりました、妖精メイド達にはそう伝えておきますね」
「ごめんなさい」
平謝りだった、何百年と生きているにも関わらず小さく丸まって謝るこの姿はアルクには絶対に見せられない。見せるぐらいなら舌を噛み切って死ぬ所存だ。
というか咲夜、いつもは甘々な感じなのにこういう時だけ母親みたいになるのやめて欲しい。いや、母親がどんなものかとか実際に体験した事ないけど。とりあえず反抗する気が完全に失せる。淡々と罪を暴かれるのもキツい。
「とりあえず外壁は魔法で直しておくように、もしちゃんと出来たらプリンがありますから」
「えっ!プリン!?やったー!」
「あとはレミリアお嬢様ですが…とりあえず迎えに行ってきますね、その間に修理を」
「うん!よーし、頑張るぞー!」
これが紅魔館の日常。アルクが居ないことでどこか物足りないがそれはそれで楽しくやっている。いつか会えるその時までは笑顔でいておこうと決めているから、また会った時に最高の笑顔で迎えられるように。
※サッカーの起源は色々な説があるのでこの話に出てきた説が本当かは分かりません。